アルゼンチン政府、牛肉の小売価格値下げに躍起


牛肉の小売価格を下げるため、牛皮の取引価格を値上げ

 6月8日アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)は、アルゼンチン皮なめし産業会およびブエノスアイレス州皮なめし協会と、アルゼンチンの食肉パッカーから購入する牛の生皮および塩蔵皮(以下「牛皮」とする)の価格を5%引き上げる協定を結んだと発表した。これは、生活基本食料品の値上げを政府が抑制すべく講じた施策から派生している。

 3月15日SAGPyAは食肉パッカーと、食肉5部位について小売価格を最低10%値下げする協定を結んだ(「畜産の情報 海外編」2005年5月号p21〜22を参照)。この折、食肉パッカー側は小売価格の値下げの条件として協定内に、「SAGPyA長官および経済生産相は、(1)牛皮の売買および輸出を規制している法令を検証すること、(2)国際価格と整合性のある価格で取引されるような方法を研究すること、(3)(1)と(2)を実行する委員会を創設すること−をパッカー側は要請する」という条項を盛り込んでいた。

 

食肉パッカーは、牛皮の適正な取引価格決定を希望

 アルゼンチンでは1972年、国内皮なめし産業の育成を目的に牛皮などの輸出が禁止され、その後、解禁と禁止が繰り返されたのち、1992年に関税化された。しかしこのとき、牛皮などには輸出税15%および輸出付加税15%の計30%が課税され、その後輸出付加税は廃止された。

 なお、この過去の経緯から続く輸出税は現在5%となっているが、2001年の経済危機の後、各農畜産品別に課された輸出税10%も加算され合計15%となっているため、自由に輸出し難い状況となっていた。この状況に対し食肉パッカー側は、「自分たちの製品が国際市場において、どの程度の価格で取り引きされるか分からず、皮なめし産業の言い値で買われてきた。よって、一部だけでも自由に輸出し、皮なめし産業と取引価格の協議を実施する際の参考価格としたい」と主張し続けてきた。一方、皮なめし産業側は「アルゼンチンは伝統的に焼印をしており、また有刺鉄線での傷も多く、その商品価値は国際市場では必ずしも高くない。よって、なめして付加価値をつけた方が、商品価値が高くなる。また雇用面でもアルゼンチン社会に貢献しており、産業がなくなった場合、その影響が大きい」と反論してきた。

 今回政府は、牛肉価格を下げるため食肉パッカーと皮なめし産業間を、牛皮の取引価格の値上げという形で応急的に取り持ったことになる。

 

牛皮の輸出税賦課政策は今後も継続か

 6月8日の協定の具体的内容は、(1)両者の署名日から牛皮の購入価格を5%引き上げること、(2)前記パーセンテージは買手と売手の各取引において合意された価格に加算すること、(3)本協定の有効期間内において、国内市場のなめし皮価格をこの協定を理由に値上げしないこと、(4)有効期間は署名日から150日間(2005年11月8日期限)とすること−となっている。

 なお、協定内には「“生産チェーンの競争力を改善”するための制度および施策を調査し評価する際、工業・商業・中小企業庁が実施している“皮革チェーン競争力強化フォーラム”の成果を協議の基礎として考慮すること」という一文が記されている。

 このフォーラムの担当者は、「牛皮を加工して付加価値を付けて輸出することは有益であり、かつ皮なめし産業は維持拡大的な雇用対策にも貢献しているので重要な国内産業である。近年、施設投資により処理能力の拡大を図っており、牛皮はまだまだ不足している」と話しており、また協定前文にはフォーラム担当者の談を裏付けるかのように「牛皮のほとんどが国内で加工されることにより、製品に付加価値を生みかつ持続的な雇用増加を保証することにつながるという判断を、政府は再承認している」とある。

 これらから察するに、生産者や食肉パッカーなどを含めた畜産全体の“生産チェーンの競争力を改善”するに当たって、食肉パッカー側が望むような牛皮の商業的な自由化は難しいのではないかと思われる。


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