CAP予算の先行き不透明


2007-2013年の予算の枠組みが焦点の一つ

 欧州首脳会議(EUサミット)が6月16〜17日、ブリュッセルにおいて開催された。このサミットの焦点の一つは、2007年から2013年までのEUの予算の枠組みが合意に至るかであった。

 EUでは、(1)複数年にわたる支出予算の管理を確実にすること、(2)さまざまな政策の年間の計画策定への一助とすること、(3)EUの長期間の財源の収入予測を確実とすること、(4)毎年の予算組み立てを容易にすること-などの理由から、中期的な予算の枠組みを設定している。

 

分担金のGNI比を1%と提案する国も

 欧州委員会は2004年7月、2007年から2013年の全体予算を1兆250億3,500万ユーロ(137兆3,546億9千万円:1ユーロ=134円)とすることを提案した。この予算を執行するためには、加盟各国からの分担金を国民総所得(GNI)比で1.24%とすることが必要としている。しかし、財政赤字となっている国など6カ国から、これを1%とするよう提案されている。

 これに関して欧州委員会は、現在のアジェンダ2000(2000〜2006年)による枠組みでは、分担金のGNI比が平均1.11%となっているが、現在、加盟国が25カ国となっており、また2007年にはさらに2カ国の加盟が予定されていることから、分担金のGNI比を1%に切り下げた場合、現在実施しようとしている政策の内容が縮小されるか、または達成できないとしている。

 

イギリスの負担超過是正措置の見直しも

 イギリスは、他の加盟国と比べ、EUへの財源拠出額に対し、共通農業政策(CAP)などの補助金受取額が比較的少ないことなどから、1984年より、負担超過を是正するため、ネットの負担金額の66%の払い戻しを受けている。欧州委員会は、今回の予算枠組みでは、現行の払い戻し措置を廃止し、これに代わる措置を提案している。

 これに関してイギリス政府は、CAPを改めて見直すのであれば払い戻し措置の見直しをしても良いとしている。

 

ボエル委員、予算規模の維持を訴える

 フィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は6月10日、欧州家畜食肉取引業者連合(UECBV)の年次総会において、今回の予算枠組みの議論について次のようにスピーチしている。

 「CAPの第1の柱である生産者に対する直接支払いなどの補助金については、2013年末までの支出がすでに2002年10月に設定されている。また、2007年に加盟を予定しているブルガリアとルーマニアに対する直接支払いや市場安定対策の支出も必要となっている。25カ国でのCAP予算の枠組みが設定されている現在、加盟予定2カ国を含めた27カ国での予算とすることは、かなり窮屈なものとなってしまう。また、加盟予定国に必要となる80億ユーロ(1兆720億円)は、EU25カ国の農家に支払われる予定の財源から削られることになる。

 また、CAPの第2の柱である農村開発政策についての風当たりはさらに大きいものとなっている。このような中、分担金をGNI比の1%にするとのいくつかの国の提案が認められた場合には、第1の柱(直接支払いなど)の予算はすでに設定されているので、削減の対象は農村開発政策に向けられる。この削減が行われた場合、農村開発政策がだめになる。」と欧州委員会が提案している予算の枠組みの重要性を訴えている。

 

議論は結論に至らず

 こうした中、今回の議論が行われたが、CAPの見直し、イギリスの負担超過措置の見直しで意見が対立し合意に至らなかった。今回の議論の前には、フランスおよびオランダの両国が欧州憲法を国民投票で否決しており、EUの統合の深化に大きな影を落とすこととなった。今回の会議において、予算枠組みについて合意に至らなかったので、2007年1月から執行する予算に関する作業に遅れが生じることになる。今回の議論は、今後の欧州の農業政策の展開にも大きく影響することから、引き続き注目していきたい。


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