山岳放牧を管理して口蹄疫侵入を防ぐ(チリ)

ブエノスアイレス駐在員事務所 犬塚明伸、玉井明雄



ひとくちメモ

 チリの牛飼養頭数は、1997年時点の公式統計で410万頭(ただし、畜産
関係者はその後減少していると分析)、そのうちチリ農牧庁(SAG)が管
理するアンデス山脈における放牧頭数は6万7千頭強である。数百年前から
の風習で、低地の農家が春から秋にかけて、およそ標高1,500〜2,500mの
高地に放牧する。

 チリは国際獣疫事務局から81年に口蹄疫ワクチン不接種清浄国と認定
された。その後、84年および87年に、アルゼンチンとの国境地帯に放牧
されていた家畜を介して口蹄疫が侵入したことから、国境隣接地域に放
牧禁止地域を設けた。現在では2001年3月のアルゼンチンにおける口蹄疫
の発生を機に設けられた管理システムを実施。
放牧されているのは、クリオージョと呼ばれる山岳放牧に適し、アンガス、ヘレフォード、ホルスタイン、オベロネグロなどさまざまな品種の混血で乳肉兼用として利用される。山岳放牧は第4〜9州で実施され、829ヵ所、230万ヘクタールの放牧地があり、そのうち約90%が民間所有地である。
   今回の訪問地は、首都サンチアゴから200キロメートル南下した第7州のCurico(クリコ)から、内陸へ100キロメートル入ったところ。チリでは夏(Verano)に行われる風習として、山岳放牧を「Veranadas(ベラナダス)」と呼んでいる。

 

 赤い部分は放牧禁止地域。また、色は管轄の違いを示しており、同じCrico支所の中で2分割して管理している。  放牧許可書の写し。下牧する際にも頭数等を記入し、許可を得なければならない。また、下牧後の移動先(牧場やと畜場など)を登録する必要がある。
SAG検問所A(写真下の右) SAG検問所Bの集合柵
 SAGの検問所と登録確認のための集合柵。山岳放牧を実施するためには、放牧地を管理しているSAG支所に、畜種別(牛、羊、ヤギ、馬)、雌雄・子別に頭数と耳標番号を登録し放牧許可を得る。放牧許可書の記載事項と実際の頭数等が合致していないと検問所は通過できない。また、許可された場所以外での放牧は禁止されている。
国境警備隊検問所
  少し先から放牧禁止地帯が始まる。
国境警備隊とSAG検査官の事務所と住居。冬の間は下山する。

 アルゼンチンとの国境(中央やや左にあるポールが国境を示している)。ここから約5キロメートル先でアルゼンチン側の農家が放牧を行っている。ここは1817年、スペインからチリおよびペルーを解放するため、アルゼンチンのサンマルティン将軍率いる軍隊が3つに分かれアンデス山脈を越えた最南端ルート。昔からこの地にも山岳放牧は実施されていたとのこと
放牧地にある集合柵。月に1度、個体確認と衛生検査を行う。放牧許可書の頭数や耳標番号を全頭確認し、抽出で血液検査などの衛生検査を実施する。SAGから検査日の連絡を受けた所有者は、集合柵に家畜を集めておかなければならない。  放牧地は10〜15センチの自然草が主であるが、標高等により植層は変わる。放牧強度については制限はないが、毎年同じ農家が放牧申請をしてくるので、頭数の増減はほとんどない。
  沢がいたるところにある。アンデス山脈からの豊富な雪解け水があるため飲料水の心配はない。

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