特別レポート 

ブラジルの養豚産業の概要

ブエノスアイレス駐在員事務所 玉井 明雄、犬塚 明伸



1 はじめに

 ブラジル国家食糧供給公社の統計によると、2002年における同国の豚飼養頭数は
3,269万頭、豚肉生産量は268万7千トン(枝肉重量ベース)となっている。人口約1
億7千万人もの大消費市場を抱えるブラジルでは、生産量の約 8〜9割が国内に仕向
けられるが、近年では、自国通貨レアルが安値で推移する為替の動向、低い生産コ
スト、家畜衛生ステータスの向上などを背景に急速に輸出を伸ばしている。

 ブラジルの豚肉生産は、同国の穀倉地帯であり、垂直的調整が進む南部(サンタ
カタリナ、パラナ、リオグランデドスルの3州)を中心に行われているが、近年は、
穀物生産の拡大が顕著な同国中央部のセラード地帯での生産も伸びている。

 今回のレポートでは、豚肉の生産や輸出拡大の高い潜在力を持つとされる同国の
養豚産業について、肉豚の生産動向、豚肉の需給動向、生産コストなどを中心に紹
介したい。

2 ブラジルの養豚産業の変遷と需給動向

(1)ブラジル養豚産業の変遷
 ブラジルの養豚産業は、20世紀半ば、同国南部に食肉処理加工業者(以下、「食
肉パッカー」という)が出現して以来、食肉パッカーを核として垂直的調整が進ん
だ。食品産業を代表するサジア社が1950年代に、米国の例を参考に、最初にこうい
った形態を採用したとされる。それは、食肉パッカーが傘下の養豚農家へ飼料、医
薬品などの供給や技術指導を行う一方、養豚農家は肥育豚を一定条件の下で食肉パ
ッカーへ供給するというものであったが、前者にとっては、原料を安定的に調達す
ることができ、後者にとっては生産物の販売が保証されることから、ほかの食肉パ
ッカーや農業組合も同様の形態を取り入れるようになった。

 80年代は高度のインフレの中で国内経済が停滞したが、その後の物価と賃金の凍
結を中心とした経済政策によって一時的な消費の増加を招いた。中でも86年に実施
された物価安定策であるクルザードプランにより、一時的ではあるが、消費者の購
買力が高まったことで、食肉消費が増加し、供給がひっ迫した。これにより食肉パ
ッカーは、加工品の原料となる豚肉の輸入量を増加させた。

 90年代に入ると、世界のグローバリゼーションが進む中で、外国資本と技術の導
入を図った経済開放政策に伴う外国製品との競合の前に、経営の合理化を迫られた
企業は、コスト削減と生産性向上のため技術改良への投資を推し進める一方、年々
高まる消費市場からの要求に応じる努力を続けた。

 90年代の終わりには、生産コストの低減を図る動きの中で、農業生産が急速に拡
大するブラジル中央部セラード地帯への食肉パッカーの進出が行われた。セラード
地帯は、長い間、農耕不適地と見なされてきたが、70年代に始まった農業開発を契
機に開発が進み、2001年には、全国の大豆の49%、トウモロコシの32%が同地域で
生産されている(詳細は、「畜産の情報」海外編2002年12月号P59〜60を参照)。
(2)豚肉需給動向
 表2を見ると、2002年の豚肉生産量は、生産性の向上に加え、 輸出需要の増加な
どにより、95年と比べ約 41.4%増となった。 生産量に占める輸出量の割合につい
ては、95 年はわずか 2%に過ぎなかったが、2002 年は約2割となっている。また、
過去3年間の推移を見ると、2002年の輸出量は、2000年比で3.7倍増となったのに対
し、消費量は、経済成長の停滞による消費者の購買力の減退などから、10.6%増の
伸びに止まった。

 ブラジルの豚肉輸出相手先は、1999年まで香港とアルゼンチンに集中していたが、
2000年にロシア市場への輸出が始まったのを契機に急速に拡大した。しかし、輸出
先が少数の市場に限定されている現状に変化はなく、豚肉業界では、輸出市場の多
角化が重要視されている。

 2002年の年間1人当たりの豚肉消費量は、90年に比べ、56.3%増の11.1キログラ
ムとなったが、95年以降ほぼ横ばいで推移している(図1)。
 
 一方、鶏肉は2001年に30キログラムを超え、2002年は前年比8.1%増の33.3キロ
グラムとなり、牛肉の消費量(35.8キログラム)に肉薄した。

 近年、豚肉消費が伸び悩む要因としては、ブラジルで消費割合の高い豚肉加工品
が一般消費者にとっては高価であること、安価な鶏肉の需要が低所得層を中心に拡
大していること、多くの消費者の間で、豚肉は脂肪分が多く健康に悪いといった先
入観が根強く残っていることなどが挙げられる。






3 生産動向

(1)豚の主要飼養地域
 95/96年の農牧センサスによると、ブラジルの豚飼養頭数は2,781万頭(96年7月
31日時点)で、農場件数は約 200万戸に上り、1戸当たりの平均飼養頭数は 13.9頭
である。表3を見ると、農場の経営規模は、20頭未満の小規模経営、200頭以上の大
規模経営、その中間の経営がほぼ3分割する形である。


 同国の養豚は、前述の通り南部を中心に行われている。南部は、イタリアやドイ
ツなどヨーロッパ系移民が多く、豚肉が好まれる。地域別豚飼養頭数(図3)を見
ると、2001年において、南部の占める割合が42.9%と最大で、以下、北東部が22.1%、
南東部が17.7%、中西部、北部がそれぞれ9.3%、8.0%となっている。中でも、近
年における穀物生産の伸びが顕著なセラード地帯を含む中西部は、97年と比べで25.1
%増となっている。次いで、南東部も同年と比べ17.3%増と高い伸びを示している。


 2001年の州別飼養頭数(表4)を見ると、南部 3州がいずれも 400万頭以上となっ
ており、中でもサンタカタリナ州は、全体の約17%を占め、最大である。また、97
年比でセラード地帯に位置するミナスジェライス、マットグロッソドスル、マット
グロッソ、ゴアイス各州の伸びが顕著である。一方、伝統的な生産地帯であるサン
タカタリナ州でも21.0%の増加率となっている。なお、北部、北東部の増加率は低
く、南部でもリオグランデドスル州の飼養頭数は、過去5年間変化していない。







(2)飼料穀物生産との関係
 ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)が99年に行った試算によると、大規模養豚経
営体では必要な飼料の51%が自家生産され、残り49%が市場より購入されている。
また、肉豚生産コストの約7割が飼料費であることから、安価でかつ輸送コストを
軽減できる飼料穀物生産地帯への進出は養豚経営にとって大変重要な意味を持つ。

 養鶏・養豚業の盛んな南部のサンタカタリナ州は、飼料原料(トウモロコシ、大
豆カスなど)の一大消費地帯であるが、トウモロコシについては、州内の需要の一
部を州外に依存している。2001年は天候条件が良く生産が順調であったが、州内の
生産量が400万トンであるのに対し、損失分を合わせた州内の消費量は479万トンで、
79万トンが州外より供給されている(表5)。



 



 南部における穀物生産が頭打ちとなる中、90年代前半に行われた経済開放後の競
争の激化と、生産規模の大型化に伴う投資の増加などから、食肉パッカーが、穀物
生産が急速に拡大するセラード地帯へ進出する動きが見られるようになった。業界
大手のペルディガン社がゴイアス州リオベルデで、飼料生産を始め、養鶏・養豚生
産、家きん肉・豚肉の処理加工に至る行程を行う農牧複合体の運営に着手したこと
や、サディア社がセラード地帯に属するミナスジェライス州ウベルランディアで食
肉パッカーを買収したこともそうした動きの1つである。セラード地帯への進出は、
安価でより安定的な飼料原料の確保を狙ったものであるが、南部のサンタカタリナ
州と中西部のゴイアス州におけるトウモロコシ生産者価格の差 (表6)は、セラー
ド地帯への大規模な投資を裏付ける 1つの要因である。 これ以外の要因としては、
税制面では州政府が提供する税務上の恩典、 生産面では大型の穀類貯蔵能力や大
規模化に伴う1頭当たりの資材調達コストの軽減、また、環境面では伝統的な生産
地帯の南部で生じている環境汚染問題の回避などが挙げられる。



 










 穀物生産が拡大する中西部ゴイアス州に進出したペルディガン社のリオベルデ工
場。食肉(家きん肉および豚肉)生産能力26万トン/年、従業員数3,500人に及
ぶ。豚のと畜能力は1日当たり2,900頭で、豚肉生産に占める仕向け割合は、輸出
仕向け35%、国内仕向け65%(2002年10月時点)。

(3)生産システムの現状
 EMBRAPAは、同国の養豚生産の類型を次の通り分類している。

ア 高度技術舎飼い型
 企業的飼養形態で、その設備に大型の投資を必要とし、高度の生産性を求める方
法である。高いポテンシャルを持つ繁殖用豚が用いられ、専門化された施設で飼養
され、適切な環境管理が行われる。主要な疾病に対する予防措置が講じられ、品種
改良のための投資も行われる。技術面での大型の投資は量的生産によって回収され
る。
イ 伝統的舎飼い型
 生産施設への投資額は比較的少なく、技術の使用も少ない。飼養頭数は市場の需
要に応じており不安定である。繁殖用豚への投資も少ない。
ウ 放牧、舎飼い兼用型
 母豚は妊娠を確認するまで柵内で放し飼いとし、出産から離乳までの間、舎飼い
による飼養とする。離乳後、母豚は柵内の放し飼いに戻される。
エ 裏庭生産型
 野外の柵内で放し飼いされ、施設の利用は少ない。肥育用の子豚は畜舎に移され
るが、肥育のための適切な技術はなく、生産性は低い。主に農家の自家用の消費や
地元の市場に向けられる。

 農場の飼養形態は、繁殖経営、肥育経営、一貫経営に分けられ、 全国的に最も多
い形態が「シクロ・コンプレート」 と呼ばれる一貫経営である。しかし、リオグラ
ンデドスル州養豚生産者協会によると、主要養豚地域の南部では、 小規模な農家が
多く、 より多くの設備投資を必要とする一貫経営ではコスト負担が大きいことなど
から、繁殖や肥育などに特化した経営形態の農家が多く見られるとしている。

 ブラジル南部における一貫経営
 母豚520頭規模の一貫農場。母豚1頭当たりの年間子豚生産頭数は
約24頭。同農場で肥育された豚は、生体重量100キログラムで出荷。
(4)品種
 90年代を通じて行われた経済開放政策の下で、外国製品に対応する高い生産
性が求められ、国内の消費市場でも高品質への需要が高まったことなどから、
豚の生産分野においても生産性の向上、品質の向上が追及され、潜在力のある
部門として投資が行われた。

 遺伝的な改良では70年代に国内企業のAGROCERES 社が英国の PIC社と合弁し、 
AGROCERES -PIC社を設立して国内での改良を行ってきたが、90年代には欧州や
米国から改良素材の導入、オランダのTOPIGSグループに属する DALLAND社、ベ
ルギーの SEGHERS社などの海外企業の進出があり、改良分野に大きな変革をも
たらした。

 今日、国内の主要養豚地帯における種豚の品種は、大ヨークシャー、ランド
レース、デュロック、ピエトレンなどを雑種交配してできたハイブリッドが多
くを占めている。ブラジル養豚生産者協会の2002年の種豚登録台帳(PB B)に
よると、登録種豚の品種別内訳は、ランドレースが10.0%、大ヨークシャーが
15.1%、デュロックが 1.3%、ピエトレンが 1.8%、ハイブリッドが 71.0%、
その他0.8%となっている。


(5)垂直的調整の変化
 ブラジル養豚産業の垂直的調整については、肥育豚を出荷する生産者と、そ
のと畜・処理を行う食肉パッカーとの間で締結される形態が一般的である。こ
の形態では、食肉パッカーは、生産者に飼料などの生産資材の供給、技術指導
を行い、生産者は生産した豚を規則的に食肉パッカーへ販売し、あらかじめ定
められた基準に従い代金の支払いを受ける。このほか、まだテスト段階であま
り普及していないが、食肉パッカーが豚を所有し、肥育を委託する方法も始め
られている。例えば、ペルディガン社は、ゴイアス州リオべルデで開始したプ
ロジェクトにおいて、傘下の農家より 25キログラムに達した子豚を買い取り、
これを肥育農家に引き渡し、と畜体重に達するまで肥育を委託する。食肉パッ
カーは肥育農家に対し、肥育管理のための役務費と、生産性に応じた報酬を支
払うシステムとなっている。この方法は、肥育段階において食肉パッカーが求
める品質に近い肉豚を生産することができるほか、直営の場合に生じる労務費
などの負担を軽減できるという利点がある。

(6)肉豚の生産コスト
 EMBRAPAが、99年2〜6月に行った調査によると、肉豚の生産コストは表7の通
りである。ちなみに、種雄豚2頭、繁殖用雌豚36頭、年間子豚生産頭数を 18頭
として、コストを算出している。



 


 これによると、飼料コストは全体の71.3%を占めている。中でもトウモロコシ
と大豆かすは、それぞれ、37.7%、24.3%を占めている。コストの算定基準とな
った配合割合は、トウモロコシ52.9%、大豆かす34.1%、ふすま 3.1%、プレミ
ックス9.9%となっている。

 表8では、ブラジルの肉豚生産コストが、豚肉主要国と比べて低く、価格的に
有利であることも伺える。



(7)肉豚の生産者価格と生産コストとの関係
 図6は、肉豚の生産者価格(肉豚価格)、生産コスト、トウモロコシ生産者価
格との関係を示すものである。この図より観察できるのは、 肉豚価格が過去6
年の間、97年、99年、2001年の数カ月を除き、生産コストを下回って推移してい
ることである。


 また、肉豚価格が生産コストを上回るのは、トウモロコシを中心とした穀物の
収穫期で穀物価格の下落する上半期(1〜6月)に限られている。

 トウモロコシの収穫期(2〜5月)の肉豚価格と生産コストを見ると、97年、99
年、および2001年の肉豚価格は、トウモロコシ生産量が前年比で減少する見込み
から、収穫期にかかわらず肉豚価格は上昇したが、98年、2000年、2002年はトウ
モロコシの増産予想の中で収穫期の価格が下落し、生産コストを下回った。

 ブラジルのトウモロコシ需給(表9)と価格については、 生産増加→価格下落
→次期作付意欲の減退→生産減少→価格上昇→次期作付意欲を刺激→生産増加と
いう現象が繰り返されており、トウモロコシの生産状況に収益性を左右される養
豚農家は、トウモロコシ価格の安定を図る効果的な支援策を政府に強く求めてい
る。

 2002年は、トウモロコシの供給減少による価格の上昇、レアルの下落に伴う大
豆かす価格の上昇、国内市場における豚肉の供給過剰などが重なり、養豚部門の
収益性は極めて悪化し、危機的な状況に直面した。




4 流通、消費の概要

(1)食肉処理加工業者の概要
 次に、肉豚、豚肉の流通構造において、中核的な役割を担う食肉パッカーの概要
を説明する。ブラジル農務省の農牧防疫局(SDA)、動物製品検査部(DIPOA)によ
ると、同国の食肉処理加工施設は、大きく次の3つに分類される。

ア 連邦検査型(SIF)施設
 DIPOAの管轄下にあり、少なくとも1名以上のDIPOAの獣医師が常勤し、検査を受け
ている施設である。州を超えた食肉処理加工施設由来の製品の取引や輸出が認めら
れるのは、SIF施設のみである。

イ 州検査型(SIE)施設
 州農務局の衛生機関が検査を実施する。州内限りで郡を超えて取引される製品が
対象。

ウ 郡検査型(SIM)施設
 通常、郡の衛生機関が検査を実施する。郡内で取引される製品のみが対象。家畜
の搬入に関しては同じような制限はない。SIM施設であっても他の郡から家畜を搬
入してもかまわない。

 DIPOAによると、SIF施設のうち、豚を取り扱う施設は約150カ所あり、このう
ち、豚肉を輸出する施設は50カ所余りある。また、SIF施設における豚のと畜頭数は、
全と畜の約57%を占めている(表10)。なお、食肉パッカーによる豚のと畜頭数ラン
キング、豚肉輸出ランキングは、表11、表12の通りである。

表10 ブラジルの州別豚と畜頭数と豚肉輸出量








   
  半分に分割された枝肉は、背脂肪の厚さ、赤身率、枝肉重量などによって評価され
る(サジア社トレド工場)。基準を上回る場合、生産者にプレミアムが支払われる。

   
 サジア社トレド工場のカットフロア。カット人数は1シフト当たり約350人。1シ フトは8時間で2シフト制である。月給は手取りで平均約400レアル(約15,600 円)。同工場の豚と畜能力は1日当たり7,000頭。

(2)小売り
 食肉パッカーで生産された豚肉製品は、輸出向けを除き、最終的に、スーパーマ
ーケット、食肉店、レストランなどに供給される(図7)。 近年の傾向として、食
肉パッカーは、製品の流通コストを低減し、また、スーパーなどの需要者側の要求
に迅速に応じるため、主要都市に集配倉庫を持ち、そこで製品を貯蔵することで、
小売市場への供給を迅速化している。また、多くの必需品を同時に購入出来る便利
さや、衛生上の問題などから、昔ながらの食肉店よりスーパーの利用が多くなって
いる。スーパーでは、消費者の需要に応えるため製品の多様化を進め、各消費階層
への対応を図っている。大手コンサルタントの調査によると、ブラジルの国内市場
におけるスーパーマーケットでの豚肉製品の販売は、販売額全体の半分以上を占め
るとされる。

(3)消 費
 ブラジルの食習慣は伝統的に牛肉主体であることと、安価な鶏肉の消費量が増加
していることなどから、2002年における年間1人当たりの食肉消費量を見ても、 豚
肉は11.1キログラムで、牛肉の35.8キログラムや鶏肉の33.3キログラムと比べると、
3分の1程度である。

 サンタカタリナ州農業経済企画院の卸売価格(2003年4月)統計を見ても、牛肉
の低級部位、鶏肉(丸どり)が、キログラム当たりそれぞれ2.45レアル(約96円:
1レアル=約39円)、1.48レアル(約 58円)であるのに対し、豚肉(モモ)が同
3.40レアル(約133円)と割高である。価格を重視する傾向の強いブラジルの消費
市場にあって、こうした割高な価格が、豚肉消費を低く抑えている。

 また、ブラジルは、多種多様な人口構成を持ち、地域別の所得格差も大きいこと
などから、地域間での豚肉消費に大きな差がある。セアラ州養豚生産者協会による
と、年間1人当たり豚肉消費量は、ヨーロッパ系移民が多く、 所得水準の比較的高
い南部のサンタカタリナ州では 24キログラムに達する。一方、 貧困層の割合が高
い北東部では少なく、同地域のセアラ州では5キログラム程度である。




5 輸出動向

(1)輸出概況
 次に、ブラジルの豚肉輸出の動向を見ると、2002年の輸出量は、98年比で約5.4
倍の47万6千トンとなっている。主な輸出相手先は、 長年にわたり香港とアルゼ
ンチンであったが、2000年以降、ロシア向けが大幅に増加し、2002年にはロシア
向けは、37万7千トンと全体の8割弱を占める最大の市場となっている(表13)。






 2001年5月にはリオグランデドスル州で口蹄疫が再発したが、後半にみられたブ
ラジル通貨レアルの安値傾向による競争力の高まりなどを背景に、 2001年の豚肉
輸出は、前年比倍増の26万5千トンに達した。

 なお、2001年には、2大パッカーのサジア社とペルディガン社のジョイントベン
チャーであるBRFトレーディング社が設立され、東欧、アフリカ、カリブ諸国、お
よび中東など新規市場の開拓が目指されたが、2002年10月に同社は解散し、 独自
の販売戦略に戻っている。



(2)国別輸出状況
ア、ロシア

 USDAの統計によると、2002年のロシアの豚肉需給(枝肉重量ベース)は、生
産量が163万トン、消費量が243万トンとなっている。また、2003年は、生産量
が175万トン、消費量が238万トンと予測されており、輸入量は前年の80万トン
より、63万トン程度に減少する見込みである。

 ブラジルからロシア向けの輸出は、2000年に急増しているが、これは、同国
経済の回復に加え、米国によるロシア向けの食肉援助輸出やEUによる同国向け
の食肉に対する輸出補助金が中止されたことなどが挙げられる。2000年以降も
ロシア向けは顕著に増加しており、こうしたブラジルによる同市場の獲得の背
景には、ブラジル産豚肉の価格の優位性、国際的な口蹄疫の衛生ステータスの
向上、99年1月の変動相場制への移行による実質的な通貨切り下げによる輸出
競争力の高まりなどがあるとみられる。

 ロシア政府は2003年1月下旬、牛肉および豚肉は同年4月1日から、 鶏肉は5月
1日から輸入関税割当を適用するとの発表を行ったが、豚肉については、関税率
15%を適用する枠を45万トンとし、これを超えるものについては関税率を80%
とする旨を決定した。

 一方、衛生問題では、ブラジルの衛生当局によると、ロシア政府は2002年12月
下旬、オーエスキー病の発生を理由に、サンタカタリナ(SC)州産の豚肉輸入を
停止した。また、 2003年に入ると、 同州に隣接するリオグランデドスル(RS)
州北部のピニェイリンニョドバレ郡の 1農場でもこの病気が発生したことから、
ブラジル政府は同州産豚肉輸出を停止した。 しかし、 ロシア側との交渉により、
オーエスキー病を理由にロシア向けの豚肉輸出が停止されていた南部2州(SC、RS)
において、過去12カ月にわたり発生がなかった郡については、2003年6月16日以降
輸出が再開されることとなった。



イ、香港

 香港はブラジルにとって伝統的な豚肉の輸出市場で、2002年には42万トンと推
定される需要量の約65%を輸入に依存している。主な供給元は、中国、EUおよび
ブラジルである。香港は、中国本土への供給ルートでもあり、香港が輸入する量
のかなりの部分が中国本土へ供給されているものとされる。



ウ、アルゼンチン

 アルゼンチンが91年に自国通貨ペソをドルと1対1に固定した兌かん法を導入して
以来、ブラジルの同国向け豚肉輸出は増加し、90年代の終わりには3万トンに達し、
香港に次ぐ重要な市場となった。しかし、アルゼンチンの経済危機による購買力の
低下に加え、2002年始めの変動相場制への移行による実質的な通貨切り下げにより、
ブラジルからの豚肉輸出が減退し、2002年の輸出量は、前年比65.3%減
の1万3千トンとなった。

 アルゼンチンはここ数年間、安価なブラジル産豚肉に対しブラジル側に抗議して
きたが、アルゼンチンが2001年11月に開始したペソ切り下げが、99年のブラジルの
通貨切り下げによる効果(競争力の強化)を相殺しているとの説明を行い、アルゼ
ンチン側の抗議を撤回するよう求めていた。一方、アルゼンチンが2001年11月に開
始したブラジル産豚肉に対するダンピング調査は、2002年 7月末、十分な判断材料
がないとして打ち切られている。


(3)主要豚肉輸出港
 ブラジル最大の豚肉輸出港はサンタカタリナ州イタジャイ港で、州都フロリアノ
ポリス市より北94kmの地点にある。2002年、イタジャイ港から33万4千トン(表14)
が船積みされたが、これは同国の豚肉輸出量の約7割を占めている。同港には食肉
パッカーのセアラアリメントス社が港湾ターミナルを所有しており、7,500トンの
食肉を貯蔵できる冷蔵庫がある。他の主要港としては同じくサンタカタリナ州内サ
ンフランシスコドスル港、パラナ州のパラナグア港がある。



6 衛生問題

 今後の豚肉輸出拡大の可能性を左右する鍵のひとつとして、衛生問題がある。中
でも、国際獣疫事務局(OIE)の家畜最重要疾病(リストA)に挙げられている口蹄
疫と豚コレラの衛生状況を着目したいが、近年の口蹄疫に関する状況は、「畜産の
情報」海外編2002年9月号(「南米全体 およびブラジルの口蹄疫撲滅に向けた取り
組みについて」)に詳しいので、ここでは豚コレラを取り上げることとする。

 豚コレラは、豚コレラウイルスによる豚の急性熱性伝染病で、ブラジル農務省は、
全国を清浄地域と非清浄地域に分けた撲滅計画を展開している。なお、豚コレラの
場合は、口蹄疫のような準清浄地域は設けられていない。

(1)清浄地域
 農務省は2001年1月4日付け訓令第1号で、ロンドニア州を除きOIEで承認された口
蹄疫ワクチン接種清浄地域と同様の地域(表15の13州と1連邦区)を豚コレラ清浄
地域(ワクチン不接種)と定めた(図8)。同地域におけるこれまでの発生状況は、
表15の通りであるが、98年のサンパウロ州を最後に新たな発生はない。
なお、98年5月15日付け省令第201号により、原則として全国でワクチン接種の中止
が決定された。





(2)非清浄地域
 北東部および北部に属する、(1)以外の地域が非清浄地域である。農務省によ
ると、北東部では2001年にペルナンブコ(6件)、パライバ(2件)、 セアラ(3
件)、リオグランデドノルテ(1件)の4州(計12件)で豚コレラが発生した。こ
うした中、同省は2001年8月17日付け訓令第41号で、バイア州、セルジッペ州を除
く北東部の 7州(アラゴアス、セアラ 、マラニョン、 パライバ、 ペルナンブコ、
ピアウイ、リオグランデドノルテ)において、2年間にわたり全頭にワクチン接種
を義務付ける計画を発表した。 ワクチン代は農務省の負担ですべて生産者に無料
で提供される。

 この計画の第1段階として、ワクチン接種以外に衛生当局の体制整備と農家の登
録を行うとしている。第2段階として、技術者の能力向上、獣医サービスの体制整
備と組織化、法整備、 州の防疫審議会の設置、および民間の補償基金の設置など
が予定されている。

 農務省によると、北部については、と畜される豚のほとんどが地場消費向けと
なるため、豚コレラの発生などに関する報告を求めていないものの、同地域を含
めた非清浄地域を2005年までに清浄地域とする目標を掲げている。

7 ブラジル養豚産業の潜在力

 前述の通り、ブラジル農務省は、13州1連邦区を豚コレラ清浄地域に指定してお
り、また、この豚コレラ清浄地域に北部ロンドニア州を加えた14州1連邦区が国際
的に口蹄疫ワクチン接種清浄地域として認定されている。 こうした家畜衛生ステ
ータスの向上は、今後の輸出拡大に寄与することが期待されている 。 さらに、
養豚産業の潜在力について、以下の観点から見ていきたい。

(1)環境問題
 各国同様、ブラジルの養豚農家にとっても、養豚生産拡大の抑制要因となる環境
問題は、懸念材料の一つである。しかし、ブラジルは、少なくとも、ふん尿を処理
できる十分な土地があることなどから、環境問題が豚の飼養頭数の減少に影響して
いる欧州のような状況には直面していない。

 養豚生産地帯であるサンタカタリナ州やパラナ州では、豚の排せつ物による水質
汚染の防止を図り、そのために必要とする環境対策を、生産の現状に影響を与える
ことなく、養豚経営に適合させることを主眼としたプログラムが実施されている。

(2)海外資本の流入
 外国資本の流入について、セラード地帯に注目した投資が注目されている。

 全米最大の種豚保有数および豚と畜処理能力を有するスミスフィールド社傘下の
Carroll's Foods は、マットグロッソ州ディアマンティーノに現地法人 Carroll's 
Foods do Brasil を設立し、養豚生産を行っている。

 同社は1997年に最初の養豚場をマットグロッソ州南東部ぺードラプレッタ(州
都クイアバ市より240キロメートル地点)に建設しており、2000年には同じくマッ
トグロッソ州 ディアマンティーノ(クイアバ市より 195キロメートル地点)に大
規模な養豚場を建設した。同社は、2005年までに繁殖用雌豚の飼養頭数を約51,000
頭にする計画であるとされる。

(3)養豚産業の課題
 ブラジル養豚産業にとって、良好な気象条件、豊富な淡水、潤沢な飼料供給、肉
豚の低コスト生産などは、同産業の成長を支える柱と言える。また、同国には、農
耕可能な多くの土地が残されており、例えば、農業フロンティアとして大豆などの
著しい生産増大を遂げているセラード地帯には、日本の耕地面積の約14倍に相当す
る6,600万ヘクタールもの未耕作地があるとされる。衛生面では 、口蹄疫や豚コレ
ラの清浄地域が拡大している。

 一方、同産業の成長を妨げる経済的な要因としては、他のラテンアメリカ諸国同
様、不安定な経済、高い税金、高金利(2003年 7月31日における中央銀行の基本金
利は年利 24.3%)などが挙げられる。また、豚肉の国内市場では、1人当たりの消
費量が他の食肉に比べて低いことから、いかに消費を伸ばすかは今後の大きな課題
である。成長著しい輸出面では、市場が少ないことから多角化の必要性が論じられ
てきた。これには、口蹄疫、豚コレラなどの存在する地域において、撲滅計画を進
展させることに加え、輸出国の要求に応じるため設備や飼養技術の改善を図ること、
動物福祉に力を入れること、計画的な設備投資により環境保護に努めることなどが
必要となる。こうした課題に取り組む一方、改良の技術、飼料効率の向上などに対
する国内外からの投資が増加すれば、さらに同産業の発展的成長が期待できる。

8 終わりに

 繰り返しになるが、ブラジルの養豚産業は、広大な国土に潤沢な飼料基盤を持ち、
肉豚の生産コストも低く、環境問題もそれほど深刻化していないことなどから、今
後さらに発展する可能性を秘めている。また、今後の成長を推し計る上では、農業
生産が拡大しているセラード地帯における養豚部門への投資の動きが注目される。

 一方、近年の傾向として、国内消費が伸び悩み、輸出先が特定市場に集中してい
る中で、過度な増産体制がしばしば供給過剰を招き、家畜衛生問題の発生とあいま
って、価格下落を引き起こし、その結果、特に独立系養豚農家での収益性を悪化さ
せている。また、養豚経営は、トウモロコシなどの飼料穀物価格にも大きく左右さ
れる。

 こうした状況の中、ブラジルの養豚産業が、さまざまな課題に対応しつつ、いか
にその潜在性を発揮していくのか今後とも注目されるところである。また、内外か
らの投資、国内の安定的な消費は、政治経済の安定が不可欠であり、そうした動向
にも注意を払う必要があると思われる。

 最後に、今回情報をご提供頂いたブラジル農務省、ブラジル農牧研究公社
(EMBRAPA)、ブラジル養豚生産者協会、サンタカタリナ州農業経済企画院、サジア
社、ペルディガン社など関係者すべての方にこの場を借りてお礼申し上げたい。



ブラジルにおける養豚関連施策
 養豚部門に関連する主な施策として、ブラジル農務省、州養豚生産者協会などに
よると、次のようなプログラムがある。



○農村約束手形(NPR)および農村商業手形 (DR)

 養豚農家などが食肉パッカーなどから受け取った約束手形または商業手形に対し
て、銀行が満期までの利子を差し引いて手形を買い取る割引に低利の農業融資資金
を活用することが認められている(なお、食肉パッカーなどは銀行に対し、利子を
手形の割引と同時に支払い、額面金額は手形の支払期限満了時に支払う)。銀行は、
現金預金の25%を農業融資に充てることが義務付けられている(義務資金)が、そ
のうち、5%をNPRまたはDRに充てることが認められている(金利は8.75%)。
なお、2002/2003年度の農業プランでは、豚肉の供給過剰や飼料原料の高騰などか
ら養豚経営の収益が悪化していたことから、 政府はこの義務資金からのNPRまたは
DRへの適用を5%から10%まで引き上げることとした。



○農畜産物付加価値付与組合開発計画(PRODECOOP)
 ―中央銀行決議第3087号



 生産システムおよび商業システムを近代化することで、組合系アグロインダスト
リー部門の競争力を高めることを目的とした農業融資で、対象者は、農業組合およ
び組合員である。融資の対象は、@調査プロジェクト・テクノロジー 、A建設・
設備、B国産の機械・機材、 C稼働前の経費、D輸入経費、E投資プロジェクト
に関連する運転資金、F研修など18項目。融資限度額は、最高2千万レアル。前会計
年度の売上げにより限度額が適用される。金利は年利10.75%。償還期間は据置期間
3年を含み最高12年。資金総額4.5億レアル。貸付期間は2003年7月1日〜2004年6月30日。



○アグリビジネス開発計画(PRODEAGRO)- 中央銀行決議第3094号

 養蜂、水産、養鶏、花卉栽培、羊・山羊飼育、養蚕、養豚の開発を支援し、生産
性の向上、生産拡大、品質向上を目指し、結果として、国内外の市場における販路
を拡大し、地域の雇用・所得向上に貢献することを目的とした農業融資。融資の対
象は、5項目あり、養豚に関係するのは、養豚業に関わる建築、 建築物および機材
の近代化、汚物処理、飲み水および飼料の補給に必要なもの。融資限度額は、生産
者当たり15万レアル。金利は年利8.75%。償還期間は据置期間2年を含み5年間。
資金総額は6千万レアル。貸付期間は2003年7月1日〜2004年6月30日。



○飼料穀物に対する関連施策

 主な内容については、「畜産の情報」海外編2002年12月号69〜70頁を参照。



○輸出振興事業団(APEX)による輸出振興策

 前カルドゾ政権は97年11月21日に、輸出全般の振興を目的とし、中小企業振興事
業団(SEBRAE)に関連する組織として輸出振興事業団(APEX)を設立した。
これは、民間部門のブラジル豚肉生産輸出業協会(ABIPECS) などと共同して輸出
振興を図るため、外国市場における国際見本市への参加や企業ミッションの派遣な
どのマーケティング活動を行うものである。 現ルラ政権下では、2003年 2月 5日、
大統領令第4584号によって 、APEX-BRASILが設置され、旧APEXの機能により多くの
権限が与えられ、輸出企業数の増加を中心した輸出振興策が講じられている。



○豚肉および加工品の販売促進基金

 サンタカタリナ州養豚生産者協会の元会長トラモンチーニ会長の発案により創設
された基金で、主に南部の食肉パッカーや生産者から任意に徴収した課徴金によっ
て造成される。同基金は、豚肉のコレステロールが高い、豚の肥育方法が非衛生的
であるといった先入観を排除し、生鮮肉および加工品の需要促進を図る活動に対し
て活用される。




2大パッカーの概要


○サジア社

 2002年の報告書によると、ブラジル最大の食品企業であるサジア社は、全国に12
カ所の食肉処理加工施設を持ち、販売拠点は30万カ所、従業員は約32,000名に及ぶ。
同社の傘下にある養鶏農家は5,300戸、同養豚農家は4,100戸で、ブロイラーのと鳥
羽数は1日当たり170万羽、七面鳥のと鳥羽数は同7万5千羽、豚のと畜頭数は同1万5
千頭である。近年、同社は99年、セラード地帯に位置するミナスジェライス州の三
角地帯と呼ばれる南西部のウベルランディアの食肉パッカーを買収した。同工場は、
家きん肉、豚肉、飼料を主体とした生産を行っている。豚のと畜能力は 1日当たり
2,500頭である。



○ペルディガン社

 2002年第1四半期の報告書によると、ペルディガン社は、 全国に13カ所の食肉
処理加工施設(うち、南部に12カ所が所在)、20の流通センターを持つ。同社の
傘下にある養豚農家は 2,224戸、養鶏農家は 3,865戸である。従業員数は23,275
人。2002年における豚と畜頭数は275万頭で、サジア社に次いで2番目に多い。



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