品質保証に積極的に取り組む肉牛農家(豪州)

シドニー駐在員事務所 粂川俊一、幸田 太




ひとくちMemo

 シドニーから西へ約400キロメートル、ニューサウスウェールズ(NSW)州マン
ジュラマのガイ・フィッツハーディングさんの牧場を訪問した。ガイさんは隣接
した4つの牧場を持ち、合わせて約3,500ヘクタールの農地に種雄牛や繁殖雌牛を
含め3千頭近い肉牛を飼養している。4人のスタッフを常時雇用しており、個人経
営としては大規模な農家である。

 仕向け先としては輸出向けを重視しているが、国内、輸出両方に向けた肉牛の
飼養を行っており、出荷は放牧主体で食肉処理加工施設に出荷するものとフィー
ドロットに出荷するものの2系統である。「全国家畜個体識別制度」(NLIS)のデ
ータを通じて枝肉の成績をフィードバックしてもらうなど、肉質の向上に余念が
ない。繁殖は、自然交配が主体であるが、最近では優良品種の系統造成も意識し、
人工授精による繁殖も試みている。

 豪州では、農場から食卓までの間に、農場における「キャトルケア制度」、フ
ィードロットにおける「全国肥育場認定制度」、食肉処理加工施設における「危
害分析重要管理点監視方式(HACCP)」など各段階の品質保証や安全性に関わる制
度がある。ガイさんの牧場では、農場スタッフの訓練、化学残留物質に関する検
査、牧草地や穀物などに化学物質を散布した場合の記録、動物福祉など生産者が
順守しなければならない15項目が設定されているキャトルケア制度と、電子耳標
を活用した個体識別制度であるNLISを活用し、安全性を意識した肉牛の品質保証
に積極的に取り組んでいる。

 最終製品である「牛肉を販売することを望むなら、消費者が求めているものを
意識する必要がある」というのがガイさんの信念で、今後も新たな品質保証シス
テムが開発されれば、積極的に取り組む方針だ。
 
   広大な牧場における放牧風景。肉牛の品種 はすべてアンガス種。少なくとも常時それぞ れ約1,200頭の繁殖雌牛と子牛が飼養されて いる。      アンガス種の飼養管理については、豪州ア ンガス登録協会の飼養標準をもとに、独自の 工夫を行う。これらは、もっぱら日本向けに 焦点を合わせた飼養管理を行っている。日本 市場は製品の品質や完璧さに対する要求が非 常に厳しいことから、日本向けの水準をクリ アしていれば、他の輸出市場や国内市場に仕 向けることは難しくないという。  
     
 
  最近、人工授精により生産された子牛とそ の母牛。     キャトルケア制度監査官(向って右側)に よる定期監査風景。対応しているのは、この 牧場の次長格のジミーさん。この制度におけ る15項目の順守状況がチェックされる。通常 の定期監査は年1回であるが、監査の結果が 悪い場合、何度も行われるという。ガイさん の牧場はもちろん年1回である。
     
 
  NLISの耳標を装着している牛(向って左側 がNLIS耳標、右側は自家耳標)。NLISは、EU 向けやビクトリア州の肉牛を除き任意制度で あるが、この牧場ではEU向けの肉牛も生産し ており、また、個体識別データも飼養管理に 活用するため、全頭加入している。     NLISの耳標の読み取り風景。ジミーさんが 読み取り器を扱い、ガイさんがデータをチェ ックする。個体ごとに体重測定を行い飼養管 理上のデータとして活用している。
     
 
  パーソナルコンピュータによる飼養管理シ ステムを操作するガイさん。かつてのカウボ ーイも最近ではパソコンの前に座っている時 間が増えたという。     日本向けの牛を背にほほ笑むガイさん。NS W州では今年に入り乾燥気候が続き、干ばつ が広がっているが、ガイさんの牧場はそのボ ーダーラインに位置しているようだ(8月末 現在)。今年前半の出荷頭数が多かったため、 現在の飼養頭数は通常より減少しているもの の、干ばつの広がりを懸念している。

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