海外駐在員レポート 

豪州の家畜伝染病緊急対応協定の概要について

シドニー駐在員事務所 粂川 俊一、幸田 太


 

1. はじめに

 豪州では、2002年3月末に連邦議会が連邦政府、州政府の権限強化や検疫上危
険な物質の不法輸入に対する罰則強化などを内容とする検疫法(Quarantine Act)
の改正案を通過させるとともに、今年度の連邦予算においても昨年度に引き続き
検疫対策強化に重点が置かれ、さらに今年9月には病気発生時の国家レベルの模擬
演習が計画されるなど、家畜衛生対策の一層の強化が図られている。

  それらに先立つ3月20日、豪州連邦政府のトラス農相は3月上旬に官民で合意さ
れた家畜伝染病緊急対応協定(Emergency Animal Disease Response Agreement)
を正式に発表した。この協定は昨年8月、豪州ニュージーランド農業資源管理評議
会で合意された家畜伝染病緊急対応準備プログラム(Emergency Animal Disease
Preparedness Program)の一環として協定に至ったもので、家畜伝染病発生時の
関連コストを官民で分担して負担することを主な内容としている。この協定によ
り連邦政府や各州政府、主要な畜産業組織の協力を通じて、病気の侵入あるいは
発生に対する最初の対応への資金供給が確実になる。
 
  また、この協定は、63の家畜疾病を人間の健康や社会経済、環境、家畜生産へ
の影響に基づいて4つのカテゴリーの中に分類し、それぞれのコスト・シェア
(官民の負担割合)を取り決めている。さらに、他の重要な家畜伝染病対策との
関連を持ち、官民の専門家による協議会の設置や対応人員の訓練なども含んでい
る。
 
  トラス農相は、豪州の畜産業は重要な労働市場であるとともに、主要な輸出産
業であることなどから、国家経済へ大きく貢献しており、主要な家畜伝染病から
の清浄性は、国際競争上の利点の1つであるとしている。ただし、世界中の消費
者の信頼を強めるため、今回の協定合意が迅速かつ効果的に家畜伝染病発生時の
対応を可能とするものと期待している。

  基本的に検疫対策など水際での対策に重点を置く豪州であるが、本稿では病気
が発生した場合の対応策を中心としたこの協定の概要について報告する。

2. 協定制定の背景と経緯

(1)新しい協定を必要とした背景

  豪州では従前から連邦政府と州・準州政府の間の合意による「連邦/州コスト
・シェア協定」(CSCSA)があったが、豚コレラ、口蹄疫、ニューカッスル病など
の12の病気を対象にしただけであり、また、畜産業界が関与しないものであった。

  したがって、豪州において外来の多くの病気や、新たな病気の発生に対応する
ための資金供給が不確実であったため、協定の対象とならない病気の発生が起こ
った場合、資金対応面での問題が病気対応の指示に遅延をもたらし、相当な危機
的状況に政府と家畜産業が直面する可能性が認識されていた。

  加えて、連邦・州政府からは、受益者である畜産業界が自らの利益に対して応
分のコストを負担するべきであるという意見が増えていた。

  このように、かつての「連邦/州コスト・シェア協定」は病気発生への対応の
決定に関して公式に家畜産業を含めていなかったため、他の連邦政府レベルの家
畜衛生プログラムとの整合がとれていないことが認識され、畜産業の関与が新た
な経費負担の基準を考慮する場合の中心的な課題となっていた。


(2)新たなコスト・シェア協定の実現までの経緯

  新たな資金供給の合意に向けた動きは、豪州動物衛生協議会(AHA)が97年、
国際経済学センター(CIE)に「重大な病気発生時における資金供給の新しい方
法に関する報告」を依頼したことによって始まった。

  その報告は98年4月に提出され、将来の迅速かつ効果的な緊急疾病対応策につ
いて政府と畜産業界の要望を満たす枠組みが提案されたものであった。

  98年8月に、AHAはすべてのメンバーの研究会を開催し、研究会では、新たなコ
スト・シェア協定のための原則が検討され、疾病分類や対象となる経費などの問
題を除いて、基本的に受け入れられた。そのため、AHAは、専門家グループを編成
し、残された問題を検討し、前進させるための方法についての提案作成を行わせる
こととした。

  最終的な専門家グループの報告は99年6月にAHAに提出されたが、これには、AHA
が協定の作成に向けて問題解決を進めるための次のような勧告を伴っていた。


@ 枠組みと今日までの協議段階において認識された問題等、協定に盛り込まれる
  可能性が高いすべての問題を整理した書類を準備すること
  
A 法的な文書作成のために、次のことを基本としてメンバーに正式の合意を求
  めること
  
 ア 専門家グループの報告で提案された原則と枠組みの受け入れ
 イ 今までに認識された追加の問題の対処方法を十分に説明した声明書の作成
 ウ 追加の問題を協定に反映させるための、すべてのメンバーとの頻繁な協議

B 協定草案作成の間にメンバーの利害関係を代表する主な交渉者の指名を求める
  こと

  その後、最終的な協定を交渉するために、連邦政府、州・準州政府、畜産業界
の代表団体などAHAのすべてのメンバーによる23人の特別委員会(Task Force)が
設置された。


(3)協定への参加者

  下に示した連邦政府、州・準州政府、畜産業界を代表する団体が協定に参加した
すべての関係者である。畜産業界を代表するAHAの会員団体の中で唯一、豪州馬産
業評議会(Australian Horse Industry Council)は、債務を引き受ける場合に資
金調達するための適当な仕組みを確立することができなかったため、現在のところ
協定に参加していない。
○ 協定に参加した組織

豪州動物衛生協議会(Animal Health Australia)
オーストラリア連邦(Commonwealth of Australia)
ニューサウスウェールズ州(The State of New South Wales)
ビクトリア州(The State of Victoria)
クインズランド州(The State of Queensland)
西オーストラリア州(The State of Western Australia)
南オーストラリア州(The State of South Australia)
タスマニア州(The State of Tasmania)
北部準州(The Northern Territory of Australia)
首都特別地域(The Australian Capital Territory)
豪州鶏肉産業連盟(Australian Chicken Meat Federation Inc)
豪州酪農生産者連盟(Australian Dairy Farmers' Federation Limited)
豪州鶏卵産業協会(Australian Egg Industry Association Inc)

豪州山羊産業協議会(Goat Industry Council of Australia)
豪州養蜂産業協議会(Australian Honeybee Industry Council Inc)
豪州フィードロット協会(Australian Lot Feeders' Association Inc)
豪州肉牛生産者協議会(Cattle Council of Australia Inc)
豪州競馬委員会(Australian Racing Board)
オーストラリアン・ポーク・リミテッド(Australian Pork Limited)
豪州羊肉協議会(Sheepmeat Council of Australia Inc)
全国羊毛生産者連盟(National Farmer's Federation ATF Wool Producers)
  協定に参加していない畜産団体については、AHAへの申請によってその参加が承
認される。ただし、既に協定に参加している政府・産業団体の満場一致が正式参
加の前に必要とされる。

  一方、団体が脱退する場合には、少なくとも6ヵ月前に書面で脱退通知を提出し
なくてはならない。したがって、関係団体が家畜伝染病緊急対応の間に脱退しよ
うとする場合でも、対応期間が相当の長期にならない限り、資金供給などの面で
生じる問題を軽減することができると考えられている。

  しかし、関係団体が脱退すると、その場合には、残っている者が代わりにコス
トをシェアする取り決めに合意することで対応するしかないため、一般論である
「参加団体が誠意をもって協定に参加すること」が求められる。

  協定の実施期間については、すべての協定参加機関から構成される全国マネー
ジメントグループ(NMG)が5年後に協定を再検討する予定になっている。ただし、
それまでの間であっても、参加機関による合意などがあれば、協定の変更を行う
ことは可能である。

○ 家畜伝染病緊急対応協定の関連図


※ 豪州動物衛生協議会(Animal Health Australia:AHA)
  官民共同出資による非営利法人で、家畜伝染病緊急対応準備プログラム
   (EADPP)や、この協定(EADRA)の管理のほか、家畜疾病のサーベイランス
    などを担う。メンバーは連邦政府、各州政府、科学産業研究機関(CSIRO)、
    家畜産業界の代表団体(肉牛、酪農、豚、鶏肉、鶏卵、羊肉、羊毛など)か
    らなる。
※ 全国マネージメントグループ(National Management Group:NMG)
  農業に関連する責任がある連邦政府、各州政府の担当部局の最高責任者と畜
    産団体の長により構成される。緊急家畜伝染病評議委員会 (CCEAD)から
    のアドバイスに基づきコスト・シェアの開始を決定する責任がある。
※ 緊急家畜伝染病評議委員会(Consultative Committee on Emergency An
    imal Disease:CCEAD)
  連邦政府、各州政府の上級獣医師官に家畜産業の専門的な代表者を加えたも
    の。全国マネージメントグループ(NMG)に対するアドバイス等を提供する。
※ 家畜伝染病緊急対応計画(Emergency Animal Disease Response Plan:
    EADRP)
  緊急家畜伝染病評議委員会(CCEAD)と連携して病気発生に関連する各州政
    府によって準備され、病気発生対応の基盤として全国マネージメントグルー
    プ(NMG)に提出される計画。


3. 緊急家畜伝染病と疾病分類

(1)緊急家畜伝染病

  協定における緊急家畜伝染病は、家畜の大量死や生産の損失だけでなく、場合
によっては家畜を介して人間の健康や環境に重大な影響を与える可能性が高いも
のである。それらには、口蹄疫と牛海綿状脳症(BSE)のような疾病が代表的なも
のとして挙げられる。突然の貿易や取引の中断を起こしたり、防疫のため緊急な
対応を必要とする異常かつ厳しい発生が見られるものや、疾病が風土性のもので
あるか、外来のものであるかが、すぐに明らかにならない新しい疾病を含む。

緊急家畜伝染病は、次の定義の1つ以上に合致する。

・豪州において風土病としては存在しない。そのために豪州がその疾病から清浄
  であることが国益であると考えられるもの
  
・適切な診断の方法によって判別することができるエージェント(病原体)が原
  因となって起こされ、仮に豪州で確認されるなら多大な影響を及ぼすと思われ
  るもの
  
・未知あるいは不確定な原因による重大な伝染病

・大規模な流行あるいはマーケット・アクセスの重大な損失がいずれもないこと
  を、緊急対応によって保証することが必要とされる伝染性の強い風土病


(2)疾病

 協定で対象となる63の病気は4つのカテゴリーに分類されている。それぞれの
官民の負担割合は、人間の健康や環境、国家的な社会経済への影響などにより、
政府のコスト負担が高いものから順番に1から4となっている。

4つのカテゴリーは下表のとおりである。

○ 協定における疾病分類
区分
負担割合
対象となる疾病
摘要
カテゴリー1
政府:100%
日本脳炎、
ニパ・ウイルスなど5種類
・主に人間の健康や環境(原産の動物相の枯渇)に
  深刻な影響を与える可能性を持つ。
・畜産業に対する直接的な影響は最小限のもの。
カテゴリー2
政府:80
適用可能な産業:20
口蹄疫、BSE、ブルセラ病、
牛疫、羊痘など15種類
・このカテゴリーの疾病に関係する畜産業における
  非常に深刻な国際貿易の損失、国内マーケットの
  中断、非常に厳しい生産の損失を通じて、重大な
  国家的な社会経済に影響をもたらす可能性を持つ。
・国家的な社会経済への影響はやや小さいが、重要
  な公衆衛生や環境への影響を持つ可能性のある疾
  病も含む。
カテゴリー3
政府:50
適用可能な産業:50
炭疽(大規模な発生)、
鳥インフルエンザ(高い病原性の)、
ブルータング(羊での疾病)、
牛結核、豚コレラ、牛肺疫、
ニューカッスル病、スクレイピー
など16種類
・国際貿易の損失、2つ以上の州に関連するマーケッ
  トの中断、影響を受けた産業に対する厳しい生産 
  の損失を通じて、一般に中程度の国家的な社会経 
  済への影響をもたらす可能性を持つ。
      
・人間の健康や環境に対する影響が最小限か全くな
  いことから、公共への影響は中程度のもの。 
カテゴリー4
政府:20
適用可能な産業:80
オーエスキー病、馬インフルエンザ、
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、
ポトマック熱、スーラ、
豚インフルエンザなど27種類
・主に生産の損失をもたらす疾病であるとして分類
  されることができるもの。
・国際貿易の損失と地方マーケットの中断の可能性
  はあるが、際立って国内経済に大きな影響を与え
  ることは予想されない。
 ・このカテゴリーの疾病の発生に対する緊急対応の
  主な受益者は、影響を受けた畜産業種である可能  
  性が高い。
      

(3)カテゴリーの変更


@ カテゴリーの変更手続き

 協定に参加した政府・業界団体の中で疾病分類の再検討を要請するものがある
場合、別のカテゴリーへの変更の根拠を付した要請をAHAに提出しなくてはならな
い。これはマクロ経済的な影響や疾病に対する新しい科学的・伝染病学的な知見
に基づく必要がある。AHAが提出された根拠により疾病分類の再検討を支持するこ
とに同意する場合、受領後30日以内に全国の専門家グループである獣医師委員会
に報告する。

  獣医師委員会は、検討の上、90日以内にその調査結果を報告するために「緊急
家畜伝染病分類パネル」と呼ばれる専門家パネルを召集する。

  AHAはその後、関係する政府・業界団体に変更案を周知し、合意が得られた場合、
カテゴリー変更が実行される。合意が得られない場合は、その問題はAHAの委員会
に付託される。AHAの委員会は獣医師委員会の報告を検討し、30日以内にその検討
結果を関連する提案者に通知する。より実質的な根拠が提出されない場合、AHA委
員会の決定が最終的なものとなり、新たな再検討は行われない。


A 新たな疾病のためのカテゴリーの決定

 未知の病気が発生した場合、緊急家畜伝染病評議委員会(CCEAD)は、予備的な
分類を決定する。すべての新しい疾病は、当初は政府と産業の間で50:50のコスト
・シェアの適用を受けるが、公衆衛生における危険性について説得力のある根拠が
ある場合には100:0によるコスト・シェア、すなわち完全に政府によって資金が供
給される。

  事前に分類を行うことが適切である場合には、緊急家畜伝染病分類パネルに付
託される。


B 緊急対応中におけるカテゴリーの変更

 疾病の分類は、その疾病の健康や環境への影響、社会経済への影響、マーケッ
ト中断、影響を受ける産業における生産の損失に対する集中的な調査を伴う正式
の手続きとして位置付けられている。従って、その疾病に  関係する家畜伝染
病緊急対応の間の分類における変更は可能ではない。

  しかしながら、例えば、疾病が人間の健康に直接的な影響を持つことが判明し
たり、発生が急速に拡大したりするような場合には、資金供給の大きさの変更が
望ましいとされる。そのような変更は、分類の変更としてではなく、疾病に関す
る状況の変化に応えた資金供給の暫定的な変更として考えられている。


4. コスト・シェアとその責任の有限性

(1)コスト・シェア


@ 政府と産業間のコスト・シェアの基礎

 政府と畜産業界は病気を4つのカテゴリーに分け、そのカテゴリー別に政府と業
界の間で前章で述べた割合でコスト・シェアを行う。
 疾病に対応した政府・業界団体が負担したコストや影響を受けた家畜所有者への
補償は、この取り決めによってカバーされる。ただし、間接的な損失はカバーされ
ない。


A 政府と業界それぞれの間におけるコスト・シェア


ア 連邦/州等の間のコスト・シェア

   それぞれのケースで連邦は全体の政府債務の50%に資金を負担する。各州・
    準州間の分担はそれぞれの疾病によって考慮される。
    例えば、カテゴリー1の場合には、すべてのコストが人間の健康に関係する
    ために政府によって負担されることから、分担は州・準州の人口に基づく。
    そのほかのカテゴリーでは、分担は多種の病気と個別の産業部門からの生産額
    を見込むために複雑な計算を伴うが、概ねそれぞれの州・準州における家畜の
    数に基づいている。
   以上の方法は、以前の「連邦/州コスト・シェア協定」における先例を踏襲
    するものである。


イ 業界内のコスト・シェア

   疾病が1つの家畜種だけに影響を与えている場合、家畜種に関連する団体がシ
    ェアするコストのすべてを負担する。2種類以上の家畜に影響を与えている場合、
    影響を受けた業界団体からの分担は、それぞれの家畜種の総生産額(GVP)と、
    その家畜種に対するその特定の疾病の重要性の両方が考慮される。特定の病気の
    重要性は、合意された重み付けが使用される。例えば、口蹄疫の場合、重み付け
    は、牛が50%、羊/山羊が30%、豚が20%である。ただし、疾病によっては最新
    の情報に基づいた分担が行われる場合がある。
   さらに、牛や羊、家禽のように2つ以上の業界団体が家畜種を代表する場合、そ
    れぞれの部門のGVPを考慮してコスト・シェアする。その割合は次のとおりである。
    
 ・牛では、牧草飼育肉牛:52.94%、フィードロット肥育肉牛:5.88%、酪農:41.18%
 ・羊では、羊肉:24.83%、羊毛:74.73%、山羊:0.44%
 ・家きんでは、鶏肉:77.32%、鶏卵:22.68%


B コスト・シェアの適用を受ける経費

  病気対応において支出される可能性がある経費は、いくつかのカテゴリーに分けら
  れているが、コスト・シェアの適用を受ける経費を整理すると下表のとおりである。

○ コスト・シェアの適用経費
 区分
 主な経費
給与・賃金
・直接的に撲滅活動を支援するために関係政府・業界団体によって従事させ
  られるスタッフ/コンサルタントの給与あるいはコンサルタント料金
・直接的に撲滅活動を支援している既存の恒常的なスタッフの補充のために
  従事させられるスタッフ/コンサルタントの給与あるいはコンサルタント料金
・州境を越えて出向したスタッフの補充のために従事しているスタッフ/コ
  ンサルタントの給与あるいは賃金
・外来の疾病への緊急対応に従事しているスタッフ/コンサルタントのため
  の手当(食事手当、地域手当、宿泊費補助など)
・外来の疾病への緊急対応の結果、特別に採用されたスタッフのための給与税、
  労働者災害補償金、退職年金、休暇手当
・外来の疾病への緊急対応の結果、直接負われた時間外労働
・病気対応を支援するために政府組織によって雇用された個人の獣医師への料
  金と手当
・ボランティアの緊急奉仕(原則として奉仕者の自己負担分あるいは付随的
  な出費)
業務費用
・撲滅プログラムで関係政府・業界団体によって直接負われた業務費用
・州・準州政府機関内部から提供された研究室業務のうち、追加スタッフのコ
  ストと緊急対応の結果として負われた業務コスト(外部から州・準州政府
  に提供される研究室業務のためのコストも同様)
・緊急対応に必要な備品
資本コスト
・緊急対応の即座の活動のために不可欠な装置
補償
・撲滅の目的あるいは緊急家畜伝染病の拡大防止のために処分される家畜ある
  いは不動産
・上級獣医師官等によって公認された検査官が緊急家畜伝染病の影響を認証し
  た死亡家畜
・上級獣医師官が、死亡していなければ強制的にと殺されていたことを証明し
  た死亡家畜(死亡報告に不当な遅れがなかったもの)
注1:給与・賃金について、政府あるいは産業によって、緊急対応時にかかわらず雇用・ 
   契約されているスタッフ/コンサルタントの給与あるいはコンサルタント料金は  
     対象とはならない。  
注2:資本コストについて、自動車あるいは建物のような資産への資本支出は、緊急対  
     応のために取得されたとしても、一般的に耐用期間が長期であり他の目的に使用  
     される可能性があるため、対象とならない。  
注3:備品(業務費用)や装置(資本コスト)は、原則として緊急対応終了後、売却さ  
     れ、その収入はコスト・シェアの分担と同じ割合で関係政府・業界団体に配分さ  
     れる。  
注4:家畜や不動産の評価は、原則として家畜や不動産が処分された場所、あるいは家  
     畜が病気で死んだ場所における販売を基礎に計算される。  


C 緊急家畜伝染病発生における対応経費の大きさ

   疾病発生に対応する経費の大きさは疾病の性質と発生における個別の状況による。  
   最悪の場合と想定される口蹄疫の大規模な発生の場合、下表のとおりであるが、コ  
   スト・シェアのための「合意された限度」である「関係する産業のGVPの1%」が、  
   すべての関係政府・業界団体に最大限の債務を計算するための基礎となる。  


○ 口蹄疫の場合のコスト・シェア

 口蹄疫:カテゴリー2
 関連する産業(牛、羊/山羊、豚)のGVP合計額の3年平均(2001年の試算値):11,235百万豪ドル
 11,235百万豪ドル×1%=112.35百万豪ドル(合意された限度)

 注1:連邦は政府の50%。州・準州は複雑な計算を伴うが、おおむね家畜の数に基づく。  
 注2:それぞれの産業のGVPと合意された重み付け(牛:50%、羊/山羊:30%、豚:  
      20%) に基づく。  
 注3:金額はラウンドのため必ずしも整合しない。  
 参考:1豪ドル=約65円  


D 畜産業界団体の疾病対応経費のシェアの支払方法

   連邦政府は家畜伝染病緊急対応経費の畜産業界のシェアを一時的に引き受けるこ  
  と(一種の立替え)に同意した。業界団体による返済は、その産業における法令  
  (「Primary Industries Levies Act 1999」等)による徴収か自主的な方法である。  
  大部分の場合、業界団体は通常時はゼロベースを基本に疾病対応時に発動する新し  
  い徴収方法を設定した。そのほかの業界団体も、偶発時の対応資金をあらかじめ積  
  み立てる取り決めを設定した。  
  
  法令による徴収で返済を行う産業団体には、対応する責任が明確になるとすぐに徴 
収が発動されることを保証する義務がある。また、業界団体は、それぞれの産業が合 
理的な期間内(10年以内を想定)に連邦政府に返済することを保証しなくてはならな 
い。連邦政府の立て替えは、年間のインフレ率に相当する利率が上乗せされる。   
  
  
E コスト・シェアにおける支出の限度

   まず、全国マネージメントグループ(NMG)は、家畜伝染病緊急対応計画(EADRP) 
  と関係政府・業界団体で自発的に定められた予算に基づく支出に上限を合わせる。 
  この上限は関係する産業のGVPの1%である限度より低いと想定されている。 
  次に、すべての関係政府・業界団体の緊急疾病対応に要した支出の管理はAHAが行 
  う。協定に参加する関係政府・業界団体は、それぞれの支出に関する請求をAHAに提 
  出する。AHAの役割は、精算のための提出された請求の調整、照合、そしてコスト・ 
  シェアのためのそれぞれの債務を関係政府・業界団体に通知することである。AHAの 
  照合の後に、その疾病のための支出の関係が確実に監視されることができるように、 
  会計の内容は、NMGに提供される。   なお、これらの請求は支出の総額を決定する
  ために合計され、コスト・シェアを行うために、関係政府・業界団体は、支払うべき
  総額あるいは受け取るべき総額について通知されることになる。   
  
  
F コスト・シェアの適用期間
 
   NMGが緊急家畜伝染病評議委員会(CCEAD)からの通知で州・準州政府機関によっ 
  て準備され、提案されたEADRPを受け入れるときに、コスト・シエアが始まる。 
  シェアされるコストの適用は、直接的に関連する州・準州政府に対する疾病の最初 
  の届け出の日付か、それより以前の日付(承認が必要)に遡及する。 
  EADRPが成功し、疾病の抑制あるいは撲滅がNMGによって認められるとき、コスト・ 
  シェアが終わる。  
  
  
 (2)責任の有限性


@ 疾病対応経費に対する負担責任を限定する手続き 

   大規模な疾病の発生に直面した産業の存続を守るために何らかの仕組みが必要で 
  あることは産業界と政府の両方で認識されていた。
   例えば、口蹄疫の発生の場合、仮に最初の発生より拡大し、豪州の数ヵ所で見ら
  れる事態になるなら、牧草飼育肉牛業界が必要とされる経費負担の割合を満たし続け
  る能力はなくなる可能性が高い。さらに、このような疾病発生の影響が次第に全体経
  済に広がることが想定さ れ、その場合、政府がその責任を引き継ぐこととなる。疾
  病に関連する産業のGVPの1%の数字は、NMGがその対応計画を再考し、それ以上の支
  出についても決断をしなくてはならない合意されたトリガー・ポイントである。NMG
  は定期的に疾病への対応の経過を監視し、合意された限度に達する前に対応計画に対
  する変更を求める。  
  
  
A 合意された限度に達する場合のコスト・シェアと対応
 
   特定の対応のコストが合意された限度を超えることがNMGによって確信される場 
  合、次のことが判断される。
  
  ・合意された限度の増額 
 ・緊急対応の継続 
 ・コスト・シェアの変更
  ・緊急対応の長期制御プログラムへの変更 
 ・以上のほか、EADRPに対する適切な変更

   NMGはその判断に基づく決定をすべての政府・業界団体に受け入れさせるという 
  責任を持ち、そのために、NMGはすべての関係する政府・業界団体の最もシニアな 
  レベルにおいて代表されるという位置付けにある。 

 
B 政府が資金供給を持続する場合の業界の対応

   業界が合意された資金供給の限度に達した場合であっても、業界が緊急対応に関 
   する決定に関与しないことを意味せず、政府と業界の協力体制の継続は、適切な対 
   応で疾病を撲滅する、あるいは抑制することを保証するために、すべての政府・業 
   界団体にとって不可欠なものとされている。


5. 協議の機構

 
(1)緊急対応の開始と実施における協議
 
 適切な協議の機構を設けることは、協定合意までの産業界と政府の間における広範
囲な論議の主題であった。中でも焦点となったのはコストをシェアする利害関係者が
意思決定における役割を持つべきであるということであった。


@ NMG

  NMGは、各政府の最高責任者と特定の疾病発生で影響を受ける業界団体の長で構
  成され、家畜伝染病緊急対応の間の政策や資源配分問題の意思決定に対する責任を
  持つ。NMGは、対応のための計画と予算を承認し、支出を監視する。
  
  具体的には次の通りである。
 ・緊急家畜伝染病の専門的な問題に関するCCEADからの助言の受理
 ・CCEADからの定期的な報告の受理
 ・以下のようなEADRPの重要な決定に対する責任
  −予算を含むEADRPの承認
  −コストが合意された限度を超える可能性のある場合のEADRPの見直し
  −緊急家畜伝染病が撲滅あるいは抑制されたかどうかの判断
  −緊急家畜伝染病がEADRPの措置によって撲滅あるいは抑制が不可能かどうかの
      判断
  −効率性や財務などの各種の監査報告の考察
  −EADRPに関する第一次産業大臣評議会(連邦政府、州・準州政府の農業担当大
      臣によって構成)への必要な報告
 
 
A CCEAD

  この委員会は、伝統的に州・準州の上級獣医師官、連邦の上級獣医師官、豪州
  動物衛生研究所長から構成されていて、協定の検討段階における専門家グループ
  の報告はCCEADに業界代表者を含めることを勧告した。
  
  畜産業界の代表者は2つのタイプで構成される。1つは畜産業界の衛生面におけ
  る幅広い経験を持つ専門的な代表者であり、もう1つは特定の疾病で影響を受け
  る畜産業界の代表者である。
  
  この委員会の存在によって、最も優れた科学的な情報によって対応に関連して
  いる専門的な決定が迅速かつ適切になされ、資金や財源の有効性のような問題が
  専門的な疾病問題の決定を損なわないことが担保されることとなる。  
  
  
(2)業界代表者に対する支援

 この協定は、マネージメントや連絡、専門的な役割を課たすためにそれぞれの業
界に代表者を提供するよう求めている。それらの役割を効果的に実施するために、
このような者は緊急対応実施時における環境や疾病問題、専門用語をはじめ、種々
の病気の潜在的重要性、特定のマネージメント責任を理解する必要がある。

 それぞれの業界団体は、適切な「代表者」を公認することを求められており、そ
の者はCCEADあるいはNMGのミーティングにおいてその業界を代表するとともに、地
域や州のレベルにおける疾病制御センターで業界間の連絡を実施する資格を与えら
れる。

 代表者がこれらの役割に対して準備ができるように、全国緊急家畜伝染病(EAD)
トレーニング・プログラムの一部としてAHAによって行われる能力ベースのトレーニ
ング(畜産業界リーダー・トレーニング)が用意されている。 

 「NMGにおける畜産業界の代表者」の特定の役割は次のように定義されている。

・CCEADによって転送されたEADRPの再検討
・EADRPが業界代表機関の政策やこの協定の条項、豪州獣医緊急時計画(AUSVETPLAN)
  と一致するように修正を提案
・EADRPの実行の監視と、その結果によって求められる計画調整の交渉
・支出がGVPの1%に接近した場合、それぞれの業界の利害を代表
・畜産業界と他産業の利害関係者との連絡の継続  
  
  
 (3)協定に参加しない産業の役割

 協定に参加していない産業は、その産業に影響を与える可能性がある緊急対応計
画の展開に公式に関与することや、緊急時の対応過程における意思決定に直接的に
参加することができない。ただし、非公式の相談が協定に参加していない産業の見
解を聴取するために行われ、直接的に関連する業界に助言として生かされる。

 

6. 疾病対応の管理と実施上補完事項

  
(1)疾病対応の管理運営
 
 
 @ 疾病対応の段階の定義 
  
     コスト・シェアを受ける疾病対応は3つの段階に分けられる。
 
 ・「発生確認段階」は、異常な疾病の最初の兆候が、獣医学的調査を始めること
     ができる者に報告される時から制御行動を開始するまでの期間である。この
     段階は、EADRPが承認されるまで、直接的に関連する州・準州の政府財源から
     もっぱら資金が供給される。
 ・「緊急対応段階」は、EADRPが効果をもたらしている期間である。すなわち、
     NMGが、EADRPの実行を承認してから、疾病が撲滅あるいは抑制されたという
     報告を受け入れるまでである。
 ・「清浄証明段階」は、疾病が撲滅あるいは抑制された後の、EADRPが成功した
    という報告が受け取られるまでの期間である。この期間に、病気が撲滅あるい
    は抑制されたという証拠を提供するために監視や調査が実施される。
 
 
A EADRPの定義

  一担、NMGがEADRPの実施を決定した場合、州・準州の上級獣医師官は、対応の
  開始を遅らせることがないよう、速やかに計画を緊急家畜伝染病評議委員会(CC
  EAD)と相談の上、策定する。
  
  この手続きの下で展開されるEADRPは、疾病の性質や発生の状況を反映すると
  ともに、CCEADによって野生動物管理への考慮がEADRPに不可欠であることが提案
  される場合には、その措置を含まなくてはならない。
  
  また、EADRPは、豪州獣医緊急時計画(AUSVETPLAN)の手引書と整合がとれて
  いることが必要とされる。
  
  NMGによって承認された場合、EADRPはその中に含まれる重要な戦略と核となる
  実施上の活動を州・準州に委任する。その後において、可能性があるどんな変更
  でも、CCEADによる助言を受け、NMGによる承認を受けなければならない。


(2)実施上の補完事項


@ 疾病対応の効率実施を担保する手段

  EADRPが効率的に実施されていることを政府・業界団体に確信させる手段として、
  効率性の監査が行われる。監査は、撲滅・抑制活動の承認されたEADRPへの準拠、
  計画自体の効果的な実行や目的達成のための適否を裁定するための体系的な審査
  である。
  
  監査役は特に次のことを考慮に入れることを期待されている。

 ・EADRPで詳述された対応活動が、記述されたように実行されているかどうか
 ・政府機関の対応活動が、効果的かつ効率的な方法で実施されるかどうか
 ・EADRPの下での支出が正当かつ正確で、シェアのために合意されたコストのとお
    りであるかどうか
  EADRPの実行の間、最新の監査報告は、四半期末ごと(あるいは他の承認された
  期間)に実施される予定である。監査役は、必要である場合にはEADRPを修正する
  ための調整的な行動を勧める。最終の監査報告は、清浄証明段階完了の60日以内
  にNMGに提出される。
  
  監査役の役割は、最も費用効果が高く、効率的な対応を可能にするために提供
  される支援の1つである。協定の下で最後まで、監査役は指導的な政府機関と連
  携して働き、その機関の責任遂行を支援することが期待されている。
  
  EADRPの効率的な実施を支援するために、AHAは、NMGと監査役が支出の効率性
  を指導するための損益分析方法を開発する予定である。


A 豪州獣医緊急時計画との関係
  緊急時の疾病対応は、豪州獣医緊急時計画(AUSVETPLAN)に記述されている全
  国的に合意された原則と手順に従って遂行される。AUSVETPLANは、豪州における
  緊急時の疾病対応の運営と管理についての52冊のマニュアルである。AUSVETPLAN
  が疾病あるいは新しい疾病に対して特定のマニュアルを持っていない場合、適切
  な対応を開始するために、専門的な取り決めが要約形式で開発される。
  
  このように、専門的な能力に関する懸念を払拭する最も効果的な方法として、
  AUSVETPLANのような不測の事態における計画や基準あるいは専門家集団であるCC
  EADによって同意された変更に従って対応することが考えられている。
  
  AHAは、家畜伝染病緊急対応準備プログラム(EADPP)を通じて、AUSVETPLANを
  必要に応じて更新、拡充することを担うこととなっている。これは豪州農業漁業
  林業省(AFFA)や州・準州、畜産業界と共同で行われる。


7. おわりに


 協定の概要については以上のとおりであるが、このほか協定では家畜伝染病に対
するリスク低減対策としてそれぞれの政府・業界団体におけるバイオセキュリティ
ー(生物安全確保)計画の策定などについても合意されている。

 豪州における家畜伝染病対策はその清浄性の高さから、病気や害虫の侵入防止に
力点を置いた検疫対策が目立ち、連邦政府による法規制の強化や予算措置などに加
え、口蹄疫が発生した場合の影響調査報告の実施や、空港での不法持込みに対する
高額罰金事例の農相プレス・リリースなど、国民に対して家畜伝染病による経済的
影響や、水際での侵入防止強化の周知が図られている。

 今回の協定により、家畜伝染病発生時の緊急対応の経済的な強化が図られ、病気
が発生した場合の官民共同による対応経費の担保措置が構築されるとともに、豪州
在来の風土性の病気に対しても経済的な裏打ちのある迅速な対応が促進されること
になると考えられる。

 なお、協定合意後の今年5月にビクトリア州においてニューカッスル病が発生し、
この協定の最初の適用としてコスト・シェアが実施されている。

参考資料
''Emergency Animal Disease Response Agreement(An Overview)'' Animal 
 Health Australia
''Questions and Answers on the Government and Livestock Industry Cost 
  Sharing Deed In Respect of Emergency Animal Disease Responses'' 
  Animal Health Australia
そのほか、豪州農業漁業林業省のプレス・リリースなど




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