豪州との農産物貿易問題に新たな動き    ● フィリピン


大手乳業2社の方針転換による実質的な豪州産乳製品の輸入規制

 豪州がフィリピン産果実(バナナおよびパイナップル)の輸入制限措置を継
続する中で、フィリピン農業省のスポークスマンはこのほど、同国の大手乳業
企業であるネスレ・フィリピン社およびアラスカ・ミルク社が、乳製品原料の
大部分を豪州に依存する戦略を改め、今後は輸入先を多角化して行く方針を固
めたと発表した。同スポークスマンによると、このことについては、政府およ
び同2社のトップとの間で非公式に行われた会談でコンセンサスが得られたと
されている。しかし、アラスカ・ミルク社は、同社が脱脂粉乳などの乳製品の
輸入先を多角化する計画は以前からの懸案であったとして、方針転換への農業
省の関与を否定している。今回の政府発表の裏には、同国の乳製品市場の99%
を占める両社の同意を得ることにより、実質的に豪州産乳製品の輸入を規制す
る意図があるものとみられている。


豪州の乳業者はフィリピン産果実の輸入解禁を豪州政府に進言

 従来、フィリピン政府は、対抗措置として、豪州からの生体牛の輸入規制を
行ってきた。しかし、フィリピンでは近年、牛肉消費が増加傾向にあり、肉牛
産業界から当規制の強い撤廃要求が相次いだため、政府は2001年までにこれを
段階的に撤廃した。しかし、豪州政府から果実の輸入解禁のめどが一向に示さ
れないことから、同じく豪州の重要な輸出品目である乳製品へ、輸入規制のタ
ーゲットを定め直す必要に迫られたものと思われる。

 これに対して、豪州の酪農・乳業関係者は、国内の果実産業の保護と引き換
えに乳製品の輸出が犠牲になるのではないかと危機感を募らせているといわれ
ている。豪州酪農庁(ADC)は、豪州のフィリピンへの乳製品輸出額は年間3億
6,400万ドル(約444億円:1ドル=122円)であるのに対し、バナナ産業が稼ぎ
出すのが3億2,100万ドル(約392億円)であることを挙げ、豪州政府に対し、
フィリピン産果実の輸入解禁を早急に行うべきであると進言したと伝えられて
いる。


フィリピン政府は、問題解決に至らない場合、規制品目の拡大も示唆

 一方、フィリピン農業省は、フィリピンの大手乳業企業2社が、既にニュー
ジーランドからの乳製品の調達に着手したことを公表するとともに、インドや
アルゼンチン、EU、米国などからも乳製品輸出の打診を受けていることを明ら
かにしている。これと同時に、ADCの見解を引用して豪州の酪農・乳業界と果
実業界との足並みの乱れを指摘するなど、豪州政府をけん制する構えを緩めて
いない。

 なお、フィリピン酪農庁(NDA)は先頃、乳製品原料のほとんどを輸入に依
存する状況を打開するためとして、生乳の自給率を2007年までに5%へ引き上
げることを提言した。これに伴い、各乳業企業はNDAに対して、将来的には国
産生乳の使用割合を拡大していくことに同意しており、このことも、豪州の酪
農・乳業界がフィリピンへの乳製品の輸出の先行きに懸念を抱く一因になって
いるものと思われる。

 フィリピン農業省は、豪州がフィリピン産果実の輸入認可をさらに先送りし
た場合の追加対策として、生体牛の再度の輸入規制やターゲットを野菜の分野
にまで拡大する可能性を匂わせている。フィリピンと豪州の農産物貿易をめぐ
る対立は新たな局面を迎えようとしている。

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