欧州司法裁判所、EUによる成長促進用抗生物質の禁止措置を支持



人体に抗生物質の耐性をもたらす危険性

 EUの第一審裁判所は9月11日、成長促進用飼料添加物として使用が認められてい
たバージニアマイシン、亜鉛バシトラシン、スピラマイシン、チロシンフォスフ
ェイトの4種の抗生物質について、使用を禁じた98年12月のEU農相理事会の決定を
支持する判決を言い渡した。

 抗生物質は、少量を飼料に添加することで、飼育期間の短縮や飼料効率の向上
が図られることから、長年、成長促進用飼料添加物として利用されてきた。また、
家畜疾病の発生を予防するといった副次的効果も認められている。

 しかしながら、70年代以降、多くの研究者が、「抗生物質の飼料への添加は、
家畜のみならず人にも食品を通じて抗生物質に対する耐性をもたらす危険性を有
する。結果として、当該抗生物質および関連医薬品が人の治療用として十分な効
果を期待できなくなる」と警告し始めた。

加盟国が使用禁止の動きを見せる中、農相理事会でも禁止の規則を採択

 95年にEUに加盟したスウェーデンでは、加盟後の移行措置として、EU加盟以前
に施行した法律を、98年12月31日まで維持することが認められていた。同国では
成長促進用飼料添加物としての抗生物質の使用を禁止していたため、EU委員会に
対しEU法令を改正するよう強く求めていた。また、デンマークやフィンランドな
どでも自国の法律で抗生物質の飼料添加を禁止する動きが広がっていった。

 こうした中、EUの農相理事会は98年12月、当時、成長促進用飼料添加物として
使用が認められていた8種の抗生物質のうち、家畜および人の治療用に使用されて
いる前述の4種の使用を禁止する理事会規則を採択した。この結果、当該抗生物質
は飼料添加物リストから削除され、99年7月以降は完全に飼料添加が禁止されるこ
ととなった。なお、EU委員会は2002年3月、成長促進用飼料添加物として使用が認
められていたフラボフォスフォリポールなど残り4種の抗生物質についても、2006
年1月までに段階的に禁止することを提案している。

大手製薬会社が農相理事会を相手取り提訴

 これに対し、バージニアマイシンの製造販売者であるファイザー・アニマル・
ヘルス社と亜鉛バシトラシンの欧州最大の製造販売者であるアルファーマ(Alph
arma)社は、EU農相理事会を相手取り、それぞれの製品に対する禁止措置は十分
な科学的根拠に基づくものではないとしてその無効性を求めて、EUの第一審裁判
所に提訴していた。

 今回の判決では、問題となった理事会規則が採択された段階では、抗生物質の
成長促進用飼料添加物としての使用と人における抗生物質に対する耐性の発現の
間に明確な関連が認められなかったものの、人の健康を守るという目的を考慮す
ると使用禁止措置は不適当とは言えないとしている。しかし、同時に、予防原則
に基づく対策を行う場合には、事前に科学的観点および政策的観点の両面からの
リスク評価を実施する必要があることを強く指摘した。

 EUの裁判制度では、第一審裁判所による判決を不服とする場合、判決後2ヵ月以
内に上級審である欧州司法裁判所に上訴できる仕組みとなっており、原告側であ
るファイザー・アニマル・ヘルス社等の今後の動向が注目される。


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