豪米FTA合意、農業分野では不満も      ● 豪 州


交渉難航も延長戦で決着

 米国との自由貿易協定(FTA)交渉のため訪米していた豪州連邦政府のベール貿易相は2月8日、豪米両国がFTAに合意したことを発表した。豪米FTA交渉は2003年3月から交渉が開始され、2003年中の合意を目指して昨年内に5回協議が行われていた。農業分野などが障害となり交渉は今年にずれ込み、6回目の協議が1月下旬から2月6日まで行われたものの、交渉は豪州産砂糖の輸出などをめぐって最後まで難航したため期間を延長し、最終的には、ハワード首相とブッシュ大統領の電話会談で合意に達したと報道されている。

 発表の中でベール貿易相は、今回の合意について、「世界最大かつダイナミックな経済市場で利益を得ることに関心のあるすべての豪州企業にとって、非常に大きな機会となる歴史的な取り決め」としている。

牛肉には長期の移行期間が

 併せて合意内容を外務貿易省が発表したが、農業分野全般については次のとおり。

(1) 農産物の関税のうち3分の2を撤廃。さらに9%を4年以内に撤廃。

(2) 豪州の重要な輸出農産物である牛肉、乳製品について市場アクセス改善。

(3) 豪州の砂糖の市場アクセスは現行(関税割当枠:年間8万7,000トン)通り。

(4) 砂糖、コメ、小麦、大麦に関する豪州の輸出専売制度は現行通り。

(5) 豪州の検疫と食品安全制度は合意の影響を受けない。

 また、(2)の詳細については次のとおり。

・牛肉

  関税割当枠について現行37万8,000トンを、18年で7万トン漸増(うち最初の2年で1万5,000トン増)し、その後廃止。枠内関税は直ちに廃止し、枠外関税は9年目から漸減の後、18年目に廃止。

・乳製品

  関税割当枠について初年度に現行関税割当分の総輸出額4,050万豪ドル相当(約35億2千万円;1豪ドル=87円)に5,500万豪ドル相当分(約47億9千万円)が加わり、以後漸増。枠内関税は直ちに廃止(関税割当自体は維持)。

農畜産業界は不満の意も

 農業分野の合意内容に対しては、業界からは失望の声も多い。

 全国農業者連盟(NFF)のコリッシュ会長は2月9日、乳製品などの市場アクセス改善については一定の評価をしつつも、牛肉の18年にわたる移行期間や砂糖の除外をはじめ今回の合意の多くに非常に失望したとし、「これは単なる貿易協定であって、NFFが取り組みの基盤としていた自由貿易協定ではない」と語った。

 また、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)のクロンビー会長も同日、18年にわたる期間において7万トンの割当枠しか増加せず、これは米国の牛肉生産量の2日分以下でその市場の規模に比して余りにも小さいとし、「今回の合意は豪州牛肉業界の期待には全く合致していない」と失望の意を表明した。併せて、「米国はアジアや欧州の貿易障壁に対して反対するが、米国自身自らの市場に対する自由化へのアクセスを認めることを拒否している」とした上で、「この合意は世界貿易機関(WTO)ドーハラウンドの農業交渉に後ろ向きのサインを送る」と今後のWTO交渉に与える影響にも懸念を表した。豪州肉牛協議会(CCA)も、「今回の合意内容は最終交渉に際して豪州牛肉業界が控えめに期待していたものを極めて下回るもの」と同様の見解を表している。

 なお、当初から牛肉以上に困難な交渉が予想された乳製品については、酪農団体の中ではビクトリア酪農生産者連合(UDV)が、完全な自由貿易ではないものの、米国乳製品市場に対して潜在的に3倍もの輸出が可能となる成果を得たと概ね評価している。

農相は豪州農業の利益は前進と

 業界からの不満が続出する中、トラス農相は2月10日、今回の合意に対する声明を発表した。全くの除外品目となった砂糖をはじめ米国が農業分野において譲歩しなかった業界と共に失望感を抱くとした上で、「牛肉や乳製品など多くの農産物において即時のアクセス改善や関税削減を獲得するとともに、特に市場アクセスについては、現在の検疫制度や輸出専売制度を維持して改善を獲得できた」と総括した。

 加えて、「今回の合意で、農業分野における貿易障壁を取り除く確かな前進がいくつか得られており、それは交易条件や市場アクセスの改善が全くないよりはるかに良いことである」と強調している。


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