全国家畜個体識別制度をめぐる動き      ● 豪 州


主要牛肉生産5ヵ国、家畜個体識別制度を検討

 豪州肉牛生産者協議会(CCA)のキース・アダムス会長は、1月末にアリゾナで開かれる主要牛肉生産5カ国(豪州、ニュージーランド、米国、カナダ、メキシコ)の生産者団体によるビーフグループ会議で、国際的に統一された家畜個体識別制度の構築を検討したと述べた。同会議では、過去、その時々の参加国に広範囲に影響を及ぼす重要な問題について協議を行ってきた。

 同会長は、日本、カナダ、米国で近年相次いで牛海綿状脳症(BSE)が発生したことから、牛肉産業界では、BSEなどの疾病対策に効果的なトレーサビリティシステムの構築が最優先課題になっているとし、そのため、「各国で独自の家畜個体識別制度の早期導入が図られており、米国でも速やかな実施が検討されている」と述べ、個体識別制度導入の重要性を指摘している。

NLIS義務化、早期実施の可能性も

 また、米国の家畜個体識別制度に関する検討を受けて、豪州の電子標識(耳標他)を利用した牛の全国家畜個体識別制度(NLIS)を推進する豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)では、豪州牛肉の最大の輸出先である米国への牛肉輸出を継続していくためには、豪州での個体識別制度の完全実施が不可欠との見方を示し、豪州でのNLIS早期義務化の可能性もあり得ることを示唆した。

 NLISの義務化は、ビクトリア(VIC)州で他の州に先駆け、2002年1月以降生まれた牛にNLIS耳標の装着を義務づけ実施されたが、ニューサウスウェールズ州、南オーストラリア(SA)州、タスマニア州は2004年7月1日から、クインズランド州、西オーストラリア州、北部準州は2005年7月1日からの実施を目標としている。

NLIS導入に関する議論

 一方、NLISの導入については、依然生産者から反対の声もあり、これに対して、MLAでは次のように述べ導入を推進している。

・ 個体識別は現在のテールタグで十分との意見があるが、テールタグは脱落しやすく、一旦紛失するとトレースバックが困難になる。
・ 日本やEU、ニュージーランド、ブラジルは、家畜のトレースに中央データベース(DB)を使い、個々の牛にNLISのような電子的な耳標を必要としていないとの意見があるが、NLISは、他の手法に比べ、正確性や処理スピード、DB運用コストなどに優れている。例えば、英国では、紙に書かれた情報をDBに入力しており、その処理のために500人を雇用し、1頭当たり50豪ドル(約4,150円;1豪ドル=83円)の費用をかけている。一方、NLISでは2人で年間約40万豪ドル(約3,320万円)の費用でDBを運営している。
・ NLISは、家畜を疾病から防ぐことができないとの意見があるが、NLISは疾病を防ぐためのものではなく、すばやく疾病の拡大を封じ込めるためのものである。2003年のVIC州での炭そ病発生時も、同一農場内の他の牛の移動状況を20分以内に把握できた。
・ 豪州の広大な農場ではすべての牛を集めて耳標装着するのは困難という個体識別の導入自体が難しいとの意見があるが、と畜前の個々の牛について牧場間の移動状況を把握することが重要としている。

SA州のNLIS導入計画

 このようにMLAではNLISの導入を推進しているが、個々の牛の電子耳標費用や、耳標の読み取り機などの経費負担が問題となっている。

 SA州政府が先頃発表したNLISの導入計画によると、NLIS導入のために、約250万豪ドル(約2億750万円)の財源を用意し、NLIS耳標一個当たり70セント(約58円)を補助することとした。また、NLIS耳標は、2004年秋以降生まれた牛すべてに、生まれた農場から他の農場などへ移動するときに装着することが取り決められた。今後は他の州の対応が注目されるところである。


元のページに戻る