鶏肉の品質向上と生産コスト削減が急務   ● マレーシア


AFTAの発効でタイ産鶏肉との競争激化の可能性

 マレーシア農業省獣医局は、年明けに迫ったアセアン自由貿易圏(AFTA)の発
効に向け、各地で講演を行い、畜産物の品質向上と競争力の強化を呼び掛けてい
る。中でも、シンガポール向けを中心に、すでに輸出実績のある鶏肉については、
AFTA発効後、タイ産鶏肉との国内外市場における競争が激化するとみられる。同
局によれば、国産鶏肉は、高コスト構造となっており、品質的にもEUへ輸出可能
なタイ産鶏肉に劣っているとされており、ニトロフラン(抗菌剤)など同国でも
使用が禁止されている薬剤の不正使用が依然としてなくならないのも問題である
としている。同国には、EUの認定を受けた鶏肉処理場はあるものの、飼料の品質
の問題から、同国産鶏肉のEU向け輸出は認められていない。

インテグレーターとの契約農家は、初期投資が必要なものの、
経営リスクは小

 同国の鶏肉は、アヤマス社、レオン・ハップ社、シンマー社といった大手イン
テグレーターとその契約生産農家によるもののほかに、独立した中小零細農家も
あり、これらの一般農家では需給状況の変動による価格変動に苦しめられている。
一般農家は、流通をミドルマンとよばれる中間業者に押さえられており、実態と
して市場への直接販売はできない仕組みとなっている。

  契約農家の場合、インテグレーターがひな、飼料から動物医薬品に至るまで、
すべての生産資材を代金後払いで提供し、生産物全量を買い上げるため、経営
リスクはほとんどない。各契約農家は、約6週間鶏を飼育し、1.8〜2.2kg程度に
達したところで、1羽当たり2.7リンギ(約86円:1リンギ=32円)以上の価格で
インテグレーターへ売り戻すことになる。このとき、インテグレーターは、生産
資材のコスト分を代金から差し引くが、それでも契約農家は、鶏1羽当たり0.8〜
1.2リンギ(約26〜38円)の純益を上げることができる。

  専門家の試算によれば、仮に、8千羽収容できる鶏舎4棟で契約農家を始めた場
合、単純計算だと、1サイクル当たり25,600〜38,400リンギ(約819,200〜1,228,
800円)の純益が上がることになる。しかし、平飼い方式でも鶏舎1棟の建設には
6万〜8万リンギ(約192万〜256万円)程度の費用に加えて、給水施設などの付帯
施設も必要となり、4棟では少なくとも34万リンギ(約1,088万円)以上の初期投
資が必要となる。

赤字に苦しむ一般農家

  一方、一般農家の場合、現状では高コスト構造となっており、新規参入は大手
インテグレーターの契約農家に限られている。現在、大手インテグレーターは、
自社農場の生産分だけでは需要に対応できなくなっており、契約農家への一部ア
ウトソーシングが経営戦略上不可欠となっている。

  一般農家で前述と同様の規模で経営を開始した場合を試算すると、ひなの購入
に3.8万リンギ(約121.6万円:1羽当たり1.2リンギ)、スターター飼料に4.1万リ
ンギ(約131.2万円)、仕上げ飼料に8万リンギ(約256万円)、動物用医薬品など
に1万リンギ(約32万円)程度が必要となる。労賃を除く総経費は16.9万リンギ
(約541万円)であり、鶏1羽当たりの販売価格がインテグレーターの買い上げ価
格水準であれば、1サイクル当たり8.3万リンギ(約266万円)の赤字が出る計算と
なる。実際に毎回これだけ大幅な赤字を計上しているかどうかは明らかではない
が、中小零細養鶏農家が赤字経営に苦しんでいることは、畜産農家協会連合(FLFAM)
も認めている。

  農業省は、畜産物の品質向上による国際競争力強化を目指し、来年から消費者
に対して品質を保証する保証農家制度への登録を義務付けるが、このことがさら
なるコスト増につながる可能性もあり、今後、FLFAMを中心とした畜産農家がどの
ように対処するか、その推移が注目される。


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