特別レポート


タイの酪農・乳業事情(後編)

シンガポール事務所 木田 秀一郎、斎藤  孝宏

 前号(2005年5月号)に続き、今回はタイの乳業の概要と、酪農および乳業に関連した貿易分野の現状について解説する。

3 乳業の概要

(1)乳製品市場の現状

ア 需給動向

 タイ国内には粉乳製造工場がないため、国内酪農家から供給される原料乳の他に必要とされる原料粉乳は全て輸入品で賄われている。輸入粉乳と国産原料乳の価格差のため、乳業会社はコスト削減のために多くの輸入粉乳を利用した結果、国産原料乳の余乳問題が生じたため、政府は学乳制度を創設、これにローカルコンテンツ規制を敷いた。2003年の国産生乳生産量は約73万トン、工場処理量は69万8千トンで、9割は飲用乳に加工され、残りはヨーグルトなどに加工される。

 脱脂粉乳の輸入は増加傾向で推移しており、これは還元乳やヨーグルト、練乳として加工し、周辺国へ輸出されているが、近年その輸出量が増加しているため、政府はWTO合意に基づき2004年の関税割当数量を5万5千トンまで増加するとした。しかし、2004年の輸入量(見込)はこれを上回る7万5千トンとなっている。また、全脂粉乳の輸入量もこれに伴い増加傾向で推移しており、同年の輸入見込量は約4万トンとなっている。

表2.1 飲用乳需給(HS:0401)
(千トン)
出典:1999-2002 農業経済事務所(Office of Agricultural Economics)
   2003 畜産開発局(Department of Livestock Development)

タイ酪農振興公団(DFPO)アンテナショップの
試作チーズ(チェンマイ県北部)

イ 消費動向

 小売店における販売量と売上額で乳製品などの消費動向をみると、2003年の乳製品販売総額(豆乳含む)は約415億バーツ(1,120億円)、うち22%はヨーグルトで、粉乳14%、飲用乳9%、練乳8%などとなっている。

 政府や民間による乳製品消費拡大運動によって1993年に国民1人当たりの牛乳消費量は生乳換算で約8リットルだったが、学乳制度が開始されたことが大きく影響し、現在は14リットル程度まで増加しているとされる。中でも近年消費拡大が見込まれているのはヨーグルトで、うち80%程度は飲用タイプとされている。ドリンクヨーグルトの需要が比較的伸びている一因として、常温保存が可能であることが他の乳製品に比べ優位性を持つためとされる。

ウ 乳業企業の経営動向

 乳業各社の経営動向を推定する資料として各社の売上額を一覧表に示す。

表2.2 品目ごとの牛乳乳製品などの販売額 (1998-2003)
百万バーツ
出典: 1 .タイ食品生産者協会 (Thai Food Producers Association)
   2 .Euromonitor 3. シンガポール事務所調べ

表2.3 乳業各社の小売店売上高
百万バーツ
出典:1. Euromonitor  2. シンガポール事務所調べ

エ 価格(卸売価格・小売価格)

 飲用乳、ヨーグルト、練乳の平均価格を一覧表にまとめた。

表2.4 乳製品卸売価格および小売価格(2004年10月現在)
百万バーツ
出典:経済省 国内取引局(Department of Internal Trade) 、シンガポール事務所調べ

オ 価格決定メカニズム

 従来、生乳の農家販売価格はDFPOが生産費を基礎に算出した基準価格を基に、品質によって調整されていた。また、乳業工場による買い取り価格は、集乳所から工場までの距離、および品質を基に決定されていた。

 その後1996年以降、農業協同組合省農業経済事務所によって農家販売価格の基準価格が設定され、メチレンブルー試験による品質判定結果により価格帯は11.2〜11.6バーツ(30.2〜31.3円)/リットルと決定され、1997年からは工場買取価格は一律12.5バーツ(33.8円)/リットルで固定されて現在に至っている。なお、飲用乳価格は経済省国内取引局によって統制されている。

 しかし、実際の飲用乳販売価格はスーパーマーケットなど大手小売店の価格競争の結果に左右されており、小売店は他社との競争で出来る限り低価格で販売しようとするため、乳業会社はコスト削減によって製品価格を低く抑える必要に迫られる。下に示すように、輸入原料の使用割合が高ければ高いほど飲用乳の生産コストが低く抑えられるため、多くの乳業会社は国産原料乳の調達を少量に抑えたり、低品質を理由に生乳受け入れを拒否したりしている。

表2.5 生乳使用割合別飲用乳生産費
出典:農業協同組合省
  注:飲用乳10kgを製造するために脱脂粉乳 1 kgと乳脂肪0.4kgを使用するとした場合。

カ 余乳対策

 農業協同組合省農業振興局は2004年7月、粉乳生産工場建設計画案を政府に提出した。これによると3年をめどに酪農業が盛んなロブリまたはサラブリ県に1日当たり200〜300トンの粉乳生産能力を持つ工場を建設するとされ、当初建設予算7千万バーツ(1億9千万円)、敷地面積100ライ(16ha)とされた。同局の説明によるとこの粉乳工場は利潤追求を目的としたものではなく、生乳の余乳対策をその主な目的としている。タイで粉乳を生産した場合、その生産費は1キログラム当たりおよそ150バーツ(405円)と試算されており、輸入粉乳の生産費は110バーツ(297円)程度である。ただし、輸入粉乳の市場価格は300〜350バーツ(810〜945円)で、販売価格を300バーツ(810円)以下に抑えれば採算性があると説明している。

 粉乳生産工場の建設計画は以前から何度も提案されているが、このような背景によりいまだ予算承認には至っていない。

(2)乳業企業の概要

ア 生産分類ごとの生産量推計

 生産分類ごとの公式統計はないものの、先に示した小売販売量(表2.4)から以下のように項目ごとの生産量を推計した。

 産業振興局(Department of Industrial Works)の調べによると、2004年に登録された乳製品加工場はタイ全体で152工場、うち出資額1億バーツ(2.7億円)以上の大規模工場が11件、出資額1千万〜1億バーツ(2,700万〜2.7億円)の工場が51件、1千万バーツ以下の工場が90件となっている。

表2.6 乳製品生産量(2001-2003)
出典:1. Euromonitor 2. シンガポール事務所調べ

乳製品販売風景

イ 乳業会社ごとの経営規模比較

 乳製品市場全体(ここでは飲用乳、アイスクリーム、粉乳、ヨーグルト、練乳、バターなど)の市場規模は2003年でおよそ5百億バーツ(1,350億円)で、2004年はこれに対し5%の成長が見込まれている。乳業各社の市場シェアを比較すると最大がネスレ、次いでフリースランド・コベルコ、ダッチミル、CPメイジ、などとなる。

(ア)飲用乳

 フレーバー牛乳などを含む広義の飲用乳分野全体の市場規模は約2百億バーツ(540億円)で乳製品全体の約4割を占める。企業別市場シェアを以下に示した。

 飲用乳のうちおよそ64%は超高温殺菌(UHT)で、主立った企業はフォーモスト、ノン・ポ酪農協(ラチャブリ)、タイ・デイリーなどが挙げられる。また33.5%はチルド牛乳(Pasteurized Milk)で、これは主にCPメイジ、フォーモスト、ダッチミル、ノン・ポ酪農協(ラチャブリ)などが製造している。残りの2.5%が滅菌乳(Sterilized Milk)で、生産しているのは3社(ネスレ、タイ・デイリー、ダッチミル)のみとなっている。

表2.7 企業別乳製品市場シェア(乳製品全体の小売額)
%
出典:1. Euromonitor 2. シンガポール事務所調べ
  注:乳製品には粉ミルクや豆乳なども含む

表2.8 企業別飲用乳市場シェア(2001-2003)
%
出典:1. Euromonitor 2. シンガポール事務所調べ
  注:ここで言う飲用乳には牛乳、加工乳の他乳飲料も含む。

(イ)アイスクリーム

 アイスクリームの市場規模は2003年で約90億バーツ(243億円)で市場シェアが大きいのはユニリーバ(タイ)がおよそ49%、ユナイテッドフーズ17%、バズ14%、スウェンセン12%などである。産業振興局に認可を受けた製造工場は全国で247カ所、およそ各県ごとに工場が存在する一方、もっとも工場が集中しているのはバンコクおよびその周辺で、42カ所に工場がある。2003年の国内消費は年間1人当たり0.599リットルで99年以降徐々に消費は伸びているものの、国民に冷たいデザートを摂る習慣がないことや需要の季節変動が顕著であることなどからその伸びは緩やかである。

 国内需要が伸び悩む一方、政府の輸出振興策を背景に近年の輸出は好調で、2003年は前年に比べ輸出量で32%、輸出額で47%の伸びを示した。同年の輸出量は約1万3千トン、輸出額は7億2千万バーツ(19億4千万円)となっている。輸出先としてはマレーシアが約半数と最大で、次いでシンガポール2割、台湾、その他40カ国に、2003年には717トンを輸出している。

(ウ)粉乳(粉ミルク)

 粉乳、いわゆる粉ミルクと呼ばれる育児用製品の市場規模は約70〜80億バーツ(189〜216億円)で上位4社が市場シェアの 9割を占める。ここではミードジョンソンが最大で約34%、次いでニュージーランドデイリーボード、デュメックス、ネスレとなっている。

(エ)ヨーグルト

 2003年のヨーグルト市場規模は約92億バーツ(248億円)とされ、全体の81%が飲用タイプとされ、今後の伸びが期待される分野である。最大シェアを占めるのはダッチミル(37.4%:2002年)で、その他フォーモスト(30.6%)、CPメイジ(6.4%)、ネスレ(5.8%)など。

(オ)濃縮乳

 2004年の市場規模(見込)はおよそ35億バーツ(94.5億円)、加糖練乳とエバミルクでそれぞれ全体の7割と3割を占める。市場シェアの65%を占めるタイ・デイリーを筆頭にネスレ、フォーモストなどのシェアが大きい。

(カ)その他

 国内生産量の多い大豆を原材料とした豆乳飲料を生産する際、当初は粉乳の利用なども見られたが近年は技術の改良もあり、飲用乳の競合品としてシェアを伸ばしている。現在も同国で乳製品と言った場合、豆乳製品を含むことが特徴的である。

ウ 外資及び合弁企業の動向

(ア)Foremost Friesland(Thailand)Co., Ltd フォーモスト

 飲用乳の分野で最大シェアを誇り、ロングライフ製品ではマーケットシェアの50%を超えると言われる同社では、近年同国で需要の高まる加糖練乳およびエバミルクの分野に注力しており、予算の30%をこれら濃縮乳の分野に割いて売り上げの10%増を目標としている。なおこれらのブランド名はシップ、ファルコン、アラスカとなっている。

 また、2003年末に同社が発表した3つの販売戦略によると、第1段階として同社の目標である「活力のための栄養」を達成するため、製品の栄養価を高めるとされた。このため第2段階として2004年2月に2種の新製品を発表、1つはロングライフの緑茶フレーバー添加ミルクでもう一つは「Yomost」と名付けられた50%フルーツジュースの飲用ヨーグルトである。さらに第3段階として、カルシウム、リン、ビタミンD添加による栄養強化製品を開発、このうち緑茶フレーバー添加の栄養強化ロングライフ乳は周辺国(マレーシア、ベトナム、インドネシア)へ輸出されている。

(イ)Thai Dairy Industry Co., Ltd (Mali) マリ

 およそ6年ほどの間経営不振だった同社はキャラクター商品の開発などにより若年層への飲用乳市場の拡大を目指している。

(ウ)CP−Meiji CP-メイジ

 1990年サラブリ県に工場を建設、翌年操業を開始。CPとの出資比率は 6:4 で2004年の売り上げはおよそ30億バーツ、対前年比で約2割の増加となっている。生産品目の中で市場シェアが高いのは飲用乳のうちチルド製品で、売り上げの過半数を占め、そのほか飲用ヨーグルト、発酵乳製品、ロングライフ牛乳(UHT)などの生産が多い。製品の種類が豊富なことも特徴の一つで(現在140品目)、タイ人の好む各種フレーバー添加製品の開発に力を入れており、近年の需要増に対応するため生産ラインを拡張中。

(エ)Chomthana Co., Ltd/ Cremo チョムタナ/クレモ

 中間価格帯のアイスクリーム「クレモ」ブランドで知られる同社は建設費5億バーツ(13.5億円)を投じた新工場の建設により売り上げの40%増を目指している。同社の売り上げは国内7割輸出3割とされ、主に中国、シンガポール、マレーシアなどへの輸出が多い。

CPメイジの乳製品群

(オ)Swenson's スウェンセン

 フレーバーアイスなどのレシピ開発により高級アイスクリーム市場での売り上げ2割増を目指し、現在96店の直販店を30店舗拡大するとしている。また、フランチャイズチェーンの展開も計画しているとされる。

(カ)Unilever/Wall's ユニリーバ/ウオレス

 ネスレがCPセブンイレブンでの小売契約を解消したことに伴い、新たにウオレスが3年契約で契約を締結した。同社は数年前ソフトアイスクリーム市場開拓を試み、失敗に終わったが、この小売契約を機に再びソフトアイスクリームの市場開拓を行うとしている。なお同社の主な販売ルートは三輪自動車による移動販売30%、セブンイレブンなど小売販売25%、学校15%、その他とされる。

(キ)Nestle' ネスレ

 恒常的な宣伝によりブランドイメージを確立している同社は、CPセブンーイレブンでの販売契約終了により販路をガソリンスタンド(Jet)や映画館(SF Chain)に求め、主にアイスクリーム販売の巻き返しを図っている。同社の主な販売ルートは三輪自動車による移動販売35%、学校25%、小売店25%、残りがレストランその他となっている。

 2004年にはナイトマーケットでのアイスクリーム販売やフローズンアイスクリームカクテルの商品開発、展示用フリーザーの新開発などを行い販売拡大を目指すとした。

(ク)Dumex デュメックス

 粉乳などの分野で優位性を持つ同社は、今後高付加価値商品の開発を推進し、粉乳分野での足固めを行うとしており、全国200の幼稚園で乳幼児の知能向上などを目的とした付加価値商品のプロモーションを行うとしている。

(ケ)Mead Johnson ミードジョンソン

 ブリストルメイヤーグループの同社は東南アジアにおける乳製品需要拡大を目的として約1年前にチョンブリ県に粉乳加工工場を建設した。この工場で使われる原料はNZ産で、幼児用粉乳やUHT牛乳などの生産についても検討中

4 酪農・乳業に関する貿易の概要

(1)輸出入の現状

 タイの乳製品貿易の状況は毎年1億米ドル(108億円:1 ドル=108円)以上の貿易赤字を恒常的に記録しているものの、赤字額は年々減少する傾向にある。

ア 輸入

 輸入価額の総額は年により変動があるものの、過去3年間の輸入量は毎年増加している。大きな割合を占める製品は脱脂粉乳や全脂粉乳などの粉乳類で、2003年の輸入額で見るとこれらの合計は乳製品輸入総額の約7割に相当する。そのほかホエイが全体の1割、乳脂肪が7%となっている。

表3.1 牛乳・乳製品貿易額推移(1998-2003)
出典: Global Trade Information Services

表3.2 品目別乳製品輸入額(1998-2003)
出典: Global Trade Information Services

ア)脱脂粉乳

 脱脂粉乳の輸入は増加傾向で推移しており、2003年には輸入額1億2,200万米ドル(131億7,600万円)、輸入量7万4千トンとなっている。近年NZ産が増加する一方、豪州産は2001年以降急速に減少し2003年にはNZに次ぐ2位に転落している。同年の国別シェアはNZ25%、豪州16%、チェコ14%。

(イ)全脂粉乳

 主にアイスクリームや還元乳、ヨーグルトなどの製造に使用される全脂粉乳の輸入は減少傾向で推移しており、政府が国内酪農業保護のため全脂粉乳の輸入関税率を5%から18%に引き上げたことが主な要因と考えられる。2003年の輸入額は5,800万米ドル(62億6,400万円)、輸入量は3万2千トンとなっている。主要相手国はNZが58%と過半数以上を占め、次いで豪州、イギリスとなっている。

図3.1 脱脂粉乳輸入相手先の推移(HSコード040210)
出典: Global Trade Information Services

図3.2 全脂粉乳輸入相手先の推移(HS 040221)
出典: Global Trade Information Services

(ウ)ホエイ

 国内飼料産業による需要増からホエイの輸入は拡大傾向にあり、2003年の輸入額は2,500万米ドル(27億円)、輸入量は4万7千トンとなっている。2001年以降輸入が拡大するフランス産と米国産をあわせると過半数に達する。

イ 輸出

 タイから輸出される牛乳・乳製品は主にアセアン域内へ流通しており、2003年の輸出実績で見ると輸出総額の93%は域内への輸出となっている。輸出額が大きいのはマレーシア、フィリピン、ミャンマー、カンボジアとなっている。

 輸出項目別に見ると加糖練乳や無糖練乳などの濃縮乳など(HS:0402)が全体の65%、次いで飲用乳が21%を占める。

図3.3 ホエイ輸入相手先の推移(HSコード040410)
出典: Global Trade Information Services

表3.3 相手国別乳製品輸出額(HSコード 0401-0406)
単位:ドル
出典: Global Trade Information Services

表3.4 品目別乳製品輸出額(1998-2003)
単位:ドル
出典: Global Trade Information Services

 飲用乳では主にロングライフ製品が輸出されており、特にフィリピンの輸入増が著しい。無糖練乳は2003年の輸出全体の40%を占め、近年急速に輸出が伸びており、同年には65%がフィリピンに、20%がマレーシア、その他となっている。加糖練乳はマレーシアが輸入量を大幅に減少させ、2003年は主にカンボジアとミャンマーに輸出されている。

図3.4 飲用乳の主要輸出相手先(HSコード0401)
出典: Global Trade Information Services

図3.5 無糖練乳の主要輸出相手先(HSコード 040291) 図3.6 加糖練乳の主要輸出相手先(コード 040299)
出典: Global Trade Information Services 出典: Global Trade Information Services

(2)関税制度

 タイの牛乳・乳製品に関する輸入関税は下記のとおり

表3.5 タイの乳製品輸入関税率
出典:経済省

 同国では粉乳を生産していないが、各種乳製品製造に際し一定の粉乳需要があり、内外の生産費の違いによって安価な輸入粉乳類が大量に流入することで国内酪農業が打撃を受けることを防止するため、政府は脱脂粉乳(HS:040210)の輸入に際しWTO合意に基づき1995年以降輸入割当数量を規定し、輸入統制を行っている。割当数量は需要の増大とともに年々増加し、2004年現在5万5千トンとなっている。なお2004年現在の割当数量内関税率は20%、枠外216%。

表3.6 脱脂粉乳の輸入関税割当数量(1995-2004)
出典:農業協同組合省

(3)競合性を高めるための今後の戦略

 昨年7月の豪州との2国間FTA協定締結を皮切りに今年はNZとの協議でも協定締結が予定されており、乳製品の主要輸出国であるこれら2国との経済連携協定締結に際して、タイでは国内生産者保護のため乳製品の多くをセンシティブ品目と規定し、一部品目にセーフガードや関税割当の設定を行っている。

 一方、アセアン経済連携協定(AFTA)に基づく域内乳製品輸入関税は現行5%で粉乳類(HS :0402)については既に関税が撤廃されており、その他の品目についても2010年までには完全撤廃が予定されている。タイは域内各国に比べて乳製品の競争力が高く、タイ乳製品輸出のおよそ93%はフィリピン、カンボジア、マレーシア、ミャンマーなどの加盟国に輸出されており、関税撤廃措置は同国に有利に働くと目されている。また、タイからの生体乳用牛の輸出も近年は盛んで、主にベトナム、マレーシア、ラオスなどへ輸出されており、中でもチョクチャイファームは年平均500頭を輸出している。

5 おわりに

 王室の強い働きかけにより開始されたタイの酪農業は、恒常的な余乳問題や学乳における業者割当に絡む政府部内の汚職など不幸な要因が重なりながらも、現在他の周辺国に比較して急速な発展を遂げている。取材で酪農家を訪れると、王宮に設置された実証展示酪農場での研修を終了し、感銘を受けて営農を開始したという人が多いことに驚かされる。また、酪農にまつわる各種顕彰における王室の権威は絶大で、これらのことは同国における王室の求心力の強さを感じさせる。国際貿易の観点では、AFTAの関税撤廃スキームは現地調達率に関する規制などがあるものの、域内への乳製品輸出を急速に拡大している同国に追い風となっている。豪州、NZなど大酪農国との二国間貿易協定の締結などを背景に乳製品輸入圧力の高まりが見られるが、現在同国の酪農乳業政策は集乳所の衛生条件改善や原料乳の品質向上などの品質向上に焦点が絞られており、これらの改善による生産性向上と生産費削減を達成した場合、世界市場における競合性を高めることも可能と考えられる。

 最後に、本原稿執筆に際し御助言、資料提供、現地調査などでお世話になりました全ての皆様に深く感謝致します。

(参考資料)
 1 .鷹尾亨編著 牛乳・乳製品の実際知識第6版 東洋経済新報社
 2 .Jetro翻訳・要約 第9次国家経済社会開発計画/農業開発計画(2002-2006)(未定稿)
   第9次国家経済社会開発計画農業開発計画策定委員会 2001.12
 3. 家畜共済における臨床病理検査要領 農林水産省経済局
 4 .加速する東アジアFTA 木村福成・鈴木厚 編著 ジェトロ


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