特別レポート

対日輸出が急増するチリの豚肉産業

ブエノスアイレス事務所 横打友恵 犬塚明伸 
調査情報部 唐澤哲也、食肉生産流通部 藤島博康

1 はじめに

 わが国の豚肉輸入は、消費量は微増傾向であるものの国内生産がそれに追い付かず、毎年増加を続けている。特に2001以降は、国内外におけるBSE、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う牛肉、鶏肉の代替需要などにより消費が増加しているため、豚肉の輸入量は拡大傾向にある。

 主な輸入先は、米国、カナダ、デンマークの3カ国で、輸入量全体の8割以上を占める中、チリからの豚肉輸入は97年以降大幅に増加し、本年1〜10月の輸入量は前年同期比37.1%増の33,692トンと、上位3カ国に次ぐ地位となっている。

 一方、チリの2003年の生産量は、1990年と比べ約2倍となるなど短期間で急速に拡大した。また、生産の拡大に伴い輸出も急増し、中でも日本市場向けは顕著に増加している。

 輸出成長の要因としては、国内における需要の拡大とともに、家畜衛生上の利点、すなわち、チリではその四方を自然に囲まれた地理的環境などにより、近年、口蹄疫、豚コレラは発生していないことが挙げられる。しかし、豚肉産業のみならず農畜産業全般にとって大きな自然の利となるその地理的条件も、日本をはじめアジア向け輸出を拡大していく場合には、輸送コスト、輸送時間などのマイナス要因を抱えている。

 今回は、本年10月末に実施した現地調査により同国の大手パッカーや業界関係者から得た知見を交えながら、チリ国内における最近の豚肉の生産、流通、消費の動向を報告する。

2 チリの一般概況

チリの行政区分(州都)


 チリは、わが国からみて地球の裏側、南米大陸の太平洋側に帯状に位置し、南北の長さは約4千2百キロメートルと東京からシンガポールまでの距離に匹敵する。

 国土面積は約76万平方キロメートルで、日本の約2倍に相当する。北部は砂漠地帯、南部は氷河地帯で、また、西部は太平洋、内陸側にはアンデス山脈が連なる。気候は、四季があるものの、赤道近くから南極まで続く地形故に一国でありながらさまざまである。なお、チリ中央部は、温暖な気候条件、かんがい設備が整っていることなどから国内の主要な農畜産業地帯となっている。

 また、大陸の一部ながら周辺地域とは隔離された地形となっていることから、動植物の防疫面からみると、天然の国境線により外部からの疾病の進入が遮断されるなどの利点がある。

 政体は大統領を元首とする立憲共和制で、1974年以降、12の州と首都圏州に行政区分され、各州には県、その中には市がある。

 人口は約1,577万人(2003年6月推計)で、首都サンティアゴがある首都圏州は636万人と全人口の約4割を占めている。

 2002年におけるチリの国内総生産(GDP)は、664億ドル(約6兆9千億円:1ドル=104円)と日本のわずか2%程度であるものの、GDP実質成長率は99年のマイナス成長から国内消費の回復や、海外諸国との自由貿易協定(FTA)の締結などによる外需景気を背景に回復基調で推移し、2003年では対前年比3.3%と前年の成長率2.1%を上回った。

 チリの主要産業は、銅・鉄などの鉱業、水産業、畜産業、果実・かんきつ類、小麦、ワインなど、その恵まれた自然環境を生かし多岐にわたっている。

 2003年の貿易動向をみると、輸出総額は前年比15.8%増の210億4,600万ドル(約2兆2千億円)、輸入総額は同9.8%増の180億3,040万ドル(約1兆9千億円)と、30億1,500万ドル(約3千百億円、同33.6%増)の貿易黒字となった。

 チリ農業省・農業政策局(ODEPA)によると、同年の農林業の輸出額は、同14.5%増の59億3,700万ドル(約6千2百億円)と、輸出額全体の約3割を占め、チリ経済全体において農林業が大きな役割を果たしている。農林業輸出額の内訳をみると、穀類や果実などを含む農業が全体の55.9%、林業が37.3%、畜産業が6.8%を占めている。

 畜産業の輸出額は全体に占める割合は小さいものの、前年比は42.6%増、さらに、1995年と比べると約4倍となっており、農林業全体の中でもその成長幅は顕著である。

 品目別内訳では、ぶどう、パルプ、ワイン、木材、りんごが上位を占めた。また、豚肉は同57.0%増と大幅に増加した。

 日本向け輸出品目をみると、鉱物、サケ・マス、木材加工品、豚肉、ワイン、レモンなどと幅広いものとなっている。

チリの社会・経済指標
資料:FAOSTAT、世界の統計2004



3 チリの豚肉需給

(1)生産動向

 チリの食肉生産は、90年代の経済の発展に伴う食肉消費の増加から年平均6.5%の増加率で目覚しい伸びをみせた。中でも豚肉の生産量は93年以降一貫して増加傾向が続いており、国内外の需要の増加により、年平均9%の伸び率を示している。生産量のうち約2割が輸出に向けられる。

 また、輸出は2000年以降大幅に増加しており、2003年は前年を35.1%上回る結果となっており、中でも日本が最大の輸出相手先となっている。

 豚肉産業へは98年〜2002年の5年間で約250百万ドルの投資が行われ、その結果、技術水準と生産効率の向上が図られてきた。さらに、特に地方を中心とした雇用の創出が促進され、豚肉部門への直接的な雇用だけでなく、輸送やサービスといった間接的な雇用も含め、同部門では現在約1万8千人が従事しているとされる。

養豚主要統計についての各国比較
資料:ODEPA、「畜産統計」、「食肉流通統計」、「食料需給表」、「貿易統計」、USDA「Livestock,Dairy and Poultty Outlook」

注1:豚飼養頭数は、チリ2002年6月30日現在、日本2004年2月1日現在、米国2003年12月1日現在
注2:その他の数値は2003年
注3:チリの1頭当たり枝肉重量は、生産量をと畜頭数で除したもの

(1) 衛生面からの立地

 養豚存立の立地としてみると、衛生面からはヒトや動物を介した疫病の侵入が自然条件によって分断されることから、防疫対策は容易であり、養豚に限らず農畜産物の生産には大きな自然の利を持つ。限られた侵入経路の一つとなる空港では、入国の際の手荷物がすべて検査されるなどの防疫対策が施されている。

 このため、豚の疾病としては、マイコプラズマによる肺炎以外はほとんどなく、また、チリ農業省農牧庁(SAG)担当者によると、後述のとおり飼養戸数が限られているため、仮に疾病が発生したとしても、地理的な条件も手伝い比較的短期間での撲滅が可能であるとのことである。

(2) 飼養および生産動向

 養豚が集中するのは首都圏州と隣接する第6州であり、全飼養頭数に占める割合(2002年6月末現在)をみると、それぞれ18.4%、68.0%となっている。また、繁殖母豚頭数をみると、首都圏州で18.6%、第6州で67.0%を占めている。

 近年、養豚経営数は急激に減少し、90年には母豚1千頭以上の規模で322を数えた養豚経営数は、2003年には151、2004年には141と減少が続いている。

 繁殖豚はここ数年はカナダからの輸入種を中心に改良が図られている。むれ肉(PSE豚肉)などの問題は、遺伝レベルでの改良により改善されてきたとしている。

 また、と畜頭数では、首都圏州、第6州でそれぞれ全体の36.0%、56.1%となり、この両地域で国内全体の90%以上がと畜されている。

 主要生産地域は、北部の乾燥地帯の下に位置し、比較的温暖な地域である。主要養豚地域から南下するにつれ冷涼な気候となり南極へと続くことから、養豚だけではなく居住にも適地となっており、国内消費にも有利である。

 また、大消費地である首都サンティアゴに近いだけでなく、南米西海岸の中でも最大級の港であるバルパライソ港にも120キロ、日本・チリ間の定期船が寄港するサンアントニオ港にも100キロ程度の位置にあり、気候条件に加え消費、飼料の物流という観点からも、養豚適地ということができる。

 なお、肉用牛および酪農は、チリ中心部からやや南の比較的冷涼な地域が中心となる。

州別豚飼養頭数(2002/6/30)
資料:ODEPA

(3) と畜動向

 ここ15年間、と畜頭数はコンスタントに増加し、90年から2003年の間に34%増加している。

 また、1頭当たり平均出荷重量は従来はわが国より低かったものの、日本向け輸出拡大に伴い品種改良が進んだ結果、増加傾向にあり、93年の79.8キログラム(枝肉ベース)から2003年には93.7キログラムと、この10年間で17%増加している。日本向けは、わが国同様で175〜180日の肥育により、生体重量110キログラム程度で出荷される。これに対し、チリの通常品は160日の肥育でやや小ぶりとのことだった。

 温暖な気象条件と生産性の向上などにより、同国は豚肉生産の季節変動はなく、通年での安定供給が可能である。

州別豚と蓄頭数(2002年)
資料:ODEPA
月別と畜頭数の推移
資料:ODEPA


(2)生産構造

 国内生産量の90%が国内豚肉パッカーが組織するASPROCERの会員である30者によって生産される。その大半がインテグレーション化された大規模企業、残りの10%は、耕種との複合経営や残飯養豚などの小規模農家となっている。

 インテグレーション化で先を行く養鶏部門では、アグロスーパー社など大手4社による生産が全体の9割を占めるとされており、寡占化が養豚以上に進んでいる。また、養鶏インテグレーションの生産基地は第5州、第6州に集中しており、主要養豚地域と重なる。

 チリ豚肉業界第1位のアグロスーパー社は、養鶏インテグレーションを最初に手掛けており、港からの飼料輸送や、疾病管理などの技術力、製品販売面など生産および流通段階における基盤がすでに整備されていた。このようなことが、養豚部門への業務拡大を容易にした要因の一つであると考えられる。また、比較的短期間に国内豚肉市場の6割を占めるほど寡占化が進んだ理由の一つには、鶏肉および豚肉生産における飼料購入や製品販売面などにおいて、規模による経済メリットが最大限に発揮された結果と推測される。

豚肉生産量・輸出入量の推移
資料:ODEPA
チリの豚肉生産流通フロー


(3)生産コスト

 生産コストについての詳細なデータは得られなかったが、チリ養豚生産者協会(ASPROCER)によると、チリの生産コストは、米国とメキシコの中間程度のものであるとのことであった。コスト形態としては米国やカナダに近いとしており、人件費部分が米国のそれを下回るものと見られる。

 また、コンサルタント会社が行った、飼養頭数600頭の繁殖・肥育一貫経営を例にした推計によると、飼料コストが全体の79.4%を占め、施設・機械費が13.2%、労働費が3%、その他が4.4%としている。

 ASPROCERによると、飼料はトウモロコシの約7割を、大豆はほぼすべてを輸入(関税は一律6%)に頼っている。輸入先はトウモロコシについてはアルゼンチンが7〜8割、米国が2〜3割を占め、また、大豆はブラジル、ボリビアからとなっている。このため、生産コストは飼料穀物の国際価格の影響を受けやすい。

 しかし、わが国同様に輸入飼料に依存するにもかかわらず、米国より低コストである要因は、(1)生産技術が高い、(2)地価が安く初期投資が比較的安い、(3)低賃金、(4)恵まれた自然環境による衛生コストの低さ−にあると考えられる。

 生産技術の高さを示すものとして、年間母豚1頭当たりの産子数が挙げられる。ASPROCERによると、年平均2.43回の出産で産子数は25頭となる。今回面談した関係者の話を総合すると、大規模経営では最低でも24頭というのが平均レベルであるようだ。

 人件費については、今回の訪問先での聴き取りでは、と畜ライン作業従事者などの月収は400〜750ドル程度であることから、平均500ドル前後ではないかと推測される。

 年間母豚1頭当たりの産子数も、人件費の低さに支えられている。夜間を通じた見回りにより事故死を防ぐなど、きめ細かな管理によるものであり、低賃金はと畜部門を含め、低コスト生産に大きく寄与しているといえる。

(4)輸出入動向

 チリの豚肉輸出量は、大半が冷蔵または冷凍肉で、加工品はわずかである。98年から2003年の間に数量ベース(冷蔵・冷凍、製品重量ベース)で4.8倍、金額ベースでは5倍と大幅に増加し、03年の輸出量は61,604トンで、輸出金額は約1億5,020万ドルに上った。金額ベースでの内訳をみると、日本向けが62.1%、韓国向けが19.6%とアジア向けが全体の8割を占め、メキシコ向けが9.6%と続く。その他の輸出相手国は、コスタリカ、キューバ、コロンビア、エクアドルなどの南米諸国から、ドイツ、イタリア、英国など欧州諸国におよぶ。

 さらに、輸出量の増加要因には、高い衛生水準により他の輸出国との競合において優位な立場にあることも挙げられる。チリは、口蹄疫ワクチン不接種清浄国であると共に、国際獣疫事務局(OIE)の重要家畜疾病リストA*にある豚コレラについても清浄国であることから、日本やメキシコなど衛生条件の要求度が高い国への輸出が可能となっている。

 一方、輸入量は、ここ10年でも数百トンから3千トン台で推移し、特に輸出が急激に拡大した2000年以降は減少傾向にある。2003年の輸入量は195トンで、主に加工向けとしてカナダからが全体の約8割を占めている。このため、需給からみると豚肉純輸出国と言える。しかし、チリよりも価格競争力のあるブラジルが衛生管理の向上に努めるなど、今後は他国との競合も予想される。

 なお、生体輸出については、繁殖母豚の輸出はあるものの、輸送コストの問題などから子豚を含む肥育豚の輸出はないとのことであった。繁殖母豚の主な輸出先は、ボリビア、ベネズエラ、エクアドルとなっている。

 チリの輸出向けと畜施設は、2004年10月現在で27施設あり、うち6カ所が豚を扱っている。

* 重要家畜疾病リストA:社会経済上または公衆衛生面で重要性が高く、大変深刻かつ国境にかかわりなく急速に伝播する能力を持ち、かつ、家畜および畜産物の国際貿易上重要性の高い伝染性疾病。口蹄疫、豚コレラ、ニューカッスル病などが含まれる。

国別輸出量の推移
(生鮮肉、冷蔵・冷凍、製品重量ベース、単位:トン)

資料:ODEPA

国別輸出額の推移
(単位:千ドル(FOBベース))
資料:ODEPA

(5)国内の消費動向

 86年以降、チリでは動物性たんぱく質の摂取量は増加を続けており、1人当たりの食肉消費量は93年から2003年の10年間で約47%増加した。

1人当たり食肉消費量の推移
資料:ODEPA

 2003年の内訳をみると、鶏肉が最大で28.8キログラム、牛肉が24.1キログラム、豚肉が19.9キログラムと続く。ここ10年間のそれぞれの推移をみると、牛肉は20%増、豚肉は90%増、鶏肉は55%増と豚肉の伸び率が極めて高い。豚肉の消費の内訳は6割が生鮮肉、4割がハム・ソーセージである。ASPROCERでは、2010年には年間1人当たり食肉消費量は90.0キログラムとなり、そのうち豚肉は28.0キログラムに増加するとの見通しを立てている。

 ODEPAによると、豚肉は消費者にとって、牛肉よりむしろ鶏肉(ホワイトミート)に近いイメージが浸透しており、これを消費増の一因としている。米国では、「もう一つの白身肉」として消費者に鶏肉同様の低コレステロールなどを訴えた豚肉消費拡大キャンペーンが展開された時期があったが、チリでも同様のイメージが消費者に支持されたようだ。また、ODEPAでは、豚肉、鶏肉ともに生産のインテグレーション化が進んだことにより、低コストでの安定供給が可能になったことから、価格競争力の向上についても消費増加の要因として挙げている。

 
 
中央市場にある食肉専門店
 
  ショーケースの中には、豚足、内臓類が並ぶ


 サンティアゴ市内の同国で最大級の量販店を訪問し、豚肉の品ぞろえをみたが、皮、脂、豚足からヒレ、ロースに至るまでを小売販売していた。さらに、専門小売店では、顔面、尾から内臓類まで豚のほぼすべてを販売していた。また、町の食堂では豚足の煮込みのようなメニューも一般的であった。

 チリでは所得格差が大きく、それに応じて消費部位への志向も異なるようだが、一般販売される可食部位の範囲は、わが国と比較してかなり広範にわたっていた。また、欧米諸国に共通してみられるように、チリでもハム用のモモ需要により相対的にロース価格が低いとされる。

 人口1,577万人と限られてはいるが、このような国内の多様な消費形態は対日輸出競争力を支えている一つの要因と考えられる。

 一方、鶏肉については、食肉パッカーの物流担当者の話によると、(1)商品が小さく物流が容易、(2)比較的低価格であることから量販店の利益商品、(3)消費者にとって料理が簡便−が消費増の要因として挙げられている。

 また、牛肉については、鶏肉、豚肉とは対照的に、ブラジル、アルゼンチンという周辺の牛肉生産国と比較して生産性が低いことから、近年、生産量の減少、輸入量の増加が続いており、国内消費に占める輸入牛肉の割合は確実に上昇している。

 なお、チリは、地域主義*により口蹄疫非清浄国からの牛肉輸入を認めており、今回訪問した量販店の棚スペースではブラジル産牛肉が多くを占めていた。

* 地域主義:輸出国において家畜疾病が発生した地域およびそれに関連する地域または地域ごとの家畜衛生対策を考慮して輸入を停止または解禁すること

サンティアゴ市内量販店での豚肉価格(04年10月27日調査)
注1:日本の価格は、農畜産業振興機構調べ(04年9月調査)
注2:1ペソ=5.7円で換算

 

4 今回訪問したパッカーの経営事例

(1)アグロスーパー社(Agricola Super LTDA)

 
 

アグロスーパー社の係留場

加工部門(1時間当たりの処理量は800頭)
すべての作業が、ISOやHACCP認証取得による衛生管理・品質管理の下、行われる
Supercerdo(スーパーポーク)のブランド名で商品提供

閉鎖式し尿浄化処理施設

浄化した水は養豚場の洗浄用、ぶどう畑用に使用される


 チリにおける鶏肉、豚肉それぞれの国内市場の6割を供給する最大手のインテグレーション企業で、第6州の州都および県都であるランカグア(サンティアゴから南へ85km)を拠点としている。また、チリにおける豚肉総輸出量の6割以上を占める国内最大の輸出パッカーである。生産部門、加工部門、物流部門などは会計上、すべて別会社となっている。社名と共に記載される「alimenta」はスペイン語で「食の供給」という意味であり、国内外の消費者に対し、生産から加工までを自らが責任を持つ食材の提供を目指す。わが国への輸出は97年より開始している。

ア 肉豚生産

 飼料はブラジル、アルゼンチン、米国からの輸入による。自社工場で、トウモロコシ主体の配合飼料を生産し使用している。21日で離乳の上、2元サイト(170日まで1カ所で肥育)または3元サイト(70日まで育成、育舎を移動後170日まで肥育)での170日肥育・出荷としており、米国型の分離早期離乳方式などの生産性の高い飼養管理を導入しているものとみられる。

イ と畜加工処理

 と畜は、ガス気絶、スチーム方式による湯はぎによる。と畜作業は午前中のみで、部分肉加工は終日稼動する。工場の操業は8時間の2交代勤務で、残りの時間で清掃するため、ほぼ24時間操業となる。

 同社は、自社で肥育した豚のみをと畜していることから、肉豚生産部門とのと畜スケジュール調整が重要としていた。

ウ 国内販売

 アグロスーパー社は、食肉供給者として、自社による最終消費者向けのパッキングまでを目指している。自社製造製品についてはISOの認定、HACCPの導入などの国際的な衛生基準に達していることから、トレーサビリティへの対応など、商品の品質には大きな自信を持っている。

 国内向け生鮮肉は約2週間の賞味期限となるそうであるが、と畜から3日以内の販売を目標とし、実際に消費されるのは10日以内としていた。

 同社の国内市場での戦略としては、小売店など比較的小口の販売先の系列化が挙げられる。アグロスーパー社商品の宣伝、卸売価格の割引などを通じて系列化を目指す。

 国内豚肉マーケットの約6割を占めるプライスリーダーであることから、価格設定について質問したところ、「恣意的に価格をつり上げても、輸入品の増加を招くだけなので、国内価格は国際価格に連動したものにならざるを得ない」とのことであった。

エ 輸出

 現在の豚肉輸出量は、生産量全体の約18%を占める。輸出先は、韓国(肩ロース、バラ)、日本(ヒレ、バラ)、メキシコ(モモ、足、骨付きヒレ)、EU(ミックス)、南米の順となっている。また、現在ハム・ソーセージの輸出はパイロット的にメキシコ向けに実施している。

チリの食肉パッカー豚肉輸出ランキング(2003年)
資料:ASPROCER
注1:加工品を含む
注2:2003年のFAMISA社の数値はなし

オ 環境対策

 排せつ物処理に関しては、当初は農地還元していたが、80年代に環境問題が顕在化し、アグロスーパー社でも90年代からふん尿処理対策に取り組んでいる。

 同社では先進的な取り組みとして、2000年12月よりメタン回収プロジェクトを開始し、首都圏州および第6州の5カ所の自社農場に閉鎖式し尿浄化処理施設を設置した。

 同施設では、ふん尿処理に伴い発生するメタンガスを回収、燃焼させ、メタンガスよりも温室効果の低い二酸化炭素に転換させることなどにより、温室効果ガスの削減を行っている。このプロジェクトは、チリ・日本両政府からクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトとして承認され、同社では、当該プロジェクトによる温室効果ガスの削減分の排出権を、2004年から12年までの間で、約200万トン、日本の電力会社へ販売することとなった。

参考:アグロスーパー社によるプレスリリース

http://www.agrosuper.com/agrosuperv2/index.aspx?channel=1093



2 ファミーサ社(Faenadora El Miraglo S.A.)

 第6州のサンフランシスコ・デ・モスタサール(サンチャゴから南へ約60km)を拠点とする。約50年前から養豚を行い、2003年3月からと畜・加工を開始した。従業員のうち管理部門や警備担当は工場内への立ち入りが制限されるなど、徹底した衛生管理を行っている。

ア 肉豚生産

 品種は日本向け輸出を意識した繁殖豚を基に生産し、飼料は米国、アルゼンチンからの輸入飼料による。

 出荷時の生体重量は日本市場を意識し、平均115〜118キログラム程度。母豚1頭当たり産子数は年平均24頭であり、母豚は6産程度で更新される。養豚場の設計段階から事故率を抑える努力をしており、肥育までの事故率は2%程度である。

 汚水は植林地に還元している。経営者のガルシア氏は、環境対策以外に生産を制限する要因は無いとしていた。

イ と畜処理

 2003年3月に自社でのと畜を開始するまでは、生体で販売していた。現在、ファミーサ社でと畜する肉豚の3割は自社農場生産、7割は外部生産者からの購入による。現在は母豚2千8百頭を飼養するが、今後数年間で5千頭に拡大する予定にある。

 外部からの豚購入価格は、歩留まりを勘案した枝肉重量に応じて支払う。国内相場よりやや高めに設定することで頭数を確保している。

 と畜は午前中で終了するが、部分肉加工処理は2交代制により稼動。現在と畜加工部門で雇用しているのは165人で、作業員は2〜3カ月の研修を受ける。第6州一帯が果実生産地域のため、収穫時には一時的に人手不足となる時期があるそうだ。

 部分肉処理施設にはまだまだ余裕があり、ライン増設などの予定について尋ねたところ、付加価値処理(部分肉からの小割ライン)の増設を検討しているとのことであった。

ウ 輸出

 2003年9月から輸出を開始した。新進企業であり、輸出パッカー別での輸出量は全体の1%にも満たない程度だが、アジア向け輸出に大きく依存している点が注目される。

 生産量の約8割を占める日本向けは大分割(部分肉)が主流だが、韓国向けには細かなパーツまで加工する。他の輸出市場としては、メキシコ、エクアドル、キューバなどで、EUはわずかである。現在は冷凍部分肉での輸出がほとんどであるが、今後は、日本のみならず韓国、フィリピンなどのアジア市場をターゲットとして、最終消費者向けの付加価値の高い製品の生産を目指している。なお、ハム・ソーセージ製品での輸出は行っておらず、また、将来的にも考えていないそうだ。

 骨の多くは、韓国に輸出され、一部を国内市場に出荷している。脂肪は中南米に輸出し、一部は廃棄物として焼却している。皮はなめしてメキシコなどに輸出している。

 当初から皮はぎラインを設置しているように、日本向け輸出意識は相当に高い。工場デザインから機械・器具(皮はぎ)などに至るまで、日本の需要者の要望を参考に設置し、カット作業員の技術研修などに関しても日本企業の協力を得たと語っていた。

 わが方から、輸出に特化することで、経営リスクが高くなるのではと尋ねたところ、生産性の向上により競争力を高め、高付加価値製品を販売していくことでそのリスクは回避できるとのことであった。

 アグロスーパー社の寡占状態にある国内市場を顧みた場合、ファミーサ社の輸出への特化は、経営上の選択肢の一つと言えるだろう。



5 養豚を取り巻くチリの農業政策

 ODEPA農業政策担当のモヤ氏によると、チリ政府による国内農業保護政策はビート糖を除き行われていない。ニュージーランドなどと同様に、農業は市場経済の中での一つの産業として位置づけられている。

 また、SAG疾病監視担当のカルカーニョ氏によると、農業政策としては、70年代に協同組合による生産者の組織化支援を図った時期もあったようである。しかしながら、ラテン系のチリの国民性にはなじまなかったようであり、現在、少なくとも養豚業界には残っていない。

 カルカーニョ氏は、自らは協同組合による組織化を支持するとしながらも、「インテグレーションが小規模生産者を圧迫したのではなく、(廃業した者は)生産性が低いなど経営能力の問題から自ら脱落していった。20年後には、養豚産業も1社による寡占状態となる可能性もあり得る」と語っていた。

 現在、チリの経済政策は、チリ経済の開放、貿易の拡大、輸出市場の多元化に重点を置き、具体的な方策としては(1)関税の引き下げ、(2)地域自由貿易圏への積極的な参加、(3)WTOの推進、(4)FTAの推進を挙げている。

 ODEPAのモヤ氏も、チリでは農業保護政策もなく輸出への直接的な援助もないが、FTAを積極的に推進することにより、政府は間接的に農業を支援していくと語っており、自由貿易の推進はチリ農業にとって重要な課題となっている。

 一方、養豚を規制するものとしては環境規制が挙げられる。世界的に農業と環境をめぐる問題が高まっているが、チリも例外に漏れず、養豚も環境対策なしに生産拡大することは不可能であり、環境対策のための費用は今後も増加することが予想される。



6 終わりに

 チリの豚肉輸出は、厳格な衛生管理、高度な飼養管理技術、そして、日本をはじめとした需要者のニーズに合わせた品質・規格の提供など、輸出拡大に向けた付加価値向上の努力に裏付けされるものであった。

 わが国の豚肉流通関係者によると、チリ産豚肉に対する評価は、(1)国際価格からみると比較的安い、(2)国産品より品質は劣るが、米国産やデンマーク産に比べると良い、(3)徹底した衛生管理により疾病が少ない、(4)生産から部分肉加工までの一貫生産によるため、その生産履歴が明らかで安心感も得られ、また、肉質改善なども容易である−ということである。

 長距離輸送からそのほとんどが冷凍品であるため、現在のところ、レストランなどの外食産業用や業務用、ハムなどの加工用と需要先は限られるが、概して評価は高いようである。

 また、チリ産豚肉は、原産国からわが国のエンド・ユーザーまでの物流体系がすでに確立した米国産やデンマーク産に比べて、供給者に柔軟な対応を求めやすいことも注目を集めている一つの要因であるようだ。

 一方、問題点としては、その輸送距離が長く、米国経由で35日程度を要するため、(1)チルドでの輸出が困難、(2)船賃が北米に比べ2倍程度かかる、(3)発注から納品まで1カ月以上を要するため、ユーザーの要望に即応できない−などが挙げられている。

 今後、日本をはじめ韓国、中国などアジア諸国向け輸出の拡充や、EU新規加盟後市場拡大を図る東欧諸国との競合などを考慮した場合、一層のコスト削減や、付加価値の向上が急務となる。また、価格競争力のある他の南米諸国との競合も見込まれている。

 世界各国でFTA締結への動きが活発化する中、チリは2002年後半以降、EU、米国、韓国などと相次いでFTAを締結するなど国際市場への進出が加速化している。このような中、2004年11月、サンティアゴで開催された日本、チリ首脳会談において、FTAの締結に向けた産官学の共同研究会の設置が合意された。現在、チリにとって日本は米国に次ぐ二番目の輸出先となっており、今後の進展に注目していきたい。

 最後に、今回のレポートを執筆するに当たり、現地調査への同行や貴重な資料の提供など多大な御協力を頂いたチリ養豚生産者協会、訪問先のアグロスーパー社、ファミーサ社、チリ農業省農業調査政策局、チリ農業省農牧庁をはじめ、御協力を頂いた関係者の皆様方にこの場を借りてお礼申し上げたい。


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