肉質改善に取り組むミンダナオ島の肉牛農家 (フィリピン)

シンガポール駐在員事務所 小林 誠、木田秀一郎


ひとくちMemo
 フィリピンには約250万頭の牛と約300万頭の水牛が飼養されている
が、このうち9割以上が役用を兼ねた小規模農家による飼養形態で占
められている。このため、牛肉生産用としては、年間20万頭程度にの
ぼる生体輸入牛の短期肥育を行うフィードロットと肉牛専門牧場によ
る生産が主体となっている。 

 同国南部のミンダナオ島を中心とするミンダナオ地域は、台風など
の自然災害がほとんどなく、人口密度も低いことから畜産物やトウモ
ロコシなどの飼料作物類の供給基地となっており、早くから口蹄疫清
浄化に取り組んできた。 2001年には国際獣疫事務局(OIE)により口
蹄疫ワクチン非接種清浄地域として認定され、食肉類の輸出基地とな
ることへの期待が高まっている。 

 今回は、同地域の第10行政地区内ブキノン県で2,800ヘクタールの
牧場を所有し、豪州から導入した和牛による肉質改善によりマニラ首
都圏の高級ホテルなどのハイエンド市場への進出を目指している農家
の牧場とパインの缶詰残さ利用して肥育コスト削減を図るデルモンテ
社のフィードロットを紹介する。
 

 米国テキサス州から導入したブラーマン種と乳用のシンメンタールの交雑によ
り、国の種畜牧場で増殖・配布されたシムブラー種の牛群。牧場は2カ所に別れ
ており、訪問場所は800ヘクタールだがこのうち500ヘクタールが改良草地となっ
ている。

 豪州ビクトリア州の牧場から導入された黒毛和種の種雄牛。2000年に黒毛
と褐毛合わせて雌雄各12頭を生体で輸入したが、気候条件への適応が問題となり、
1年以内に雄2頭、雌1頭がへい死した。牧場主によれば、導入した系統は糸花、
福金などに由来するものである。昨年末、試験的にと畜した黒毛の交雑種の肉質
は、アンガス種のプライム・ビーフと同等の肉質であったという。

 褐毛和種の育成牛(牧場主によれば、「タママル」
に由来)。ブキノン県は島内の高原地帯にあり平地
よりは冷涼だが、それでも和牛の純粋種は気候条件
への適応が困難である。このため、牧場主は和牛の
純粋種は中核牛群の維持のみとし、ブラーマン種な
どとの交雑種を出荷するフィードロットの形成を目
指している。

 同県内にある国立人工授精センターでは、同牧場
から預託される和牛の種雄牛の凍結精液製造を行い、
県内肉牛農家に配布して行く予定である。
 牧場では過排卵処理による受精卵移植(ET)を行
っており、凍結受精卵を用いた場合の受胎率が50%
程度であるという。移植技術者は豪州人であり、1
日当たりの技術料は1,500米ドル(約18万円)とな
っているが、和牛を生体で輸入すると1頭当たり5千
米ドル(約60万円)かかるため、受精卵を購入して
もETによる方が安上がりであるという。

 


 黄色のイヤータッグを装着しているのが黒毛和種
の純粋種。牧場のある地域の年間降水量は2000ミリ
メートル程度あり、乾季は3月、4月の2カ月しかな
く、シグナルグラス(Brachiaria decumbens)を主
体とする草地の維持は容易である。

 マメ科のピント・ピーナッツ(Arachis pintoi)
とスタイロ(Stylosanthes guianensisとS. scabra 
cv. Seca)を利用した混播草地も良好に維持されて
いる。
 国立種畜牧場の牧草類見本園から種苗を採取する
近隣農家。イネ科の熱帯牧草類には、カッティング
の散布による草地造成が可能なものがかなりある。
また、ピント・ピーナッツのように土中に種子を形
成するものでは、栽培地を表土ごと剥ぎ取ったもの
を細断して種子の代わりに使うことができる。上述
の牧場におけるピント・ピーナッツの混播草地は、
この方法で造成された。

 

 デルモンテ社のパイナップル・プランテーションに設置された1万5千頭の収
容能力を有するフィードロットで出荷直前の牛群。肥育素牛の95%は豪州から輸
入されたブラーマン交雑種であり、残りは県内の農家から導入される。生体重25
0〜370キログラムで導入した牛を100〜120日程度肥育し、420〜450キログラムに
なった

 野積みされたパイナップルかすを給じ用トラックへ積み込む。パイナップルの
缶詰工場からは、副産物として表皮などのパイナップル・ブランや芯が大量に生
産されるため、これを粉砕して飼料とすることにより生産コストに占める飼料費
を全体の1%にまで削減している。

 パイナップルかすにモラセス(廃糖蜜)と濃厚飼
料を添加。パイナップルかすは水分が高いため、水
分調整用として米ぬかを混和するほか、たんぱく質
として尿素とコプラかすを添加し、し好性向上のた
めにモラセスを添加する。このような混合飼料の摂
取量は、1日1頭当たり20〜25キログラムとなってお
り、トラック1台で100頭程度に給与可能である。
 フィードロットの飼槽。訪問時は、豪州の生体牛
価格の高騰と豪州ドルの為替レートの高騰により、
肥育素牛の導入コストが上昇しているのに加え、中
国からの安いチルド牛肉の輸入増加により市場価格
が低下していた時期のため、収容能力の半分以下の
肥育牛しか飼養されていなかった。

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