特別レポート

米国の畜産物需給見通し

食肉生産流通部 中野 貴史、藤島 博康

1 2005年米国農業観測会議

2月24日、25日に米国ワシントンDCで開催された米国農業観測会議(Agricultural Outlook Forum 2005)に出席する機会を得たので、その概要を報告する。

 この会議は、毎年、この時期に米国農務省(USDA)の主催で行われている。今年も、米国における主要農産物の生産、消費、輸出入などの需給状況や今後10年間(2005年〜2014年)の長期見通しを示すとともに、食料・農業にかかわる様々な課題が議論された。

 会議では毎年のテーマが掲げられ今年は、

「科学、政策、市場 ― 何が優先されるのか?(Science, Policy, Markets - What's Ahead?)」の視点から、農業観測のほか「科学と農業(Science and Agriculture)」、「農家と貿易政策(Farm and Trade Policy)」、「再生可能なエネルギー(Renewable Energy)」、「農業と農村部(Farming and Rural America)」、「食品と消費者(Food and Consumers)」といったカテゴリーでセッションが行われた。

 会議冒頭のジョハンズ農務長官のあいさつでは、政策は人間の健康を最優先事項としながらも科学に基づいて行われるべきであり、日本や他のアジア諸国に対して米国産牛肉の輸入再開に全力を注いでいくといった主旨の発言があった。

2 牛肉 −キャトルサイクル上昇局面へ−

(1)肉用牛飼養頭数の推移

 米国のキャトルサイクルは、ここ数年の肥育素牛生産の収益性の向上と2003年から続いた西部地域での干ばつの解消により、肉牛生産が拡大すると見込まれることから、前回のピークの1996年から8年の減少期間を経てようやく上昇局面に入った。

 2005年1月1日の総飼養頭数(見込み)は前年比1%増の9,580万頭で、繁殖用の未経産肉用雌牛頭数は同4%増となり肉用子牛生産頭数は3%増と見込まれる。しかし、2004年の子牛生産頭数は前年より1%近く減少して1951年以降の最低水準だったことから、繁殖雌牛の増頭も限定的なものになると見られる。

(2)生産量

 2005年1月1日時点のフィードロット飼養頭数は前年同期よりわずかに減少した。2005年の米国内での肥育素牛供給頭数は、繁殖雌牛用の保留の増加などから、年間を通じて低水準と見られる。しかし、カナダからの30カ月齢未満の生体牛が解禁された場合、カナダ産肥育素牛の導入によってフィードロットの飼養頭数は年間を通じて前年水準を上回るものと見込まれる。

(カナダからの30カ月齢未満の生体牛などの輸入の再開は、会議開催時には3月7日に解禁される予定であったが、3月2日時点で延期されることとなっている。別掲参照)

 2005年の牛肉生産量は、と畜頭数と一頭当たり枝肉重量の増加などにより前年より4〜5%増加し、1,166万トンと見込まれる。現在、米国の食肉パッカーは、カナダからの生体牛の輸入禁止と米国内生体価格の高騰によりと畜処理能力を下回る操業を余儀なくされており、輸入再開となった場合は、精力的にと畜牛の確保に向かうと見られている。なお、経産牛のと畜頭数については、2003年より15%減となった2004年と同水準の520万頭程度と見込まれる。

(3)価格

 2004年の肥育牛価格は枝肉100ポンド当たり84.75ドル(1キログラム当たり198円、1ドル=106円)と記録的な高水準だったが、2005年は同80〜85ドル(同187〜199円)と見込まれる。価格はかなり強含みで推移してきたが、カナダ産生体牛の輸入再開や米国内の肉牛生産の増加から軟調に転じると見込まれる。

(4)輸出

 2004年において、いくつかの国々への輸出は再開できたものの、重要なアジア市場へは再開できなかった。このため輸出に関する予測数値は、現時点で米国産牛肉の輸入停止措置を講じている国については停止措置が継続されるとの前提での予測となる。

 2005年の輸出量は前年より4割増の29万トンと見込まれる。米国内の牛肉価格の値下がりと、米ドル安は2005年の輸出の増加に寄与すると見込まれる。

(5)輸入

 2005年の米国の牛肉輸入は、2004年の記録的な輸入量よりさらに2%増の170万トンに上ると見込まれる。

 豪州からの輸入量は前年よりわずかに減少、ニュージーランドからは前年並みとなるものの、生産減による米国内の加工原料用牛肉の高値により、ウルグアイと、米国同様に輸出先が限定されるカナダからの輸入量が大幅に増加すると見られる。

3 豚肉 −生産は05年も過去最高の見込み−

(1)豚の飼養頭数

 2004年12月1日の飼養頭数は前年をわずかに上回る6,050万頭となった。2004年の養豚経営が高収益にもかかわらず、生産頭数の拡大はわずかにとどまった。

 繁殖母豚は減少傾向にあるが、一腹当たりの産子数が増加するなど生産性は向上している。2005年の肥育素豚生産頭数は1%以下に留まると見込まれる。

(2)生産量

 2005年のと畜頭数は1億380万頭に達し、生産量は過去最高だった前年の930万トン(枝肉ベース)を上回り939万トンと見込まれる。

 2005年のと畜頭数は、わずかに増加するが、カナダ産生体豚の輸入は減少すると見られる。2004年のカナダ産の輸入頭数は850万頭に達し、うち3分の2が肥育用素豚であった。現在、審査中であるが、ダンピング輸出と認定されアンチダンピング税が賦課された場合、2005年のカナダからの生体豚の輸入は820万頭程度に減少すると見られる。(最終決定は夏前までに下される予定。)

(3)生体価格

 2004年の全国平均の生体価格は100ポンド当たり平均52.51ドル(赤身率51〜52%、以下同じ、1キログラム当たり123円)と、2003年より33%値上りし、1997年以降の最高値となった。2005年の価格は生産増にもかかわらず、好調な国内需要と過去最高が見込まれる輸出により、夏場にピークを迎え、年後半には牛肉と鶏肉の供給増の影響を受け値下り傾向となり、2005年平均では同47〜50ドル(同110〜117円)と見込まれる。

(4)輸出

 2005年の豚肉輸出量は、前年より5%増の104万トンと見込まれる。2004年の輸出量はほぼすべての輸出市場で前年水準を上回り、全体で前年より27%増加した。米国産の牛肉と鶏肉を輸入停止したアジア向けが増加したのをはじめ、カナダとメキシコ向けが好調な経済成長と米ドル安を背景に顕著に拡大した。2004年のように二桁の躍進はないにしろ、拡大傾向は2005年にも継続すると見込まれる。

 なお、輸入については、カナダ産生体輸入にアンチダンピング税が賦課された場合に、無税である豚肉の輸入が増加すると見られ、2005年の総豚肉輸入量は前年を上回ると見込まれる。

4 鶏肉 −生産の拡大続く−

(1)生産量

 2005年の生産量は前年より3%以上拡大すると見込まれる。鶏肉価格は、過去最高を記録した2004年の水準からは低下すると見込まれる。生産量については、飼料穀物価格が比較的安値にあることや食肉たんぱくに対する需要が底堅いこと等を背景に、生産量はわずかに増加すると見込まれる。

(2)価格

 2005年の鶏肉価格(12都市平均の丸どり卸売価格)は2004年を通じた平均が1ポンド当たり74セント(1キログラム当たり173円)だったのに対し、同71〜76セント(同166〜178円)で推移すると見込まれる。

 米国内での牛肉をはじめとする食肉全体の供給増はマイナス要因となるが、輸出の回復が価格を下支えするものと見られる。

(3)輸出

 2005年の鶏肉の輸出は、過去最高を記録した2001年の249万トンには届かないものの、前年より5%増の228万トンと見込まれる。

 ロシアへの輸出量は関税割当により制限されるが、2004年の輸出量は割当量を下回っていたことから、2005年の同国向け輸出は前年より増加するものと見られる。中国・香港へは、米国の鳥インフルエンザの発生から2004年の輸出は制限され、11月の輸出再開後も以前の水準には戻ってない。ブラジルは中国への輸出を2004年に大幅に増やしており、2005年も引き続き強力な競争相手となると見られる。

5 酪農 −好調に推移する経営収支−

 2004年は、生乳生産、牛乳乳製品の消費、また価格においても記録的な高水準となった。2005年については、前年ほどの大きな伸びはないにしろ、生産と消費については拡大を維持し、価格についてはわずかに低下するものと見込まれる。

(1)2004年の動向

 2004年の経産牛頭数は前年より1%近く減少したものの、1頭当たり乳量が1%近く増加したことから、過去最高を記録した2003年と同水準となった。

 一頭当たり乳量については、2003年から頭打ち傾向にあったが、2004年はBST(牛成長ホルモン)の流通量不足と、特に主要酪農地域での粗飼料の品質悪化が抑制要因となった。牧草は収量としては十分であったものの、品質的に飼料に適さないものがかなり量を占めた。

 なお、カナダ産生体牛の輸入禁止は、酪農にも影響を及ぼしており、更新用未経産牛の確保が難しくなっている。

(2)2005年の予測

 2005年の一頭当たり生乳生産量は、前年より3%増加するものと見られる。結果、生乳生産量は前年より2%程度増加すると予測される。

 2005年1月の更新用未経産牛頭数は前年同期よりも3%増加した。また、2005年の更新用雌牛の生産頭数も同程度の増加が見込まれる。これにより、2004年から続く更新用未経産牛の不足は大幅に改善すると見られるが、未経産牛価格は2005年も堅調に推移すると見られる。

 2005年の乳用経産牛の頭数は、わずかながらも前年を下回るものと見込まれる。また、粗飼料の品質が一定でないことも乳量に影響を与える可能性がある。

 2005年の酪農の経営収支は、比較的良好ながらも、2004年の記録的な高水準を大幅に下回ると見られる。

 牛乳乳製品の需要は2005年も好調で、乳脂肪分の需要は前年比1%増、無脂乳固形分については同2%増と見込まれる。

6 終わりに

 会議終了後の3月2日、3日と連日、ジョハンズ米農務長官の声明が発表された。いずれも、3月7日に予定されていたカナダ産生体牛の輸入解禁に関するものであり、一つは米国牧場主・肉用牛生産者行動法律財団(R-CALF)の訴えによりモンタナ州連邦地裁が仮処分を決定した輸入解禁差し止め、もう一つは米国上院が農務省のカナダのBSE最小リスク国として30カ月齢未満の生体牛輸入の再開を認める最終規則を承認しないことに関して決議したことに対するものである。

 二つの声明は、それぞれの決定に対して「非常に失望している」との始まりで、カナダの肉牛生産が国際獣疫事務局(OIE)のガイドラインに従って家畜衛生と公衆衛生上の観点からBSE最小リスク国としてUSDAにより評価された結果に変わりないとし、国際貿易への規制は科学的見地に基づいたものでなければならないと非難している。

 米国としては、OIEの基準に従いまずはカナダ産生体牛の輸入を解禁し、日本をはじめとするアジア諸国への自国の牛肉輸出再開の弾みにしたかったところであろうが、身内の足並みの乱れからつまずいた格好となった。

 現在の世界的な牛肉と豚肉の高価格は、端的には、旧東側諸国の経済成長による需要の増加、北米でのBSE発生による牛肉流通の停滞が一因となっている。重大な家畜疾病の発生は予見し難く、世界の貿易が一つの疾病の発生で大きく流れが変わることを示した端的な例といえるかもしれない。

 今後も、散発的な疾病の発生が予想されるが、無用の混乱を避けるためには、第一に消費者の理解を深め、次に科学的知見に基づき貿易要件を整備することが重要と思われる。


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