EUのタイ産鶏肉輸入禁止措置への対応を決定   ● タ イ


欧州で使用禁止の抗菌剤が検出

 タイ農業協同組合省(農協省)畜産開発局は3月20日、欧州向けに輸出され
たタイ産鶏肉から、欧州での使用が禁止されている抗菌剤ニトロフランが検出さ
れ、EU委員会がタイ産鶏肉・鶏肉調製品の輸入を禁止したとの発表を行った。同
国の鶏肉・鶏肉調製品にとって、EUは日本に次ぐ輸出相手先であり、本問題の解
決が長引けば、同国のブロイラー産業にとって大きな打撃になるとみられる。EU
委員会は、タイ、ベトナム、ミャンマー産のエビについても禁止薬剤に関する輸
入品の全量検査を実施するとしている。

 ニトロフランは発ガンとの関係が疑われていることから、ほとんどの国が飼料
への添加を禁止しており、タイでも飼料への添加は禁止されている。しかし、タ
イ食品・医薬品局(FDA)は、安価な抗菌性物質製剤としての公衆衛生上の価値
が高いとして、同剤の輸入・販売を承認してきた。ニトロフランは、経口投与さ
れるとタンパク質と結合するため検出が難しくなるが、数年前に結合体のニトロ
フランを検出する方法が開発されたため、現在では検査に支障がなくなっている。

 畜産開発局は、タイ産畜産物が国際規格を満たすよう、ニトロフランを中心と
する禁止薬剤の監視を続けており、97年から2000年までニトロフランの検出事例
は皆無だった。この結果を受けて政府は、2001年から輸出前検査を一時停止する
旨をEU委員会に通知した。今回のEUでの事例は、先月、マレーシア政府が同国産
鶏肉に数パーセントの割合でニトロフランをはじめとする禁止薬剤が検出された
ことを公表したのを受け、タイ政府も4月から輸出品の検査を再開する決定を行
った矢先のできごとであった。


輸送途中の鶏肉も返送、再検査

 タイの鶏肉・鶏肉調製品のEU向け輸出額は3億6千万ドル(約482億4千万円:1
ドル=134円)とタイの食料品輸出総額である70億ドル(約9,380億円)の5%程
度にすぎないものの、この問題を放置すれば同国の食料品輸出全体に対する信頼
性を損なう危険性があるとして、ニトロフランの輸入・販売禁止措置を講ずると
共に、現在、輸送途中にある鶏肉・鶏肉調製品をタイに返送し、再検査を行うこ
とが決定された。この返送に伴う輸出業者の損失は、1コンテナ当たり少なくと
も20万バーツ(約62万円:1バーツ=3.1円)程度と見込まれている。


EU委員会に職員を派遣し、1ヵ月間の全量検査

 今回のEU委員会の決定を受け、タイ政府は、22日、財務大臣を長とし、財務、
公衆衛生、農業協同組合各省関係者による緊急対策会議を招集し、タイ側の対応
を協議した。席上、農協省側がニトロフランなど禁止薬剤の飼料からの排除を確
実にするために、輸入・販売禁止措置を講ずることを主張したのに対し、FDAは
従来からの主張を繰り返した。

 タイ政府は、この会議の結果を踏まえ、25日に財務省と農協省担当者をEU委員
会に派遣し、今後1ヵ月間、EUが輸入するタイ産鶏肉・鶏肉調製品は全量検査の
対象とし、この間に新たにニトロフランが検出されなければ、従来のサンプル検
査に戻すことで合意した。一方、国内では、畜産開発局がすべてのブロイラー生
産者を緊急招集し、禁止薬剤の不正使用防止を確認すると共に、今後、輸出に必
要な衛生証明書の発給および発給に必要な検査を局長直属の特別タスクフォース
が行うことを通知した。


輸出と生産体制の改善を閣議決定

 さらに、タイ政府は26日、EU委員会との協議を受け、次の5項目の対策を閣議
決定した。

@政府の責任でEU向けに輸送中の貨物をシップバックし、厳密な検査を行う。

Aすべての輸出向け貨物に出航前の厳密な検査を義務付ける。

B禁止薬剤およびその残さが検出された貨物の荷主を処罰するとともに、当該貨
 物の輸出を中止する。

CEUおよび米国で使用禁止とされている薬剤の輸入禁止に関する省令を定める。

D今回の対策の実効性をモニターするタスクフォースを設置する。

 この決定を受け、生産段階での規制・検査を担当する畜産開発局は、次の4項
目の措置を行うこととした。

@バンコク近郊のパツンタニ県に動物医薬品検査部の中央分析所を設置し、すべ
 ての養鶏場の生産物、すべての輸出貨物の検査を行う。

A現在、タイでは検出の困難なニトロフランの代謝物の分析方法を確立する。こ
 のため、職員を北アイルランド農業省獣医科学部に派遣し、研修させる。

B問題発生時の原因究明のため、すべての養鶏場と処理施設から各生育段階の鶏
 を提出させ、分析・登録する。

C動物検疫所による輸入化学薬品のチェックを行い、禁止薬剤の輸入を阻止する。

 なお、畜産開発局によると、今回の問題の原因は、ブロイラー大手企業が急激
な輸出需要の高まりに対し、自社農場と契約農場だけでは対応しきれなくなり、
一般農家から場つなぎ的に買い入れた鶏が汚染されていたためであるとしている。

 タイのブロイラー産業は、「EUにも輸出可能な安全性」をセールスポイントに
して中国産などとの差別化を強調しているだけに、関係者は今回の問題の早期解
決を期待している。

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