需要期を迎えても低調な牛肉価格    ● インドネシア


災難続きの食肉業界

 インドネシアでは、昨年末の米国での牛海綿状脳症(BSE)の発生以降、今年に入って鳥インフルエンザの確認、そして直近では、ヤギ由来の炭疽病によって6名の死者が発生するなど、食肉消費を減退させる家畜由来の病気の影響を受けてきた。中でも、鳥インフルエンザに関しては、自国内での死者は確認されていないものの、ベトナムとタイで再発し、継続的に死者の報告がなされてきたため、鶏肉の消費が減退し、価格も例年に比べて低く推移していた。また、国内で発生した炭疽病に関しては、食肉消費の最盛期であるイスラム教の断食期間の10月末に発生している。ここ1年は同国の食肉業界は家畜の病気による受難の期間だったと言える。

需要期の到来

 このような中、10月中旬に始まり11月中旬に終わったイスラム教の断食明けに始まり、クリスマスそして新年と続くフェスティバルシーズンが到来している。国民の約9割がイスラム教徒である同国では、特に、断食明けを祝うため、親戚が集まってお祝いの食事をすることが一般的で、断食期間の夜間の食事とともに食肉消費が増加する時期である。

 2002年におけるインドネシアの食肉消費の構成割合は、政府の統計では、鶏肉が5割強、牛肉が2割強、豚が1割そしてヤギと羊の肉が1割ほどであり、牛肉は鶏肉に続いて重要な食肉となっている。

食肉価格の動向

 首都ジャカルタの市場での食肉1キログラム当りの小売価格の変化は、断食開始前後で、牛肉が3万7千〜3万8千ルピア(370〜380円:1ルピア=0.01円)が3万9千〜4万ルピア(390〜400円)に、ブロイラーが9千〜1万ルピア(90〜100円)が1万2千〜1万3千ルピア(120〜130円)と上昇している。上昇割合でみると、牛肉が3〜5%、ブロイラーが約30%となっている。

 特に牛肉に関しては、2003年では冷凍牛肉と内臓で1万2千トンあまりあった米国からの輸入が、BSEの発生により一時停止されたものの、今年の5月には骨無牛肉の輸入が再開されており、消費減退への影響は限定的と考えられていた。また、需要期を迎えるに当たって、商業相が断食明けには1キログラム当り5万ルピア(500円)になる可能性があると指摘しているが、現実には低い上昇に止まっている。

牛肉供給の背景

 フィードロット食肉生産協会(APFFIND)によれば、この時期に協会メンバー企業は7万5千頭の牛を処理し、2万5千トンの牛肉を生産するが、この量は全国で消費する2割に相当する。

 一方、ジャカルタ港の動物検疫所によると、10月末現在、違法に国内に持ち込まれた牛肉が積載された116コンテナ(1コンテナで約25トン積載可能)のうち18コンテナが留置中であるとしている。 

 また、同検疫所は、インドネシアは多くの島で構成されているため、多くの陸揚げ拠点が存在し、限られた検疫所の職員だけでは監視には限界があるとされている。例えば、シンガポール沖のバタン島だけで72カ所の陸揚げ拠点があるとしている。

 このように牛肉価格が低調な背景には、密貿易による牛肉供給を否定できず、公衆衛生上、家畜衛生上そしてイスラム教徒にとってはハラル(イスラムの教義に則った適切なと畜方法)上の問題となっている。


元のページに戻る