特別レポート

カナダにおける高病原性鳥インフルエンザの発生とその対応

ワシントン駐在員 犬飼 史郎、道免 昭仁

1 はじめに

 昨年末から本年にかけて、高病原性鳥インフルエンザがわが国を含むアジア地域で発生し、畜産の生産の現場のみならず公衆衛生上も多大な影響が生じた。北米大陸でもアジア地域で流行したものとはウイルスのタイプは異なるものの、カナダおよび米国でも本病の発生が確認されている。

 今回はカナダ食品検査庁(CFIA)のご厚意により、5月31日から6月3日まで同庁の高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部の新人研修に参加させていただく機会を得たので、カナダ西部のブリティシュコロンビア(BC)州フレーザーバレー地域における鳥インルエンザ撲滅対策について、特に現地での防疫対応を中心に報告する。

2 カナダにおける養鶏産業の概要

 カナダでは、2003年に2,851戸の肉用鶏農家および556戸の七面鳥農家により、年間93万4,100トンの鶏肉が生産された。同年の鶏肉(七面鳥肉を含む)の国民1人当たりの年間消費量は34.5キログラムとなっている。鶏肉および鶏肉加工品については、13万5,000トンが南アフリカや米国をはじめとする68カ国に輸出された。また、1,700万羽のひなが主として米国に輸出された。鶏卵については、1,001戸の採卵鶏農家により、約2,600万羽の採卵鶏が飼養され、年間69億個の鶏卵が生産された。このうち、84%が市場に販売され、26%が液卵などに加工された。

 カナダの養鶏業(鶏肉、鶏卵など)はマーケットボードによる生産調整が行われている。クォータは各州のボードに人口比率によって配分され、州ごとに管理されている。このため、生産の主体は人口の集中しているオンタリオ州およびケベック州となっており、州間での貿易はわずかである。

 BC州内では、カナダの鶏肉および鶏卵の全生産量の約13%が生産されており、ブロイラー農家301戸、採卵農家133戸、肉用種鶏農家63戸、七面鳥農家70戸が経営を行っている。このほか、ダチョウや烏骨鶏などの特殊な生産も行われている。フレーザーバレー地域ではBC州の鶏肉および鶏卵の約8割の生産が行われている。

3 カナダにおける高病原性鳥インフルエンザ発生の経緯

 
  米国との国境付近に在る汚染農場。右側の木の下には殺処分などの作業のための簡易トイレが見える。
   
 
  米国との国境。遮へい物はなく、カナダ側の道路と米国側の道路が併走している。米国側は昨年末にBES陽性牛が摘発されたワシントン州(酪農地帯)である。


 初発農家は肉用種鶏農家であり、52週齢と26週齢の2群を飼養していた。当初、農家から開業獣医師に52週齢の群における産卵率の低下や食欲の減退の報告があり、獣医師は農家に飼料を変更するなどの指導を行った。BC州では定期的なサーベイランスを実施しており、52週齢の群から2月9日に採材した検体を検査したところ、2月16日に鳥インフルエンザが確認された。このため、BC州政府は農家に自主的な隔離を要請するとともに、CFIAに鳥インフルエンザの発生を報告し、ウィニペグにあるCFIAの海外家畜伝染病診断施設に検体を送付した。2月19日、同施設においてH7N3型低病原性鳥インフルエンザであることが確認されたため、初発農家の鶏群全体の殺処分を開始した。加えて、当該農場から半径5キロ以内の商業養鶏施設のサーベイランスを強化した。

 その間に同一農家で飼養されていた26週齢の群で致死率の高い疾病が発生したため、検体を海外家畜伝染病診断施設で診断したところ、3月8日にH7N3型高病原性鳥インフルエンザを確認した。このため、BC州が保管していた過去2カ月間のサーベイランスで採取された血清について、同州の検査施設で鳥インフルエンザの再検査を行ったが、結果はすべて陰性であった。また、同農場で発生した低病原性鳥インフルエンザと高病原性鳥インフルエンザのウイルスの塩基配列を比較したところ、高病原性のものには7つのアミノ酸塩の挿入が確認された。このため、52週齢の群で感染が拡大した低病原性鳥インフルエンザウイルスが、26週齢の群内で高病原性に変異した可能性が高いと考えられている。

 その後、3月11日にはH7N3型鳥インフルエンザの2例目の発生農家が確認されたため、同日にスペラー農相は家畜衛生法(Animal Health Act)に基づき規制区域を設定し、すべての家きんおよび家きん製品の移動制限と初発農家から半径5キロ以内の高リスク地域における家きんの殺処分を開始した。当初、規制区域内で疾病を制圧できるものと考えていたが、3月29日には規制区域外でも発生が確認された。

 4月5日に、フレーザーバレー地域の養鶏業界からの強い要請もあり、スペラー農相はフレーザーバレー地域の規制区域内の家きんをすべて殺処分の対象とすることを告示した。

4 高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部の組織

 
  対策本部の入り口。バイオセキュリティーの観点から関係者の出入りを管理。入り口の青いマットは消毒剤を含ませたもの。作業員の入り口は別にある。


 発生当初は限定的な発生にとどめられると考えていたので、現場指揮官(Field Manager)のみを現地に派遣していたが、3時間の時差があるオタワの本省などとの連絡も必要であり、1人では対応しきれないので増員を行った。職員数は感染の拡大とともに増強され、最盛期には、CFIAの職員、各州政府からの応援、作業要員などを含め総勢約300名が対策本部で作業に従事していた。組織の拡大に伴い、組織内での連絡と調整が重要となり、毎日2回開催されるグループリーダー会合で各部門の意思疎通を図った。また、問題があれば即座に解決策を見いだすための会合を開催した。事務所内でも、関連する部門を隣接する部屋に配置することにより、意思疎通の便宜を図った。なお、短時間で意志決定が行えるよう対策本部には州政府ならびに業界の代表にも常駐してもらった。

 人員は基本的には3週間で順次交代させたが、作業の継続性の観点から、順次人員が入れ代わるようにした。また、車両、食事、宿泊施設の手配などについても専門の人員を配置したり、長期間の出張に伴う留守家族の支援も行うなど対策本務での作業に専念できる環境を整えた。なお、殺処分した鳥を集めるなどの作業に従事する一般作業員については、雇用対策も兼ねて、地元の養鶏農家、食肉加工場の労働者を3カ月間の期間限定で雇用した。

高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部の組織図

5 職員の健康全対策

 CFIAはカナダの連邦労働法規に基づいて、労働者の健康安全対策などを講ずる義務がある。このため、今回の防疫作業に従事する者には、まず、健康安全対策およびバイオセキュリティーに関する講義を受講させた。この際、作業員自らの健康を保護する上で必要な事項を整理した書面を配布し、防御服の着用についても実演を行うなど教育の徹底を図った。また、作業員に防護用具の支給、予防接種、予防薬の処方、作業上の注意(滑りやすい、天井が低いなど)などを行った。特に、汚染農場での実際の作業に際しては、農場ごとに管理責任者を置いて健康安全管理を行わせた。

(1)作業員の教育

 防疫作業を行う際には、CFIAの職員が感染を拡大しているといった誤解を国民に与えることがないよう丁寧な対応に努める必要がある。作業者自身が適切な処置を行わず感染を拡大した場合、民事訴訟の可能性があることもあらかじめ注意喚起した。家畜衛生法には人間に対する規定はなく、農業者に対して彼らの健康を保護する目的でバイオセキュリティーを課すことができないため、CFIAが自らバイオセキュリティーの模範を示す必要があった。小規模の飼養者は鳥を愛玩用として飼養していることが多く、殺処分の実施について感情的になっている場合もある。このような飼養者への対応により作業員の心身に影響が生じることも想定されたのでカウンセラーも配置した。

(2)職員の健康管理

 職員の健康管理を行うために、健康保健省から派遣された看護師が常駐していた。看護師の健康管理を容易にするため、各自の作業内容を識別できるよう、汚染地域で作業を行う者は黒色のストラップの身分証明書を、非汚染地域のみで作業を行う者には赤色のストラップの身分証明書をそれぞれ首から下げることとされていた。汚染地域の作業者にはこのほかに、予防接種歴および抗ウイルス剤の処方の記録も携帯させている。

 現場での作業に従事する者には、汚染、非汚染の作業の別に関係なく、鳥のくちばしや爪でけがをした場合の破傷風感染を防ぐ目的で、同病の予防接種を義務づけている。更に汚染地域での作業者にはインフルエンザの予防接種を義務づけるとともに、抗ウイルス剤(タミフル)を1日1錠服用させている。これは、予防接種によりヒトインフルエンザへの感染を、抗ウイルス剤の服用により鳥インフルエンザへの感染をそれぞれ予防し、作業員の体内でのヒトインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスの間で組み替えによる新たなウイルスの出現を防止するためである。

 鳥インフルエンザへの感染が懸念される場合には、速やかに医師の診断を仰ぐこととされている。この際、医師の鳥インフルエンザ感染のリスクを減ずるとともに適切な診察が行われるよう、受診者にはCFIAが作成した医師あての手紙を携行させる。この手紙は既にフレーザーバレー地域周辺の医師には送付されているが、当該地域外の医師を受診する場合なども考慮してこのような指示がなされている。

 抗ウイルス剤については、服用者の約5%で服用の1日目および2日目に胃に違和感を覚えるといった副作用が見られた。副作用が顕著であった者については、非汚染地域での作業に配置換えをした。また、作業者の不安を払拭するため、抗ウイルス剤の副作用に関する相談電話を開設した。

 健康保健省から看護師が派遣される前に2名の作業員に鳥インフルエンザへの感染が確認されたが、いずれも結膜炎症状を示した。これらの感染はゴーグルの着用に問題があり、汚染された羽と目の接触により起きたものと推察されたので、より密着性の高いゴーグルに変更する対応を講じた。その後、鳥インフルエンザへの新たな感染者は報告されていない。

6 サーベイランス

 カナダでは鳥インフルエンザは届け出伝染病であり、今回の鳥インフルエンザの発生以前には受動的サーベイランスが行われていた。このためCFIAは、開業獣医師または州政府の獣医師から発生の報告を受けることとされていた。州政府は州内の獣医師からの依頼により診断サービスを行う診断施設を保有している。今回の鳥インフルエンザの発生はこのようなサーベイランスの仕組みにより摘発された。今回の高病原性鳥インフルエンザの発生後に実施されたサーベイランスは、地理的条件や時間の経過なども考慮しつつ進められた。

(1)生鳥のサーベイランス

 発生当初、発生地域の商業施設の生きている家きんの全数調査の実施を検討した。このため、高リスク集団のサーベイランスを優先することとし、高リスク集団の特定のための作業を進めた。本サーベイランスは、低病原性鳥インフルエンザの発生が確認された直後の2月21日から開始した。

 3月15日には、発生の拡大に対応するため、生鳥の検査のための手順書を作成した。採材は95%の信頼度を確保し得る標本の抽出水準とし、1農場当たり60検体の血清、ウイルス分離用に25検体の気管スワブ(綿棒で拭ったもの)および25検体のクロアカ(総排出口)スワブを採取した。ただし、血清については鶏舎が複数ある場合には、1鶏舎当たり25検体を採取した。血清はELISA検査に、スワブはPCR検査にそれぞれ供した。血清のELISA検査の結果が陰性であってもスワブのPCR検査では陽性の結果が得られることが分かったので、3月25日以降は血清は検査せず保存し、スワブのPCR検査みので診断を行うとの方針に変更した。

(2)死亡鳥のサーベイランス

 死亡鳥のサーベイランスは3月15日から開始した。農家にCFIAによる検査体の集収の24時間前までに死亡した家きんの死体を5羽以上集めてもらい、CFIAの職員は農場内に立ち入らずにスワブを採取した。開始当初は、高リスク地域の周辺で週に1度検体を採取していたが、サーベイランスの結果、規制区域外でも発生が確認されたので、3月25日以降週2回に変更した。4月に入り、規制区域全体の殺処分を決定したので死亡鳥の検体採取は4月8日以降一旦中止した。中止の主たる理由は検体数が検査施設の検査能力を超えてしまったことであった。ただし、死亡した家きんからは検体が採取しやすいとの利点があるので、規制区域内の殺処分の進行に伴い5月10日から再開した。

(3)食鳥処理前検査

 食鳥処理前検査については、食鳥処理場に出荷する際の必須条件であり、処理場への移動を許可するために事前にこれを行った。食鳥処理を許可することにより、(1)消費者の鶏肉への需要への対応、(2)非汚染農場の汚染リスクの低減、(3)家きんのオールアウトによりまん延のリスクを低減することなどが可能となった。

 3月25日の時点では、食鳥処理施設への移動の4日前に60検体のスワブおよび血清をそれぞれ採取し、移動の24時間前に獣医師の臨床検査を受けるとの手順書を定めた。その後、4月20日には、移動の72時間前にスワブを採取し、獣医師の臨床検査を受けることとし、対象地域も汚染農場から1キロ以内の地域とする手順書の変更を行った。

(4)殺処分時の検査

 3月25日に作成した規約では、殺処分の3〜4日前に60検体の血清およびスワブをそれぞれ採取することとしていたが、4月8日以降は鳥インフルエンザ用ではないが、簡便検査としてA型インフルエンザ用の迅速検査キットも活用し、陰性の場合には5検体のスワブと組織のみを採取することとした。

(5)農家への聞き取り調査

 3月15日から4月10日までの間、高リスク地域の商業養鶏、高リスク商業養鶏の関連施設およびサーベイランス地域内の商業養鶏には鳥の健康状態に関する聞き取りを2週間に1度実施した。生産者に対して電話で鳥インフルエンザの症状や異常の有無を確認し異常があれば検体の採取を行うこととしていたが、多くの場合には生産者から鳥インフルエンザの症状や異常の発生を報告してきた。

(6)非商業経営のサーベイランス

 高リスク地域のバックヤードと呼ばれる非商業経営についてもすべて調査した。小規模なので標本抽出方法を商業養鶏の場合とは変え、飼養羽数が25羽以下の場合には全羽について、25羽以上の場合には無作為抽出で25羽を抽出してそれぞれ検体を採取した。

(7)その他(疫学的考察)

 ヒトや機材の移動は、まん延のリスク要因であり、鳥に接した場合や鶏舎間を移動する場合はリスクが高い。まん延の要因については調査中であるが、ヒト、鳥、機材の移動が要因として考えられている。隣接地域での発生には、空気感染の可能性も検討されている。 

 汚染農場と縁戚関係にある農場で発生が見られた事例もあり、農場主にはヒトの出入りを制限するよう通知した。

 屋外飼育の場合、野鳥からの暴露のリスクが高いが、野鳥が所有しているウイルスの多くは低病原性であり、野鳥が農場間の媒介となる可能性は低いと思料しているが、今回の低病原性鳥インフルエンザの初発の原因としての水鳥の関与は否定できないと考えている。

7 検査、診断

 一般に発生の確認後、いかに迅速に殺処分を行うかが、まん延を防止する上での要となる。このため、採取した検体は毎日、対策本部に隣接するアボッツフォード空港からウィニペグの海外家畜伝染病診断施設までチャーター機(6人乗り小型機)により輸送した。到着から3〜4時間後の午後5時前後(アボッツフォード時間)に結果が得られるので、それから殺処分の作業を開始することもあった。検体の採取は5月31日の週で1日当たり血液が1,200検体、スワブ80検体であった。PCR検査では結果が得られるまでに6時間を要しウイルス分離には3日間を要する。HA試験、血液凝固検査、急速反応も実施した。

8 地理情報処理システム(GIS)

 殺処分の対象を速やかに決定するため、農場の所在を視覚的に整理し、施設間の距離関係を正確に把握することが必須となった。このため、環境問題のためにBC州政府により撮影された航空写真の情報、地図上の情報および一般情報を組み合わせ、特定の要件に該当する農場の所在を地図上で確認するシステムを開発した。システムの基本設計には2週間を要した。農場の住所と全地球測位システム(GPS)上の情報の照合を行った。フレーザーバレー地域の養鶏は販売や土地・建物の所有の関係が複雑なので当初業界から情報を提供してもらった。個別経営の情報については、競争上の問題や税の関係から提供を拒む傾向があるため、守秘が必要な情報を除いて提供を求めることとなった。

GISのデータベースを構成する情報

1 個別情報

 ・企業名または農場名
 ・生産者の名称
 ・生産者の住所
 ・生産者の電話番号
 ・施設の所在地
 ・施設の管理責任者名 

2 農場に関する情報

 ・建物の数
 ・それぞれの建物を識別するための特徴
 ・それぞれの建物内で飼養されている鳥の種類
 ・それぞれの建物内で飼養されている鳥の羽数

3 農場に関する事象

 ・初回のサーベイランスの結果
 ・鶏群の健康に関する聞き取り調査への回答
 ・疫学的なサーベイランスに関するデータ
 ・検査の採材に関するデータ
 ・殺処分に関するデータ
 ・殺処分後の死鳥の処理に関するデータ
 ・検体の検査結果

(GISの例)
フレーザーバレー地区の航空写真   フレーザーバレー地区のGISにより作成された地図。緑の円は汚染農場から半径1キロ以内の地域。水色の円は同半径3キロ以内の地域。点は農場を示し、作業の進捗状況により色分けされている。
航空写真とGISの地図を重ねたもの。赤の点は汚染農場。   個別農場の航空写真。事前に農場の施設の配置などを確認することも可能である。

 


9 殺処分

 殺処分については、(1)食鳥処理(Slaughter)、(2)レンダリング(主として老鶏)、(3)CFIAによる殺処分の3つがある。このうち、CFIAによる殺処分の方法については、作業の効率、動物愛護等の観点から検討を行い、頸椎脱臼、薬殺、炭酸ガスの使用の3つの方法を施設の規模や現場の状況の応じて使い分けた。このうち、炭酸ガスを用いた殺処分については、2000年にAmerica Veterinary Medical Associationが出した安楽死に関する報告書を参照した。鶏に対しては、炭酸ガスには麻酔様の効果があると考えられる。実際の殺処分の現場でも鶏が混乱した形跡はなく、安静な状態で死を迎えたことが確認されている。

(1)炭酸ガスを用いた大規模施設での殺処分

作業の手順

1 診断疫学ユニット、殺処分チームおよびコーディネーターの3者で協議し、殺処分計画を作成する。

2 殺処分計画を殺処分チームの獣医師に連絡する。

3 殺処分チームの獣医師は、作業員(現場監督1名、作業員6名、検査官(炭酸ガス会社の職員)1名)を招集して現場に向かう。

4 ビニールシート、角材、スプレー式の断熱材などを用いて鶏舎を密閉する。

5 炭酸ガスを注入

6 炭酸ガスの注入後、4時間から半日間放置する。

7 酸素ボンベを装着した作業員が鶏舎を開封する。

8 鶏舎内の炭酸ガス濃度を測定し、1,500ppm以下であることを確認してから安全証明書を発行する。

9 鶏の回収作業を開始する。

 鶏舎への炭酸ガスの注入は、液体炭酸ガスのタンカートラックを用い、炭酸ガスの取り扱いは契約した専門家に作業委託した。

 密閉作業の際、鶏舎の給水システムに凍結による損傷を与えることのないよう、可能な限り、給水パイプを事前に上につり上げるなどの対策をとった。鶏舎を完全に密封すると炭酸ガスの注入に伴う内圧の上昇により、施設の破壊などの危険があるので、注入口から最も遠い位置にある換気扇は密閉しないこととした。炭酸ガスの注入には300PSIの圧力で行った。消防の消火ホースの水圧の2倍に相当する強力な圧力がかかるので、注入ノズルは鶏舎内側からも支え、かつ、注入ノズルとタンカーのホースをコネクターのみではなくチェーンでもつなぐなど、離脱に伴う事故の防止にも配慮した。ガスの充填状況を確認するために、注入ノズルの設置場所のドアの上半分はプラスティックの板で覆うこととした。注入は、床をめがけて行い、鶏に直接向けないようにした。また、柱や給餌器に向けるとドライアイスが生産されるので注意した。2階建て鶏舎の場合にはマニホールドを介して1階と2階に同時に注入した。

 ドライアイスが形成される状況では、液体炭酸ガスが有効に気化しないので、これを防ぐ手法について試行錯誤を強いられた。最終的に、噴出ノズルの内径(内径1インチ(2.54センチメートル))をタンカーからのパイプ(内径1.5インチ(3.81センチメートル))より細くし、噴出時の圧力を高めたところ、良好な結果が得られた。

 炭酸ガスの注入開始から7分程度で鶏舎内は静まりかえるが、通常、注入は10〜15分間行った。炭酸ガスには鶏舎内の温度を下げ、死亡した鶏の体温を冷却する効果があるので、注入終了後4時間から半日間放置した。

 鶏舎の開封に際しては、契約業者の酸素ボンベを装着した専門の作業員が鶏舎に立ち入り、密閉に用いたビニールなどを撤去した。その後、鶏舎内の炭酸ガス濃度を検査し、1,500ppm以下であることを確認してから鶏舎内に作業員が立ち入って問題ないとの証明書を発行してもらい、一般の作業員による鶏の死体の搬出のための作業を開始した。

 炭酸ガスの注入量は鶏舎の構造により様々であるが、平飼いのブロイラー鶏舎の1例を示すと、1万羽の殺処分に要するガスの費用は24トン積みのタンカートラックの1/3程度なので、1万羽の処理は2,000カナダドル(1羽当たり16円、1カナダドル=82円)であった。

写真のものは一階建用のもの。ボルトでコンクリートのたたきなどに固定して使用する。

 

(2)非商業経営における殺処分

 一般にバックヤードと呼ばれるのは、飼養羽数500羽以下の規模の非商業経営であり、今回の調査における平均飼養羽数は32羽であった。まず、バックヤードでの飼養実態を把握するために、営林局の職員の協力も得て7,000戸以上を対象に個別訪問調査を実施した。この結果、548戸で1万8千羽以上が飼養されていることが判明した。調査の際には、記録すべき事項を予め定め、整理を行うことがその後作業を円滑に進める上重要であったが、当初行われた調査記録には不備が多く、後日再度記録を取り直すことが強いられた。

 多くの場合、鳥を愛玩用として飼養しているために、飼養者に対し丁寧かつ親切な対応を行うよう作業員に説明している。当初は地域ごとに作業を行ったり、事前に連絡を取って作業に向かっていたが、作業員が現場に到着する前に鳥を別の地域に移動さる事例が散見された。このため、途中から確認次第殺処分作業を行う方針に変更した。

 大臣の告示はフレーザーバレー地域全体の家きんを対象とした殺処分であるが、汚染農場から半径3キロ圏内の殺処分を重点的に進めることとし、新聞やウエブサイトなどで協力を求めた。9割の達成率までは作業は円滑に進んだが、その後は作業の妨害に遭ったり、報道関係者を巻き込んだ反対活動なども起きたため、警察の協力も要請した。また、検査官は関連法規則、大臣の告示書および取り締まりに関する書類を携行し、問題の発生を未然に防止することとした。

 愛玩動物であるため、処分の方法について飼養者より希望がある場合にはこれに応じた。殺処分後にはスワブは採取したが、血液の採取は行わなかった。

 当初は非協力的な者が多かったが、5月18日にアヒルを飼養するバックヤードにおいて発生が確認されたため、このような事実をもってバックヤードにおける殺処分への協力について説得に当たった。

 ただし、例えばワシントン条約のリストに掲載されているような遺伝学的に希少なものについては、スワブが陰性であることを確認し、鳥を屋内で厳格に管理するなどのバイオセキュリティーの適用を条件に証明書を発行して例外を認めた。このような例外の適用の可否を審査するため、例外適用の審査のための委員会を設けた。ただし、例外の適用が認められた場合にはバイオセキュリティーの監視を行っており、条件に違反した場合には、鳥は殺処分される。

10 処理

 フレーザーバレー地域は総面積が約1万6千平方キロメートルであり、人口は225万人とカナダの中では人口密度の高い地域である。この地域は、(1)一般ゴミの処理に問題を抱えている、(2)年間降雨量が多い、(3)地下水位が高い、(4)サケの遡上する河川に面しており、水質汚染について厳格な規制がされている、(5)飲料水源が限られており、この水源を米国とカナダで共用している、(6)畜産が集約的に行われており、商業養鶏施設で2,100万羽が飼養されているが、平均所有耕地面積は2ヘクタールにすぎないなどの多くの問題を抱えていた。このため、一義的には処理方法として埋却を検討したが、地下水位が高いことや混住化などの問題もあり、フレーザーバレー地域では適さなかった。汚染農場で飼養されていた鳥の埋却や焼却には市民に抵抗があり、コンポスト化については悪臭問題への懸念があった。最終的には、42カ所の汚染農場の殺処分された125万羽の鳥の14%を埋却、40%を焼却、46%をコンポスト化によりそれぞれ処理した。

(1)埋却

 アボッツフォードに隣接するチュラック地域にある産業廃棄物処理場のみが、今回の発生に限り埋却の受け入れに応じてくれた。埋め立てに際しては、危険物輸送会社と契約し、バイオセキュリティーに留意した。作業そのものは2日半から3日で終了した。

(2)焼却

 公衆衛生とバイオセキュリティーの双方の確保を考慮した。公衆衛生当局はオランダで鳥インフルエンザによる犠牲者が発生したことから、高病原性鳥インフルエンザの発生に危機感を強めていた。このため、ヒトへの暴露の低減について公衆衛生当局から多くの意見が出された。

 当初、フレーザーバレー地域で候補地を探したが、住民の反対もあり、適地を探すことができなかった。ようやくフレーザーバレーから約200キロ離れた素ぼり鉱山の廃坑にある汚染土壌浄化処理会社との間で、CFIAが独自に機材を持ち込んで焼却するとの契約を結ぶことができた。現在は山火事の発生の懸念もあるため、焼却炉は稼働していない。

 今回使用したエアカーテン式の焼却炉は、北米では林業や木材業で出る廃材などの焼却に広く用いられており、地面に穴を掘って使用する小型のものと、地上で使う大型のものとがある(http://www.industrialcleanburn.comを参照)。このタイプの焼却炉は、米国のモンタナ州における慢性消耗性疾患(CWD)のエルクの処理やテキサス州におけるブルセラの豚の処理などに使用されたことから、CFIAとしては従来からその使用に関心があった。今回は小型のタイプを採用したが、焼却に伴い穴の壁が崩れて形状が変化すると、吹き出して口の送風角度が鋭角になるためススが発生し焼却の効率が落ちてしまい、作業の一貫性にはやや難があった。3週間毎に穴を更新する必要があったが、側面に鉄板を置くなどの改善策についても検討の余地がある。焼却に伴う大気汚染問題に対する懸念もあったが、BC州政府の公衆衛生当局は焼却に伴う大気汚染のリスクと鳥インフルエンザのまん延に伴うヒトへのリスクを比較し、短時間で許可を出した。

 作業には、焼却炉4基、ブルドーザー2台、フォークリフト1台、パワーショベル1台、燃料輸送トラック1台を用いた。若齢鶏、ハトのヒナ、卵は水分が多く焼却が難しかったが、ガチョウや成鶏は水分が少なく、焼却は比較的容易であった。

左側の壁がくずれ、送風口の角度が変化しているのが分かる。燃料の松材が残存している。

 

焼却の手順

1 鶏の回収には、ミニトートと呼ばれる肥料用の袋(76センチメートル四方)を用いた。袋にドリップを吸収するためのおが屑を入れる。おがくずと鳥の死体をサンドイッチにする形で袋に回収する。

2 袋を北米の食肉処理施設で一般に使われているコンビビンと呼ばれる内側をコーティングしたダンボール箱に詰める(1箱当たり75羽〜125羽を収容)。

3 冷蔵トラック(マイナス20度)の荷台にドリップの吸収材(ネコのトイレ用の砂)を敷く。荷台にコンビビンを積み(1台当たり14個)、焼却場に輸送する。これらの輸送は、危険物輸送規則に基づき、専門業者が担当した。

4 エアカーテン焼却炉のための穴を掘り、焼却炉の送風ダクトを設置し、穴の底に燃料の松材を敷く。コンビビンを大型のショベルカーを用いて木材の上に置いて点火し、1分当たり23立方フィート/分(1分当たり0.65立方メートル/分)の送風を行う。

(3)汚染農場におけるコンポスト化処理

 Maryland College ParkのDr. Nathaniel L. Tablanteらが作成した鶏舎内でのコンポスト化のガイドライン(「Guidelines for In-house Composting of Catastrophic Poultry Mortality」(http://www.agnr.umd.edu/MCE/Publications/Publication.cfm?ID=557))を応用した屋外でのコンポスト化の実験をオタワで行い、実施に踏み切った。鳥インフルエンザウイルスは高温(60度10分)で不活化されることから、鶏舎内でコンポスト化の1次処理を行ってウイルスを不活化させた後、舎外に搬出して2次処理を行うこととした。

1次処理の作業手順

1 鶏舎内の鳥の死体および鶏ふんをスキッドローダーを用いて集積する。

2 散水しながら集積物とおがくずを混合する。

3 鶏舎の床におがくずを敷き、2とおがくずを交互に積層する。

4 温度を毎日測定し、一旦温度が上昇した後、5日間連続して32度以下となったら、2次処理に移行する。

 
  汚染農場でのコンポスト化のための2次処理。立地的な制約から鶏舎と鶏舎の間で処理が行われている事例が大半であった。


 鶏舎内の鳥の死体および鶏ふんをスキッドローダーを用いて集積し、散水しながら集積物とおがくずを混合する。スキッドローダーを用いて鳥の死体とおが屑を交互に積層する。発酵を促進するためには好気状態を維持する必要があり、山の高さは6フィート(183センチメートル)が限度である。ただし、山の高さは鶏舎の天井の高さにも規制される。鶏舎内の柱などの構造が複雑な場合には、コンポスト化の作業は困難である。発酵のためには水分を46%とすることが望ましく、かつ、水分がこれを下回ると発火の可能性があるので注意が必要である。コンポストの山の温度は2〜3日で30度前後まで下がる。少なくとも5日間32度を下回ることを確認し、舎外に搬出してコンポスト化の2次処理の作業を開始する。発酵状況の監視のために、長さ6フィート(183センチメートル)の先端、中間、手元の3カ所に温度センサーのついたデジタル温度計を用いて、深層、中間、表面の温度をそれぞれ監視した。

 コンポスト化の際には鶏舎内のふん(過去7年分が堆積していた事例もあった)、飼料タンクなどに残存していた飼料、卵もコンポストに入れて処理を行った。

 生産されたコンポストの処理については、当初から議論をした。BC州ではマッシュルームの生産が盛んであり、マッシュルーム栽培協会が関心を示している。また、完熟化が終了したものの一部は、既にコーン畑へのすきこみが開始されている。

2次処理の作業手順

1 No Postと呼ばれるコンクリート製の道路の障壁材を2列縦に並べる。

2 地面に6インチ(15.2センチメートル)の厚さにおがくずを敷き、地面およびNo Postを覆うように6ミルの厚さのポリビニールのシートを敷く。この上に更に5インチの厚さにおがくずを敷く。

3 1インチ(2.54センチメートル)ごとに穴を開けた通気用のダクトを5フィート(12.7センチメートル)ごとに設置する。このダクトには発酵に伴い内部の温度が上昇すると空気が流入する。

4 一次処理を終えたコンポストをこの上に重ねる。この際必要に応じ、水分が40%(手で握って壊れやすいが玉が作れる)から60%(手を握りしめると水がでる)の間となるよう水分調整を行う。

5 コンポストの上に6インチ(15.2センチメートル)〜1フィート(30.5センチメートル)の厚さにおがくずを積層する。これは悪臭の防止効果も兼ねる。

6 通気性のあるカバーで覆う。

7 所々穴の開いたポリのカバーを乗せ、カバーが飛散しないよう古タイヤなどを乗せる。一番上にこのカバーを乗せることにより、水分の蒸散とハエの発生を防止することができる。

コンポスト化(2次処理)断面のイメージ

 

(4)非感染農場の鳥の大量コンポスト化処理

 
  酪農家から借用した草地にコンポスト化のための巨大なバッグが並んでいた。見学した時には送風が行われていたが悪臭は気にならなかった。
   
 
 
袋つめのための作業機

 100万羽の非感染農場の鳥を1カ所で大量処理するためにサイレージ用バッグの販売業者との共同研究として、直径10フィート(305センチメートル)長さ200フィート(61メートル)のバッグおよび直径12フィート(366センチメートル)長さ350フィート(107メートル)の2種類のバッグを用いてコンポスト化の実験を実施している。バッグには、強制換気用のダクトと鳥の死体、シェービング(Shaving)と呼ばれる木材の廃材を水分調整後、専用の機械を用いて袋に充填した。充填後24時間で温度が上昇し、70度前後が約1週間続いた。バッグは90度を超えると溶解するので、80度以上にならないよう管理する必要がある。通風はタイマーで制御しており、4時間通風後、8時間は通風を遮断している。

 この方法では、約3万立方メートルで100万羽の鶏を処理でき、農家で個々にやるよりも集約的に処理を行うことができる。また、公衆の理解が得やすいことやCFIAがモニターしやすいといった利点もある。焼却や埋却と比較すると許認可事項が少ないことも利点として挙げられる。

酪農家から借用した草地にコンポスト化のための巨大なバッグが並んでいた。見学した時には送風が行われていたが悪臭は気にならなかった。

 

11 許認可

 許認可の目的は、病原体の散逸を防ぐために、規則に則った鳥類および鳥類由来製品の移動を行うことである。許可は大別すると、(1)特定の用途に限り1度限りの移動を認めるもの、(2)一般的な許可事項であり毎回の申請を必要としないものの2つに区分される。

(1)一般的許可事項

(1)規制区域内の通過。

(2)中心温度を72度とする加熱処理を規制区域内で行った調理品の移動

(3)格付け済み食用鶏卵の移動(格付け済み食用鶏卵は低pH液での洗浄が行われている)

(4)鶏肉製品の規制区域外から規制区域内への移動

(5)ふ化用鶏卵の保管のための規制区域内での移動

(6)獣医師の診療のための規制区域内での鳥の移動

(7)鶏肉製品の規制区域内からカナダ国内への移動(食鳥処理は事前検査が義務付けられ、移動制限区域内の鳥の食鳥処理は許可されないため)

(2)個別許可事項

(1)食鳥処理施設への出荷のための鳥の移動

(2)規制区域内の非汚染農場からのふん尿の規制区域外の処理場への搬出

(3)規制区域内の非汚染農場からの死鳥の規制区域外のレンダリングまたは、コンポスト処理場への移動

(4)ハトレースに参加するための鳥の移動

12 補償

 家畜衛生法は、CFIAに対し住居以外は立ち入り許可証なしに農家に立ち入る強力な権限を付与する一方で、法に基づく殺処分を行った場合には、非感染の場合のその日の市場価格から算出される補償金を所有者に対して支払う義務を政府に課している。また、合理的な処理のための費用も支払うことができるとしている。ただし、既に死亡していたものはこの補償の対象とはならない。また、所得そのものの減少については家畜衛生法では補償しないが、別な枠組みによる所得補償制度が設けられている。生産調整の対象である鶏、七面鳥、鶏卵については30%以上の所得の減少が生じた場合に、非生産調整対象品目については減少の程度を問わずカナダ農業収入安定保険(Canadian Agriculture Income Stabilization)による補填を受けることが可能である。

 法的には、検査官は殺処分の前に在庫表を作成し所有者との間で価値について合意する必要があるが、所有者との交渉が円滑に進まない場合には、検査官が一方的に価値を決定することが可能となっている。これは殺処分の遅延による疾病のまん延防止のためであるが、他方で所有者による事後の不服申し立ての権利を認めている。ただし、いかなる場合であっても法令上の最大補償額を上回る補償を求めることはできない。殺処分の対象が大規模な場合には第三者委員会を設置し、ここに補償額の算定を求めた。

 補償金額の算出は採卵鶏を例に取ると、18週齢の初生ひな価格、投入価値としての飼料費、利益としての鶏卵の販売収入などを勘案して、あくまで殺処分の時点で健康であった場合の市場価値を算定する。

13 洗浄・消毒

 
 
洗浄・消毒の作業風景


 現時点では全体の洗浄・消毒が終了するまでは新たな鳥の導入は認めないとの方針で作業を進めている。洗浄・消毒の対象は感染した鳥との接触などにより汚染された可能性のあるすべての建物および器具機材である。42の汚染農場のうち、既に21農場については終了しており(6月3日の時点)、作業は全体的には順調であるが、採卵鶏舎については構造が複雑であるため、作業に相当な時間を要する。ウイルスの生存能力等を勘案すると60日間鶏舎を使用しなければ洗浄・消毒は必要ないとの考えもあるが、業界が可能であれば60日よりも早い時点で経営を再開することが出来るようにしたいとの強い希望を有していることや、洗浄・消毒を実施することにより経営再開後の事故率の低減が期待されるので、これを行うこととしている。洗浄・消毒は、農家の責任で行われることとされているので連邦政府は支援を行わない。このため、業界団体は160万ドル(1億3,120万円)の基金を用意し、非業界関係者に対しても当該基金から洗浄・消毒への支援を行うとしている。

 洗浄・消毒作業はCFIAの監視の下で、専門の業者から契約により作業員の供給を受けて進めている。鶏舎の状況は個々に異なるので、獣医師である検査官が現地に出向き、所有者、清掃業者と3者で協議し手順を定める。この手順に基づき、清掃業社が具体的な計画を立てる。計画には、洗浄の方法、ウイルスの媒介の制御、洗浄剤および消毒剤の使用、洗浄・消毒作業の請負契約に関する事項、作業の完了予定日などが盛り込まれる。洗浄作業が終了したところで検査官が目視による検査を行い、有機物が完全に除去されていることを確認する。その後、ビルコン、グルタールアルデヒド、ホルマリンガスの3種類の消毒が終了した時点で3度目の検査を行う。この際には、使用された消毒剤の濃度やすべての表面がくまなく消毒されたかを確認する。検査の結果問題がなければ証明書が発行される。しかし、実際には、予期しないことが発生することも多く、清掃業者から確認のための問い合わせがあり、検査官は現場に頻繁に足を運ぶ。

14 経営の再開

 CFIAは規制区域内の高リスク地域外の農場については6月10日付けで鳥の鶏舎への再導入の開始を許可した。また、高リスク地域における高病原性鳥インフルエンザウイルスが摘発された施設の清掃・消毒作業が終了したとして、その後国際獣疫事務局(OIE)の基準に準拠して21日間高病原性鳥インフルエンザの新たな発生がないことを確認し、7月9日より鶏舎への鳥の再導入を認める予定であることを公表した。なお、すべての発生農場は今後もCFIAの検疫下に置かれ、清掃・消毒の終了から60日間は監視の対象とされ、鳥は4週間の間毎週検査される。ただし、汚染農場であっても清掃・消毒から60日間鳥が導入されない場合においては検査は行われない。また、規制区域における規制の解除は最後の汚染農場の清掃・消毒の終了から60日後に行われる予定である。

15 まとめ

 今回のカナダのBC州フレーザーバレー地域における高病原性鳥インフルエンザ撲滅対策は統制のとれた組織、航空機による検体の輸送、バイオセキュリティーをはじめとする職員の健康安全対策など非常に機能的に実施されたとの印象を受けるが、実際には多くの困難に直面し、紆余曲折を経て最終的な対策が構築されている。例えばGISのような最新の技術も投入され成果を挙げているが、他方ではその基礎となる情報収集は人海戦術で行われており、初期の段階での失敗が混乱を招いたことも反省点として挙げられていた。今回のレポートは専門的な内容となってしまったが、防疫対策の初動において十分な検討を行って計画を立てることが重要であり、詳細な部分にも学ぶべき点が多々あると考え、実際の現場での作業についても極力記述するよう努めた。今後のわが国での家畜伝染病撲滅対策の参考としていただければ幸いである。

 また、今回の発生地域では極端な例では7年間のふん尿が鶏舎内に堆積するなど、農家の衛生管理に対する意識が希薄であったことも指摘されており、外部からの疾病の侵入の防止のみならず、生産性の向上の観点からも各生産現場でのバイオセキュリティーの再点検が有効であると考える。

 最後に、多忙な状況にもかかわらず研修を受け入れてくださったCFIAのジョジー・ルーターバック博士(Chief Veterinarian Animal Health and Production Western Program Network)をはじめとする高病原性鳥インフルエンザ緊急対策本部の皆様に心よりお礼を申し上げる。



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