特別レポート

韓国の豚肉、鶏肉および酪農産業の概況

調査情報部 調査情報第1課
はじめに

 韓国は、隣国として政治的、経済的にも日本と緊密な関係が構築されている。韓国政府は1997年11月、アジア通貨危機の波及による韓国通貨ウォンの投機売りから、IMFへの緊急融資を要請し、韓国経済は大幅に落ち込んだ。しかし、1999年以降、ハイテク関係の輸出の急増などを背景に著しい経済回復を遂げ、近年その伸びはやや鈍化しているものの、経済の好調さは持続されている。

 このような中、韓国はチリとのFTA(自由貿易協定)を2003年2月に調印したが、韓国内における農業団体がFTAやWTO農業交渉による農産物自由化に反対する運動を盛んに行った。FTA批准案は2003年7月に国会に提出されたが、採決が阻止され、2004年2月にようやく4回目で国会を通過し、本年4月1日から発効された。これにより韓国における初のFTAが発効したことになるが、今後、日本、シンガポールのFTA交渉を控えており、今後の動向が注目される。

 このことから、韓国・チリFTAの概要を紹介するとともに、韓国における主要な畜産物の概要についてみていきたい。

韓国・チリFTAの概要

(1)米、リンゴ、ナシなどが例外品目

 FTAの批准案は、農業生産者の大規模な反対運動で、国会採決が3度にわたり延期されたが、韓国でセンシティブな品目であるコメ、リンゴ、ナシは例外品目となっている。また、ブドウは、季節関税を適用することとなった。なお、チリは、洗濯機や冷蔵庫が例外品目とされた。

 加えて韓国の唐辛子、ニンニク、タマネギ、粉乳などの乳製品、牛肉などの主要品目については、ドーハ開発アジェンダ(DDA)に基づく、現在行われている世界貿易機関(WTO)の農業交渉終了後に再協議することとなった。

 韓国・チリFTAでは、農産物の輸入急増を防止するためのセーフガード(SG)を設定している。

 主な畜産物の批准内容は以下のとおりとなっているが、豚肉は、10年後に関税を撤廃するとしている。

(2)FTA農家対策

 2003年2月に就任したノ・ムヒョン大統領は農家の置かれている厳しい現状に鑑み、2003年11月12日農家支援対策として今後10年間で119兆ウォン(11兆2千億円、100ウォン=9.42円)の農家支援策を公表した。また、今回のFTAの締結に伴い、韓国政府は1兆2千億ウォン(1,130億円)に上るFTA基金の創設、資金の低金利融資や直接支払制度の拡充などを柱とした大規模な国内農業支援対策を今後7年間にわたって実施することとしている。

 今回のチリとのFTA締結により、果実ジュースや果実調製品の関税撤廃が行われるため、第一義的には果樹農家への影響が大きいとされているが、畜産についても豚肉の関税撤廃が行われるなど全く影響がないわけではない。こうした背景を踏まえて、韓国の主な畜産物の現況についてみていきたい。

出典:韓国外務省他
 注:牛肉、鶏肉などについては、検疫条件の協議が整い次第、関税割当が行われることとなっている。

豚肉産業

1 韓国の豚肉産業の概観

1.1 歴史的背景

 韓国の豚肉の歴史は、台湾のそれと多少類似している。つまり、口蹄疫(FMD)が産業に及ぼす影響とその他の関連問題が背景にある。

 韓国の豚肉生産量は台湾のピーク時の枝肉生産量(約130万トン)の約2分の1にすぎなかったが、台湾と同様に未だに韓国における最大の畜産業である。また、豚肉を日本に輸出し始めたが、2002年5月に発生したFMDによってこの輸出が中止となった。韓国は台湾と同様に、この問題発生以降、輸出に関して種々の問題を抱え続けている。なお、韓国は2004年2月に日本は口蹄疫清浄国と認定したが2002年4月発生した豚コレラにより依然として輸出は停止している。

 次の図は、FMDにより、日本への輸出が中止となった韓国の状況を示している。

 なお、済州島の豚肉輸出については、FMD、豚コレラとも清浄地域となっていることから、その再開が期待されている。

韓国の豚肉産業の推移


 ところで、韓国の図と台湾とを比較すると、いくつかの類似点があることが分かる。

 ・ピーク時に、両国は主に日本に輸出していた。

 ・両国は、FMDの発生により、日本への輸出が閉ざされたため、台湾は1997-98年、韓国は1998-99年に輸出と生産量が大幅に減少した。

 ・この減少後、両国の生産量は回復した。

 ・さらに、この減少後、両国の輸出は、最小となっている。

 ただし、より重要な点はその相違点である。

 ・台湾の日本への輸出は、FDM発生前は大規模に数年間続いていた。韓国は1997-1998年に日本とのビジネスを積極的に追求するまで、比較的小規模な輸出だった。

 ・FDM発生前の台湾の総輸出量は、生産量の25%を占めたが、韓国のそれは、わずか12%だった。

 ・FDM発生後、台湾の豚肉生産量は徐々に増加しているが、韓国は、その生産量を継続して精力的に拡大している。

 ・両国のFDM防疫対策は異なっている。すなわち、韓国はこの問題を解決したようにみえるが、家畜にワクチン接種をしていない。台湾はワクチン接種プログラムを確定した。

 ・韓国は、現在、別の問題に直面している。すなわち豚コレラの発生であり、この問題によっても日本への輸出が停止している。韓国は現在、豚コレラが拡大しないようワクチン接種をしている。


2 今日の韓国の豚肉産業

 本節では、消費量、生産量、貿易に関して韓国の豚肉産業の現況を分析する。


2.1 概要

 台湾と同様に、韓国は一連の家畜疾病の発生により貿易に打撃を受けた。韓国の諸問題はどれも深刻であるが、これを是正すべく全力を尽くしているように思われる。


2.2 消費量

 FMD問題により韓国の豚肉生産量は1998年から1999年に8%減少したが、それ以降大幅に回復し、2002年には78万5千トンという新たな最大生産量まで増加した。1999年以降、生産量の増加は、次表に示すように(1998年以降の年間1%との増加と比較して)年間平均4%となっている。消費量は1998年以降年間6%という割合で増加しているが、それに伴いある問題が発生している。これについて簡単にコメントする。

 下表は、前述の消費量をまとめたものである。

表1 韓国の豚肉消費量の推移
(単位:千トン)


2.3 生産量

 下表で分かるように、日本が豚肉の輸入を一時停止するとともに、韓国の豚肉貿易の自由化以降諸外国との競争が激化している状況にあっても、豚の生産量は増加の一途をたどっている。

表2 韓国の豚肉生産

2.3.1 豚飼養農家

 韓国の豚総頭数は年間約4%増加しているが、豚飼養農家戸数は1998年の27,000戸から2002年には18,000戸に減少している。これは、小規模農家が離農する一方で、規模拡大が進展した結果である。すなわち、2000年には1000頭を超える豚飼養農家はわずか2000戸であったが、2003年には3,000戸以上が1,000頭以上を飼養するようになった。

2.3.2 豚肉生産量

 表2から分かるように、2002年の豚のと畜頭数は1,530万頭に上っている。この数字は現在のレベルに達するまで、年間5%の割合で増加したことを示している。しかし、豚肉の生産量は、1998年以降年間1%しか増加していない。この差の理由は、1998年から1999年の生産量の減少である。この時期、輸入量が減少し、特に、1998年に大量の豚肉が在庫となった。実際に、豚肉生産量が1999年から起算される場合、その増加率は約5%であり、事実上、と畜された豚の年間増加率と同じである。

 下表は、都市別、地域別豚頭数である。

表3 韓国豚飼養頭数 主要都市、道

2.3.3 価格

 次表は、韓国における豚の農家販売価格、豚肉の卸売価格および小売価格をまとめたものである。

表4 農家販売価格
表5 枝肉卸売価格
(単位:ウォン)
(単位:ウォン/kg)

 この表から分かるように、豚肉の卸売価格と豚の農家販売価格の双方が、1999年の輸出需要の落ちこみを反映している。

 一方、輸入の減少は、年間平均13%という大幅な価格値上げが見られる小売に反映されなかった。また、小売では、販売価格および卸売価格に見られるような2003年の不安定な価格レベルはなさそうである。

表6 小売価格(骨抜き)
(単位:ウォン/500g)

2.4 韓国の豚肉貿易

 2000年以降、輸出量はほぼゼロまで減少しているが、輸入は、2001年の貿易自由化に促されて、牛肉ほどでないにしても、増加の一途をたどっている。


2.4.1 輸入

 2002年に消費量の14%を占めた輸入豚肉は、1998-2002年の間において、年平均25%増加し続けている。


製品別輸入

 韓国は、主にポークベリーとその他の脂肪の多い部分を輸入している。消費者は、ロイン、ヒレ、ももなどの脂肪の少ない部分はそれほど好まない。また、韓国の輸入品は、事実上、すべてが冷凍であり、市場に入るチルド製品はごくわずかである。下表は製品別輸入を示している。

表7 主な豚肉製品別輸入量

国別輸入

 過去2年間の韓国の主要な輸入国はカナダであり、総輸入豚肉の29-31%を占めている。しかし、1998-2000年から、デンマークが主要な供給国であり、この期間のシェアは24-51%となった。米国は、第3位となっている。下表は国別輸入を示している。

表8 輸入国別輸入量
(単位:千トン)

関税

 豚肉輸入は、関税割当数量(TRQ)が排除された1998年に完全自由化された。1998年の輸入関税は32.2%だったが徐々に減少し、2003年には26.2%となった。

 WTO加盟国として、韓国は、1995-1997年には1万8千トン〜2万9千トンの範囲にあったTRQ(枠内関税率25%、枠外関税率33-36%)の排除に合意したことから、韓国は現在完全な自由市場となっている。

2.4.2 輸出

製品別輸出

 韓国は事実上、100%冷凍豚肉を輸出している。チルド製品の輸出については、現行の顧客数が少なすぎるというのが現状である。

 一方、FMD発生前の日本向け輸出の冷凍製品に対するチルド製品の割合は25-50%だった。韓国の製品別輸出は次のとおりである。

表9 主な製品別 豚肉輸出

国別輸出

 1988年および1989年には、韓国の輸出の80-90%が日本向けだった。フィリピンとロシアへの輸出は少量である。日本への輸出が停止となったことで、後者2カ国が韓国の輸出先の大部分を占めているが、依然として輸出量は少ない。下表は韓国の輸出を示している。

表 10 国別輸出量
(単位:千トン)

3 韓国の豚肉産業が直面している主要な問題

 韓国の豚肉産業が直面している問題は

 ・ FMDの再発可能性

 ・ 豚コレラ問題

 ・ 輸出の必要性

 である。

3.1 FMDの再発可能性

  2001年に韓国はワクチン接種を中止し、FMDフリーと宣言し、2001年9月国際獣疫事務局(OIE)から認められた。韓国は、日本が再び韓国の輸出を受け入れるまで1年間待機しなければならなかった。2002年、韓国は日本への輸出準備を整えていたが、2002年5月にFMDが再発した。今回、豚肉産業は、豚へのワクチン接種をしないことを決定したが、日本への輸出に当たり、2004年2月までさらに1年以上待機しなければならなかった。

 しかし、以下に説明するように、2002年4月に韓国で豚コレラの発生が確認され、日本への輸出再開は絶望的となった。

 ところで、韓国は、台湾ほど子豚の密輸入に敏感ではない。その理由として、韓国が北朝鮮をはさんで中国と分離していることが挙げられる。しかし、黄海を渡ってFMDが発生しうると未だに信じている。それ以上に、中国からの旅行者や旅行者が持ちこむ食料によりFMDが持ちこまれることを懸念している。豚コレラ問題に加え、FMDの再発の可能性に大きな懸念が寄せられている。

 韓国政府は、FMDの再発防止に向け次の業務を行っている。

 ・FMDに対する豚の保護法に関するマニュアルを豚飼養農家に配布している。

 ・と畜場での血液サンプリング数を増やしている。

3.2 豚コレラ問題

 日本への輸出を開始しようとしていた矢先の2002年4月に、豚コレラの発生によって豚肉産業は大打撃を受けた。

 今回、豚肉産業は、豚コレラのワクチン接種開始を決定した。ワクチン接種プログラムが中止される場合、韓国はどんなに早くとも2005年までは輸出を再開することはできないものと思われる。

3.3 輸出の必要性

 韓国は輸出を推進する必要がある。韓国人は、特にロイン、ヒレ、ももといった脂肪の少ない豚肉をそれほど好まないため不需要部位が輸出可能な日本市場は韓国にとって理想的である。しかも、国内販売価格よりもはるかに高値をつけることが可能なためである。

 豚肉産業が計画している第一段階は、FDMや豚コレラの影響を全く受けない朝鮮半島の南に位置するリゾートアイランドである済州島から日本に豚肉を輸出することである。済州島は、豚肉生産地である(韓国の総豚数の約4%に当たる400,000頭を飼養している)。しかし、輸出は、年間2千トンは超えないものと予想している。現在、検疫条件などについて、両国政府が詰めの作業を行っている。

3.4 韓国政府の方策

 韓国政府は、産業支援に乗り出している。進行中の方策には、以下が含まれる。

 ・新規の規制のない輸出市場開発に対しMAF(農林省)が支援を行う。

 ・輸出市場への豚肉輸送のMAF支援をトン当たり39米ドル(4,173円)からトン当たり81米ドル(8,667円)に引き上げる。

 ・輸出用の豚を供給している農家に対しMAFが貸付を行う。

 ・(韓国人が好まない)ロインおよびももの過剰在庫を削減するために、豚肉加工用の貸し付けを行う。

 ・国内および海外における豚肉消費推進用資金拠出を目的とした韓国養豚協会(Korean Swine Association)のチェックオフプログラムを実施する。


4 韓国の豚肉産業の将来

 台湾と同様に、韓国の豚肉産業は急速に変化している。プロマー社が一部、政府が設置した農業政策グループである韓国農村経済研究院 (KREI)の予測を使用し独自の見通しを立てている。

 ・生産は、年間2%の割合で緩やかに増加し、KREIの予測と一致する。

 ・輸入は、年間5%の割合で増加し、KREIの予測よりも多く、USDAに近いものとなる。

 ・輸出は、韓国がFMDと豚コレラ問題を解決し日本への輸出を再開する2007年まで変動しない。

 ・上述の結果として、消費量の増加は、年間2%まで減少する。

表 11 韓国の豚肉消費予測
(単位:千トン)

家きん産業

1 韓国の家きん産業の概観

 2002年から2003年にかけての韓国の景気減退は、他のほとんどの畜産生産者以上に家きん生産者に影響を与えた。2003年早期に価格が下落したため、政府は懸命に支援したが、これには限界があった。

 基本的に、韓国の家きん産業は、事実上すべて鶏肉であるが、本産業は比較的小規模ながら順調に成長している。輸入先は主に米国と台湾である。輸入も同様に拡大しており、消費量は一貫して増加している。

 しかし、2003年12月に確認された鳥インフルエンザにより大きな被害を受けることとなった。


2 今日の韓国の家きん産業

2.1 概要

 韓国における鶏肉の消費量は急速に増加している。現在その伸びは、幾分緩やかとなってはいるが消費量は毎年増加している。下表はこの傾向を示すものである。


2.2 消費量

 下表は、前述の消費量についての検討をまとめたものである。

表 12 韓国の家きん肉消費量
(単位:千トン)

 この表で分かるように、消費量は増加傾向にある。

 ・生産量は年間4%増加している。

 ・輸入は、1998年にはわずかであったが、70%増加している(この増加率は、この3年間で年間20%まで減少している)。

 ・輸出はないか、あってもごくわずかである。

 ・消費量は年間10%の割合で増加している。

 2003年の消費量増加率は経済状況を反映して、緩やかであると予想している。

2.3 生産量

 韓国の家きん産業が成熟するにつれ、ますます競合が激化している。下表で現状を確認することができる。

表 13 家きん肉生産の変化

 多数の農家が家きん産業への参入を決意したことで、家きん農家戸数は増加の一途をたどっていた。この数字は、2000年の21万8千戸をピークに減少し始めた。その原因は一部には不況と価格の低下が挙げられる。その過程で、家きん産業は、より少数の飼養農家でより多くの鶏肉を生産するというより効率的な措置を取るようになった。つまり、規模拡大により、一戸当たり飼養羽数で10,000羽以上を飼養するようになったのである。

 総家きん在庫は年間4%増加しており、鶏肉生産量は、この期間同じ割合で増加している。家きん処理施設は、61カ所である。

 鶏肉生産は、下表3-3に示すように、韓国全土に及んでいる。

表 14 韓国の主な都市、道の飼養羽数

2.4 家きん価格

 2003年の家きん価格は、ブロイラーに関し、農家販売価格、卸売価格とも史上最低となる。

 ブロイラー飼養農家の生産コストは、2002年には、生体重キログラム当たり1,010ウォンと見積もられた。2003年には、農家販売価格でわずか890ウォンだった。このように、ブロイラー飼養農家は、コストを約12%下回る価格で販売していた。

 2002年には、価格が急激に下落したが、2003年の最初の数カ月は安定しているように見えた。

 下表は、価格の詳細である。

表 15 農家販売価格
表 16 卸売価格
(単位:ウォン/kg)
(単位:ウォン/kg)

表 17 小売価格
(単位:ウォン/kg)

2.5 家きん貿易

 急増している韓国の家きんの輸入および輸出について述べる。事実上、輸入はないが、家きん産業は輸出を計画している。


2.5.1 輸入

 輸入は、自由化(1997年)以降、毎年増加し続けており、現在は消費量の24%に達している。大量に輸入されている製品はもも肉であり、米国からは標準の骨付き製品、タイからは骨を取り除いた製品を輸入している。中国は鳥インフルエンザ(Avian Influenza)が流行し始めるまで主要な供給国であった。

 2003年の前半年には、タイは米国を抜いて、韓国にとって最も重要な供給国となった。

 下の2表は製品別および国別の輸入を示すものである。

表 18 主要製品別輸入量
表 19 輸入国別輸入量
(単位:千トン)

2.5.2 輸出

 韓国の鶏肉の輸出量は毎年500トン以下であるが、鶏肉産業は日本への輸出を熱望している。現行の業績はこれを裏付けてはいないが、2003年の日本向け輸出量が1,800トンになると期待している。


2.5.3 輸入価格の比較

 韓国市場で輸入品の割合が増加している。下表を参照のこと。

表 20 韓国価格比較 2003年6月
(単位:ウォン/kg)

2.5.4 韓国の関税率

 韓国政府は、1997年まで、鶏肉の関税割当数量(TRQ)(6,500-10,350トン)を実施していた。TRQ枠内関税率は20%だったが、枠外関税率は30-33%だった。この関税割当は1998年に終了した。その年の輸入税は29%のみでTRQは排除された。それ以降、輸入税は減少し、2003年には21.5%となった。


3 韓国の家きん産業が直面している主要な問題

 韓国の家きん産業に影響を及ぼしている最近の問題は次のとおりである。

 ・2002-2003年の低価格

 ・100%HACCP承認された食鳥処理場

 ・鳥インフルエンザ対策

 ・韓国・チリ自由貿易協定

3.1 低価格レベル

 2002-2003年の鶏肉価格レベルの下落は、現地家きん産業を大いに混乱させるものだった。しかし、政府の支援を受けたことで、2003年末までに小売価格は正常に戻ると思われる。

 2002年に、価格と需要の安定を図る目的で産業と政府の共同プログラムが実施された。このプログラムには、政府が250万羽のブロイラーを購入すること、種畜の27万羽のひなを減羽すること、生産の効率化を促進することが包含された。

3.2 HACCP承認規制

 2003年7月に、すべての食鳥処理場は、HACCP要件に合致しなければならないという規制が開始された。この規制は、食鳥処理場の衛生基準の改善のための施設の改築、新築を可能にすることを目的として貸し付けプログラムにより支援されている。

 産業にとってこの効果は非常に有効なはずであり、韓国の鶏肉の品質と安全性を保証することができるものである。


3.3 韓国・チリ自由貿易協定

 2002年に、韓国・チリ自由貿易協定は、2千トンまでの鶏肉を無税とする輸入の許容に合意した。

 韓国の家きん産業は、韓国・チリ自由貿易協定に断固反対した。無税枠2千トンの鶏肉の輸入は少量ではあるが、家きん産業はこれに強く反対した。

 本協定は、2002年に調印され、2004年4月1日から発効した。

 また、鳥インフルエンザ関連については、本号トピックスを参照して下さい。


4 韓国の家きん産業の将来

 韓国の家きん産業は、すべての家畜産業の中でもっとも安定しているようにみえる。消費量の急増により、国内・輸入産業の双方が支援され、本産業が直面する主要な問題はない。

 下表は、この産業の将来の消費予想を示すものである。

 なお、本予測は鳥インフルエンザ発生前に行われたものであるので注意が必要である。

表 21 家きん肉消費量予測
(単位:千トン)

 この予想内で、次のように想定する。

 ・生産量は、継続して年間4%の成長率となる。

 ・消費量は4%の成長率に下がる。

 ・輸入は、継続して増加するが、(輸出の70%に対し)7%という緩やかな年間増加率となる。

 ・本産業での新規の小規模輸出施策の開始が成功する。


酪農産業

1 韓国の酪農産業の概観

 1996年の市場の自由化により、酪農産業は、輸入品との競争の激化に直面している。同時に、最近では生乳が過剰供給されており、飲用向けの需要が減少している。酪農産業と政府は、こうした問題に取り組むべく対処法を模索している。


2 今日の韓国の牛乳・乳製品産業

2.1 消費量

 2002年の牛乳および乳製品の総消費量は、牛乳重量(MW)に換算して320万トンになる。生乳は、現在、その約65%が飲用向け、35%が乳製品向けとなっている。下表は、1998年以降年間8%の割合で飲用と乳製品の総消費量が増加していることを示している。

 生産プラス輸入マイナス輸出の単純な組み合わせであるこの数字は、ここでは、総消費量を多少つり上げる傾向がある。これは、韓国政府が一貫して特に粉乳の在庫を増やしているためである。その理由については、貿易に関する節で説明する。

 下表は、韓国の乳製品の消費拡大を示すものである。

表 22 韓国の生乳消費量
(単位:千トン)

 在庫が増えているにもかかわらず、消費量が増加している主要な理由は、輸入の拡大である。現在、輸入乳製品は消費量のほぼ21%を占めている。こうした製品の詳細- 主に粉乳、チーズ、ホエイについては、貿易に関する節で説明する。輸出は漸増している。

2.2 生産量

2.2.1 牛乳の生産量

 韓国は主に酪農家の生産性向上により、一貫して年間約6%牛乳の生産量を伸ばしている。1998年には、酪農場は1万6千戸だったが、2003年までに飼養戸数は19%減少し、現在1万2千戸で、乳牛の飼養頭数は、約54万頭となっている。

 このデータは、下の韓国の酪農統計表にまとめられている。

表 23 酪農生産統計

 韓国の生乳生産量は、年間6%の割合で増加している。実際に、飼養頭数54万頭規模を維持しつつ、5年間で年間約6,000トンから7,000トンへと乳牛1頭につき年間4%生産量を伸ばすことができている。同時に、この期間に酪農家が減少している。酪農家は、1万5,700戸から1万1,700戸に激減した。一方で各酪農場が管理する乳牛数は激増した。30頭以下の乳牛を管理する酪農家は7,500戸から1,700戸に激減し、100頭以上の乳牛を管理する酪農家は、300戸から500戸へと67%増加した。この期間に、一農家当たりの乳牛数は31頭から44頭へと42%ほど増加した。

 最大牛乳生産地域は、京畿道であり、これにはソウルと仁川が含まれる。下表は地域別生産量を示している。

表 24 主要都市生乳生産量

2.2.2 乳製品の生産

 韓国の乳製品生産量は、生乳生産増加と共に増加している。下表はこれをまとめたものである。

表 25 乳製品の生産量
(単位:千トン)

 ほとんどがヨーグルトである発酵乳は、韓国で最大の乳製品であるが、生産量はここ数年停滞している。

 また、韓国は粉乳、チーズ、バターの生産量を拡大している。こうした製品は、ヨーグルトに比べると生産量は少ないが、年間約20%増加している。

2.2.3 価格

 乳牛の価格はこの5年間で大幅に増加したが、2002年から2003年にかけて大幅に減少している。

表 26 未経産牛価格
(単位:1000ウォン/頭)

2.3 韓国の乳製品貿易

 次に、韓国の小規模な乳製品輸出プログラムについてみてみる。


2.3.1  乳製品の輸入

 韓国の乳製品の輸入は、急増している。価格の点で主要な品目は、チーズ、粉乳、ホエイである。この3年間の伸びは緩やかであるが、1998年以降年間25%増加している。次表の輸入製品は実際の重量であり、表3-1および5-1の消費量と比較できるよう、総重量は生乳換算である。

表 27 主要輸入乳製品

 米国は、ホエイおよびラクトースの最大の供給国であり、チーズはそれよりも少ない。オランダは、ホエイおよび粉乳について第2位である。オーストラリアとニュージーランドは、チーズの主要な輸入先である。下表は輸入先をまとめたものである。

表 28 主要輸入国
(単位:千トン)

2.3.2 関税

 次表は、関税の結果をまとめたものである。

表 29 乳製品関税率

 韓国の酪農産業は輸入に対し手厚く保護されているようにみえる。

 こうした保護にもかかわらず、輸入品が大量に国内に入りこんでいる。

 ・無税でホエイが輸入される。

 ・最大の輸入品であるチーズには、高い関税がかけられ、割当はない。

 ・全粉乳およびラクトースは、割当内で輸入されている。

 ・脱脂粉乳は、割当外で輸入されており、180%の高い輸入税を支払っているが、影響を受ける量は少量であり、3-4,000トンである。

 ・韓国の最大輸入品目の1つである混合粉乳(mixed milk powder)については、(政府および産業の大きな懸念事項である)脱脂粉乳および全粉乳よりもはるかに少額の輸入関税を支払う形をとった。

2.3.3 乳製品の輸出

 韓国の輸出は緩やかに拡大している。2002年の総輸出量は12,000トンだったが、この5年間で年間30%増加している。

 次の表は、製品別および国別の乳製品の輸出量である。

表 30 主な乳製品の輸出量
表 31 チーズ輸出相手国
(単位:1000ドル)

表 32 ホエイ輸出相手国
(単位:1000ドル)

3 韓国の酪農産業が直面している主要な問題

 産業が直面し政府が支援している2つの主要な問題は、下記のとおり。

 ・輸入の増加が国内産業に圧力をかけている。

 ・最近の不況で、年間の増加が「正常時の」6-8%から2-3%に減少している。


3.1 輸入の増加

 すでに述べたように、輸入は、1996年以降、年間24%の割合で増加し続けたが、2000年以降は停滞している。

 関税割当がないため36%の輸入関税(脱脂粉乳および全粉乳について180%)のみで市場に入る混合粉乳により、本産業は混乱をきたしている。その理由として、現在、ベーカリーおよび菓子用に価格の高い脱脂粉乳や全粉乳よりも混合粉乳が好まれていることが挙げられる。これは、本製品の政府在庫が増加している原因でもある。


3.2 政府の政策

 韓国は、消費量および乳製品の生産量に対する牛乳の過剰供給に苦しんでいる。政策の案出には以下を盛り込んでいる。

 ・韓国酪農委員会(Korean Dairy Committee)は、牛乳が過剰供給されていても、酪農家を継続して支援する。

 ・2002年に、政府の勧告により、産業は乳牛の9%(2万4千頭)をとう汰した。

 ・2002年プログラムによる生産量の削減が成功しなかったため、MAFは、2003年に新規プログラムを開始し、同年に生産量を7%削減し、2004年にはさらに3%削減することを目標とした。MAFは、酪農家が2003年6月に完全に牛乳の生産を停止した場合には1リットル当たり83米ドル(8,881円)を支払った。2003年7月から2003年末までに(計画に基づいて)生産を削減する場合、1リットル当たり0.8米ドル(86円)を支払う。

 ・政府は、地方自治体と協力して、乳飲料の推進を目的としたプログラムを開始した。

 ・また、2003年に、MAFは乳業メーカーに対し、チーズおよびその他の乳製品用余剰生乳を利用してチーズの生産を推進するプログラムを開始した。

 こうした最近のプログラムのほかに、韓国政府は、1993年以降、牛乳の品質向上を図るプログラムを展開している。政府が生乳の価格を設定していることから、バクテリア数の少ない牛乳に対し奨励金を支払うことで牛乳の品質向上を図る。政府は、国内の牛乳の品質を向上させることで本産業は輸入牛乳と競合することができると考えている。


4 韓国の酪農産業の将来

 韓国は、依然として酪農産業の長期成長市場である。熟年層の者は乳製品をあまり消費しないが、若者は乳製品の消費を増している。

 短期的には、牛乳の生産量は多少減少すると思われる。これは、韓国が需要とのバランスを取ろうとしているためである。2003年および2004年には輸入も漸増状態となる。

 しかし、長期的に見ると、産業の未来は明るい。全体的には、生産は年間平均2%増加し、2005-07年に最も増加すると予想している。輸入は一時的落ちこむが、その後回復し、9%増加する。全体として、この期間の消費は、年間3%増加すると見込まれる。

 下表は、これを反映する予想である。この場合、予想は主にKREIの見積に基づいているが、2006-2007年はプロマー社による予測となっている。

表 33 乳製品消費量予測
(単位:千トン)

おわりに

 韓国の主要な畜産物の概況をみてきたが、韓国の畜産は、飼料の多くを輸入に依存していることや食肉の自給率が低いことなど、日本と同様の状況にあるといっても差し支えないと思われる。

 韓国は、チリとの初のFTA締結後、日本およびシンガポールとのFTA締結に向けて動き始めている。

 日本と韓国のFTAは、2003年10月20日の日韓首脳共同声明において、2005年以内に実質的な交渉を終えることを目標とする旨発表が行われ、現在、日韓FTA共同研究会の会合が会を重ねて行われているところである。

 この中で韓国政府は、日本とのFTAを締結する場合には、農産物が含まれることが不可欠との認識をもっており、今後の交渉の動向を注意深く見守る必要があると考えられる。



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