特別レポート

2004年の米国の食肉需給動向
〜米国農業観測会議に出席して〜

食肉生産流通部食肉課 安井 護

1 米国人の健康と食

 2月19日〜20日に米国ワシントンDCで開催された米国農業観測会議(Agricultural Outlook Forum 2004)に出席する機会を得たので、その概要を紹介したい。

 この会議は、毎年、この時期に米国農務省(USDA)の主催で行われ、その年の農産物の生産、消費、輸出入などの需給観測だけでなく、食料・農業に関わる様々な議論が行われる。

 今年のテーマは、「健康的な食料の供給を確かなものとするために(Ensuring a Healthy Food Supply)」で、「消費者が求める健康的なライフスタイルにどう応えるか」、「健康的なダイエットを広めるにはどうすべきか」などの食と健康に関するセッションが目立った。

 冒頭のベネマン農務長官のスピーチも、BSEについては、

○個体識別プログラム(National Animal ID Program)を推進

○BSEに係る国際貿易ルールの明確化

○食品の安全性と家畜の健康の確保

の3点に触れただけで、1、2分に過ぎなかった。

 その後は、ほとんどが、米国人の肥満と食生活の改善についてどうすべきか、USDAとしてどう取り組んでいくかについてであった。

○肥満は大きな社会問題で、政府が優先的に取り組むべき課題

・適正体重を超える米国人は65%で、うち31%は肥満

・肥満が引き起こす心臓病、糖尿病などによる死者は年間30万人

・医療費の増加や生産性の低下による社会的コストは13兆円

○食生活ガイドラインの改定

・健康的な生活のための食生活ガイドラインの改定作業中

○我々は、強く、繁栄するアメリカのために国民の健康を脅かす肥満問題に断固として取り組まなければならない、とスピーチを締めくくった。





2 2004年を見通す上でのポイント

 USDAの家畜畜産物アナリストのグリーン氏の講演およびその後の追加資料から、今年の牛肉、豚肉の生産、消費動向について紹介したい。

2003年のポイント

○ほとんどの農畜産物価格の上昇

 ・肉牛、肉豚、牛肉、鶏卵 

○鶏肉と豚肉の記録的な生産量

○牛肉と豚肉の記録的な輸出量

○記録的な肉豚と豚肉の輸入量

2004年を見通す上でのポイント

○BSEへの対応

 ・牛肉業界への新たな規則

 ・輸出市場の再編

○トウモロコシと大豆ミールの価格上昇

○干ばつによる乾草の質の低下

○経済成長

○弱含みの米ドル

 米国の一人当たりの食肉消費は、約100kg(小売ベース)で、鶏肉が37.5kgと圧倒的に多く、次いで牛肉、豚肉となっている。なお、日本の食肉3品の供給量(消費量)は28.4kg(純食料ベース)で、魚介類が37.4kgである。

米国の一人当たり食肉消費量(kg)

資料:USDA
単位:kg/人、小売ベース

 

3 牛肉

(1)肉用牛飼養頭数の推移

 米国のキャトルサイクルは、1996年の1億355万頭をピークとし、その後、減少が続いていたが、昨年前半には底を打つ兆候もあった。しかし、干ばつによる草地の状態悪化による繁殖経営からの出荷増と卸売価格の上昇によるフィードロットの導入促進で、底打ちの兆候はなくなり、頭数の減少は今年で、8年目に入った。

 2003年の子牛生産頭数は前年比1%減の3千8百万頭で1951年以来の最低水準となり、2004年1月1日の総飼養頭数(見込み)は同1%減の9千4百万頭で、そのうち繁殖雌牛は同2%減である。

 2004年も引き続き天候不良から草地の状態が良くないので、飼養頭数の減少は2005年も続く可能性がある。

肉用牛の飼養頭数

(2)生産量

 1月1日のフィードロット飼養頭数は4%増加したものの、引き続き肉牛の供給はタイトである。2004年の肥育素牛の供給は前年比4%減を見込んでいる。

 と畜頭数は前年比6%減だが、昨年減少した枝肉重量が回復するので、牛肉生産量は前年比3%減の1千150万トンを見込んでいる。

牛肉の生産量

2003年下半期の枝肉重量は、10月が前年同月比15kg減となるなど、早出しにより、上半期平均に比べて11.3kgも減少した。これは、牛肉需要が強い中で、カナダ産の牛肉と生体牛の輸入が停止され、その空いた穴を埋めるため、フィードロットから早出しされ、枝肉重量が軽くなったからである。

 しかし、2004年の枝肉重量は正常なパターンに戻ると期待される。その要因の一つはワシントン州でのBSE発生確認である。12月末からの主な輸入国の米国産牛肉の輸入停止措置は、と畜のペースを大幅に減速するとともに、フィードロットは利益を確保のために、量よりも品質を重視してくるであろう。

牛の枝肉重量

 よって、2004年の枝肉重量は前年比で6.3kg増加するであろう。

(3)価格

 2003年に84.69ドル(枝肉100ポンド当たり、以下同じ)であった肥育牛価格は、2004年は72〜77ドルになると予測している。BSE発生確認後、価格見通しは、大幅に下方修正した。

 BSE発生直後の肥育牛価格(ネブラスカ、チョイス、去勢牛)は、75ドルと直前の91ドルから大きく低下した。1月第1週の取引は休暇中の在庫補充から80ドルを超えたが、その後は70ドル中頃で推移している。

 素牛価格も前年に比べて低下し、80ドル前半で推移するであろう。

肥育牛の価格

 小売価格は、2003年の10〜12月期に4.17ドル(1ポンド当たり)と記録的な高値を付けたが、2004年は低下するであろう。

牛肉の小売価格

(4)輸出

 米国の牛肉輸出の90%は、日本、韓国、メキシコ、カナダ向けで占められており、4カ国ともにBSE確認後、輸入を停止した。その後、カナダは30カ月齢以下の生体からの牛肉輸入の再開を表明しているが、現在の輸入停止措置が継続されるとの前提で、輸出量は2003年の114万トンから2004年は10万トンに激減すると予測する。

 なお、3月3日、メキシコは30カ月齢未満の米国産牛肉の輸入再開を発表した。

牛肉の輸出入

(5)輸入

 米国の牛肉輸入は、2003年はカナダ産の輸入停止で減少したが、2004年は輸入再開により、151トンと記録的な数量となると見込まれる。

 カナダ産については、輸出先が米国とメキシコに限られていること、米国の需要が引き続き堅調なこと、かつ、カナダ産生体牛の輸入は禁止されているため、かなりの量が輸入されるであろう。

 なお、豪州からの輸入は、米国産を輸入停止としている日本へ向かうことから減少するであろう。


4 豚肉

(1)豚の飼養頭数

 2003年4月以降、肥育豚の価格は、前年を1〜2割以上、上回って推移したため、生産者は頭数の拡大を進めてきた。2003年12月1日の全飼養頭数は前年比1%増で、6千万頭をわずかながら超えている。

 一方、繁殖豚は前年比1%減の597万頭となった。繁殖豚が減少したにもかかわらず、全頭数が増えているのは、一腹当たりの産子数が増加しているためと見られる。12月の調査で、生産者は繁殖豚の保留を進める意向を示している。

豚の飼養頭数

(2)と畜頭数と生産量

 2004年のと畜頭数は、前年に比べてわずかに増加するが、99年の1億15百万頭の史上最高記録には30万頭ほどおよばないであろう。

 ただし、2004年の生産量は、生体輸入が引き続き増加すること、枝肉重量が増加することから、910万トン(枝肉ベース)と前年の903千トンを上回り史上最高を更新すると見込まれる。

豚の生産量

(3)生体価格

 2004年の全国平均の生体価格は38〜40ドル(100ポンド当たり、赤身率51〜52%)と、昨年の39.45ドルとほぼ同じと予測している。国内需要だけでなく、輸出需要も強いため、生産量が増えるにもかかわらず、価格は強含みであろう。

 四半期別に見れば、2004年7月〜9月に40ドルを超した後は、10月以降は季節的に供給が増加するため、34〜38ドルに低下すると見込んでいる。

肥育豚の価格

(4)輸入

 カナダからの生体輸入は、2003年には740万頭に達した。そのうち3分の2は米国内で仕上げされる肥育用の素豚である。ここ5年間で輸入生体豚に占める肥育素豚の割合は50%から70%に増加した。カナダからの肥育豚の輸入は、(1)カナダのと畜能力が小さいこと(2)米国の方が飼料調達が容易なこと(3)2国間の売買ルートが確立されていること−などから今後も増加すると見込まれる。

 2004年のカナダからの輸入生体豚は740万頭で、肥育素豚の割合はさらに増加すると見込まれる。

豚肉の輸出入

(5)輸出

 2003年の豚肉輸出は、日本、韓国、中国、台湾、香港、メキシコをはじめ、中米、東欧への輸出が増え、前年比6%の増加を記録した。2004年の豚肉輸出は前年比3%増の80万トンを見込んでいる。

 今年、豚肉輸出は、BSEと鳥インフルエンザにより米国産牛肉と鶏肉を輸入停止している国々からの需要が高まるので、大きく伸びることが見込まれる。

 特に日本市場については、BSEにより豚肉需要の増加が見込まれる中で、米国産はドル安傾向にあることから、カナダ、デンマークより有利である。


表1 米国の食肉需給
資料:USDA 「Livestock,Dairy,and Poultry Outlook」 2004.2.17


5 終わりに

 約600人の出席者の多くは、USDAの職員や調査研究機関のスタッフのようで、民間企業からの参加は多くなかったようである。しかし、世界最大の農業国、米国の今年の動向を知る上で重要な会議であるため、各国大使館関係者の姿も多く見られた。

 会議冒頭のベネマン長官のスピーチ時は、TVカメラも多く、日本のTV局の取材者も来ていた。スピーチ後、長官が、直接会場からの質問を受けて、次々と答えていく姿には、いかにも米国的との印象を受けた。 

 なお、USDAからは、2013年までの長期予測(USDA Agricultural Baseline Projections to 2013) が報告されているが、BSE発生前に作成されたもので、その影響を織り込んでいないので、ここでは紹介しなかった。

 

USDAの関係HPは、次の通りである。

農業観測会議の議事概要  

http://www.usda.gov/oce/waob/agforum.htm

2013年長期予測

http://usda.mannlib.cornell.edu/data-sets/baseline/2004/waob20041.pdf



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