特別レポート


共通農業政策(CAP)
改革合意(2003)等について

ブリュッセル駐在員事務所    山崎 良人、関 将弘


はじめに

 EUの農相理事会は2003年6月26日、共通農業政策(CAP:Common Agricultural Policy)改革に合意し、CAP改革規則を同年9月29日に承認した。現行のCAPは、将来のEU拡大による支出増大の可能性をにらみ、2000年から2006年を対象とする欧州委員会が提案した戦略文書(アジェンダ2000)を基に、99年3月にベルリンで開催された欧州理事会(ベルリンサミット)で合意されたものである。今回の改革は、この「アジェンダ2000」において、2002年にCAPの中間見直しを行うことが合意されていたために行なわれたものであり、欧州委員会は、2002年7月10日にCAPの中間見直し報告書を公表し、2003年1月22日に7つのCAP改革規則案を公表した。

 改革内容への合意後、欧州委員会は、2003年9月29日に承認されたCAP改革規則とEU加盟予定10カ国(注1)の加盟条約(the Act of Accession)との間でそれぞれ調整すべき事項が生じたため改正案を2003年10月27日公表している。これは、2004年5月1日に予定されているEU拡大に対応するものとなっている。

 今回のレポートでは、2002年7月の報告書の公表以降議論を重ね、ようやく2003年6月に農相理事会で合意に達したCAP改革の合意内容および加盟条約の改正案についてレポートする。

注1)EU加盟予定10カ国:
エストニア、キプロス、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、マルタ、ラトビア、リトアニア



1.CAP中間見直し議論(the Mid-term Review Negotiations)

 アジェンダ2000による99年のCAP改革および2002年7月のCAPの中間見直しの報告書の内容等については「畜産の情報(海外編)」2002年11月号の特別レポート「共通農業政策(CAP)の中間見直しについて」で詳細に報告しているので、こちらを参照していただきたい。

 EUの農相理事会は、2002年7月に公表されたCAPの中間見直しの報告書や2003年1月に公表された7つのCAPの改革規則案に基づき、CAPの見直しの議論を行った。このCAP改革議論は、農相理事会のほか、議論の深化、スピードアップを図ることを目的として設置された農業特別委員会や加盟国農業省の次官クラスによるワーキンググループ(2003年4月創設)などで議論が重ねられた。また、2003年5月の農相理事会では、EU加盟予定10カ国の代表を交えCAP改革に関する議論が行われた。

(1)加盟国の反応

 今回の中間見直しに対する当初の反応は、加盟国により異なった。これを大きく分けると、さらなるCAPの改革を主張する国と、アジェンダ2000による現行のCAP維持を主張する国とに分かれた。

 改革推進派:中間見直しを行うという欧州委員会の意見を支持。これはCAPによる補助金等の受取額よりもEUに対する負担額が上回る「純支出国」であり、デンマーク、スウェーデン、ドイツ、オランダ、イギリスが該当する。

 現状維持派:アジェンダ2000という2006年までの安定した政策環境下での農業政策の枠組みを維持し、CAP改革は2006年以降行うべきであると主張した国は、EUに対する支出よりもCAPによる補助金等の受取額が上回る「純受給国」であり、アイルランド、フランス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、オーストリア、ベルギーが該当する。

 このほかの国は、この2極化する意見の中間の意見であった。

(2)改革内容別の加盟国の反応

 今回の改革で取り上げられている、デカップリング、モジュレーションなどに対する各国の意見は以下のとおりであった。

A.デカップリングに対する反応

  生産と切り離した単一の直接支払い(以下「デカップリング」という。)に対しては、



  と、「純支出国」がデカップリングを支持したのに対して、「純受給国」はデカップリングに反対した。

B.モジュレーションに対する反応

  CAPの第一の柱である市場政策を削減し、CAPの第2の柱である農村開発政策に経費を振り向けるというモジュレーションに対しては、



C.酪農分野の改革に対する反応

  酪農分野の改革に対する反応はさまざまであった。アジェンダ2000に基づく酪農分野の改革については、その実施が2005年からであり、まだ実施されていないことから、フランス、アイルランド、ルクセンブルグ、スペインは、この分野に関する改革の提案を拒否する考えを示した。

  生乳生産割当枠(クオータ)制度については、オーストリア、フランスなどは2015年までの延長を支持した。これに対し、ベルギー、イタリア、スウェーデン、デンマーク、イギリスは2008年以降のクオータ制度は廃止すべきであると主張した。

  バターと脱脂粉乳の介入価格引き下げについては、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランスが反対し、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、イギリスが賛成した。

D.穀物分野の改革に対する反応

  穀物分野での介入価格引き下げについては、イギリス、デンマーク、ドイツが賛成し、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、アイルランド、ルクセンブルグが反対した。

E.農村開発政策に対する反応

  農村開発政策については、ほとんどの国が経費の増額に賛同した。しかしながら、この経費の調達方法、農村開発政策間での経費の配分方法などについては、さまざまな意見が出された。

(3)欧州議会の見解

 欧州議会は2003年6月5日、CAP改革に対する欧州委員会の計画についての見解を発表した。この欧州議会の見解の発表は、農相理事会が法令等を制定する手続き上、正式な事前手続きではある。しかしながら、農業関連の法令について欧州議会が行う手続きは、いわゆる諮問手続きに該当することから、農相理事会は欧州議会の意見を受け入れる義務はないが、農相理事会の決定に及ぼす影響は大きい。

 この欧州議会の見解は以下のとおりであった。

A.デカップリング:
 完全なデカップリングは、受け入れるべきではなく、部分的に生産と切り離した単一の直接支払いを実施すべきである。デカップリングは、穀物と牛肉分野に限定し、酪農分野、特に酪農奨励金におけるデカップリングについては2008年に改めて検討すべきである。

B.モジュレーション:
 欧州委員会の意見(直接支払いの受給額が年間5,000ユーロ(約67万5千円、1ユーロ=135円)を超え5万ユーロ(675万円)以下の部分にあっては、2006年に1%削減し、その後削減率を2012年までに12.5%に引き上げる。受給額が50,001ユーロ(675万135円)以上の部分にあっては、2012年までに19%の削減まで引き上げる)は受け入れられない。直接支払いが年間7,500ユーロ(101万3千円)を超える受給がある部分にあっては、2006年から6%削減されるべきである。

C.農村開発政策:
 モジュレーションにより蓄えられた資金は、青年農業者対策、条件不利地域のための補償手当、環境対策の農村開発政策に使用すべきである。

D.酪農および穀物分野の改革:
 介入価格の削減は、アジェンダ2000の範囲を超えて受け入れるべきではない。

(4)妥協案の提示

 農相理事会は2003年6月11日、先に公表された欧州議会の見解を踏まえ議長から提出があった妥協案(Presidency compromise paper)により議論を進めた。しかし、各国の見解にまだ開きがあったことから、6月17日〜19日に再度理事会を開催し議論を行うこととなった。この2回目に開催された農相理事会において改めて提出された妥協案を基に議論されたが、合意に達せず、6月25日に3回目の理事会が開催されることとなった。3回目の農相理事会は、夜を徹した議論の末、6月26日朝、ようやくCAP改革は合意に達した。


2.CAP改革合意内容

 2003年6月26日のEUの農相理事会で合意されたCAP改革の内容は、2003年9月29日の農相理事会において承認された7つの規則に規定された。(表1)


(表1)CAP改革規則


(1)デカップリングの創設

 A.デカップリングの創設

  今回合意されたデカップリングとは、アジェンダ2000によるCAPの下で農家に支払われている現行の直接支払い(農家収入支払い:Farm income payment)とは異なり、農家の生産とは切り離した単一(農家単位)の直接支払いのことである(デカップリングとは「切り離す」という意)。現在農家に支払われている直接支払いは、品目別に支持価格の引き下げ分を補償するために実施されており、生産の実績に応じて支払われている。例えば、牛肉であれば、牛肉特別奨励金として雄牛1頭当たり210ユーロ(28,350円)を支払うというものである。これが今回の改革により、頭数当たりではなく、2000年から2002年に農家が直接支払いを受けた金額に基づき直接支払いの支払額が計算され、生産からは切り離した支払いとなる。

  このデカップリングは、2005年1月1日以降の適用となるが、このデカップリングの実施により、農業生産が放棄され地域への多大な影響が懸念されたりすることなどの特別な事情がある場合は、2007年まで実施を延長することができる。


(表2)デカップリングの対象となる直接支払い


B.デカップリングのオプション

  一方、デカップリングの実施においては、加盟国は作物別に一部現行の直接支払い(生産と結びついたもの)を同じ方法で支払うことを継続することが可能となるオプションを選択できることとなった。このオプションは、少なくとも2004年8月1日までに決定することとなっている。

(A)耕種作物:この分野については加盟国により、(1)、(2)の選択が可能。

(1) 加盟国の当該分野における予算限度額の25%まで現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能(残り75%はデカップリング)。

(2) 加盟国の当該分野における予算限度額の40%までデュラム小麦補足支払い(Durum wheat supplement payment)を現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能(残り60%はデカップリング)。

(B)羊・ヤギ肉

 加盟国の当該分野における予算限度額の50%まで現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能(残り50%はデカップリング)。

(C)牛肉・子牛肉

 子牛に対すると畜奨励金(Slaughter premium)については、加盟国の当該分野における予算限度額の100%まで現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能。

 また、加盟国により、以下のオプションの選択が可能

(1) 子付雌牛奨励金(Suckler cow premium)については、加盟国の当該分野における予算限度額の100%まで現行と同じ方法で支払うことおよび子牛以外に対すると畜奨励金(Slaughter premium)(子牛を除く)を加盟国の当該分野における予算限度額の40%まで現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能(残り60%はデカップリング)。

(2) 子牛以外に対すると畜奨励金(Slaughter premium)については、加盟国の当該分野における予算限度額の100%現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能。

(3) 特別雄牛奨励金(Special male premium)については、加盟国の当該分野における予算限度額の75%まで現行と同じ方法で支払うことを継続することが可能(残り25%はデカップリング)。

(D)加盟国による追加支払い(Additional payment)

    加盟国独自の裁量で、各国に割り当てられた予算額の10%を上限に、環境の保護や農産物の品質および流通のために重要と認められる直接支払いについては、国または地域レベルでの追加支払い(Additional payment)を実施することができる。

(2)共通遵守事項(クロス・コンプライアンス)の強化

 共通遵守事項(以下「クロス・コンプライアンス」という。)とは、農家が直接支払いを受けるためには、品目別に定められた直接支払いの交付条件を満たすだけではなく、環境等他の分野で定められた条件にも従わなければならないといういうことである(コンプライアンスとは、「従う」の意であり、他の分野の要件に従うということ)。このクロス・コンプライアンスの概念は、アジェンダ2000による改革で既に導入されていたが、今回の改革ではこれが強化され、強制的なものとなっている。直接支払いを受ける農家は、クロス・コンプライアンスとして、2005年1月からは「環境」および「公衆と動物の健康」に関する8つの規則、2006年1月からは「公衆と動植物の健康」および「疾病の届出」に関する7つの規則、2007年1月からは「動物福祉」に関する3つの規則と合計18の欧州規則に定められている条件にも従わなければならなくなった。

 また、直接支払いを受ける農家は、すべての農地を「良好な状態」(Good agricultural condition)に維持することも義務付けられた。これは、農地の放棄や環境問題に配慮して設定されたものである。

 前述の18の規則で定められている条件に従わなかったり、良好な状態での農地の管理を行なわなかった場合は、直接支払いが減額または取り消しとになる。

(3)モジュレーションの義務化

 今回の改革では、農村開発政策に追加的な支払いを行う財源を確保するために、年間の直接支払い全体額を段階的に引き下げる(モジュレーション)が義務付けられる。このモジュレーションは、年間の直接支払い受給額が5,000ユーロ(67万5千円)を超える部分のみに適用され、2005年以降、以下の率で削減されることとなる。(表3)

(表3)モジュレーション導入のプロセス


 このモジュレーションにより、農村開発政策に振り向けることが可能となった財源は、次の方法で処理される。

(1) 加盟各国は、削減された額の1%を保留する。

(2) 削除額から(1)を差し引いた額を欧州規則(1999/468/EC)の手順に基づき、加盟国に分配する。分配する基準は、農地の面積、農業就業人口、1人当たり国内総生産(GDP: Gross Domestic Product)である。ただし、各国の削減額の少なくとも80%を当該国に配分するものとする。


(4)農村開発政策の拡充

  欧州委員会は、モジュレーションの義務化の導入により、2007年以降は、年間約12億ユーロ(1,620億円)を農村開発政策に振り分けることができると見込んでいる。また、今回の改革により、2005年から利用できる新たな農村開発政策の範囲が拡大されている。この政策への取り組みの決定は、加盟国に委ねられている。

 拡大された政策は以下のとおり。

A.基準への適合(Meeting standards)の対策

  この対策は加盟国が、環境、公衆・動植物衛生、動物福祉、農作業の安全に関する厳格な欧州規則(クロス・コンプライアンスで定められた規則)に従う農村開発地域の農家に対して支援を行うものである。この支援は、定額で最高5年間実施されるが、その支払額は毎年漸減される。1農場当たり年間10,000ユーロ(135万円)が上限となっている。

  また、2007年1月1日から、加盟国政府または民間団体による農家に対する農地と農場を管理するための助言を行う制度(「以下「農家助言制度」(Farm advisory services)という。」を創設する。この農家助言制度とは、農業生産・環境などの規則の条件を農家がどの程度守っているかについて助言するものである。この制度を利用する農家は、この制度の利用に要した費用の最大80%(1,500ユーロ(20万3千円)が上限)までの補助が受けることができる。

B.動物福祉対策

 補助の対象となる農家は、動物福祉に関する飼養方法の向上を少なくとも5年間以上実施し、通常の家畜管理方法以上の家畜管理を行うことが義務付けられる。この助成額は、1家畜単位(注2)当たり年間500ユーロ(6万8千円)を限度として支払われる。


 注2)家畜単位(Livestock unit)とは、種類の違った家畜間の経済的数量を比較する場合の換算単位。

C.食品品質(Food quality)の対策

 この対策は、農産物の品質を消費者に保証するための国や欧州委員会が定める品質保証制度に参加する農家に支払われるものである。この助成は、最高5年間で、1農場当たり年間3千ユーロ(40万5千円)を上限として支払われる。

 また、この食品品質対策に参加した農家が、消費者に対し、当該農産物が品質保証制度の下で生産されたものであるという情報を提供する活動に対し、その活動に要した経費の70%を限度として助成するものである。

D.青年農業者対策

 青年農業者向けに実施されている現行の農村開発地域における農業設備投資対策(EC/1257/1999)を強化したものである。この対策は、40歳以下の適切な農業技術および能力をもった青年農業者が、新規に農業用設備への投資を行うことに対する支援である。現行の対策では、設備投資に要した費用を最大45%、さらに条件不利地域には55%最大2万5千ユーロ(337万5千円)までを補助するというものである。これを今回の規則では、設備に要した費用を最大50%、さらに条件不利地域では60%と補助率を上げた。さらに、設備投資開始後3年以内にAに記載した「農家助言制度」を利用した場合には、その経費も含め最大3万ユーロ(405万円)まで補助することとした。

(5)酪農分野での合意


A.介入価格

 EUにおける介入価格とは、EU域内の農家の再生産を維持するため、市場価格が一定の水準を下回らないようにEUが買い支える価格である。今回の改革においては、アジェンダ2000で定められていた2005年度より1年早い、2004年度から介入価格の引き下げを行うこととなった。脱脂粉乳については、3年間で15%、バターについては、4年間で25%段階的に引き下げる。(表4)




(表4)脱脂粉乳とバターの介入価格
(単位:ユーロ/100キログラム、%)
注:期間は7月1日から6月30日


 また、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トンその後毎年1万トンずつ削減し、2008年には、3万トンとする。(表5)


(表5)バターの介入買入限度数量
(単位:トン)


B.酪農奨励金(Dairy Premium)

 (A)アジェンダ2000において、それまで酪農分野のCAPに存在していなかった直接支払いが、介入価格の引き下げの代償として、2005年から導入されることとなっていた。今回の改革で、介入価格の引き下げが1年早まったことから、酪農奨励金も1年早まり、2004年から導入されることとなった。(表6)


(表6)酪農奨励金単価
(単位:ユーロ/トン)


 (B)加盟国は、他の農業分野で実施されている追加支払いを酪農奨励金においても実施できることとし、その追加支払いの予算を以下のとおりと定めた。(表7)


(表7)国別追加支払い予算額
(単位:百万ユーロ)


 (C)酪農奨励金のデカップリングへの統合

    酪農奨励金は、今回の改革で導入することとなったデカップリングに2008年から統合されることとなっている。ただし、加盟国はより早い時期に統合することができる。それまでの酪農奨励金は、各年の3月31日までに各農家で生産された生乳生産量に表6の単価を乗じたものが支払われることとなる。

C.生乳生産割当枠(クオータ)

 国別に生乳生産割当枠(クオータ)を定める制度については、「アジェンダ2000」で2007/08年までと定められていたが、2014/15年度まで延長することとなった。また、特別な地域であるとの理由から、ギリシャのクオータを2004/05年度に12万トン拡大するとともに、アゾレス諸島(ポルトガル)に対し、2003/04年度に7万3千トン、2004/05年度に6万1,500トン、20005/06年度に5万トンの特別枠を認めることとなった。

D.指標価格(Target price)

 生乳の指標価格は2004年4月1日から廃止されることとなった。

CAP改革に係る提案、合意内容の比較(畜産分野のみ)
注)LU/haとは、家畜の飼養密度を表す単位であり、飼料畑1ヘクタール当たりの飼養家畜頭数を表す。


3.CAP改革とEU拡大

(1)CAP改革規則と加盟条約の改正の必要性

 欧州委員会は2003年10月27日、CAP改革規則と加盟条約の改正案を提案した。これは、CAP改革規則が2004年5月1日に加盟する中東欧10カ国に適用することを加味していなかったためである。また加盟条約については、同条約に規定されているCAPに関する事項を今回のCAP改革と整合させるように改正を行うものである。

(2)加盟条約の主な改正内容

 A.直接支払いの段階的実施

  現行の加盟条約で定めている新規加盟国における直接支払いは、2004年には現在の加盟国に対する支払い水準の25%水準が導入され、2005年には30%水準、2006年には35%水準、2007年には40%水準と段階的に実施することとなっている。

  改正案では、今回のCAP改革で導入した新しい直接支払い(酪農、エネルギー作物、ナッツ)については、現行の加盟条約に定められている耕種作物等に対する直接支払いと同様に段階的実施と同様とする。

B.面積による支払い

  当初の加盟条約では、現行のCAPに基づく支払いと、農地面積による単純化された支払い(Single Area Payment Scheme(SAPS))の実施を選択することができることとなっていた。しかし、今回のCAP改革で、2005年1月からデカップリングを導入することとなり、これは新加盟国に適用することは難しいことから、当初の加盟条約で規定されたSAPSを実施できることとする。これは、新加盟国は2004年から導入することが望ましいとしても、導入するには十分な時間がないことに加え、SAPSがCAP改革合意の直接支払いよりも単純でありかつ、良好な状態に管理された農地でなければならないという条件も含んでいること等の理由から、SAPSは適当であるとされた。

(3)CAP改革規則の主な改正内容

A.デカップリング

 今回のCAP規則では、2005年1月からのデカップリングは、2000年から2002年に受給した直接支払いの金額を基に、支払い額が計算されることとなった。しかし、新加盟国は直接支払いを2000年から2002年まで受給していないので、今回の改正案では加盟法で定められている農地面積による単純化された支払いSAPSの実施を適用してもよいことが規定される。

B.モジュレーション

 CAP改革に合意した際、欧州委員会は、新加盟国においては、直接支払い制度の段階的実施が現加盟国と同じ水準となるまでモジュレーションを適用しないと宣言していた。この宣言を今回の改正案に盛り込むこととしている。

(3)CAP改革規則の主な改正内容

 このように、2国間だけでなく多国間交渉でもセンシティブ品目として扱われることが多い乳製品については、 豪州・NZCER協定でも特別の配慮がなされた。

 この間に豪州では、1986年に当時のケリン第一次産業大臣によって国際競争力の強化を図るべくケリン・プランが策定された。 その後、クリーン・プランを経て、最終的な規制緩和政策の仕上げとして2000年に酪農乳業改革が実施され、 豪州の酪農乳業界では今日まで相当な合理化が行われた。

 規制緩和を成し遂げた豪州の業界関係者は、現時点では豪州・NZCER協定について、 世界で最も効率的なNZの酪農乳業との競争が豪州酪農乳業の成長の一因であると総じて積極的な評価を行っている。 結果論ではあるが、ケリン・プラン策定のタイミングとの相関から考えると、 一定期間の例外措置の導入が豪州といえども効果的な役割を果たしたとも言える。


おわりに

 今回の改革では、直接支払いについて加盟国による選択が可能なオプションが設定された。このオプションが設定されたことにより、関係団体からは、「ア・ラ・カルト」(各国のお好みのままに実施できる)であり、「共通」農業政策ではなく施策の国別実施(renationalisation)になりかねないと非難の声も上がっている。このオプションの選択は加盟国でまだ決まっていないことから、今後加盟国がどのような選択を行い、その結果どのような「共通」農業政策が実施されることとなるのか注目していきたい。

 今回のCAP改革合意は、3回の農相理事会を開催してようやく合意となった。一方、2003年12月に開催されたEU首脳会議では、2004年5月1日から25カ国となるEUのあり方を規定するEU憲法草案について、首脳会議では例のない「決裂」という事態となり、一つにまとまる難しさが露呈された。本年5月からEUが拡大し、EUとしての意思決定がさらに難しくなっていく中、このCAPの運営や、今後の進展が期待されている世界貿易機関(WTO)交渉などについてどのような意思決定をし、対応していくのか、さらに新加盟国の農畜産業がどのように進展していくのか、引続き見守って行く必要がある。



参考文献

「Council Regulation (EC) No.1782/2003,1783/2003,1787/2003,1788/2003」
「共通農業政策(CAP)の中間見直しについて(畜産の情報−海外編2002年11月号)」(山田理、関将弘(2002年))
「中・東欧の畜産の概要とEUの拡大について(畜産の情報−海外編2003年4月号)」(関将弘、山田理(2003年))
欧州委員会ホームページ



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