特別レポート


各国における主要な肉用牛の飼養形態

調査情報部調査情報第一課
  1. はじめに
  2. オセアニア
  3. 米国
  4. EU
  5. 東南アジア諸国
  6. 南米

1 はじめに

 国連食糧農業機関(FAO)によると2004年の世界の牛飼養頭数は13億3千万頭となっている。また、米国農務省(USDA)による調査では、2005年の世界の牛飼養頭数(10億2,4000万頭)のうち、肉用繁殖雌牛が2億2,200万頭、乳用経産牛が2億5,200万頭と肉用種と乳用種がほぼ半分ずつを占めている。ところで、わが国の牛肉の主要輸入国である豪州、米国における肥育牛の平均枝肉重量は、肥育期間や飼養管理(飼料給与方法)などの違いから、それぞれ約250キログラム、340キログラム(米国においては、2005年12月のBSE発生により、牛肉の輸入停止措置が継続中)となっており、日本の黒毛和牛の410キログラムと比較するとかなり小さくなっている。

 このように日本の主要牛肉輸入相手国の肉用牛と日本の黒毛和種の比較でも明らかなように、各国における肉用牛は、その地域における在来種や食肉文化、そして飼料条件など多様な環境の中で飼養されている。今回は、肉用牛の代表的な品種を示すとともに、当機構の海外駐在員事務所の管内で飼養されている代表的な肉用牛の飼養形態や飼養例を紹介したい。

1 黒毛和種
 日本で最も多く飼養されている肉専用種で、毛色は褐色を帯びた黒色、「霜降肉」の名称はまさにこの牛のためにある。体重はおよそ、雄960キログラム、雌540キログラム。
2 アバディーンアンガス
 イギリスのスコットランドが原産地で、毛色は黒色で無角が特徴となっており、肉質はヘレフォードと比較して優れているとされており、アメリカ、豪州のみならず世界各地で飼養されている。体重はおよそ、雄900キログラム、雌550キログラム。
3 ヘレフォード
 イギリスのイングランドのヘレフォード州が原産地で、体色は顔、胸前、下腹部などが白色でその他が赤褐色となっており、体質は強健で放牧に適しているため、アメリカ、豪州のみならず世界各地で飼養されている。体重はおよそ、雄1,000キログラム、雌650キログラム。
4 マリーグレー
 オーストラリアのビクトリア州でショートホーンとアバディーンアンガスの交配で作出された。毛色は灰褐色で無角となっており、肉質がよく粗放飼育に耐えることが特徴となっている。体重はおよそ、雄800キログラム、雌550キログラム。
5 シャロレー
 フランス中央部ニエーヴルで開発された。毛色は白色または乳白色で、体格は大きく角を有し、体が長い。性格は非常におとなしい。暑さや寒さにも強いため、広い地域で飼養されている。3〜4歳で雄は1,500キログラムを超えるものも珍しくない。
6 ブラーマン
 アメリカ西南部で熱帯地方の気候に適合した品種として作出された。毛色は銀灰色または赤褐色で、体質は強健、耐暑性に富み、ダニなどに強く、粗放飼育に耐える。肩峰(こぶ)を有する。体重はおよそ、雄800キログラム、雌500キログラム。


表1 各国の肉用牛生産の特徴


表2 フィードロットの概要

 

2 オセアニア― シドニー駐在員事務所   井上 敦司、横田 徹

1 肉牛導入の歴史
 豪州の牛肉産業の始まりは、1788年に入植者が6頭の英国種の牛を豪州に連れてきたことにさかのぼる。その後、飼養頭数は徐々に増えていき、1820年代には54,000頭になった。当初は乳牛、肉牛の区別はなかったが、内陸部に広大な草地が発見されると、肉牛生産は内陸部へ移動し、酪農産業は海岸部にとどまった。ゴールドラッシュが訪れた1850年代には一挙に500万頭に増加した。その後、牛肉の冷凍技術が開発、導入されると、豪州の生鮮牛肉が国内、国外に輸送可能となり、1950年代には世界で最大の牛肉輸出国となった。

 

2 品種
 豪州は日本の約22倍に及ぶ広大な国土を有するため、南北で大きく気候が異なる。そのため、肉牛の品種や飼養形態も南北で異なる。北部(西オーストラリア(WA)州の北半分、北部準州(NT)、クインズランド(QLD)では、熱帯種(Tropical breeds)が中心で、南部(WA州南部、南オーストラリア(SA)州、ニューサウスウエールズ(NSW)州、タスマニア(TA)州では温帯種(Temperate breeds)が飼育されている。温帯種はボス・トーラス(Bos taurus)、熱帯種はボス・インディカス(Bos indicus)とも呼ばれている。

 熱帯種は、南アジアや地中海、アフリカなどから導入された。これらの肉牛は豪州北部の高温な気候に適合しており、光沢のある薄い色の皮膚や多くの汗腺とたるんだ皮膚を持ち、それによって、温度調節を図り、またダニなどをふるい落とすこともできる。熱帯種の代表例は、ブラーマン、サンタ・ガートルディスなど。また、北部の気候に適合し、かつ肉量が多いブラーマンとヘレフォード、ブラーマンとアンガスなどの温帯種と熱帯種の交雑種も作られている。熱帯種は、英国種より成熟が遅く、約3歳で初産。これは豪州北部の過酷な気象条件にもよる。条件がよければ16産まで可能。豪州で最も年老いたブラーマンは27歳。

 英国種は、ヨーロッパ種よりも成熟が早く、肉質がよい。また、繁殖力がある。一方、ヨーロッパ種は、英国種に比べ成熟が遅いが、成長は早く産肉性が高い。脂肪は英国種より少ない。英国種の代表例は、アンガス、ヘレフォード、ショートホーン、デヴォンなど。ヨーロッパ種は、リムジン、シンメンタール、シャロレーなど。
英国種の雄は18カ月齢で繁殖に供用可能。雌牛は12カ月で成熟し、24カ月で初産が可能。8産が標準。

 

3 飼養形態
 豪州の肉用牛の飼養形態は、放牧が主体で、一部(肉用牛飼養頭数の3%程度)がフィードロットでの飼養となっている。牧草を食べて育った牛の肉をグラスフェッドビーフという。一方フィードロットで穀物を食べて育った牛の肉をグレインフェッドビーフという。放牧での飼養形態については、一般的に北部と南部で、いくつかの点で異なる肉牛生産システムをとっている。

(1)放牧
 北部では大規模な放牧による肉牛飼育が行われている。農場はStationsと呼ばれ、農場の広さがヨーロッパの小国と同じくらいのものもあり、約50,000頭規模の肉牛を飼養しているものもある。そこでは、肉牛1頭につき約22ヘクタールの土地が与えられ、自生する牧草をえさとして食べている。季節は雨季(11〜3月)と乾季(4〜10月)に分かれ、雨季は牧草の成長を促し、牛の成長にも寄与するが、牧草は南部ほど栄養価があるわけではなく、牛は牧草を求めて広い農場を移動しなければならない。

 牛の繁殖に関しては、種付けのため雄牛は年間を通して農場に放たれる。牧場が広大なため、期間を区切って雄牛を牧場へ入れることはできない。このため、1年を通して繁殖時期や出産時期を特定できない。しかし、出産に最良な季節は、雨季が始まり、牧草の生育状況がよくなる11月以降とされる。

 牛の管理については、乾季の初めに牛を一つの場所に集め(マスターリング)、そこで、子牛は焼印や予防接種(破傷風などの予防)などが施され、離乳させられる。この際に雄子牛は去勢される。また、雌牛の妊娠テストが行われ、妊娠してない雌牛はとうたされ、不要な雌牛や不要な若齢雌牛は卵巣を除去され肥育された後、と場へ出荷される。

 このような、牛のマスターリングは年二回行われ、残りは乾季の終わりで、一回目に集めることができなかった牛について行う。牛のマスターリングには、馬を利用するほか、牛を見つけ出すためにヘリコプターや小型飛行機を使う場合もある。

 一方、南部では、肉牛は、farmsと呼ばれる北部に比べ比較的狭い農場で飼育され、1頭につき約8ヘクタールの土地が与えられる。生産者の仕事の大部分は、草地の改良と飼養管理が中心となる。よい牧草を育てるために、肥料を投与したり、雑草対策に除草剤をまいたりする場合もある。夏季は牧草が乾燥しているため、ヘイや穀物などのサイレージを飼料として与える。生産者は、牛以外に羊や穀物、酪農、あるいは野菜栽培も行う複合経営農家が多い。

放牧風景

 南部の子牛生産パターンは2種類ある。
・春生まれ:10〜12月に種付けのため雄牛を1頭当たり30〜40頭の雌牛の中に放牧、出産時期は翌年6〜9月、離乳は翌年5月以降、ヴィールとして出荷するものあり、子牛の出荷は9月ごろ。
・秋生まれ:7〜9月に種付けのため雄牛を雌牛の中に放牧、出産時期は翌年4〜6月、離乳は翌年12月以降、子牛の出荷は4月ごろ。

 肉牛は比較的狭いパドックの中で飼われ、生産者は、犬とともにバイクや馬、小型トラックを使って肉牛のチェックや他のパドックへの移動など、日常的に牧草や肉牛の管理を行っている。また、子牛は、囲い地(ヤード)に移され、マーキング、除角、予防注射や離乳、去勢などが行われる。種雄牛は、家畜市場や種雄牛生産農家から購入する場合もある。
なお、人工授精は、年間約150万頭に用いられており、種雄牛生産や酪農分野で多く見られる。

南部と北部の肉牛生産構造の違い
  北部 南部
肉牛飼養頭数割合 30% 70%
農場数 1,391 47,210
平均農場面積 60,055ha 4,164ha
1農場当たり平均飼養頭数 2,578頭 314頭
家畜1頭当たりの平均使用面積 22ha 8ha
1農場当たり年間販売頭数 583頭 138頭
資料:ABARE 2000

(2)フィードロット
 豪州のフィードロット産業は、季節的な生育条件の変化や牛の市場価格の低迷を反映して、1960年代に始まった。その後、1988年に91年からの日本の牛肉輸入自由化が決定したことにより飛躍的に成長した。現在、フィードロットは豪州各州に見られるが、QLD州の南東部、NSW州の北部や南部のリベリナ地区が中心で、これらの地域は素牛供給地や穀物生産地に近接している利点を有する。フィードロットの経営形態は、比較的大規模経営の企業的フィードロット(commercial feedlot)と小規模の農家的または機会的フィードロット(farmer or opportunity feedlot)に区分される。フィードロット飼養頭数で見ると、現在、1,000頭以上の規模のフィードロットが全体の約85%を占めており、企業的フィードロットが大宗を占めている。

国内向けフィードロット

 肥育素牛は、おおむね12ヶ月齢から24カ月齢で導入され、仕向け先の需要に合った肥育期間で肥育される。肥育素牛の導入先は、フィードロット業者自身が所有する農場、あるいは市場取引や相対取引で他の生産者から導入する。また、フィードロットには、カスタムフィードロットと呼ばれものがあり、これは生産者から肉牛を預託され、その肉牛の仕上げに利用されている。

 品種は、主にアンガス、ヘレフォード、マリーグレー、ショートホーンとそれらの雑種といった英国やヨーロッパ系の肉牛である。飼料は、牛の種類やサイズ、仕向け先(国内向けか、輸出向けか)などによって異なるが、一般的には、穀物は大麦が主体で、小麦、ソルガム、綿実などを与え、粗飼料としては、サイレージやヘイなどを与える。
肥育期間は、仕向け先などにより一般的に次の区分がある。ショートフェッド牛肉は国内および日本向け、ミドルフェッドやロングフェッド牛肉は、日本向けに輸出される場合が多い。

 ショートフェッド(短期穀物肥育)100〜120日
 ミドルフェッド(中期穀物肥育)150〜180日
 ロングフェッド(長期穀物肥育)200日以上

 なお、輸出用フィードロットは、食品の安全性を確保するために全国肥育場認定制度(NFAS)により認定される必要がある。

 

3 米国― ワシントン駐在員事務所   犬飼 史郎、唐澤 哲也

1 繁殖経営
 繁殖経営は米国全土に広く存在するが、一般に耕作に適さない場所で営まれている。主要な繁殖雌牛の飼養地域は、テキサス州、ミズーリー州、オクラホマ州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、カンザス州、モンタナ州、テネシー州、ケンタッキー州であり、この9州で肉用子牛生産の56%(2003年)が担われている。飼料としては乾牧草が主体であり、穀物飼料が給与されることは稀である。一般に子牛は、離乳まで繁殖農家で飼養される。離乳時の月齢は7〜9カ月齢であり、体重は400〜650ポンド(182〜295キログラム)である。繁殖農家の草資源に余裕がある場合には次の春まで育成が行われる。繁殖経営における繁殖雌牛の平均飼養頭数は40頭であるが、100頭以上規模の経営は農家数では全体の約9パーセント、飼養頭数ベースでは約51%を占める。40頭以下の経営の多くが複合経営の一環として営まれるか、または農外労働者により営まれている。アイオワ州などでは、トウモロコシや大豆畑の中の湿地に繁殖雌牛が10頭〜20頭程度放牧されているのをよく見かける。

 繁殖経営の中には純粋種の種畜の販売を専門に行う者もおり、このような経営では人工授精なども行われる。このような経営の農業販売額は種雄牛の販売が主たるものとされるが、種雌牛の販売も無論行われている。一般的な肥育素牛を生産する経営では自然交配が行われ、大半の産子は春子である。

繁殖農家の牛群

2 育成経営
 繁殖経営から直接フィードロットに販売されるケースもあることから、必ずしも全ての牛が育成経営を経由するわけではないが、多くの牛がフィードロットに入る前の1〜6カ月間育成される。育成経営は、小規模の繁殖経営から肥育素牛を購入し、離乳を完了させて体重を増加させ、より大きな頭数の群としてフィードロットに肥育素牛を出荷するという役割を担っている。フィードロットにとっても斉一性のある牛群を容易に入手できるので、育成経営から購入される肥育素牛の価格は繁殖経営から直接購入される場合と比べて一般に高いと言われている。育成経営にはバックグランディングとストッカーの2種類の経営がある。前者では中レベルのエネルギー飼料が給与されるのに対し、後者はより安価に体重を増加させるためにより粗放的な飼育が行われる。このため、ストッカーでは繁殖経営よりもむしろ良質な草が必要とされている。子牛価格と育成牛価格の変動により損害を被る場合があるので預託によりリスクを低減させている経営もある。


3 肥育経営

 肥育経営ではチョイスまたはセレクトの格付けを目標として濃厚飼料を主体とした飼料給与が行われる。肥育素牛については、離乳直後に購入するケースや育成経営を経た若牛として購入されるものがある。導入元については、米国農務省(USDA)動植物健康検査局(APHIS)が1999年に実施した調査によると、自家生産0.8%、市場購入29.7%、直接購入23.6%、預託43.4%、その他2.5%となっている。導入時の体重について全国農業統計局(NASS)が2000年に実施した調査によると、600ポンド(約272キログラム)未満22.2%、600ポンド以上699ポンド(約317キログラム)以下31.3%、700ポンド以上799ポンド(約363キログラム)以下29.4%、800ポンド以上17.1%となっており特定の傾向は見られない。肥育牛の主体は肉専用種およびその交雑種であるが、品種ごとの内訳は不明である。アンガス、ヘレフォードおよびその交雑種のみならず多様な品種が存在し、南部では亜熱帯種も見られる。肉用種肥育牛のうち、去勢牛の占める割合は65%、雌牛の占める割合は35%とのAPHISの調査結果(1999年)があり、実際にフィードロットで雌牛を良く見かける。肥育期間は140日が平均的であるが、導入時の体重や飼料価格などにより90日から300日までの範囲で調整が行われる。肥育期間中の平均的な一日当たり増体重は2.5〜4ポンド(1.1〜1.8キログラム)とされ、増体1ポンド当たり乾燥重量で約6ポンド(2.7キログラム)の飼料が必要と言われている。一般的な仕上げ体重は1,000〜1,350ポンド(454〜613キログラム)とされている。と畜月齢としては、14カ月から30カ月まで幅があるとされるが、24カ月未満が大半とされる。

 伝統的な肥育地帯は、コロラド州、アイオワ州、カンザス州、ネブラスカ州、テキサス州であり、これら5州で総肥育頭数の約7割を占める。

大規模フィードロット

 

4 EU ― ブリュッセル駐在員事務所   山闢良人、関 将弘

1 飼養形態
 EUでは、多様な気候、地理、歴史の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛肉の種類(子牛、経産牛、去勢牛、非去勢牛)、飼養方法(繁殖、一貫、肥育)、飼料は、国および地域によってかなり異なっている。ドイツ、オランダ、デンマークなどの国々では、乳用種からの牛肉が中心であるが、フランス、ベルギーなどでは、肉専用種からの牛肉が北部の国々に比べ多い。

 EUでは、国ごとに品種の血統登録やその管理が行われている場合が多く、能力向上が図られている。

 一方、消費者の嗜好により飼養される品種が変化してきている。牛の原種が多いイギリスでは、これまでアバディーン・アンガス、ヘレフォードなどを中心としたイギリス原産の品種が多く飼養されてきたが、赤身肉嗜好が高まったことから、リムジン、シャロレーなどの大陸品種の飼養頭数がここ10〜20年で増えている。現在では、交雑種を含むリムジン、シンメンタール、シャロレーがイギリス国内の肉牛飼養頭数全体の60%を占めるまでになっている。

 繁殖経営では、人工授精とともに自然交配によって、生産が行われており、自然交配の場合、雌牛15頭ほどに対して種雄牛1頭が用いられている。農家の好みにより、体格を重視した血統のものや、肉質を重視した血統のものなどが飼養されている。生まれた子牛については、登録団体の職員が体格、増体率などの検査を行い、その結果を改良の基礎としている。子牛は、一般には離乳まで繁殖農家で飼養される。雄子牛の中には、種雄牛として販売されるものもあるが、一般には肥育素牛として販売される。中には種雄牛を自家更新する農家もある。肥育素牛は、家畜市場への出荷のほか、他の農家への直接販売がある。農家によっては、自分の牛の宣伝も兼ね、コンクールに出展している。

 また、ベルジアンブルーなどにあっては、乳用種と交雑した場合でも、高い産肉能力などの特徴が十分温存されることなどから、交雑種への活用が多く行われている。

 繁殖、肥育のいずれの場合も、夏季は放牧し、冬期は舎飼いされる場合が多い。スコットランドは、比較的冬が厳しい地域ではあるが、雪が少ないことから周年放牧する経営もある。また、肥育経営の場合、仕向け先(スーパー、精肉店など)により、肥育期間は異なる場合がある。

ベルギーを代表するベルジアンブルー種


2 ベルギーとフランスの飼養例
 上記のようにEUでは、さまざまな牛肉の生産方式が見られることから、ここでは、EUの肉用牛肥育経営のうち、ベルギーとフランスにおける状況を紹介する。

 ベルギーでは、肉牛は一般的に穀類の生産に比較的適さない南部で育成され、北部で肥育されている場合が多い。また、同国では肉が多くとれる種が好まれており、ベルジアンブルーが多く飼育されている。同種の一般的な出荷月齢は18カ月齢であるが、仕向け先によっては、27〜30カ月齢もある。出荷の3カ月前に放牧から舎飼いに切り替えられ、仕上げ肥育が行われる。出荷前2〜3カ月間の飼料は、乾草、トウモロコシ、ジャガイモ、てん菜などが給与され、出荷前1カ月間は、これらに小麦を混ぜて給与される。冬には、乾草、サイレージ、小麦などが給与される。基本的には、飼料のほとんどは自家生産である。

 フランスでは、牛の性別などによって、飼育方法、肥育期間、肉質、販売価格が異なる。一般的にフランスの消費者は、赤身で柔らかい肉を好む。出荷月齢は、リムジンの場合、若雄牛(去勢せずに肥育される牛)は、増体が良いことから18〜20カ月齢、経産牛や去勢牛は、36〜42カ月齢となっている。なお、若雄牛の出荷月齢では肉色に赤みが不足することから去勢牛などに比べ格付けが低い。

 フランス北部のリムジンを飼養している農家の例では、若雄牛および未経産牛は、放牧せずに生涯舎飼い(えさはデントコーンサイレージなど)されるが、去勢牛、経産牛は、夏期は放牧する。若雄牛は、24カ月齢以下で出荷され、枝肉1キログラム当たり平均3.35ユーロ(453円:1ユーロ=135.13円)で販売され、EUの格付けでは中間の“R”やその下の“O”になる場合が多いのに対し、去勢牛は、36〜42カ月齢まで肥育し、同4.30ユーロ(581円)で販売され、格付けは最高の“E”またはそれに次ぐ“U”となる場合が多い。去勢牛は時間をかけて肥育させるため、均質化した上質なものに仕上がる。販売先は、去勢しない牛は、主にスーパーマーケットなどで、去勢牛はレストラン、精肉店などに販売される。飼料は、地域によっても異なるが、ほとんどは自給している。牧草、乾草以外の代表的な飼料としては、大豆、ヒマワリの種、トウモロコシ、小麦、トリテカル(小麦とライ麦の交雑種)、てん菜などが給与されている。また、肉が必要以上の水分を含まず上質な肉になるといわれる亜麻の実が給与されるところもある。

放牧中のリムジン去勢牛

 

5 東南アジア諸国― シンガポール駐在員事務所   木田 秀一郎、斎藤 孝宏

 東南アジア各国は食肉需要全体に占める牛肉の割合が低く、1人当たりの年間消費量もほかの地域に比べて非常に少ない中で、2億人を超える人口を擁するインドネシアの牛肉生産量および消費量はアセアン域内最大である。また、牛肉はハラル規定(注1)を順守する限り同国で過半数を占めるイスラム教徒の禁忌に抵触しないことから、人工の増加などに伴い同国での今後の需要増が見込まれている。ここではインドネシアにおける肉牛振興施策を簡単に説明し、代表的な飼養形態を例示する。


1 政府の肉牛振興政策

(1)牛肉自給達成計画(2001-2005)
 政府は2005年を目標とする食肉自給達成計画を定め、当初は国内牛群の増殖により段階的に生体牛の輸入を減少させる構想であったものの、現実には費用対効果が低いことなどから計画どおりの牛群増殖に至らず、農業省畜産総局(DGLS)肉牛担当課長は、当事務所から生体牛の輸入に関する現在の政府の方針について照会したところ、以下のように回答している。

 「DGLSは国内の牛肉需要を満たすために必要な生体牛の輸入を奨励する。事実、現在わが国は冷凍牛肉より生体牛の輸入を必要としている。フィードロット仕向けの生体牛輸入は、国内での肥育過程において各フィードロット会社と零細農家に付加的利益をもたらしている。ただし、政府の肉牛増頭計画としては生体牛の輸入によるほかに、国内牛群増殖を目的とした人工授精サービスの向上や、小規模肉牛農家に対する援助、協同組合機能の強化、肉牛ビジネスにおける投資環境の改善などの側面での振興対策を行っている。」


(1)今後5年間の見込(2005-2009)
 同様にDGLSによると、過去3年間(2002-2004)で肉牛頭数は毎年2.5%の割合で減少しており、現在1,073万 頭となっている。これは主に粗飼料不足と、牛肉に対する需要の増加(過去3年で年率7.4%の増大)により、国内の繁殖牛のと畜が増加したことによるもので、計画として2010年までの国内自給達成目標がある。(表1)

 肉牛産業の発展要因としては、1.年々高まる牛肉需要 2.インドネシア東部、主にバリ、ヌサテンガラ両州で行われているバリ牛振興 3.マレーシアやフィリピンなどの周辺国から育種素材としてのバリ牛輸入の要望が高いこと、などがある。 

表1 インドネシア肉牛増頭計画(2005−2009)

資料:農業省畜産総局計画部の統計分析(2004)に基付く試算


(3)肉牛飼養標準
 政府は肉牛飼養標準を作成しており、詳細は表2のとおり。ただし、フィードロットなどの肉牛企業の多くは独自の飼養標準を作成している。 

表2 肉用牛飼養標準

資料:DGLS


2 フィードロットにおける飼養形態
 1996年に大手フィードロット業者によって設立されたインドネシア肉牛生産者協会(APFINDO)はその最盛期には加盟55社を数えたものの、零細経営はとうたされ、残存経営はその規模を拡大しつつ、現在では主要15社を残すのみとなっている。同協会によると、インドネシア全体のフィードロット受入許容頭数は約15万頭であり、年間およそ35万頭の肉用牛を主に豪州北部から輸入している。肥育期間はおよそ3カ月で、輸入される肥育用素牛は平均月齢24〜30カ月齢、ブラーマンの交雑種が中心となっている。政府により輸入牛の検疫期間が14日間と定められているものの、実際には陸揚げされた後に港湾に付属する検疫所で臨床症状の検査などが行われた後、直接各フィードロット牧場へ輸送される。取材を行ったジャカルタ近郊のある牧場では、検疫牛群は既導入牛群のいる牛舎と同一エリア内にある特定牛舎に繋養されていた。検疫期間中には通常政府の担当獣医官が4〜5回検査に訪れる。ジャワ島の平地部では平均気温が年間を通じて30〜32度で、雨季、乾季など気候変動による体重の変化はあまり見られず一定している。体重の変動要因として最も影響が大きいのは輸入する際のストレスである。

 給与飼料は乾草として稲わらのほかに、濃厚飼料を1頭当たり1日8kg給与する。飼料原料としては大豆かすや米ぬか、糖蜜、ココナツミルク、キャッサバペレットなどの農業副産物のほか、必要に応じてビタミン、ミネラルの飼料添加を行う。乳酸菌などの整腸剤は、必要に応じて各フィードロット牧場から獣医事務所へ依頼することにより供給される。

 導入時の平均体重は250〜275キログラム、出荷時はおよそ350キログラムで、生産者販売価格は現在、生体重1キログラム当たり17,500ルピア(200円:10,000ルピア=114円)となっている。

 環境問題に対する規制に関しては地方政府が管轄しており、現在規模拡大や新規開場を行おうとした場合には周辺環境に及ぼす影響に関しての詳細な報告書の提出を要求される。

フィードロット牛舎内


3 在来牛の飼養形態(バリ牛)
 在来牛の1種であり主にバリ州、西ヌサテンガラ州で多く飼養されるバリ牛は、その起源が野生のバンテング(Bibos banteng Wagner)であったことから古くはバンテン牛と呼ばれ、繁殖能力が高く、受胎率は8割以上。繁殖牛は18産まで使用されることがある。また、熱帯への気候適応性が高く粗食に耐える。  

 平均増体は0.8キログラム、枝肉歩留率はおよそ50〜58%となっている。また脂肪含有率は10〜17%で、低脂肪を好むインドネシア人の嗜好に合致し、加工品としては主にミートボールなどへの仕向けが多い。バリ島の家畜疾病監視センターの説明によると、内外寄生虫に強いため駆虫費用がほとんどかからないとのことである。ただし特有の風土病「ジャンブラナ病:JA(注2)」を持つ。

 マレーシアやフィリピンなどの周辺国からは育種素材として輸入要望が多く、西ヌサテンガラ州政府はマレーシア政府との間に1万頭のバリ牛輸出について合意しており、950頭が輸出されたが、現在は遺伝資源流出防止のため繁殖用純粋種の輸出が禁止されている。

 政府は在来牛増殖の基幹牛の一つとしてバリ牛を位置付け、純粋種の改良や中小規模農家への飼育奨励を行っている。近年バリ牛はブラーマンなど外来種との交雑が進み、一般牛との染色体数の違いからF2以降の生産に障害がある。
また、政府は現在バリ牛の純粋種牛群造成のため、繁殖牛のと畜を禁じており、と畜場で獣医師の検査を受けてと畜不適(繁殖能力有り)と判定された場合はと畜出来ない。

 従って、と畜されるバリ牛は繁殖不適とされた老廃牛雌牛と雄牛であり、雄牛の平均出荷生体重は300〜400キログラム程度とされている。生産者販売価格(バリ島)は300キログラム台で生体重1キログラム当たり13,500ルピア(154円)、400キログラム以上で同14,000ルピア(160円)となっている。 
なおインドネシア全域で雄牛の去勢は行われていない(好まれない)。

 給与される主な飼料は乾草類(稲わら、麦わら)やエレファントグラスのほか、豆科の飼料木などを給与。標高900mを超える高地で野菜栽培が盛んな地域では、トウモロコシ茎葉や兼業として栽培する野菜残さ(芋、ニンジン、キャベツなど)を給与する例も見られる。基本的には粗飼料給与主体だが一部購入飼料の給与を行う。大部分は牛舎での繋ぎ飼いであるが、放牧地を併設する経営も見られる。

 経営形態としては繁殖専門、肥育専門、一貫経営のほか余力のある牧場では同一生産組合員の牛を預託されることもある。南スマトラ州ランプンにはバリ牛のフィードロット牧場がある。バリ島では家畜市場が水曜日と日曜日の週2回開催され、生体取引が活発に行われている。ただしバリ牛をバリ島から他の島へ移出した場合は、家畜疾病対策上の理由で政府の取り決めにより再びバリ島に返すことはできない。
主産地であるバリ島は住民の多くがヒンズー教徒であるため牛肉の消費を好まず、同島における牛肉消費の大部分は観光客やイスラム教徒などによる。(注3)

バリ牛種雄牛(バリAIセンター)

写真提供:バリAIセンター

(注1)イスラム教の教義にのっとったと畜方法で処理された食品

(注2)主症状に意気消沈、血便があり9割は発症後3日以内に死亡する。国連食糧農業機関(FAO)と豪州政府との共同プロジェクトでワクチンが開発され、主産地バリでは1995年に家畜疾病センターでワクチンの試験生産を行った。以後必要に応じてワクチンの製造、配布を行っている。

(注3)イスラム教徒の「ハラル」は「禁止」事項であるのに対し、バリ島のヒンズー教徒が牛肉を食べないのは教義であるが強制ではない点が大きく異なる。事実、バリ島のヒンズー教徒の中には日常的ではないにしろ牛肉を食べた経験のある者が多数存在する。ただし牛のと畜に関わることはできないので、大部分のバリ島の肉牛農家は繁殖牛や肥育牛を市場に販売するまでの役割を担う。

 

6 南米― ブエノスアイレス駐在員事務所   犬塚 明伸、横打 友恵

1 アルゼンチンにおける一般的な飼養形態
(1)概要
 アルゼンチンの家畜の飼養地域は、1.パンパ地域、2.北東地域(NEA)、3.北西地域(NOA)、4.中部半乾燥地域(クジョ地域)、5.パタゴニア地域の5つに分けられ、そのうち、パンパ地域と北東地域のみで牛の総飼養頭数(2002年農業センサス、4,806万頭)の93%(パンパ地域78%、北東地域15%)を占める。大まかに言うと、パンパ地域は南東部の子牛生産地帯を除き肉牛肥育地帯(一貫経営を含む)、北東地域は子牛生産地帯となっている。

 パンパ地域(約6,000万ヘクタール、国土の4分の1に当たり、日本の国土面積の1.6倍)にはブエノスアイレス州全域、コルドバ州、サンタフェ州、エントレリオス州の南部とラパンパ州の東部が属し、湿潤な温帯気候で土地は平たんかつ肥よくで、穀物と牧畜の大生産地となっており、と畜仕向け牛の約8割程度が生産されると言われる。

 これは、アルゼンチンにおける肥育が牧草肥育であり、肥よくなパンパ地域で生産される牧草が牛を賄うため、飼養頭数のほとんどがこの地に集中する。なお北部では、成長の遅いゼブーも飼養されている。

 アルゼンチンの肉牛生産において人工授精はほとんど普及しておらず(一般的に5〜7%と言われる)、よって購入または自家生産の種雄牛を利用する自然交配(80〜90日間)がメインとなる。しかし、畜産関係者によれば、毎年25,000頭程度の種雄牛が売買されるのみで、実際には更新などで毎年20万頭が必要であろうから、ほとんどの農家で1〜2頭の種雄牛を買い、あとは自家生産を行っていることになるとの話であった。なお、更新は3〜4年で行うとのことである。ちなみに、種雄牛の購買ポイントは“見た目”のみで決定するそうで、多くは2歳、550〜600キログラムぐらいで売られており、10%程度は15カ月齢または3歳だそうだ。

 一般的に自然交配用の種雄牛頭数は雌牛群頭数の3%程度(雄1頭:雌30頭)だが、種雄牛の能力が高いと雌牛40〜50頭をカバーするそうである。

 なおブエノスアイレス州において適切に管理された経営での受胎率は80%強と言われ、妊娠鑑定を行うのは季節繁殖を厳格に実施している農家(全体の1/3程度)にとどまるとのことで、交配2〜3ヵ月後に直腸検査にて獣医師が行い、1頭当たりの料金はリニエルス家畜市場における肥育去勢牛の生体1キログラム取引価格が目安だそうだ。ちなみに獣医師は、1シーズンに1〜4万頭を鑑定するとのこと。

 交配した雌牛が無事子牛を離乳させる確率は70%程度(交配雌牛100頭中、70頭が離乳する意)であり、受胎〜離乳までにおける主な死因は、(1)妊娠中は性病や熱中症による流産、(2)分娩時の事故、(3)哺育中は下痢、肺炎などの病気や極度の寒さ−である。なお繁殖牛は離乳後350〜370キログラムまで痩せる。

 経産牛は毎年15〜20%が更新され、未経産牛の9割強が20カ月齢前後、300キログラム前後で交配するが、残り1割以下は15カ月齢で、または飼養環境の悪い北部で成熟の遅いゼブーにおいては36カ月齢で交配する。

 繁殖農場で1ヘクタール当たり0.6〜0.7頭を飼養し、経産牛は400〜420キログラム、種雄牛は600キログラムぐらいであるが、人工授精所や繁殖センターでは雌牛450〜550キログラム、種雄牛が800〜1,000キログラムといったところである。

短期の牧草肥育中アンガス

(2)肥育について
 肥育には短期と長期の牧草肥育があるが、6割が短期である。短期の場合、素牛導入の翌年初秋の3〜4月に出荷するもので、おおよそ出荷月齢は16〜18カ月となる。この10カ月程度の肥育期間には牧草肥育期と仕上げ期があり、仕上げ期にはだいたい2カ月を費やし、牛は牧草地に自由にアクセスできるが補助飼料としてトウモロコシが給与される。体重は180キログラム前後から350〜370キログラムに増加する。よって計算上のDGは約0.6キログラムとなる。なお、これらは主に国内向けとなる。

 長期の場合、素牛導入後に牧草状態のあまり良くない冬を2回経験し、冬から初夏の8〜12月に出荷する。月齢は24〜26カ月、体重は450〜480キログラムで、主に輸出向けになる。秋に330〜340キログラムぐらいしかなく短期肥育としては出荷できなかったパンパ地域の肥育牛の3割が対象となっていく。なお飼育環境の良くない北部などで肥育する場合、短期肥育はなくすべて長期肥育の対象となり、と畜までに30〜36カ月齢となる。
後述するがアルゼンチンにもフィードロットは存在する。しかし農場数や頭数についての公的な統計は存在しないため正確な数字は分からない。畜産関係者の話によれば、業界内でフィードロット施設として認識しているのは200カ所程度で、これら以外のフィードロット施設も含めた年間と畜頭数は300〜350万頭と言われている。だいたいの肥育方法は80〜90日間肥育し、9〜11カ月齢の250キログラム程度で冬から初春に出荷する。

 以上から初秋3〜4月に短期の牧草肥育、秋から冬の6〜8月にフィードロット、冬から初夏の8〜12月に長期の牧草肥育の去勢牛が出荷されるため、真夏の12〜2月には肥育去勢牛はいないことになるが、その時期には未経産牛(15〜17カ月齢)が出荷されるので、牛肉の生産量自体は他の月の5〜10%程度の落ち込みで済むとのことである。品不足から来る価格の値上がりはやはりあるようで、2005年には政府がインフレ抑制策として生活基本食料品である牛肉価格の値下げに力点をおいている。(「畜産の情報」海外編:2005年5月号p21〜22を参照。なお2005年の牛肉価格上昇については、アルゼンチン経済の回復や政府による強制的な給与の値上げなどの要因が複合的に加味されていると考えられる)。

 ちなみに肥育去勢牛のリニエルス家畜市場における取引価格は2005年5月で、ヨーロッパ系の401〜480キログラムクラスで1キログラム当たり平均2.3ペソ(87円:1ペソ=37.7円)、ヨーロッパ系の交雑種で2.1ペソ(79円)、ゼブーの交雑種で2.2ペソ(83円)となっている。


(3)フィードロット経営について
 アルゼンチンのフィードロットの形態は大きく次の3つに分類される。前述したがだいたいの肥育方法(5割程度が該当)は、80〜90日間肥育で9〜11カ月齢、仕上げ250キログラム程度で出荷することになり、これら軽量級の9割は国内向けである。フィードロット由来の牛肉は一般的に牧草肥育の牛肉よりも柔らかく価格が高いため、購買力の高い層が住む地域のスーパーや食肉小売店に仕向けられる。なお、他に仕上げ体重別に、220キログラム、300キログラム、380キログラム、440キログラムなどがある。

(1)商業的フィードロット
 経営者(土地所有者)自ら所有の、あるいは借地人所有の牛を使って恒常的に経営するもので、子牛の購入方式と預託方式がある。収容能力は普通5,000〜7,000頭である。預託の場合の料金設定は、1頭1日0.25ペソ(約9円、1ペソ=36.8円)+飼料代+衛生管理費実費(6〜10ペソ(220〜368円)程度)などとなっている。なお、つい最近では成功報酬型として、契約期間における増体量に対して契約時に決めていたキロ当たり価格などを支払うものも見られるようになったが、かなり少数派とのことである。

(2)一時的なフィードロット
 普通の農場において、牛の体重や穀物価格と牛肉価格の関係から、経営利益に有利であると判断した場合に、一時的に囲い込みをするもの。

(3)季節的囲い込み
 特にネウケン州やチュブト州のパタゴニア地域の冬季に見られるが、冬場に家畜を囲い込んで補助飼料を与えるもの。

 一般的にフィードロットでは1つのペンに200頭程度、トウモロコシ7割、小麦カスペレット2割が利用され、また農場内にある一時的なフィードロットではトウモロコシホールクロップサイレージが主に給与(8割とも言われる)されることが多い。


2 ブラジルにおける一般的な飼養形態
(1)概要
 ブラジルの肉牛生産は約1億7,770万ヘクタール(1995年農業センサス、ブラジル地理統計院(IBGE))の広大な草地を利用した放牧飼育が中心で、2003年には1億9,555万頭(IBGE)が飼養され、そのうち8割がインド原産のゼブー(印度牛、瘤牛:Zebu(牛の亜属))、またその8割がネローレ種と言われている。ゼブーはブラジルの気候風土にうまく適応したため、その頭数を著しく増やしてきた。

 その他としては少数のアンガス、ヘレフォード、シンメンタール、リムジン、シャロレーなどヨーロッパ系品種、ゼブーとこれらヨーロッパ系品種の交雑種がいる。

  全国で一番飼養頭数が多いのは中西部のマットグロッソドスル(MS)州で2,500万頭、続いて飼養頭数が多いのは同じく中西部のマットグロッソ(MT)州2,460万頭で、そのほとんどが肉牛である。第3位は南東部に位置するミナスジェライス(MG)州2,090万頭で、他の2州に比較してMG州では乳牛の飼養割合が多いと言われる。

 なお、南部のリオグランデドスル(RS)州では、ヨーロッパ系品種が多く飼養されている。

 なお年間と畜頭数は近年150万頭程度の増加傾向で推移し(2000年1,709万頭、2001年1,844万頭、2002年1,992万頭)、2003年には2,164万頭と初めて2,000万頭を超え、そして2004年には対前年437万頭増の2,601万頭と急増し、ブラジルの肉用牛産業の急激な成長示した(データ:IBGE)。

 ブラジルの主要放牧地帯では基本的に周年繁殖で、3歳齢を超えてから種付けし、4歳齢手前で出産する。MS州にあるEmbrapa肉用牛センター(Embrapa Godo de Corte)によれば、MS州の一般的なネローレの繁殖サイクルは、乾期5〜10月のうち8〜10月ごろに出産が多くなる。これは雨期の11〜4月、特に12月頃から草の状態が良くなり交配が盛んになるからである。なお、草の栄養価が高い時期に出産時期を合わせた方が母牛の栄養状態にとって良いのではないのかとの質問に対し、「雨期は子牛の細菌感染率が高まるため、乾期においてサプリメントを用いて栄養管理した方がより簡単である」とのことであった。

 また離乳は6〜8カ月齢、180〜240キログラムぐらいで行い、と畜は枝肉重量が16〜18@(240〜270キログラム:1@(アローバ)=15キログラム)になる時にするのが一般的であるとのこと。
なお育種用の純粋種の種付けは人工授精(AI)で行うが、食用となるコマーシャル牛の生産は自然交配を行っている。Embrapa肉用牛センターによれば、雌25頭に雄1頭の割合が普通で、成績が良い場合は雌40頭もあり得るとのことである。

 なおブラジルの国土は広大であり、その自然条件など飼養環境が異なるため、ここではブラジルネローレ生産者協会(ACNB)が推進している「自然ネローレ牛品質プログラム(PQNN)」を紹介する。

ネローレ種の繁殖群


(2)自然ネローレ牛品質プログラム(PQNN)
 出生などが明らかで品質が保証された牛肉を「Nelore Natural」のラベルで消費市場に供給しようとする構想が1999年、当時のACNBカルロス・ビアカバ会長によって発表され、カンピーナス大学食品工学部の協力を得て2001年8月より、生産から販売までを包括するプログラムとして実施された。

 以後4年近くを経過し、プログラムに加入した農家は約2,000に達し、かつ4つの食肉パッカーによって牛肉の生産が行われている。

 月間のと畜頭数は、当初の951 頭から2005年5月には46,000頭を超えており、プログラム開始から2005年5月までのと畜総頭数は 102万1,818頭となった。
また、と畜された牛で、PQNNの規格に適合しかつ格付けされたものの割合は、PQNN発足の年(2001年8〜12月)の平均が 40.17%であったのに対し、2004年の平均が 46.79%、2005年1〜5月の平均が57.16%となっており、生産部門における改良の跡が見られる。

 なお、自然ネローレ牛肉の市場への供給量は2005年5月までで 23,827トンとなっており、各パッカーにおける2001年8月〜2005年5月の各シェアは以下のとおりとなっているが、と畜頭数はIndependencia社がプログラムに参加した2003年中ごろから大幅に増加した。

食肉パッカー
と畜頭数シェア(%)
肉生産量シェア(%)
Independencia
64.61
67.88
Marfrig
16.92
3.23
Frigovira
15.50
28.40
Minerva
2.97
0.49
合計
100.00
100.00

 自然ネローレ牛肉の販売網は、プログラムの発足当初はサンパウロ市内のスーパー「アンドリンニャ」1店だけであったが、2004年には3カ月間連続して仕入れを行った小売店は350店舗に増加している。中でも2004年には米国資本のWal Martグループ(Wal Martスーパー網およびSan’s Club)が加わって傘下の18店舗で販売されるようになり、これが自然ネローレ牛肉の販売拡大に大きな進展をもたらした。

 海外市場に対しては、Marfrig社がMarfrig Nelore Exportのマークを付けて空港の免税店で販売を開始する予定である。また協会では販売網の充実を図るため、小売店の規模別格付け分類を行い、検査員の定期的な訪問と情報の交換を行なっている。なお協会は2007年に月間7,000トンの販売を目標としている。

このプログラムの対象となる牛肉は、生産者マニュアルによれば、

1. ネローレ種で毛色は白または灰色(大きな斑点も可)、しかし他のゼブーの血統であれば25%までの交雑は可

2. 基本的に牧草とミネラルの飼育であるが、と畜向けに植物性飼料であれば最大130日間のフィードロット、同180日間のセミフィードロットが許可

3. 性別などとしては、肥育去勢牛(36〜42カ月齢、永久歯6本まで)、若齢雄牛または子牛(18〜24カ月齢、永久歯なし)、肥育雌牛または若齢雌牛(26〜28カ月齢、永久歯4本まで)が認められ、このプログラムで評価され得る規格としては、枝肉重量が雄の場合16〜19@(240〜285キログラム)、雌の場合12〜19@(180〜285キログラム)

4. 枝肉全体において脂肪の厚さは2〜8mm(なおACNBに確認したところ、実際には検査員が、背中から腰、もも、らんいちの脂肪の厚さを目視確認し、サーロインの表面付着脂肪の厚さを測るとのことである)。

となっている。

 このプログラムに参加する生産者は、生産者マニュアルなどを順守する生産上の責任を明確化した一種の契約を交わす必要があり、その生産者マニュアルは、T牛肉の品質、U育成期におけるトレーサビリティ・システム、V肥育期におけるトレーサビリティ・システム、W繁殖の向上−の4部から構成されている(なお確定的に実施されているのはTのみで、その他は草案段階で今後改定していくとのことである)。

 また離乳時期などに係る条件はないが、生産者マニュアルU(草案)では、「離乳後のもので、5〜20カ月齢まではPQNNへの加入が可能」となっている。

 さらに、PQNNに参加する食肉パッカーに対してもマニュアルが存在し、と畜前やと畜時の注意事項、枝肉の規格分類、枝肉冷蔵における温度および時間の管理、パッカー内におけるトレーサビリティ・システムの導入、「Nelore Natural」マークの使用上の注意などが記載されている。

(PQNNに登録されたと畜直前の牛)

(3)フィードロット経営について
 ブラジルにおける集約的な肥育方法には以下の3つがあると言われ、コンサルタント会社によれば近年飼養頭数は大きく伸び、90年に134万頭だったものが95年335万頭に、そして2004年には606万頭となっている。
 また2004年における各肥育方法の頭数は、以下のようになっている。

(1)フィードロット:囲い込んで植物由来の濃厚飼料、サイレージを与えるもの:247万頭

(2)セミフィードロット:放牧主体の肉牛に補助飼料としての植物由来の濃厚飼料を全飼料割合の20〜50%給与するもの:273万頭

(3)winter pastures:雨期に利用しなかった牧草地や特定の牧草地(ペレニアルライグラス、エン麦)を用いて冬期間に肥育するもの:86万頭

 なおEmbrapa肉用牛センターによれば、「フィードロットの場合、10〜13カ月齢、350キログラム弱(枝肉重量ベースで12@)で導入し、肥育期間90〜120日でDG1.0キログラムとなるように飼料を与え、13〜16カ月齢で枝肉16〜18@(240〜270キログラム)になるとき出荷する」とのことである。ちなみに枝肉歩留を約53%(「畜産の情報」海外編:2002年2月号p68)とすると、と畜重量は453〜509キログラムとなる。なお、その他の集約肥育においても10〜13カ月齢で導入するが、目標枝肉重量16〜18@になるには、セミフィードロットで20〜24カ月齢、winter pasturesで24〜30カ月齢になるそうである。

 ブラジルの牛肉生産は牧草肥育が主体で家畜の生理にはかなっているが、出荷までに長い時間がかかりコスト高となり、しかも生産された牛肉は相対的に硬くなる。このため、肥育期間を短縮し、コストを下げ、若い牛をと畜することで柔らかい肉を得ることができる集約肥育が増加しているようである。

 しかしフィードロット肥育は、労力と飼料費がかさみ採算に合わないのでブラジルではあまり定着しない、また牛本来の飼い方ではないと考える生産者も多いようである。

 


元のページに戻る