複雑な税制のはざまで揺れる酪農振興 ● インドネシア


生乳生産は増加傾向で堅調に推移

 インドネシア農業省畜産総局(DGLS)によると、2000年以降の生乳生産量は40万トン台後半で推移していたが、2003年は暫定値でおよそ55万トンとなった。乳牛飼養頭数はここ10年33万頭前後で推移しながらわずかずつ増加しており、2003年は36万8千頭となっている。ともに年次によりわずかに増減は見られるものの、近年は統計上堅調な伸びを示している。

 また、生乳生産は人口と消費の集中するジャワ島の5州(含特別市)だけで全体の98%以上を占めており、また実際に乳用牛の人工授精(AI)が行われているのはジャワ島各州のほかでは、スマトラ島の一部の州および南スラウェシ州などでわずかに行われているのみである。

  近年のAI実績としては、99年までは政府の計画の7割程度が実行されていたが2000年以降は3割程度と低迷しており、増頭計画における不安要素となっている。

 

近年の乳製品をめぐる税制措置など

 同国の税制度では輸入に際しての関税のほか、付加価値税、ぜいたく品税などが別途課税される。

 乳製品の輸入関税は、基本税率として5%が課税される。なお、2004年12月の財務大臣決定によりそのほかの全ての農産品についても、砂糖や米など一部品目を除き2010年までに段階的に関税率を引き下げ、5%に統一することとされている。

 また、2001年から全ての物品に対し付加価値税を徴収する制度(ただし輸出物品は免税)を導入し、その後数度の改正を経ながら現在は一部戦略品目として(1)家畜・養鶏などの養殖のための飼料および飼料原料、(2)畜産業などで用いる苗、種子などが非課税になるなどしているが、納税対象者(組織)や非課税対象品目の選定基準に関して、当初から農業省の酪農振興政策との矛盾が関係者から指摘されている。

 ぜいたく品税については2000年以降ヨーグルトなど一部の乳製品(関税分類コード:0403.10、0403.90、0406.20〜90)に10%の税率が課せられていたものの、2004年12月31日付政令第55号により非課税に改正され翌年1月1日以降適用されている。

 

乳製品輸出入の動向

 輸入乳製品使用業者に対する国産生乳受入割当制度(ミルクレシオ制度)が98年に撤廃されて以降、国内乳業各社は周辺国への輸出用乳製品生産のため乳製品輸入量を拡大している。畜産総局資料による2003年暫定値では生乳換算乳製品輸入量は138万3千トン、輸出量は61万トンとなっており、事実、撤廃前の97年の輸入量は69万3千トン、輸出量は極めてわずかとなっている。

 また、1997年の工業・商業大臣布告で乳製品の一部に輸入制限品目が設けられ指定輸入業者が定められていたが、その後98年には指定輸入業者以外へも輸入が開放されている。



付加価値税の運用をめぐる問題

 牛乳の消費拡大と国内生乳生産振興を図る農業省の意図とは逆に、2001年から導入された付加価値税をめぐって、現在酪農協からの徴税の取り扱いが問題となっている。税務当局の見解によると酪農協同組合が販売する乳製品は付加価値税の課税対象とされているものの、現実には、ある酪農協では制度の施行以来消費者から付加価値税を徴収した実績がなく、現在、これら税額未納の酪農協に対し当局から罰則金と未払い税額の遡及支払いが求められている。しかし、多くの酪農協には返済のためのプール資金が無く、構成員は大部分が零細経営の酪農家であるため、債務を構成員で分担した場合は離農者が続出するとして、インドネシア牛・水牛飼養者協会(PPKSI)などの業界団体からは生乳生産振興のための税制改善要望が上がっている。

 

政府などによる生産振興・消費拡大策

 このような状況の中で、今年4月西ジャワ州政府は現行の在来牛群からの増頭計画では高まる生乳需要に対応出来ないとして、豪州などから至急乳牛を5万頭程度輸入すべきであると中央政府に要望しているほか、学乳に対するユニセフの援助を背景に、東ジャワ州政府は周辺6酪農協から構成される乳業組合センター(PKIS)と共同でUHT牛乳の消費拡大を計画するなどの動きが見られる。


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