特別レポート

鳥インフルエンザによる東南アジア養鶏産業への影響
〜発生確認国(タイ・インドネシア)の事例を中心として〜

シンガポール駐在員事務所 木田 秀一郎、斉藤 孝弘

はじめに

 東南アジア地域では歴史的に、畜産業に占める家きん産業の比重は高く、近年はタイを中心に飼料部門から生産・加工までを大規模一貫経営とするインテグレーターの存在感が高まっており、これら大規模経営を中心にEUや日本など消費国への輸出産業の発展が目覚ましい。一方で、従来の零細農家による自給自足型庭先養鶏が占める割合も高く、そういった経営ではまだまだ食品衛生に対する意識や各種疾病の予防や防疫措置への意識が低い。昨年末から世界的に発生が確認されている高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は、東南アジアにおいても年明け以降各国で続々と発生確認が報告されており、気温の上昇と共に現在は鎮静化に向かいつつあるものの、未だ新たな発生が報告されており、各国政府・業界による撲滅へ向けた努力が続けられている。

 しかし、このような家きん産業の大規模集約化と自給自足型庭先養鶏が混在する状況は、感染力が強く生産現場に壊滅的被害を及ぼす疾病のまん延防止対策を行う上で様々な困難を生じることとなり、大規模な企業経営体や単一国の政府の努力のみでは解決出来ない問題を生じる。

 さらに、主要輸出先市場においては近年、ますます食品の安全性に関する意識の高まりがみられ、2002年3月に、EUに輸出されたタイ産鶏肉から、欧州で使用が禁止されている抗菌剤が発見されたことによる輸入停止措置から、鶏肉輸出が減少に転じブロイラー生産の低下を招いたことが記憶に新しく、今後の輸出市場の拡大を目指す家きん業界にはさらなる安全性の確保が求められている。

 本稿では、東南アジア最大の鶏肉輸出国であるタイを中心に、基本的な衛生対策や防疫対策について紹介し、HPAIのような家畜伝染病のまん延があった際の対応状況について総括することで、国家間の協力態勢整備、同様の事態が発生した場合の取り組み、あるいはそこで求められる我が国の役割を考えるための参考に資することとしたい。
 

1.経緯

表1 高病原性鳥インフルエンザ発生と各国対応の経緯

 


2.インフルエンザに対する防疫体制

 東南アジア地域ではタイ、ベトナムをはじめインドネシア、カンボジア、ラオスの各国でHPAIの発生が報告されているが、その中でも日本の鶏肉需給に及ぼす影響が大きく、食品生産・流通に際しての安全性確保に対する問題意識が近年急速に高まっているタイおよび当該地域では唯一政府による疾病制圧のための方針の中でワクチンの戦略的使用が定められているインドネシア、これら両国の防疫体制についてその概要を紹介する。

(1)タイの防疫対策

(ア)法令上の位置づけ

  HPAIは、農業協同組合省によるタイ歴2499年(1956年)付家畜伝染病法(1999年改正)により強い伝染性をもつ疾病として規定されている。同法上の規定ではとう汰、移動制限、検疫、生産者補償およびそのほか必要とされる対策を行うこととされている。

(イ)緊急対策(担当部局:農業協同組合省畜産 開発局)

図1 タイの鳥インフルエンザ検疫手順に関するフローチャート

 

フェーズ I :発生期間中の対策

(1) 確定診断基準

  下記の疾病確定方法は早期発見を目的としており、家きん類(鶏、アヒル、ウズラなど)の診断に適用される。以下のいずれかの症状が発見された場合、速やかな対策措置を取る必要があると規定される。

 ・ 臨床症状として呼吸速迫、過度の流涙、鶏冠、肉垂、脚部にチアノーゼを呈し、羽毛の逆立ちが見られる。また下痢・神経症状を呈した場合。

 ・ 臨床症状が見られなくてもほぼ100%の突然死または、3日間で累積死亡羽数が群全体の40%に達する場合  

(2) 具体的な対策

 ・ 予防的とう汰

  疑わしい事例が確認された場合、サンプルを回収の上病理検査を行う。HPAIと確認された場合、当該鶏舎は全羽とう汰の上消毒を行う。発生農場から5Km以内の養鶏施設はすべてとう汰の上消毒を行う。

 ・ 発生中の監視

  発生農場から50キロメートル以内は集中監視を行う。また、圏内での家きん類の飼養は禁止される。ウイルスの採集・分析には飼養される家きんの排泄口にスワブを挿入の上採材する手法を用いる。当該検査でウイルスが同定された場合、当該農場は発生農場として同様の措置を受ける。

 ・ 移動制限

  発生農場から60キロメートル以内の地域では家きんおよび家きん製品の移動は禁止される。畜産開発局は、検問所を設けこれらの移動を監視する。

 ・ 注意喚起

  関係企業、家きん飼養業者、一般住民に対し適切な対応を促すための注意の喚起と感染予防のための情報提供を行う。



フェーズ II :発生後の対策

 ・ 原則と対応

  確定診断基準に適合する事例が、最終発生農場でとう汰・消毒を行った後、21日間新たな発生が見られない場合、飼養の再開が検討される。飼養再開が認められた場合は、以後5カ月間疾病監視が行われる。

 ・ 発生後再発監視

  畜産開発局が策定した「鶏衛生計画」"The Sanitary Chicken Project"に基づく対応を行うとされた。

  疾病コントロール対象地域(50キロメートル圏内:以下管理地域)以外の地域(以下監視地域)であっても、疑わしき事例が見られた場合はウイルス学的および血清学的調査の対象となる。当該プロジェクトでは管理・対象地域ごとに検査のための採材手順を規定している。採材された検査試料は、国立家畜衛生研究所・地方獣医研究診断センターへ送付された後検査を受けることとされている。

  管理地域内では、ウイルス学的検査のための採材を全羽とう汰後30日目に行うこととする。HPAIを確定する検査については30日間、週2回臨床検査を行った後、5カ月間、2週間ごとに1回同様の検査を行う。これらの検査により感染が発見された場合は、初回発生確認日以降の手順を同様に繰り返すこととする。



フェーズ III :中長期的監視及び調査

○ 2004年1月発生確認以前の対応

  「鳥インフルエンザ抽出調査(1997-2002)」  (国立家畜衛生研究所ウイルス部ほかによる)

 "Laboratory Surveillance on Avian Influenza in Thailand during1997-2002"

  1997年から2002年までにタイ全国各地からサンプルを採集してA型鳥インフルエンザの特定抗原型について3,600検体の抽出検査を行っているが、すべて陰性の結果を得ている。

  なお、サンプルは受動調査として国立家畜衛生研究所または地方獣医研究診断センターに持ち込まれた病鳥からの採材、能動調査としてと畜場および輸入鳥類からの直腸スワブによる採材を行っている。

○ 中長期的な対応方針

  「タイ鳥インフルエンザ調査」(疾病防除部および獣医サービス部による)

 "Surveillance for Avian Influenza in Thailand"

  1997年から畜産開発局の年間予算として約860万バーツ(2,408万円:1バーツ=2.8円)が割り当てられており、受動調査と能動調査に分けられる。受動調査では既存の畜産開発局疾病情報網を利用し、また、国立家畜衛生研究所および地方獣医研究診断センター各施設において検査される。能動調査は次の4つからなり、(1)国内35県におけるニューカッスル病および鳥インフルエンザ検査計画、 (2)と場検査、(3)健康証明及び検疫プログラム、(4)輸入鳥類調査であり、と場で回収される検査試料は生物統計学的に95%信頼限界を満たす水準まで抽出され、試料採集方法はEUにおけるニューカッスル病の場合の試料収集規定を準用するとされている。

(ウ)低病原性タイプであった場合の対策

  低病原性鳥インフルエンザ発生農場では全羽とう汰の上、移動制限および鶏舎の消毒が義務付けられる。発生農場は特定の衛生条件を満たした場合、経営を再開することができる。また、発生農場から5キロメートル圏内は以後5カ月間再発監視が行われることとされている。

(2)インドネシアの防疫対策

(ア)法令上の位置付け

   HPAIに対するインドネシア政府の対策は農業省大臣通達96/2004号を元とし、最初の関連通達として農業省畜産総局長通達17/02.04号が2月14日付で発布された。その概要は以下の通りである。なお、その後2回目の通達として鳥インフルエンザ被害に対する補償対策要綱が同局長名で発布されている。

(イ)緊急対策(農業省畜産総局長通達17/02.04号)

 概要

  短期的には清浄地域の清浄化を保つこと、汚染地域においては疾病制御を行うとし、長期的には段階的に全国の清浄化を達成する。当該緊急対策はHPAIの制御・制圧を図るための技術的指針であり、その適用範囲は防疫対策全般で、内容は家畜および家きんの移動制限、検疫・隔離方法、感染家きんに対する選択的とう汰および死体の処分方法、ワクチン使用方針、調査および監視方法、被害を受けた生産者が経営再開するに際しての基準、国民に対しての周知などとされる。

○ 対策地域の設定

  「清浄地域」HPAI発生確認が報告されていない州もしくは島は、自然地形や島しょなどにより感染拡大に困難があるとみなされる場合清浄地域とする。
  「危険地域」発生確認はなされていないが、発生地域との間に自然地形による隔絶が無く発生地域と隣接した地方の場合危険地域とする。
  「汚染地域」病理検査でウイルスの存在が確認された患畜が飼養されていた地域をいう。

○ 対策内容

  清浄地域での消毒、汚染防止
  汚染もしくは感染予防のための対応方針は畜産総局から従来指導されている消毒・防疫基準に基づき、同局所属防疫担当者の監督の下、生産者自身の努力により適切に行うこととされている。
  汚染地域における撲滅対策

(1) 選択的とう汰

  獣医師の臨床診断および病理診断により感染が認められた農場はとう汰処分の対象になる。
  汚染農場で飼養される家きんは、その状態にかかわらず全羽とう汰対象とされる。
  ここでとう汰対象とされた農場に関する補償規定は別に定める。
  とう汰処分は発生農場が主体となり、必要に応じて関係機関の協力を得ながら適切に行う。

(2) 死体など汚染物(死体、卵、ふん尿、羽毛、飼料、汚染された機材など)の処分

  感染拡大防止のため感染農場は飼養施設から20メートル以上離れており、住宅地から充分離れた、農場敷地内の適切な場所を選択し、これらを焼却または埋設を行う。
  これらの汚染物などは焼却炉を用いて完全に焼却するか、焼却後埋却処分することとする。
  埋却の際は1.5メートル以上の深さとし、埋却後石灰を散布することとする。
  農場敷地外で処分を行う場合は防疫担当者の許可を得ること。

(3) ワクチン使用

  使用されるワクチンは国産もしくは輸入された、不活化処理されたものとし、血清亜型が現場で分離同定されたものと同一か、血清亜型がH5タイプのものとする。使用に際しては農業省への登録と承認を要する。
  ワクチン使用に際する基準
  汚染地域内でのみ使用できる。
  ワクチンは健康群に個別接種することとし、 必要に応じて2回目を接種する。
  接種範囲は原則、汚染地域の全ての家きん類とする。
  接種方法は採卵鶏の場合4−7日齢時0.2ml頸部皮下注射、4−7週齢時0.5ml頸部皮下注射、12週齢時0.5ml頸部もしくは胸部皮下注射。その後は3−4月毎に0.5ml胸部皮下注射。ブロイラーの場合4−7日齢時0.2ml頸部皮下注射。

  ワクチネーション後の監視は各地方獣医学疾病監視センター(BPPV)などにおいて免疫血清学的検査を行うものとする。

(4) 移動制限

  全ての家きん肉、卵、副産物は品目ごとに下記のとおり移動制限を受ける。

○ 初生ひな

  汚染地域から清浄地域または危険地域に移動する場合、種鳥用素ひな(ペアレント・ストック:以下PS)の場合は その親鳥(ブリーディング・ストック:以下BS)が過去30日間に疾病の発生がないことを条件に許可される。それ以外の場合は移動禁止。

  汚染地域から他の汚染地域に移動する場合、疾病発生のない農場由来のものであればPSおよびコマーシャル用のものが許可される。

  初生ひなの移動は1回限りとし、移動の際使用されたケージは到着地で処分することとされる。

  移動に際しては防疫担当獣医師による衛生証明書を家畜衛生課長および出発地所属州の家畜保健所に届け出ることとする。この衛生証明書では当該初生ひなの使用区分(PSもしくはコマーシャル用途)と由来BSは30日間疾病発生がないことを証明することとする。

○ 家きん

  汚染地域から危険地域への移動は禁止。汚染地域から他の汚染地域への移動の場合、ワクチンを接種してから21日以内であり、過去30日以内に発生のない農場由来であること、移動後、搬送用ケージは速やかに廃棄されることを条件に移動が許可される。

○ 家きん肉製品

  卵を汚染地域からその他の地域に輸送する場合、生産農場で過去30日間疾病発生が無く、輸送前に卵とその搬送用ケースが消毒されたもので、ケースは使い捨てのものを使用する場合許可される。

  家きん肉を汚染地域からその他の地域に輸送する場合、生産農場で過去14日間疾病の発生が無く、規定の家畜衛生規定を満たす場合許可される。

  家きん肉製品を輸送する場合、地方政府所属獣医師の証明書を州家畜保健所および家畜衛生課長に届け出ることとする。

○ 家きん用飼料

  汚染地域からの移動は目的地へ直接輸送する場合は可能とする。飼料工場の半径1キロメートル以内に家きん飼養施設がある場合、過去30日以内に疾病の発生がないことを条件に移動可能とする。飼料運搬に際して、防疫担当者の監督の下、飼料工場および到着農場の双方で適切な防疫措置を取ることとする。

  家きん由来副産物(羽毛、たい肥ほか)

  汚染地域からの全ての地域への移動を禁止する。

  上記移動制限に関わる物品は動物検疫所職員により境界、港、空港などで検査される。

  防疫担当者または関連機関により適宜、上記の移動禁止もしくは制限措置が取られる。

(5) 調査及び監視

  疾病発生源の特定と発生後のまん延防止のため、家きんおよび家きん肉製品およびその他全てのまん延を拡大する可能性のあるものについてボゴール家畜疾病監視センターおよび各地方家畜疾病監視センター(BPPVR)を中心とし関係各機関の共同で調査監視を行うこととする。

(6) 国民への周知

  国民社会への周知徹底はテレビ・新聞・出版物・パンフレットなどを用いて正しい知識の普及に努め社会的混乱を防止することとする。情報ホットラインの開設と併せて危機管理センターを設け、家きん関連各種協会・産業界との協力の下必要に応じセミナーや研修を行う。

(7) 経営再開基準

  必要とされる全ての消毒措置が取られた後1か月以上経過した家きん飼養施設の場合当該施設での飼養が再開出来るものとする。

(8) 全羽とう汰

  病理検査によりHPAIと特定された場合、発生農場から半径1キロメートル以内で飼養される家きんは病兆の有無にかかわらず全羽とう汰の対象となる。ただし、疾病のまん延状況により、全羽とう汰による生産者の経済的損失があまりに大きすぎる場合や、まん延が広範囲にわたる場合などには必要に応じて選択的とう汰と健康群へのワクチネーションによる疾病制圧方法を取り得る。

(9) 監視、報告、評価

  監視

  ボゴール家畜疾病監視センター(または中央政府)および各地方家畜疾病監視センター(BPPVR)(または地方政府)の協力により現地で疾病発生が確認されている間は疾病監視を続けるまん延状況の適切な把握に努めるものとする。

  報告

 地方ごとの疾病発生・終息状況やワクチン使用実績などを取りまとめの上、地方家畜保健所などを経由の上最終的に中央政府畜産総局家畜衛生課長に報告するものとする。

  評価

  地方州政府および中央政府は会計年度末に当該対策に要したワクチンや薬品の量、使用機材や移動制限などに要した費用、などついての総合評価を報告するものとする。



3.被害を受けた生産者などに対する補償制度

  ASEAN先進4カ国のうち、HPAI発生が確認されたタイおよびインドネシアにおける生産者に対しての政府・銀行などによる補償制度の概要を紹介する。
 

(1)タイ政府の採った対策

 タイ政府が承認した同国産業省提案による家きん類処理場および関連業者などに対する補償内容は以下の通り。

(ア)生産工場に対する援助は、"Industry Act 2535"の規定に従い318万5千バーツ(892万円)の予算の範囲内で、2002−2008年の5年間課税免除、同じく5年間の工場操業許可更新料の免除、機械登録料の免除を行うとともに、DLDとの協力で家きん肉および同製品の輸出入書類審査を行う。

(イ)中小企業開発(SME)銀行を通じての補助として、融資償還期限を6カ月間無利子で延長すること(総額3億バーツ)、将来のリスクヘッジのためにウィンドレス鶏舎を新設する場合のための融資の新設などを行うこととした。

(ウ)同国政府が承認した農業協同組合省提案によるHPAIにより被害を受けた家きん類飼養農家に対する補償は以下の通り。

・ HPAIによる損失を被った家きん類飼養農家が銀行またはそのほかの金融機関より融資を受けた場合、政府がその償還期限を6カ月延長する。

・ 各農家の被害羽数を確認し、現金もしくは現物による補償を行う。この際、政府による補償を必要とする農家はHPAIによる被害総額を届け出る必要がある。

・ 農家が家きん飼養施設を開放型から閉鎖型に改良する場合の資金調達に際し低利融資を提供する。

=家きん種ごとの補償率=

 採卵鶏: 18週齢採卵鶏の現物支給もしくは市場価格相当の現金または1羽当たり40バーツ(112円)の補償金

 ブロイラー: 22日齢相当ブロイラー相当の現金に加え1羽当たり20バーツ(56円)の補償金

 在来鶏: 2カ月齢相当の在来鶏の市場価格に相当する現金に加え、1羽当たり40バーツ(112円)の補償金

 ガチョウ: 2カ月齢相当ガチョウの市場価格相当の現金に加え、1羽当たり40バーツ(112円)の補償金

 アヒル: 45日齢相当アヒルの市場価格と同等の現金に加え、1羽当たり20バーツ(56円)の補償金

 採卵アヒル: 18週齢採卵アヒルの現物支給もしくは市場価格相当の現金または1羽当たり40バーツ(112円)の補償金

 ウズラ: 45日齢相当ウズラの市場価格相当の現金に加え、1羽当たり5バーツ(14円)の補償金

 七面鳥: 2カ月齢相当七面鳥の現物支給もしくは市場価格相当の現金に加え、1羽当たり40バーツ(112円)の補償金

 ダチョウ: HPAIが原因の死鳥1羽当たり2,500バーツ(7,000円)の補助金の支給に加えて、とう汰計画に基づきとう汰された1羽当たり100バーツ(280円)の補償金


・ 2004年1月1日以前に自主とう汰を行った農家および、2003年12月に被害を受けた農家については地方政府による事実確認の上、適切な援助を受けることができる。

・ 2004年の緊急対策予算総額を約30億バーツ(84億円)とする。

・ 政府によるHPAI撲滅対策により損失を受けた農家に対し、財務省は融資償還期限延長と利子の控除を行う。

・ 管理地域および監視地域において防衛省は農業協同組合省に対し人材を供出し協力する。

(2)タイ銀行協会による家きん飼養農家への補助

(ア)とう汰計画により被害を受けた農家に対する緊急対策

・ 状況に応じ融資償還期限の3〜6カ月の延長、タイ銀行規定に基づく年利率2%での融資提供

・ 負債の再編(とう汰対象農家のみ)

(イ)経営再開のための低利融資の提供条件

・ 年利率2%での融資

・ 融資形態別の利息返済方法の提供

・ 既存施設を担保とする

・ DLDが定める生産基準に適合する施設を有する生産者であること

(ウ)生産施設の改善およびと場の衛生基準向上に資するための長期融資の提供条件

・ 融資形態別の利息返済方法の提供

・ 既存施設を担保とする

・ DLDが定める基準に適合する施設を有する生産者であること

・ 借入者は個人、企業、協同組合のいずれかであること
 

(3)政府系3銀行(政府貯蓄銀行、農業および農業協同組合銀行、中小企業開発(SME)銀行)などによる補助

融資計画:

(ア)HPAIにより突発的被害を受けた生産者に対し、当面の経営運転資金調達のため下記の条件で総額100億バーツの融資を行う。

・ 初めの2年間の利率は2%とし、3年目からは年率5%とする。利息の償還は初年度年末とし、2年目は半年に1回、3年目以降は月払いとする。

・ 既存施設を担保とみなすことができる。ただし、農場の生産基準はDLDの定める基準に従うものであることを条件とする。

(イ)生産設備改善資金として総額100億バーツ(280億円)の長期融資を行う。

・ 借入者1件当たり500万バーツ(1,400万円)を超えない範囲とする。

・ 借入期間は10年以内とし、初めの2年間は償還猶予とする。

・ 初めの2年間の利率は2%とし以後年率5%とする。

・ 利息の償還については初年については年末、2年目は半年に1回、3年目以降は元金および利息について月払いとする。

・ 土地、生産施設、生産認定証を担保物件とみなすことができる。

(ウ)と場の衛生基準改善のために技術・設備の向上を図るため、総額50億バーツ(140億円)の融資を行う。

・ 融資額はと場1件につき1億バーツ(2.8億円)を超えない範囲とする。

・ 利息は年率5%とする。

・ 償還期限は初年償還猶予を含む5年以内とする。

・ 個人、企業、協同組合が融資対象となる。
 

(4)インドネシア政府の採った対策

 政府による家きん飼養農家に対する補償は農家からの届け出を受けて現金による直接補償を行うとされ、下記の対策が発表された。ただし、ここで示した補償金額は公表当初のもので、その後補償金額の見直しが行われている。ここでは主に、以下の基準に適合する中小規模の経営基盤が脆弱な家きん飼養農家が対象となるが、いわゆる庭先養鶏などの極小規模の飼養者は対象とならない。

 農業省は当該対策融として2,120億ルピア(21億円:1ルピア=0.01円)を申請しているが3月第3週現在、緊急的に拠出可能とされた総額はこのうち800億ルピア(8億円)とされた。

○ 技術チームの結成

  地方家畜保健所所属獣医師、地方政府職員、警察官などで当該補償を行うための技術チームを結成する。

○ 補償金申請方法

  HPAIによる被害を受けた生産者は地方家畜保健所や技術チーム等を通じて24時間以内に口頭、もしくは文書で報告すること。

  地方家畜保健所や技術チームは報告を受けた後、当該生産農場の検査を行い、感染が認められた場合は当該飼養施設についてとう汰、消毒を行い、とう汰報告書を作成する。

  報告書は地方家畜保健所を通じて農業省畜産総局へ送られ、事実確認の後生産者補償金が支払われる。

○ 補償対象となる生産者

  ブロイラー生産者の場合、生産規模が1サイクル当たり1万5千羽以下の場合とする。

  採卵鶏農家の場合、生産規模が1サイクル当たり採卵種鶏1万羽以下の場合とする。

  地鶏(雑種含む)、アヒル、白鳥、ガチョウ飼養者については50羽以上。

  鳩の場合100羽以上、ウズラの場合500羽以上。

○ 補償対象期間

  補償対象期間は2004年1月29日から同年7月29日までの発生に対して行われるものとする。

○ 補償限度

  以上の全ての家きん飼養者に対する補償の上限は1農家当たり5千羽までとする。

○ 補償金額

  ブロイラーについては初生ひな価格と30日齢までの飼料価格の合計を基準とし、1羽当たり4千ルピア(40円)とする。

  採卵鶏については初生ひな価格と60日齢までの飼料価格の合計を基準とし、1羽当たり5千ルピア(50円)とする。

  地鶏は1羽当たり5千ルピア(50円)とする。

  ウズラの場合1羽当たり1千ルピア(10円)とする。
 

4.大規模生産者(インテグレーター)を中心とした業界の経営動向と影響

 
表2 2003−04年品目別鶏肉輸出量
 
(単位:トン)
 
資料:タイブロイラー輸出入協会


 ASEAN諸国の中でも日本の鶏肉需給に及ぼす影響が大きいタイの代表的な大規模生産者が受けた影響について紹介する。

 タイの2003年経済成長率は6.5%で、タクシン首相の公表によると2004年の成長率は8%を目標とすると発表されている。同国における好調な景気の影響を受けて昨年後半からタイ証券取引所における証券取引指数(SET)が年当初と比較して2倍に上昇、この影響で新規株式公開が進んだ。

 HPAIが確認される以前、タイの鶏肉輸出は世界第4位であった。輸出額全体に占める冷凍家きん肉のシェアは0.5%、林・水産品を除く農産品全体に占める割合は9.1%となっている。タイ銀行は鳥インフルエンザが及ぼす同国GDP成長率への影響は0.4%と試算しており、また、タイ中央銀行は2004年のGDP成長率は6.3〜7.3%と予測している。

 同国養鶏業界の話では、鳥インフルエンザの影響により輸出品に占める加工品の割合が高まる最近の傾向が、ますます加速されるだろうとする一方、中小養鶏業者の整理再編が進み、伝染性疾病に対するリスク軽減のため鶏舎のウィンドレス化が進むと予測している。

 タイブロイラー輸出入協会によると、昨年末の2004年ブロイラー輸出予測は冷凍鶏肉で45万トン、鶏肉調製品で18万トンとされていたものの、現在その予測を大幅に修正して冷凍鶏肉が14万トン(対前年比64%減)、鶏肉調製品が22万5千トン(対前年比43%増)としている。

・ タイにおける主要インテグレーター企業の最近の動向および鳥インフルエンザが経営に及ぼした影響は以下の通りである。

(1)チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)

 タイの財閥系複合企業であり世界20カ国に投資するチャロン・ポカパン・グループの基幹部門である食品生産部門の子会社チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)は家きん肉のほか、豚肉、水産部門など幅広い業務展開をしている。同社の昨年の売上総額は831億バーツ(2,327億円)、2002年の766億バーツ(2,145億円)に比べて8.5%の伸びとなっているものの、昨年の純利益は22億4千万バーツ(62億7,200万円)、前年の26億バーツ(72億8千万円)と比較して14%の減少となっており増収の一方で減益となっている。同社は3月、鳥インフルエンザの発生により2004年の売り上げ目標を大幅に修正して対前年実績の5%増にとどまるとの予測を発表している。

 2003年第1四半期は抗生物質残留問題によりEUから鶏肉の禁輸措置を取られた影響が大きく8億2千万バーツ(22億9,600万円)の経営損失を被ったが残りの3四半期は黒字決算となっている。しかし第4四半期には米国工場が9億バーツ(25億2千万円)に相当する損失を出しており、経営全体に影響を及ぼした。

 HPAIの発生が確認されたことで鶏肉の国内需要と価格が共に急落し、2月の売り上げは通常の3〜4割程度にまで落ち込んだ。また1、2月の日本をはじめ各国による輸入停止の影響は大きく、同社の輸出品に占める日本市場の割合は50%以上、総売上の7〜8%に達すると言われている。うち約6%は冷凍鶏肉、2%が加工品とされる。

 同社の最近の株価動向は昨年末、4〜5バーツ(11〜14円)で推移していたものの第4四半期における損益の影響などから徐々に下降傾向で推移していた。とはいえ同社は養鶏部門のほかに多くの農業関連部門を持つこともあり、年末頃からタイ国内での鳥コレラによる被害の報道とHPAI説が流布されたものの、その下げ幅は緩やかであったが、日本による輸入停止措置のあった直後の1月23日には22バーツ(62円)にまで下がった。その後2月は19〜23バーツ(53〜64円)の間で推移し、3月1日には4バーツ(11円)の最安値を記録し、その後も低調に推移した。

 
図2.1 CPF株価動向
 
 

 

 米国アラバマ工場の売却

 CP-USAは同社の出資率99.95%の子会社で、週間処理能力100万羽、アメリカ国内市場をターゲットにし、将来的にはアジア地域への輸出も念頭に置きながら、年間1億ドルの売り上げを目指してアラバマ州に6年前に設置された工場である。しかし、最近の4年間は売り上げが伸びず赤字続きで、2003年末の総資産が21億4千万バーツ(59億9千万円)、純損益が11億5千万バーツ(32億2千万円)とされ、昨年、同社は米国工場に対し資本を投入してこ入れを図ると公表していたものの、3月中旬には米国工場を売却すると発表した。総売却額はおよそ16億バーツ(44億8千万円)とされている。

 4番目のベトナム飼料工場建設を延期

 同社は3月下旬、3,000万米ドル(33億3千万円:1米ドル=111円)をかけて年内に建設を予定していたベトナムにおける同社4番目の飼料工場新設を2年延長すると発表した。現在、既存の3工場の飼料生産能力は月間13万トンとされている。ベトナム国内の飼料原料価格は輸入品に比べ高価で競争力が低いため、大部分の飼料原料を輸入に依存している。同国内で同社は最大の飼料メーカーであり、市場シェアの7割は同社製品で、そのうち4割程度が養鶏用飼料とされている。

 ここ15年ベトナム国内で同社は家畜飼料生産のほかに素ひな供給や農家との契約による養鶏事業などの拡大に努めており、ベトナムの経済成長率が7%と活況を呈する追い風を受け、年率20%に達すると言われる事業拡大に成功している。ただし今年の見込みはゼロ成長とする一方、飼料部門を養鶏以外の、主に養豚用にシフトすることで対応するとしている。

 東北部に複合鶏肉加工施設を建設

 同社は4月、タイ東北部ナコンラチャシマ県に週間2百万羽の処理能力を有し、年間25万トンの鶏肉生産を予定する養鶏から鶏肉加工生産までを集約した大規模複合施設が、今年6月から操業を開始する予定であると発表した。この複合施設の総工費は85億バーツ(238億円)とされ、この操業開始により同社の年間鶏肉加工品生産量を4万7千トンから8万6千トンにするとしている。

 東欧・アフリカ地域への投資拡大

 同社は近年、貿易上のリスク分散を目的に日本やEU諸国以外の市場についても開拓に努めており、飼料生産部門や水産養殖部門では既に中国、マレーシア、ベトナム、インドなどに進出しており、昨年は同社系列の香港の子会社がトルコに東欧進出のため養鶏産業の飼料部門の拠点を設けたところである。同社によると3年以内に東欧諸国、主に年間100万トンの輸入需要が見込まれるロシアを中心にウクライナ、ルーマニアなどに養鶏業の拠点を設けたいとしている。また、水産部門ではタイ産のエビをEU諸国に輸出しようとした場合生鮮品で15%、加工品で20%の関税がかかるため、EU諸国へ無関税で輸入出来るマダガスカルにエビ養殖の生産拠点を設けたいとしている。

(2)サハ・ファーム

 1970年に設立されたサハ・ファームは当初、養鶏部門のみであったが1975年以降は輸出に注力し始め、素ひな生産農場、ブロイラー農場、飼料工場、と畜・加工品製造工場などの多角的運営へと事業を拡大し、現在冷凍鶏肉の輸出ではタイ最大規模と言われる。2002年にはタイの鶏肉輸出のおよそ2割を占めるに至った同社では2003年にはEU諸国をはじめ、日本を含むアジア各国におよそ10万トンの鶏肉を輸出しており、今後とも輸出産品に力を入れ、2004年の輸出によるグループ全体の利益目標を200億バーツ(560億円)としている。

 一方、HPAIなどの疾病が発生・まん延した場合直接影響を受け、経営リスクの高い冷蔵・冷凍鶏肉の輸出については長期経営計画の中で今後規模縮小する予定であるとしている。同社によると、今後製品の生産割合としては7割を調理済み製品、3割を非加工品としたいとしている。

 サハ・ファーム社の名による鶏肉加工品の製造ラインのほかに、現在バンコク北方のペチャブン県に100億バーツ(280億円)を投資し、スウェーデンと米国の技術提供を受け、子会社「ゴールデン・ライン社」の名による大規模生産施設を建設する計画が進行中としており、1日当たりの目標処理能力を10万羽、月当たり鶏肉加工品を7千トン生産するとしている。同社は、HPAIにより経営への影響は大きいものの、このプロジェクトについては計画通り進行しており、これにより従来の生産能力を倍にすることが出来るとしている。

(3)ベタグロ

 傘下に多くの子会社や日本の企業との合弁をもつベタグログループ全体の2003年の収益は250億バーツ(700億円)、前年実績の10%の伸びとなっている。うち、輸出部門の収益は100億バーツ(280億円)とされている。日本企業との合弁では味の素、三菱、住友が挙げられ、傘下企業としてはBetagro Agro-group Plc, Betagro Agro Industry Co. , Ltd., Better Foods Co., Ltd., B. Foods Product International Co., Ltd., Betagro Foods Co., Ltd., が挙げられる。2004年の当初売り上げ目標は昨年実績の10%増とされていた。ただし、同グループは家きん部門のほかに豚肉部門、飼料部門、食品製造部門など多岐にわたっており、養豚、養豚用飼料部門は好調とされている。

 同グループは2003年に創立36周年を迎え、30億バーツ(84億円)を投資して首都バンコク北部ロプブリ県に複合飲食施設を整備する構想があり、同社の3カ年計画の中で2005年完成を目標としているほか、今年1月15日には2億4千万バーツ(6億7,200万円)を投資して豚肉加工施設を整備(会社名はBetagro Safety Meat Packing Company Limited)、また輸出用加工食品に用いるスープ工場や、2億3,500万バーツ(6億5,800万円)を投資し1日当たり115トンの生産能力を有するソーセージ工場(運営はBetter Foods社)など3工場をオープンしている。同社は輸出仕向け製品に占める加工鶏肉の割合を昨年実績の3割から6−7割まで拡大し今後のリスク回避を図るとしている。

(4)GFPT

 シリモンコルカセム一族の経営による大手インテグレーターであるGFPT社の昨年の売り上げは一昨年から10%成長し、2003年は80億バーツ(224億円)となっている。この主な収益増加要因は輸出量の増大によるものとされているものの、同社の収益全体の75%は国内仕向け製品による。

 同社はCPFなどのような多角経営と異なりほぼブロイラー専業であるため2003年の抗生物質残留に対するEUの検査の厳格化などの影響を直接受けており、2004年の売り上げ目標としてはHPAI発生による影響を考慮し、前年比で7〜8%増を目指すとしている。

 同社は2005年の操業開始予定で総工費3億5千万バーツ(9億8千万円)の飼料生産工場の建設を計画しており、自社農場で飼養する輸出仕向けのブロイラー用飼料生産能力を1時間当たり100トンに高めたいとしている。

 また、ブロイラー生産能力そのものについても、現在の1日当たり処理能力13万羽であるのを2005年までに5億バーツ(14億円)を投資することで20万羽まで高め、現在の年間鶏肉製品生産量約6万8千トンを10万トンにしたいとしている。

 同社の最近の株価動向は昨年末、26〜28バーツ(73〜78円)で推移していたものの年末頃からタイ国内での鳥コレラによる被害の報道と鳥インフルエンザ説のまん延などから翌1月15日には25バーツ(70円)に下がり、日本による輸入停止措置のあった直後の1月23日には19バーツ(53円)にまで下がった。その後2月は19〜23バーツ(53〜64円)の間を推移し、3月1日には21バーツ(59円)、同23日には20バーツ(56円)と低調に推移した。

図2.2 GFPT株価動向


(5)タイ養鶏グループ

 チャベワン・インターナショナルフーズ、C.F.孵卵場、チャベワン・ファームなどを擁する同グループは契約農家からの原料供給が50%、残りの半分が系列企業からのものとなっており、2003年の売り上げはおよそ15億バーツ(42億円)とされている。インフルエンザ発生前には2004年売り上げ予測を17億バーツ(47億6千万円)としていたものの、下方修正を余儀なくされる見通しである。同グループによると好調な調製品の価格動向により、下半期に輸出用加工品の生産を伸ばすことで対応したいとしている。

 また、同グループは2002年に20億バーツ(56億円)を投資して冷凍鶏肉工場、鶏肉加工場、飼料工場を建設しており、スリラチャに建設された施設は付加価値商品仕向けとされている。ここでは1時間当たり600kgの鶏肉処理能力を備えた製造ラインが2本平行している。

 一方と場に隣接して建設中の調製品製造工場が今年6月に操業開始を予定しており、各種加熱調理鶏肉製品を1時間当たり4.5トン生産することが可能となる予定だとされている。

 これら新規投資による事業拡張によって、鶏肉調製品全体の生産量を月間2,900トンにするとしている。

5.被害状況

(1)タイ

 タイ政府の発表によると、同国のHPAI撲滅方針に基づきとう汰された家きんの数はブロイラーが2千万羽、採卵鶏が1千万羽で合計3千万羽に上るとされ、大量とう汰が行われたのは全76県のうち43県に上るとされたが、DLD消息筋によると、これは同国全体の飼養羽数の5〜10%に相当するといわれている。そのうち採卵鶏は全体飼養羽数の約1/3がとう汰され、現在供給不足から卵価が上昇している。HPAI発生前の価格は1個当たり平均1.5バーツ(4円)程度であったものが3月末現在3バーツ(8円)程度で取引されているとされる。

 被害の大きかったバンコク北西部スパンブリ県では1月23日、採卵鶏農場から同国最初のHPAI確認がされており、県内1,981農場のおよそ7百万羽がとう汰された。

 チャチェンサオ県での被害も大きく、発生農場から半径5kmに養鶏場が集中していたため、1,100農場の6百万羽の採卵鶏がとう汰された。

 また、3月28日農業相発表によるとチェンライ、チェンマイ、ランプン、ランパン及びナンの北部5県の合計とう汰羽数は約3〜4百万羽に上るとされた。

 一方、バンコク市内のとう汰羽数はわずかに10万羽とされ、そのうち9割以上はノンチョック地方からの闘鶏用シャモとされている。

(2)インドネシア

 同国では2003年8月頃から家きん疾病による大量死が報告されているが、ニューカッスル病との混合感染であったこともありHPAIを原因とするへい死数を特定する資料はない。以下に2003年8月以降の同国における州毎の月別へい死数を紹介するが、当該数字には他の疾病によるへい死数、HPAI撲滅対策でのとう汰による処分数を含んでいる。

表3.1 2003年8月から2004年2月までの家きんへい死数
出典:農業省畜産総局鳥インフルエンザ危機管理センター、2004.3


 2004年2月末までにHPAI発生が終息していないとされたのは全国6州19地方とされ、その内訳は中央ジャワ州で8地方、東ジャワ州3地方、バリ州5地方、ジョグジャカルタ州1、中央カリマンタン州1、西カリマンタン州1となっている。

表3.2 家きんの大量死が報告された州別地方数
出典:農業省畜産総局鳥インフルエンザ危機管理センター、2004.3


 家きんのへい死が最も多かったのは2003年12月で、広域的にへい死が見られたのは2003年10月で8州23地方に及んだ。HPAI発生が確認された2004年1月及び2月はへい死羽数ではむしろ終息に向かっているようにみえる。

表3.3 2003年8月から2004年2月までの州別家きんへい死数
出典:農業省畜産総局鳥インフルエンザ危機管理センター、2004.3


終わりに

 5月の23〜28日にかけてパリで開催された第72回国際獣疫事務局(OIE)年次総会ではHPAIに関して国際基準の改正案が出されたところであり、そこでの議論の中心はコンパートメンタライゼーション(区分化)、つまり生産段階から加工・流通までのすべての段階で、野生鳥類などの流行性疾病伝達因子から隔離することが可能な形態を保ちうる製品に限っては、輸入国による禁輸措置が免除される枠組みを構築しようという提案に関する検討であった。しかし、輸出産業として養鶏を捉える各国の生産形態にはギャップがあり、各国の思惑により独自の解釈に持ち込もうとする動きが強く、結論は来年の次回総会に持ち越される形となった。

 東南アジア地域の養鶏産業は外貨獲得を目的とし、大手インテグレーション企業によって大規模生産団地を造成、主に輸出用製品の大規模集約生産という方向性と従来型のバックヤードファームと呼ばれる自給的要素の強い零細生産に大きく分けられ、国毎の経営を取り巻く環境は異なるものの、各国の農業政策としてはこれら2つの経営類型に対する両面的なアプローチを打ち出す方向性に流れている。HPAIの発生は、生産量、輸出量でアセアン諸国の中では先頭を走るタイ産鶏肉は2002年3月の欧州における抗菌剤残留問題による禁輸措置などをきっかけに食品安全性の確保に関して意識の向上が進んでいる矢先の出来事であったこともあり、2004年1月まで確認例の無かった当該疾病をも含めた防疫対策の拡充が期待されている。事実、本文にあるようにタイにおいては多くの大手養鶏業者は新規設備投資に意欲的な態度を変えていないことからもそのことは伺える。

 今回のHPAI発生によりタイのように大規模生産が定着した国では生産現場のオートメーション化、ウィンドレス化はますます進むと同時に中小・零細経営の整理再編についても加速するものと思われる。

参考文献

 "The Situation and Influence About Outbreak of High Pathogenic Avian Influenza (HPAI) in Thailand"
-Agrisource Co. Ltd. 2004
 "The Situation and Influence Caused by The Outbreak of Highly Pathogenic Avian Influenza (HPAI) to Malaysia"
-Federation of Livestock Farmer's Associations of Malaysia (FLFAM) 2004
 "The Situation and Situation and Influence Caused by The Outbreak HPAI to Indonesia"
-Dr. Ronny Mudigdo 2004
 "The Situation and Influence about Outbreak of High Pathogenic Avian Influenza (HPAI) in Philippines"
-Leo Garcia Osalvo 2004



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