米国のチーズ事情




ひとくちMemo

 米国では、1620年代にヨーロッパからの移民が家畜とともに新大陸に上陸し、その後チーズをはじめとする乳製品の生産が始まったとされており、その歴史は意外と古い。その後もイタリア系の移民をはじめとし、多種の民族が固有のチーズを持ち込んだこともあり、豊富な種類のチーズが生産されている。現在では、経産牛頭数約914万頭、生乳生産量約7,698万トン、チーズ生産量約380万トンを飼養・生産する世界最大の酪農国であり、特にチーズの消費量は近年増加傾向にあり、一人当たり年間16.8キログラムと日本の約9倍となっている。また、ヨーロッパの伝統を引き継いだチーズ製品だけでなく、米国の生活スタイルや風土に合わせた新たな製品も作られている。特に最近では、チーズの栄養面のみならず食材として風味や色彩の面からも製品の多様化が進んでいる。今月は、米国におけるチーズの生産や消費の動向などについて紹介する。
米国のファーストフードの定番、ハンバーガー、ピザ

 米国では、チーズは食生活に欠かせない存在となっている。人種のるつぼといわれている国柄を反映して、ファーストフードをはじめとし様々なチーズ料理を楽しむことができる。
チーズ販売割合
 米国では年間約380万トンのチーズが生産されているが、その約5割をチェダーチーズが約3割をモッツアレラチーズが占めている。

 米国のチーズはヨーロッパにおいても、例えば2003年ワールド・チーズ・アワードに18のチーズが入賞するなど評価を得ており、アメリカのチーズは伝統的な技術と近代的な高い技術の両方に支えられている。伝統的なチーズのみならず米国ならではの自由な発想により生まれた独自のチーズもある。
(「ワールド・チーズ・アワード」ホームページ:http://www.finefoodworld.co.uk/html/home.htm

コルビー (Colby)
 19世紀後半にウィスコンシン州のコルビーで創作されたセミ・ハード・タイプのチーズ。味はチェダーに似ているが、チェダーより柔らかく粘りがあり、かすかに甘味がある。
モントレージャック(Monterey Jack)
 19世紀後半にカリフォルニア州のモントレーでデビッド・ジャックスが製造を始めたセミ・ハード・タイプのチーズ。チェダータイプのチーズでくせのない少しねっとりした口当りのチーズ。味わいはマイルド。

フレーバーチーズ(Flavor cheese)
 近年、伝統的なチーズに、果物や肉、香料あるいはハーブなどのフレーバーを加えたタイプのチーズ生産が増えている。(写真は唐辛子を加えたもの)

リアルシール
 米国では、米国産の生乳から生産されたチーズなどに任意で付ける「Real Seal」という取り組みもあり、スーパーなどで販売される製品にもこのマークを付けた製品が多く見受けられる。
(「リアルシール」ホームページ:http://realseal.com/realsealdata/main/index.asp

ワシントンDC近郊の酪農家(手作りチーズ生産者)
 米国のチーズメーカーとしては有名な多国籍企業をはじめとする大企業が名を連ねているが、その一方で、農家が自ら生産販売するチーズもある。今回訪問したメドー・クリーク・デイリー(フィートさん一家)はワシントンDCから車で南西に約7時間走ったアパラチア山脈沿いの標高900メートルの所にある、手作りチーズを自ら生産する酪農家である。1988年にこの地で酪農を始めたフィートさん一家は現在では、100エーカー(約40ヘクタール)の牧草地で85頭の搾乳牛、24頭の未経産牛および32頭の乳子牛を飼養している。この農場では、年間約80万ポンド(約36.3トン)の生乳を生産しており、このうち70万ポンド(約31.8トン)が飲用に、10万ポンド(約4.5トン)がチーズ生産に用いられている。

(手作りチーズの生産)
 チーズ用生乳はミルキングパーラーから無殺菌のまま直接チーズ製造施設に運ばれ、チーズ生産に供されている。この工場はバージニア州政府の許可を得た施設であり、フィート夫人とパートタイマー2人の計3人で操業している。製造されたチーズは、ワシントンDC近郊の高級食材を扱うスーパーなどに販売するほか、施設に隣接する直売店やインターネット販売も行っている。
(熟成室)
メドー・クリーク・ディリーの、
手作りチーズを紹介した新聞記事
チーズの直売所
ワシントン駐在員事務所 犬飼史郎、道免昭仁

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