海外駐在員レポート 

南米全体およびブラジル の口蹄疫撲滅に向けた 取り組みについて

ブエノスアイレス駐在員 犬塚 明伸、玉井 明雄




1.はじめに

 アルゼンチンは2000年5月のOIE(国際獣疫事務局)の総会において、口蹄疫ワク
チン不接種清浄国のステイタスを得、これから同等のステータスを持つ国々と輸
出に向けた交渉に乗り出そうとした矢先の2000年8月に口蹄疫が発生し、ブラジル、
ウルグアイでも続いて発生した。発生状況と対応等についての詳細は海外駐在員
情報により報告してきたが、現在、南米全体でパンアメリカン口蹄疫センター(
Pan-American Foot-And-Mouth Disease Center)、通称パンアフトーサ(Panaft
osa)を中心に口蹄疫撲滅を目指す動きが強まっており、今回はその取り組みを中
心に報告するとともに、牛肉の一大供給基地であるブラジルにおける口蹄疫撲滅
対策についても触れる。


2.南米全体の口蹄疫撲滅対策について


(1)パンアフトーサとは

 パンアフトーサは、ブラジルのリオデジャネイロ市に隣接するドゥーケデカシ
アス市に位置する。昔は、何もなかった広大な敷地のなかにポツンと存在してい
たとのことだが、大都市近郊によく見られる敷地の分譲を迫られたため、敷地は
縮小し近隣に建物が迫ってきている。

 口蹄疫をスペイン語では「フィエブレ・アフトーサ(fiebre aftosa)」と言い、
パンアフトーサは、まさに口蹄疫対策のために設置された特別センターで、米州
機構(OAS)とパンアメリカン保健機構(PAHO)によって1951年に設立されたPAH
Oの下部組織である。



(2)WTOの下部組織として存在

 PAHOは1902年に設立され、今年100年目を迎える。人の保健に関する業務を実施
する中で、人畜共通伝染病等や食糧に関する業務も実施している。現在、PAHOは
WHO(世界保健機関)の下部組織に位置づけられており、これはWHOが1948年に設
立された後、保健関係の業務をすでに実施していたPAHOが米州を統括することに
なったためである。パンアフトーサの業務は、人畜共通伝染病等の業務のなかに
包含されており、人に感染しない口蹄疫がWHO傘下にあることに疑問を感じたが、
パンアフトーサの設立経緯やPAHO・WHOとの関係により現在の組織形態となってい
る。なお、PAHOは食糧関係の業務も実施しているため、FAO(国際連合食糧農業機
関)の業務も担っているとのことであった。

 パンアフトーサは当然のことながらOIE(国際獣疫事務局)とも無縁ではなく、
米州におけるリファレンス研究所として認められている。ちなみに、2002年11月
25日〜12月6日に、パンアフトーサにおいてOIEの「口蹄疫その他疾病委員会」が
初めてパリ本部以外で開催されることになっており、ブラジル農務省などもポス
ターを作成し、掲示版などに貼り宣伝に努めていた。

パンアフトーサの本部事務所。熱帯の雰囲気をかもし出している。

 

◎機構(注:本図はパンアフトーサの所長であるエドアルド・コレア・メロ氏が
  獣医公衆衛生を強調した説明をもとに作成している。)



 各国にはPAHOの駐在員事務所があり、パンアフトーサなどの特別センターは、
人畜共通伝染病などに関する調査などに関し指示を出すとともに、各国の家畜衛
生機関に対しても直接、技術的な指示や指導、調査等を実施できる体制となって
いる。

  左側が設立経緯から業務内容全般までを説明してもらったエドアルド・コ
レア・メロ所長、OIEの口蹄疫その他疾病委員会(Foot and Mouth Disease 
and Other Epizootics Commission)の事務局長も兼任している。中央
がホセ・カルロス・カンパニアロ事務局長、右側がロサニ・ハンセン・ロペ
ス広報官。



パンアフトーサ組織図

(全職員は100名でうちローカルスタッフ51名。ローカルスタッフの経費はブラジ
ル政府が負担している。技術関係の費用は、各国がPAHOへ支払う分担金が特別セ
ンターなどに分配されたものが充てられる。)



(3)パンアフトーサの具体的業務内容

パンアフトーサの主な業務は、

(ア)ワクチンの研究・開発、
(イ)診断技術の開発、
(ウ)各国への技術移転、
(エ)口蹄疫等の家畜衛生情報の提供

である。

(ア)ワクチンの研究・開発における業績としては、1978年にオイルアジュバン
      ド添加ワクチン(以下「油性ワクチン」とする。)を開発し、それまでの
      水酸化アルミニウムゲル・サポニンアジュバンド添加ワクチンに代わって
      効果を現し、2001年には年間5億3,600万本弱が製造されている。
      
(イ)診断技術の開発における業績としては、タンパク質1種類を使用して実施す
      るELISA(酵素結合免疫測定法)によるスクリーニングと、タンパク質5種
      類を使用して正確な診断を可能とするEITB(Enzyme-linked Immuno elect
      ro transfer Blot)がある。(ELISAでスクリーニング、EITBで口蹄疫の確
      定診断を実施する手法は、日本で実施されているBSE検査の際、ELISAでス
      クリーニングを実施し、ウエスタンブロット法で確認するのと同じ理屈で
      ある)。またCF(補体結合)反応やVIA抗原を用いた抗体検出法など既存の
      検査方法を改良して成果も収めている。国境、州間などを移動する場合は、
      これらの診断で口蹄疫陰性でないと移動できない。
      
(ウ)各国への技術移転としては、

@ ワクチン製造に関する支援として、油性ワクチンを製造する業者に対する技
    術移転を実施、

A ワクチンの品質管理に関する支援として、ワクチン製造は各国で実施してお
    り品質管理は各国が責任を持つことになるため、各国衛生検査機関に対する
    品質管理のための技術移転を実施している。

  研究棟。パンアフトーサの建物は全体的に古い。リオデジャネイロ州は口蹄
疫ワクチン接種清浄地域であるため、今の研究施設では検体をパンアフトーサ
に持ち込んで検査できないため、北部のパラ州で検査している。この敷地内で
も検査できるように、P3(注:実験や検査などで使用されるウィルスや細菌を
物理的に閉じ込める施設で、危険度に応じ、数字を増し、P1〜P4まである)施
設の建設をブラジル農務省の資金で計画中。なお、研究・開発、技術移転のた
めの研修などは、ここで実施しているが、技術移転は現地に赴き指導すること
もある。
    
(エ)口蹄疫等の家畜衛生情報の提供としては、SIVCONT(Sistema Continental 
      de Informacion y Vigilancia de las Enfermedades Vesiculares=小胞疾
      病大陸監視情報提供システム)が1973年から開始された。当初は、口蹄疫
      に関する情報提供のみであったが、2002年から馬の脳炎や豚コレラ関係の
      情報もインターネットで公開している。また、人畜共通伝染病である狂犬
      病、ブルセラ病、牛結核などの情報も収集している。なお、パンアフトー
      サの守備範囲は当然米州全体であるが、口蹄疫は南米で発生しているので
      実際の業務は南米だけとなっており、北米・中米は各国の家畜衛生機関が
      独自に対応をしている。しかしながら万一、北米・中米で口蹄疫が発生した
      場合は、パンアフトーサに連絡が入り業務の対象地域になる。


◎SIVCONTのホームページ(スペイン語、英語、ポルトガル語で紹介されており、
  口蹄疫が疑われる件数が公表され、地図にプロットされていく。)



(4)広大な南米から口蹄疫を撲滅するための取り組み

 パンアフトーサは、口蹄疫を抑制し2009年までに南米から撲滅するため、各国
が参加するさまざまな会議やプログラムを実施している。

(1)COSALFA(=Comision Sudamericana de la Lucha Contra la Fiebre Aftos
     a、対口蹄疫闘争南米委員会)は、国内および地域内の活動の促進・調整・
     評価、また病気の抑制のための二国間もしくは多国間の基準の調整を図る委
     員会として、1972年に設立された。設立当時は、口蹄疫が撲滅できるとは考
     えていなかったため、発生のコントロールが主目的であり、「闘争」の名が
     つけられた。
     
 また、地域内各国の衛生責任者が集まるCOSALFAの設立は、パンアフトーサの業
務を、@ワクチンの開発および血清学的・ウィルス学的診断技術を新たに開発す
ること、A畜産生産システムにおける口蹄疫発生の生態学的、疫学的メカニズム
を研究すること、B南米における地域分類の決定および口蹄疫抑制(・撲滅)に
向けた新戦術を決定することを確定させた。

(2)PHEFA(=Programa Hemisferico de Erradicacion de la Fiebre Aftosa、
     西半球口蹄疫撲滅プログラム)は、口蹄疫撲滅に向け1987年に策定された基
     本となるプログラムであり、ワクチン接種なしで2009年までに米州から口蹄
     疫を撲滅することが最終の目標である。パンアフトーサとしては、アルゼン
     チン・ウルグアイ・ブラジルは2004年までに撲滅できる可能性が高いが、コ
     ロンビア・ボリビア・エクアドルなどは2009年まで時間が必要になるだろう
     と予測している。
     
 また本プログラムの目的には、地域の住民に食肉や牛乳の供給量を増やすこと、
新たに清浄地域を増やすとともに、新たな畜産地域、例えばアマゾン地帯の生態
系へ配慮することなども揚げられている。
○PHEFA(=Programa Hemisferico de Erradicacion de la Fiebre Aftosa、
  西半球口蹄疫撲滅プログラム)

 1  目的

  地域住民の食肉と牛乳の利用度を高め、畜産の経済的・社会的効率を向上させ
るため以下を定める。
     
(1)家畜衛生のための公的投資および民間投資を改善する。

(2)技術投資(生産性向上のための育種改良、飼養管理などに向ける予算の意
     )の制限要素(口蹄疫が発生した場合、対策措置のため技術投資予算をカ
     ットとそれによる研究の中断で生じる非効率性等の意)を排除する。
	     
(3)地域の畜産物製品の輸出に対する障壁を排除する。

 2  特別目標

(1)以下により南米大陸から口蹄疫を撲滅する。

     - 新たに清浄地域を創設していく。

     - 口蹄疫が発生している地域においては病気を抑制し、撲滅に向けた取り
     組みを実施する。

     - 臨床症状が消滅した地域においては、慢性的(風土病的)に存在する発
     生源を除去するため、疫学上の措置を実施する。

(2)清浄地域を保護し、同地区への口蹄疫の再侵入を防止する。

(3)新しい畜産地域であるアマゾン地帯への口蹄疫ウィルスその他の外来病原
     菌の侵入を防止すると共に、それら新地域の生態系保全を尊重する。

(4)計画の進度が低い地域において、家畜衛生関係のインフラ整備の開始と充
     実を図る。

 3  戦略

  上記の目標を達成するための戦略は、パンアフトーサにより実施される技術
協力の他、以下の諸点に基づき実施される。

A.  地域化および区域化

  地域分割については、生態系、文化、社会経済上のマクロ地域の存在のみなら
ず、PHEFA設立以前の以下の二大地域の存在が勘案された。

(1)南米地域。口蹄疫が存在し、その撲滅が提起されている。

(2)北米、中米およびカリブ海地域。口蹄疫が存在しない地域、またはこれを
     予防しワクチン接種清浄地域のステータスを維持すべき地域。

  また、口蹄疫の性状、家畜生産および畜産関連の経済にかかる地域環境との関
係に基づいて、南米の撲滅地域は以下の 3 つのマクロシステムに分類される。

(1)南米南部―ラプラタ河流域:チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグア
     イおよびブラジルのリオグランデドスル、サンタカタリナおよびパラナ州
     より構成される。

(2)アンデス山脈地域:ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズ
     エラより構成される。ただしこれらの国々に含まれるアマゾン地域を除く。
     
(3)アマゾン地域およびブラジルの非アマゾン地域:ブラジル、ギアナ、仏領
     ギアナ、スリナム、ボリビアのパンド県、ペルーのロレト県およびマドレ
     デディオス県、コロンビアのバウペスおよびグアイニア県、ベネズエラの
     ボリバルおよびアマソナス州により構成される。

  上記のマクロ地域分類は、家畜生産システムおよび商品の流通体系による口蹄
疫ウィルスの伝播メカニズムに基づいて、さらに以下のように細区分される。

(1)第一次慢性的(風土病性)地域:一般的に粗放的な家畜飼育に結びついて、
     恒常的にウィルス活性が維持される地域。

(2)第二次慢性的(風土病性)地域:肥育のための家畜導入などに伴うウィル
     スの反復的かつ規則的進入に結びついた地域。

(3)散発性もしくは擬似風土病性地域:第一次慢性的(風土病性)地域から散
     発的もしくは偶発的にウイルスが侵入する地域。一般的に家族経営の畜産
     および酪農に結びついていることが多い。

(4)	口蹄疫清浄地域。

  上記により以下の地域別の特定の戦略が決定される。

第一次慢性的(風土病性)地域

(1)3 〜 5 年間、大量かつ体系的にワクチンを接種するとともに、ウィルスの
     源泉を排除するため感染源を特定し、厳重な管理により地域内におけるウ
     ィルスの伝播サイクルを切断する。

(2)病気の拡大を防止するため、家畜の移動、特に地域外への移動が多い若齢
     家畜の移動を把握し、厳重な管理を実施することにより、地域外に対する
     ウィルス伝播サイクルを切断する。

第二次慢性的(風土病性)地域

(1)導入される家畜の原産地と一緒に通信情報システムを設立する。

(2)家畜の原産地と共同で補完的対策を措置するため、時期的・地理的な家畜
     の移動についての特徴を把握し、導入される家畜の厳重な管理を実施する。

(3)ウィルスの内部伝播リスクを減少させるため、家畜の移動時期等に適した
     ワクチン接種の実施、感染源の早期特定、適切な家畜管理などを実施する。

散発性もしくは擬似風土病性地域

(1)歴史的に感染源となっている地域との間で通信情報システムを設立する。

(2)予想される感染源の侵入の厳重な管理を実施する。

(3)感染源を早期に検出して管理し、消滅させる。

B. 計画の技術上、運営上の調整

  これらを基にして作成された口蹄疫撲滅計画の全体目標及び活動は、利用可能
な人材・資材および資金を最大限に活用するため、各国が作成する家畜衛生計画
と戦略的に結びついたものでなければならない。

  また、南米大陸における口蹄疫撲滅は努力を要する業務であり、すべての国の
支持を必要とするため、各国の計画は他国および小地域と調整がなされなければ
ならない。これらは、技術的・資金的・政治的などの面での協力を目的とし、国
内・国外の公的および民間の機関を含むものである。

C. コミュニティの参加

  PHEFAはその総合的戦略の中で、すべての畜産関係者が個人的または協会を通
じて積極的に参加することを提唱している。

  また食肉産業、開業獣医師、生物学的製薬会社等の参加も勘案している。

4 最終目標

  PHEFAの最終目標は2009年までにアメリカ大陸から口蹄疫を根絶することであ
り、諸国が結束して行動すること、辺境エリアにある 2 , 3 カ国が共同して計
画を作成し衛生状態を向上させること、畜産関係で働くすべての者が参加するこ
と、局所に集中することなく獣医師を適正に人員配置することにより達成される
であろう。

(「パンアフトーサ資料」から抜粋)
    
(3)COHEFA(=Comite Hemisferico para la Erradicacion de la Fiebre Afto
     sa、西半球口蹄疫撲滅委員会)は、1988年にPHEFAを評価する目的で設立さ
     れた委員会である。2001年5月にサンパウロでRIMSA(後述を参照)と同時に
     会議が開催された際、2000年及び2001年においてアルゼンチン・ウルグアイ
     ・ブラジル南部等で口蹄疫発生が多々みられたため、「これまでメルコスル
     (南米南部共同市場)諸国は自国の衛生対策や国境監視に終始し、自国の口
     蹄疫清浄地域を拡大してきた。そのことによりメルコスル圏内の人や畜産物
     の移動が増加してきたが、今回、発生が拡大したことを考えれば、今後は国
     境を越えた共同対策が必要である。」とし、アルゼンチン・ウルグアイ・パ
     ラグアイ・ブラジルのメルコスル4カ国に、チリ、ボリビアを加えた6カ国が
     協議し、最終的にRIMSAにおいてパンアフトーサに、口蹄疫に係る各国衛生
     体制の監査権を与えることが決定された。2001年末から監査を開始し、2002
     年9月までに終了する予定である。      

(4)COPALIFA(=Comision de los Paises Libres de la Fiebre Aftosa、口蹄
     疫清浄国委員会)は、北米及び中米、カリブ海諸国の口蹄疫ワクチン不接種
     清浄国のみの集まりで、清浄国の連携により予防プログラムを振興・調整し、
     ウイルス侵入の危険性を体系的に監視するシステムを発展させることを目的
     とした委員会である。      

(5)RIMSA(=Reunion Interamericana a Nivel Ministerial de Salud y Agri
     cultura、米州保健及び農業大臣会議)は、PAHO加盟国の保健&農務関係の
     大臣クラスが集まり、パンアフトーサの予算と方針を審議する会議で、2年
     に1回開催される。 
     
 その他、口蹄疫撲滅を含めた家畜衛生に関連した会議等として、      

(6)ラプラタ河流域協定(Convenio de la Cuenca del Plata、)は、メルコス
     ルにチリ、ボリビアを含めた6カ国が参加(PCP=Proyeto de Cuenca del P
     lata)し、口蹄疫等の家畜伝染病の対策について共同でプログラムを作成し、
     実施していくための協定。      

(7)COTASA(=Comite Tecnico Andino de Sanidad Animal、アンデス地域家畜
     衛生技術委員会)として、ベネズエラ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コ
     ロンビアのアンデス諸国が家畜衛生に関して議論する委員会
           
がある。

  以上のようにパンアフトーサは口蹄疫撲滅に向け、研究、計画作成およびそれ
に基づく各国の活動調整などを実施しているが、口蹄疫撲滅は各国、各機関、各
畜産関係者の努力と協力により達成されるものである。      

(参考)南米南部主要国における近年の口蹄疫に関する状況
 資料:OIEおよび各国家畜衛生機関    


3.ブラジルにおける口蹄疫撲滅にむけた体制について

(1)ブラジル農務省の家畜衛生対策の体制
 DDA(=Departamento de Defesa  Animal、動物防疫部)が、家畜衛生対策を担
っており、獣医衛生製品監督課は医薬品の審査、登録、監視を実施し、家畜試験
場事務局および試験場等は、ワクチン力価等の品質検査、薬品残留物の検出、公
共または民間試験場の開設許可と設備検査等を実施している。

 衛生プログラム監視事務局は、家畜衛生関係のプログラムの実施方法の検討、
家畜疾病情報の配布、家畜および動物由来製品の国内移動の監視、出入国時の空
港・港・国境監視所における検疫、ワクチン接種の監視、国際機関および他国と
の交流・交渉を実施している。なお、口蹄疫に関する業務を専門に扱っている部
署、DIFA(=Divisao de Febre Aftosa、口蹄疫係)が衛生プログラム監視事務局
の下部に位置している。これは、口蹄疫に関するプログラムや防疫に関して技術
的な責任を負う組織で、農村・農場における監視に関すること、口蹄疫関係の研
究に関すること、ワクチンに関すること、国際関係・国内会議・州政府との連携
に関すること、法律原案を作り成立した法律に基づき行動を監視することの業務
の中で、口蹄疫に関することはすべてこのDIFAに集約・統合され、口蹄疫の撲滅
に向け努力している。

 DDAは、各27州(26州および連邦区)にあるDFA(=Delegacia Federal Agric
ultura、農務省連邦代表部)の中にSSA(=Servico de Sanidade Animal、家畜衛
生部門)をもっている。各州政府は牛の州内移動の許可およびワクチン接種の奨
励・監督、農地・農場の登録などを実施しているが、SSAはこれらが適正に実施さ
れているか監督・監査する機関で、DDAがプログラムを作成するのに対し、SSAは正
に法律等が遵守されているか監督・監査する実行部隊である。なお、民間が実施
する家畜衛生対策等に対しても監督権を持っているが、ワクチン接種の費用など
は民間自身が負担するのがブラジルにおける基本的考えである。しかしながら、
1948年12月21日付け法律第569号、1950年3月28日付け施行規則27,932号等により、
指定された疾病に対する殺処分には、評価委員会によって市価を基準とした損害
評価額が算定され、その額に対し法律の定めにより支給額が決まる補償制度があ
る。ちなみに口蹄疫患畜の殺処分の場合には、損害評価額の2分の1となる。

 連邦および各州政府の家畜衛生関係機関は全部で4,923事務所、獣医師などのス
タッフが約1万2千名おり、各州ごとに農場、生産者を登録し、肉用牛、乳用牛お
よび水牛などがどのような状況にあるのかを把握できるシステムが確立している。
これにより肉・皮などの動物由来製品の安全性を認証している。このシステムで
は、家畜等に異常があれば生産農場までを追跡できることになっているが、これ
からは2007年までに肉用牛、乳用牛および水牛のすべての個体を登録する個体識
別制度に基づいて管理していくことになっている。(「ブラジルの牛の個体識別
制度」については、海外駐在員情報第516号、第538号を参照。)

  今回説明をしてくださったDDAのアルイジオ・ベルベルト・サトレー計画作成
  課長。「マットグロッソドスル州は3年間(95〜97年)、リオグランデドスル
  州は6年間(94〜99年)、ワクチン接種清浄地域を保ってきたが、口蹄疫が発
  生した際には患畜等を直ちに殺処分し、24時間以内にOIE等に発生を通報する
  とともに、見張牛を入れるなどの対策をとった。まず通報・対策、これらは根
  本的な対応であり貿易相手国、近隣諸国にとっても重要と考えている。家畜衛
  生関係の事務所は4,923あり、高い安全性を確保できる体制となっており、質
  の高い畜産物を提供できると考えている。日本は、高い価格のものを買ってい
  る。ブラジルは食肉を安全に安くかつ十分生産できるので、将来、日本へも供
  給できるようにしたい。」と熱く語った。 
 
◎DDAの体制










○ブラジル各州の牛の飼養頭数と衛生ステータスの状況

  北部には約1,600万頭、北東部には約1,400万頭と牛は少なく、約1億3,500万頭
がワクチン接種清浄地域(ただし、サンタカタリーナ州はワクチン接種を実施し
ていない。また、リオグランデドスル州はワクチン接種清浄地域のステータスを
留保されている。)に存在している。

注1)飼養頭数:情報コンサルタント合計の合計	
注2)口蹄疫対策区分:口蹄疫の撲滅に向け、州間の牛の移動、発生状況などを勘
     案しているため、行政区分とは異なっている。	
注3)準清浄地域:非清浄地域から清浄地域への口蹄疫侵入を防止するため重点的
     に監視する緩衝地帯

(2)ブラジルの口蹄疫撲滅に向けた民間の取り組み

 今回は、民間における口蹄疫撲滅対策の取り組みとして、ブラジル農業連盟(
CNA)を訪問し、話を聞いた。

 CNAの構成は、各27州(26州および連邦区)毎に1つある州の農業連盟と、その
下部の連盟2,030から成る。郡は5,507あるが、下部の連盟は郡を越えて統合して
いるものもあるため郡の数よりは少ないが、全国をカバーしている状況にある。

 CNAの内部組織としては、会長の下に、肉用牛、酪農、養豚、貿易、インディ
オ、環境等の21委員会が存在し各委員長は会長を補佐する。各委員会には、州連
盟、郡連盟の代表者に加え、生産者協会などが参加している。各委員長は、政府
と一緒に政策を決定するのが役目であり、上院(81名のうち27名が農畜産業関係
議員)、下院(513名のうち147名が農畜産業関係議員)を通じて政府に働きかけ
も実施している。

 牛は1億6,400万頭以上飼養されており、年間と畜頭数3,700万頭、そのうち8割
強が放牧畜産で生産され、肉骨粉などの動物性タンパクを使用しないで飼養され
ている。約1億3,500万頭は、口蹄疫ワクチン接種清浄地域に存在し、口蹄疫撲滅
に向けた取り組みのため、各州の法律に基づき基金制度がある。各州により基金
の原資は異なり、州政府資金などの投入もあるが、民間が主体となって基金造成
することが多く、例えば生産者(州政府で設定する1頭当たり定額の0.25%)、食
肉処理業者(1月1,500レアル)食肉小売店(1月15レアル)などが基金に納めるこ
とになっている。この基金を用いて作業車両、FAXや電話等の機材・機械を購入し
たり、専門家の技術研修などが実施されている。また、患畜等の殺処分に対する
補償費は連邦政府から2/3、州側から1/3支出されることになっており、1/3は
州法の定めにより、本基金から支出される。連邦政府からの支出は遅いため生産
者は資金繰りが助かるとのことである。また、ラジオ、テレビなどを通した口蹄
疫衛生対策キャンペーンや生産者への各種通知は、この民間経費で実施している。

 さらに、ボリビアとの国境沿い200kmに飼養されている家畜に無料でワクチン接
種を行うともに、国境上における監視所の設置、ボリビアの獣医師のトレーニン
グを実施している。これらは、ボリビアからの口蹄疫侵入を防ぐためであり、パ
ンアフトーサの指導のもとボリビアの関係者の了承を得ながら実施している。

 これらの対策に、1990〜2001年までの10年間に10億ドルを投入し、口蹄疫撲滅
に向け民間として協力している現状にある。

     常駐肉用牛フォーラム委員長、アンテノール・ノゲイラ氏。「マッグロッソドスル州、マットグ
   ロッソ州、ゴイアス州、ミナスジェライス州などの主要生産州では、既に口蹄疫ワクチン接種
  清浄地域として口蹄疫がコントロールされており、農務省はさらに2005年までに北部および
  北東部における口蹄疫撲滅を目指している。清浄地域には1億3,500万頭が飼養されてお
  り、 非清浄地域には3,000万頭がいるだけで比較的少ない。北部のパラ、アマゾナス、ロン
  ドニアの3州が清浄地域となれば、1,400万頭が加わり、90%が清浄地域となる。」とワクチ
  ン接種清浄地域が拡大していることについて語ってくれた。
 

CNAが入居しているビル



4.おわりに

 今回のレポートを作成するにあたり、ブラジル農務省、ブラジル農業連盟およ
びパンアメリカン口蹄疫センターを訪問し、家畜衛生関係および食品衛生関係に
ついて長時間にわたり説明をうけた。だれもがとても熱心に説明してくれたこと
に、この場をお借りしてお礼を述べたい。

 ブラジル農務省の各部署およびブラジル農業連盟では、説明および当方からの
質問が終了した後には必ず、「ブラジルは口蹄疫清浄地域が多く、そこで牛の8
割、1億3,500万頭が飼育されている。世界の国々においては、口蹄疫清浄地域と
交易する国が多い。また、ブラジルはEUからBSEリスク1と評価されている国でも
ある。さらに、米国や豪州と比べても生産コストが安い。なぜ日本はブラジルの
牛肉を買わないのか?」と聞かれた。ブラジルは口蹄疫清浄地域で多くの牛を飼
っているとの意識が強く、広大な国土を背景に需要さえあればいくらでも牛肉を
生産し輸出できる自信が、それらの言葉を語らせていると思われた。しかしなが
ら、パンアフトーサは、ブラジルは清浄国ではなく、あくまでワクチン接種清浄
地域をもっているのであり、撲滅に向けて努力している状態であるとの認識であ
った。

 年末に実施予定のOIE口蹄疫その他疾病委員会がパリ本部以外で初めて開催され
ること、その席において、現在ワクチン接種なしで口蹄疫をコントロールしてい
るサンタカタリーナ州を、口蹄疫ワクチン不接種清浄地域として申請するか現在
検討していることなどの話を聞くと、ブラジルの世界に向けたアピールは止まら
ないようである。



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