特別レポート

ニュージーランド酪農乳業の現状 ―フォンテラ設立後―

シドニー駐在員事務所 井上 敦司、横田 徹

1 はじめに

 ニュージーランド(NZ)では、2001年に酪農乳業の大再編が行われた。これまで乳製品の一元輸出を行っていたNZデイリー・ボード(NZDB)が廃止され、これに、二大酪農組合が合併してフォンテラ(Fonterra Co-operative Group Ltd)が設立された。フォンテラは廃止されたNZDBの販売機能も統合し、生産部門と販売部門を統合した巨大な乳業団体として設立された。フォンテラ1社でNZの生乳生産量の95%以上を取り扱い、その市場独占状態が続いている。そこで、3 年以上経過した現時点においてNZの生乳生産状況や乳製品の輸出状況、さらには酪農乳業の構造変化などを概説する。

乳牛の放牧風景(2004年春)

2  NZの酪農生産の状況

 まず、NZの酪農生産の現況について概観する。

(1)飼養頭数

 NZ全体の経産牛飼養頭数は、99/2000年度を除き、ここ10年以上増加し続けており、2003/04年度では前年度比3%増の385万頭となった。規模拡大が進み1戸当たりの平均飼養頭数も同様に増加を続けており、2003/04年度では302頭となっている。1戸当たりの平均飼養頭数の伸び率は6.1%で飼養頭数全体の伸び率を上回っている。一方で酪農家戸数は減少し続け、2003/04年度では12,751戸となっている。

NZ経産牛頭数と1戸当たりの平均飼養頭数の推移
資料:家畜改良公社(LIC)

 加工向け生乳処理量も増加し続け、2003/04年度では前年度比5%増の1,460万キロと、飼養頭数の増加割合以上に増加している。これは、乳牛の改良や酪農家の飼養管理技術の進歩による。また、生乳中に占める乳固形率も増加しており、2001/02年度は8.47%だが、2003/04年度では8.59%となった。

 飼養形態に変化はみられず、放牧中心で生乳生産は自然条件に大きく左右される。ほとんどの乳牛が5月から7月にかけての2〜3カ月間、乾乳期に入るため、年度後半に生乳生産量が大きく減少する。乳用牛の品種もここ10年大きな変化はなく、ホルスタインフリージアンが中心で50%以上を占め、他にジャージーやジャージーとホルスタインとの交雑種が多い。

 なお、酪農部門から出る乳用雄牛は、肉牛資源として重要な役割を果たしている。

表1 生乳生産量
資料:LICなど

(2)地域的状況(北島と南島)

 最近のNZ国内の酪農家の分布状況をみると、北島が酪農の中心であるのは変わらないが、徐々に南島の酪農家が増えつつある。

 現在、酪農家の8割以上が北島で経営を営み、中でも南オークランド地域は最も大きな酪農地帯で、酪農家戸数はNZ全体の31.8%、飼養頭数も28.4%を占める。

 北島の酪農家戸数は、2003/04年度で10,468戸と2001/02年から900戸以上減少したが、南島の酪農家戸数は同年度で2,283戸と反対に約30戸であるが増加した。すなわち、北島では酪農家の統廃合が進み減少したが、南島では大規模酪農家の新規就農があったことから増加した。また、南島では、若年層の酪農家が南島で安価な土地を求め規模を拡大する傾向が続いた。酪農に不適とされた南島で、かんがい施設や飼養管理技術の改善が進み、酪農に適した土地が増加したことが新たな参入を可能にした。さらに、新規参入の背景には羊や牛肉産業従事者の収益の低さが、それらを酪農への転換に促したことも一因である。

 北島と南島の生産性を2003/04年度の数値で比較すると、南島は、1 頭当たりの乳固形分生産量は355キログラムと北島の1.1倍、1 戸当たりの飼養頭数は449頭と北島の1.7倍、また、1 ヘクタール当たりの乳固形分は953キログラムと北島の約1.1倍と、いずれも南島が北島を上回っている。南島の中では南カンタベリー地方が最も生産性が高い地域で1ヘクタール当たり平均1,130キログラムの乳固形分を生産する。南島での酪農は、適地は限られているものの、規模が大きくその生産性は北島より高いものとなっている。

図1 NZ酪農家の分布図(2003/04)
資料:LIC

表2 地域別経産牛飼養頭数、飼養戸数など
資料:LIC

(3)生産者支払い乳価

 NZの乳業者は組合組織であるため、その構成員であり生乳供給者である酪農家の満足のいく乳価支払いを行う使命があるといっても過言ではない。しかし、乳価は、その時々の乳製品の国際価格や為替相場の動向などに大きく左右されてきており、国際価格が低い場合は、よりコスト削減に力を注ぎ、乳価を少しでも高くしようと努力してきた。この状況は、巨大乳業会社フォンテラの出現によっても変わらないとみられる。

 2003/04年度の支払い乳価は、フォンテラは18%、ウエストランドは7%とそれぞれ前年度から増加した。乳価の増加要因は国際乳製品価格の上昇によるもので、NZドル高を相殺しても余りあるものだった。為替に関しては、フォンテラでは為替ヘッジ操作がうまく機能し、2003/04年度の平均為替レートは1NZドル=0.520USドルで、対するスポットの為替レートは同0.624USドルであった。

 2004/05年度の乳価は、国際乳製品価格の高騰により増加し、フォンテラは4.50NZドル(355.5円、1 NZ=79円)とウエストランドは4.25NZドル(335.75円)としている。

表3 乳業企業別支払い乳価(乳固形分ベース)
(単位:NZドル/kg)
資料:フォンテラ、タツア、ウエストランド、Agri-Fax
注1:各年度の()内はその企業の合併相手先

(4)乳製品生産量

 乳製品生産量は、生乳生産量の増加に伴って増加している。生産量の第1位は、全粉乳で総生産量の30%を占める。

表4 乳製品生産量
(単位:千トン)
資料:MAF SONZAF

(5)乳製品輸出量、輸出額

 NZの乳製品輸出は、歴史的にバターやチーズを英国に供給することに主眼を置いていた。しかし、1973年に英国がEUに加盟した結果、英国への輸出に数量制限が課せられた。これにより、NZは乳製品の開発や販売先の多様化を迫られ、NZDBによる海外市場開拓が盛んになった。NZDBを統合したフォンテラも、積極的に海外に販路を求めたことから、今日ではフォンテラは多様な乳製品を有し世界各国に販売網を持ついわゆる多国籍企業となった。なお、現在、乳製品の輸出金額は、NZの農産物と林産物合計の輸出額の約3割を占める。

 乳製品輸出量は、過去5年間(99/2000年度から2003/04年度)で36%伸びた。フォンテラ設立後も順調に伸びている。しかし、輸出額でみると、乳製品国際価格の変動により年度によって差異がある。同様に5年の期間で見ると16%増加しているが、フォンテラ設立時の2001/02年度と2003/04年度を比較すると総額で16%減少している。国際乳製品価格が低下したためである。品目別にみると脱脂粉乳や全粉乳、また、付加価値が高いチーズが伸びている。一方、バターの輸出量の伸び率は12%と他の品目に比べ低い。

 乳製品のトン当たり平均輸出価格は2000/01年度は4,593NZドル(362,847円)と概して高い水準だったが、2003/04年度は2,998NZドル(236,842円)にまで減少した。これは、2000/01年度は、国際価格の高騰と為替(NZドル安・1 NZ=51〜52円台)が要因として挙げられる。2000/01年度は、国際乳製品価格が過去10年で最も高い時期であった。

表5 乳製品輸出量
(単位:千トン)
資料:Statistics NZ

表6 乳製品輸出額
(単位:百万NZドル)
資料:Statistics NZ

 輸出先別に2000/01年度と2003/04年度を比較すると 輸出額第1位の米国のシェアは、他の市場に比べ輸出量の伸びが低かったため、11.7%から10.6%に下がった。反面、中国向けが急激に伸び、2003/04年度ではそのシェアが6.3%と第2位を占めるに至った。中国向け輸出額は、主力の全粉乳が2倍に増え、脱脂粉乳もほぼ3に増加した。日本向けも輸出量自体は7%伸びているものの第2位から第6位に下がっている。米国は、価格の高いカゼインの輸出量が全体の41%を占めるため、乳製品全体のトン当たり平均価格が4,376NZドル(34万6千円)と他国より大幅に高くなっている。

表7 乳製品輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

 輸出先は、それぞれの乳製品によって異なることから、次に記載した。

・脱脂粉乳は上位10カ国に輸出が集中しており、全体の71.5%を占める。フィリピン向けが依然として第1位を占め、2003/04年度は、2000/01年度の12.0%から16.3%にシェアを伸ばした。

表8 脱脂粉乳輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

・全粉乳は中国への輸出額が95%増加し、中国向けシェアが大きく伸び、2000/01年度の第7位から第1位になった。中国向け輸出にとって全粉乳は最も重要な輸出品目であって、輸出量の67%を占める。最近は、サウジアラビアやオマーンなど中東諸国にも輸出が伸びている。

表9 全粉乳輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

・チーズは、日本が第一位を占めているが、シェアは20.3%から16.9%に落ちている。日本への乳製品輸出の中でチーズの占める割合は数量ベースで56.4%と最も重要な輸出品目となっている。トン当たりの輸出価格では米国が最も高い。第3位は豪州。上位10カ国の変動はなく、全体のシェアが2000/01年度が72.8%から2003/04年度では75.7%と、より集中化してきている。

表10 チーズ輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

・バターは市場の集中化が低下し、輸出先が多様化してきている。上位10カ国のシェア62.6%が52.3%に下がった。2003/04年度はデンマーク、ロシア向けが大幅に伸びそれぞれ上位にランクされた。

表11 バター輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

・バターオイルはメキシコがトップを維持。しかしシェアは18.0%から15.2%に落ちた。
台湾はトン当たり輸出価格でトップを維持している。新しく上位10カ国に入った国はタイと中国。

表12 バターオイル輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

・カゼインは輸出相手先が限られている。上位10カ国で90%以上を占める状況は変わらない。第1位は米国で50%近くを占める。トン当たり輸出価格でみると韓国が最も高価なものを輸入している。日本は数量・金額共に第3位と重要な市場となっている。新たに上位10カ国に入ったのは中国とフィリピン。

表13 カゼイン輸出金額上位国ベスト10
資料:Statistics NZ

(6)NZの酪農産業の世界に占める地位

 ここで、NZの酪農産業が世界でどれだけの地位を占めるか見ておきたい。

ア 生乳生産量

 近年の全世界の生乳生産量は2000年から2002年までの間、年2%ずつ伸びている。NZの生乳生産量の伸びは全世界の平均よりも高く、2002年は前年比6.8%増の1,410万トン、シェアも2.2%から2.4%と0.2ポイント増加している。

 他の主要生乳生産国をみると、中国の伸びが著しく、2002年では前年比19.3%増でシェアを2.9%に高めている。インドや米国もそれぞれ14.1%、12.9%とシェアを維持している。なお、NZを除くこれらの国は、生産量のほとんどが国内消費に向けられている。

表14 世界の生乳生産量
(単位:百万トン)
資料:FAO, Australian Food Statistics 2004

 NZの生乳の加工処理向け割合は、国内市場が小さいことから97%と非常に高く、その加工された乳製品の多くが輸出される。これに比較して、米国やカナダは飲用向けの割合が大きい。

表15 生乳の加工処理向け割合
資料:USDA

イ 生産コスト

 NZの一頭当たりの年間生乳生産量は、3,791キログラムと他国に比べ低い。これは、他の国が補助飼料を利用するのに比較して、牧草に依存した季節的生乳生産によるためである。

 なお、報道によれば、近年、ポーランドで他国の乳牛と同様な給餌方法でNZの乳牛を飼育したところ、EUや米国の乳牛と同量の生乳を産出する結果を得ており、NZの乳牛の遺伝的素因が他国に比べて劣るものではないことを示している。

表16 経産牛頭数、1頭当たり乳量など
資料:LICなど
注:※の単位は千キロリットル

 また、フォンテラによると、NZの生乳生産コストは、放牧依存の飼養形態により低く抑えられ、EUや米国の約半分となっている。

表17 国別生乳生産コスト
資料:フォンテラ

 2002年のNZの生乳生産量シェアは世界中でわずか2.4%にもかかわらず、貿易のシェアは1990年の23%から2002年の31%へ大きく伸びた。その結果、EUを追い抜いて世界第1位の乳製品輸出国となった。

表18 主要な乳製品輸出国のシェア
資料:Danish Dairy Board

搾乳場へ向かう乳牛

3 NZの酪農乳業構造

 NZの酪農乳業の構造は、(NZDB)の廃止による規制緩和や二大農協乳業組合の合併による巨大乳業会社フォンテラの設立によって、大きく変化した。NZDB傘下にあった酪農関連団体の民営化や新しい課徴金徴収組織が設立され、また、フォンテラの市場独占を緩和するための政府による酪農家の保護措置やフォンテラ以外の乳業会社の国内での競争力維持のための措置などが新たに導入された。これにより、外(海外)には、いわゆる「規模の利益」により一丸となって貿易自由化の波に対応できる体制を作り、内(国内)には、競争原理を維持し酪農家や消費者の利益を保護する体制を作ったといえよう。まず、フォンテラの設立とその現状から振り返ってみる。

NZ乳業関連図
資料:MAF SONZAF2004ほか

(1)フォンテラ

ア 設立の経緯

 NZでは2001年6月、二大酪農組合であるキウイ(Kiwi Co-operative Dairy Ltd)とNZデイリー・グループ(New Zealand Group of Companies=NZDG)に属する酪農家の投票が行われ、NZの97%の酪農家が所属するフォンテラの設立が同意された。また、2001年10月には、乳製品輸出の一元管理の権限をNZDBに付与する法律(Dairy Board Act 1961)が廃止され、酪農乳業の規制緩和が行われた。その結果フォンテラは、二大酪農組合とNZDBを統合する形で2002年10月に設立された。なお、NZDBによる乳製品一元輸出制度の終結(2002年から)により、乳製品の輸出が自由化されたが、フォンテラは2010年までは、関税割当制度が行われている国に対しての輸出を一元的に行うこととされた(2003年に当初の2007年から2010年までに延長された)。

 なお、フォンテラ設立の際、小規模な2つの酪農組合、ウエストランド(Westland Co-op Dairy Co Ltd)とタツア(Tatua Co-op Dairy Co Ltd)はフォンテラに加わらないことを決定し、乳製品製造業者および輸出業者として、今日まで存続している。

イ フォンテラの企業規模と経営状況

 現在のフォンテラは、多国籍の乳製品製造販売企業といえる。世界各国にある支店やジョイントベンチャー企業を通じて、140カ国に販売網を広げている。従業員数は約2万人、販売額による世界の乳業会社ランキングでは第6位であるが、乳製品の貿易量では世界の約3割を占める最大の会社となっている。また、フォンテラはNZ経済にとって極めて重要な存在で、GDPの7%と外貨の20%を稼いでいる(2002年現在)。

 フォンテラの経営状況の推移をみると、設立当初に比べ販売価格の低下や為替の影響で収入は減少しているが、経費節減を図って利益を確保している状況である。

表19 フォンテラの経営状況の推移
資料:フォンテラ 年報

表20 世界の乳業会社ベスト10(2003年販売額)
(単位:10億USドル)
資料:Danish Dairy Board
注:2003年アルラフーズは、英国のエクスプレスデイリーパルマラットは2003年12月に破産。

ウ フォンテラの3つ事業部門

 フォンテラの広範囲な活動を担っているのは、NZMP、NZミルク(NZM)、フォンテラエンタープライズの3つの部門である。次にそれぞれの概略を説明する。

(1)NZMP
 生乳の収集、加工処理、乳製品製造と原料用乳製品の販売を行う。複数の酪農協が製造し、それをNZDBが販売するという従来の形態から、製造と販売を1つの会社で行うこととしたため、大きなコスト削減をもたらす結果となった。取り扱い品目は、チーズ、バター、脱脂粉乳、全粉乳など。NZ国内でも販売を行っている。

(2)NZM
 フォンテラの消費者向けバターやチーズ、ヨーグルトなどの乳製品を販売する部門で、世界中の消費者に提供している。海外向けブランドとしては、アンカー(海外市場向け)、Andec、Anlene、Anumn、Chesdale、Ferndale、Fernleafなどがある。また国内では、メインランド(Mainland)を通じ販売を行っている。他に国内ブランドとしてティップトップ、ピーターズ&ブラウンがある。

(3)フォンテラエンタープライズ
 NZMPやNZMが行わない牛乳に関係した新しい業務を行う。バイオテクノロジーを用いたビジネスやフォンテラ自身が所有する農場の小売事業(アンカー、タウン&カントリーなど)、オンライン農場サービスなど。

エ 海外進出状況

 フォンテラは、設立以来、世界の有力な乳業会社と業務提携を行ってきた。北米、中南米でのネスレ、欧州のスカンジナビアをベースにしたアルラフーズ、メキシコのリコンサ、米国のデーリー・ファーマーズ(USA)、チリのソプロール、インドのブリタニアインダストリーなどである。

 また、隣国の豪州では積極的に乳業会社の買収を行って進出を図っている。
 


フォンテラの豪州進出の現況

 フォンテラは豪州にも積極的に進出しており、豪州の生乳生産量の16%を処理し、年18億豪ドル(1,512億円、1 豪ドル=84円)の収入を生み出している。

 全額または一部出資している企業は次のとおり。

・ピーターズ&ブラウンフーズ:西オーストラリア州拠点 豪州の主要アイスクリーム輸出メーカー、日本向け輸出が主。
・ボンランド・デイリー:メルボルン拠点、ベガやメインランド、パーフェクト・イタリアーノなどのブランドを有す。
・ボンラック・フーズ:メルボルン拠点、ビクトリア州およびタスマニア州での主要な乳製品製造業者
・フォンテラ・オーストラリア社:乳製品を国内や海外市場に販売。
・ナショナルフーズ:、飲用乳会社、株式を18%所有。(ただし、2005年に入りフィリピンの飲用メーカーサンミゲルとのナショナルフーズ買収合戦に敗れ、近々、その所有する株式を売却する予定)



 

(2)酪農家などの保護措置

 フォンテラは国内の乳業処理をほぼ独占しているが、それによって生ずる国内の酪農家や他の乳業メーカー、消費者などへの弊害を除くため、政府はいくつかの規制措置を設けた。

 なお、これらの規制措置はフォンテラの市場独占状態が緩和(例えば北島の独立系の乳業会社が全乳固形分の12.5%を取り扱うようになった場合など)された場合には、撤廃されることになっている。規制措置は、次のとおり。

ア 酪農家(シェアミルカーを含む)は、フォンテラの株式を取得した上でフォンテラに生乳を供給することになるが、脱退時の株式売却価格を購入時の価格と等しくするなど酪農家のフォンテラへの加入および脱退を容易にした。

イ フォンテラは酪農家と1年間の生乳供給契約を結ぶのが基本だが、たとえ1年以上の契約を結んだとしても、1 シーズンのうち、少なくともフォンテラが結んだ酪農家との契約のうち全体の3分の1は契約期限が到来するものとする義務を設け、長期の供給契約による酪農家の拘束を制限した。

ウ 酪農家は、フォンテラと生乳供給契約を結んでいても、その生乳の20%は他の生乳処理業者に供給できることとし、契約済み酪農家に対しても販売先の選択権を一部保証した。

エ フォンテラは、フォンテラの支配下にあるメインランド以外のNZデイリーフーズなどの独立した乳業会社に40万トンの生乳(regulated milk と呼ばれている)を、フォンテラの支払乳価に準じた乳価で供給することが義務化され、これにより原料乳の独占を制限した。2004/05年度は12月中旬の時点で、すでに370百万リットルを独立した加工業者のために供給契約を結んでいる。

オ フォンテラにフォンテラが所有していたNZデイリーフーズの株式の売却(国内向け「アンカー」ブランドの売却)を定め、国内市場の独占を制限した。現在、メインランドとNZデイリーフーズのアンカーブランドが競争関係にある。

(3)酪農家支援団体の民営化と新しい課徴金制度

 2001年のNZDBの廃止に伴い、NZDBの傘下の団体が行っていた酪農家を支援する調査、研究機関が民営化された。

 酪農家に対し乳牛の改良関連のサービスを行っていた家畜改良公社(Livestock Improvement Co Ltd=LIC)は、2002年から酪農家の所有に移行した。また、農場段階の研究開発や農場でのコンサルタントサービスを行っているデクセル(Dexcel Limited)は、2001年、NZDBによってNZDB傘下の調査研究会社デイリーリサーチ(DCR)とLICのコンサルタント部門を統合して設立されたが、NZDB廃止後、LICと同様に酪農家の所有に移行した。デクセルは、調査研究と酪農家に対するコンサルタントを1つの団体で実施することから、いわゆる「現場に密着した有用な調査研究」ができると期待されている。

 さらに、NZDB自身が行っていた酪農家(一部のシェアミルカーを含む)から課徴金を徴収し、その課徴金を産業にとって有益な活動資金に充てる事業は、NZDB廃止後も産業界でその必要性が認められ、2002年に課徴金徴収を行う団体としてデイリーインサイト(Dairy Insight Inc.)が作られた。デイリーインサイトは、現在、酪農家から乳固形分1キログラム当たり3.4NZセント(約2円69銭)の課徴金を徴収し、デクセルや他の調査機関が行う調査研究やコンサルタントなどに対して資金提供を行っている。


規制緩和後の課徴金制度存続の経緯など

 NZの酪農家(50%の持分を有するシェアミルカーなどを含む)に対する課徴金制度については、規制緩和を行うに当たって、産業界から、NZDBに代わり得る独立した機関にその業務を行わせることが主張された。それにより、2001年3月に前身となる団体が設立され、2001年6月にデイリーインサイトに名称が変更された。その後、酪農家の間で課徴金徴収の是非に関する広範囲に及ぶ議論がなされ、「Commodity Levies Act 1990」基づき行われた2002年5月の酪農家の投票により、デイリーインサイトによる課徴金の徴収が合意された。その結果、酪農家は2003年6月から乳固形分1キログラム当たり3.4NZセント(約2円69銭)の課徴金を支払うこととなった。

 課徴金の額は年度(6〜5月)ごとにデイリーインサイトが決める。徴収できる課徴金の最高額は乳固形分1キログラム当たり4.3NZセント(3円40銭)で、疾病の発生などの不測の事態が生じた場合に備えるためとしている。課徴金は、通常、酪農家が生乳を供給している乳業会社を通して四半期ごとにデイリーインサイトに徴収される。課徴金の具体的な使途は、デクセルや他の調査研究機関などが行う農場管理システムや環境、家畜改良、疾病の撲滅、品質管理、安全性などの調査研究や教育訓練、情報提供など広範にわたる。酪農家は、毎年、次の年度の課徴金額が決定される前に地域ごとに開催されるデイリーインサイトの会議で課徴金の使途が適切であったか検証できる。この課徴金制度は、その存続の是非も含め、6 年ごとに酪農家によって見直される。



 

(4)生乳加工処理及び販売状況

 2003/04年度、フォンテラは、NZの生乳生産量の96.1%を処理しており、ほぼ独占状態になっている。他の乳業会社をみると、タツアのシェアは1.0%、ウエストランドのシェアは2.9%のみである。

 タツアは生乳中のたんぱく質の加工業者としての特徴を有している。一方、ウエストランドは、従来は伝統的な粉乳生産者であったが、最近、付加価値のあるたんぱく質や他の栄養成分の生産に転じようとしている。

 フォンテラは国内向けおよび海外向けに乳製品の製造販売を行っているが、タツアやウエストランドは主に輸出向けに乳製品を生産しており、フォンテラの販売網を使って輸出してきた。しかし、タツアは、最近フォンテラから離れ、独自に販路を開拓している。

 一方、(2)で述べたように、国内市場では、フォンテラの独占に対して各種の制限が設けられたため、競争原理が成り立っている。フォンテラが所有しているメインランドの国内市場におけるシェアは35%にとどまり、ライバルのNZデイリーフーズが40%のシェアを持っている。他の乳業会社としてはオープンカントリーチーズ、ユナイテッドミルク、インターナショナルデイリーベンチャーなどが存立し、それぞれ独自に乳製品を製造、販売している。他にも酪農家がフォンテラ傘下から脱退し、新たな乳業会社を作る動きも見受けられる。

 なお、2003年6月、各乳業会社が参加し、乳業界の意見を集約し代弁するような組織、NZ乳業協会(DCANZ)が設立されている。

4 今後の需給見通し

 NZ農林省(MAF)が1月末に発表した中期需給見通しによると、2004/05年度の生乳生産は、乳用経産牛飼養頭数の増加が見込まれるものの、年度前半の低温多雨により牧草の生育状態が悪化したことから年度前半で5%減少した。年度後半に天候が回復しても、乳固形分ベースで125万トンと、前年度水準並みにとどまるとしている。

 2005/06年以降は、生産性の向上や経産牛飼養頭数の増加により、生乳生産量の増加が見込まれる。しかし、国際乳製品価格の低下による乳価の引き下げなどが要因となって飼養頭数の伸びは鈍化すると見込んでいる。乳製品の生産量は、生乳生産の増加に伴い、増加が見込まれる。生産が増加する乳製品は全品目に及ぶとみているが、付加価値の高い原料製品や消費者向け製品の製造や、中国や東南アジア、中東諸国からの需要が強い全粉乳の製造に重点が置かれるとみている。フォンテラでは、2004年9月に世界で最も大きな粉乳工場を南島のカンタベリー地区のカンデボイに設け、粉乳の製造能力をアップさせている。

表21 生乳の需給見込み
資料:MAF SONZAF2004
注1:脱脂粉乳にはバターにはバターミルクパウダーなどを含む

5 今後の課題

 NZの酪農産業は、政府見通しでは拡大していくとされているが、フォンテラによると、世界の乳製品需要は毎年全体で2%増加しているが、その需要の増加を誰が埋めるかが今後の成長のポイントと述べている。これに関し、NZは豪州とともに、牧草主体の低コスト生産構造であることや自由貿易を推進し、輸出補助や生産者への補助金支払いを行っていないことなどから、EUや米国より優位に立っていると述べている。また、低価格の乳製品を供給し得る南米諸国からの輸出が脅威となるとの見方があるが、近い将来では現実的ではないとみている。さらに、豪州は干ばつの影響で苦しんでいるため、NZにとって有利な状況であると述べている。

 しかし、国内の酪農状況に目を転じると、産業界からいくつかの問題点が指摘されている。まず、酪農業からの排水による湖水などの水質汚染が大きな問題となっており、国会の環境委員会でも取り上げられている。今後の議論によっては、何らかの規制措置が採られることも予想され、生乳生産への影響が懸念される。また、経済発展よる都市化の波が農村部まで押し寄せ農地の高騰を招いている。さらに酪農従事者の高齢化や後継者問題などが懸念されている。これらのことから、フォンテラでは、国内での生乳生産の問題を解決するためには、海外に生乳供給拠点を求めていくことの必要性を指摘している。

6 おわりに

 NZの酪農産業にとって、巨大乳業会社フォンテラの誕生は、生産と販売を一体化したことによる大きなコスト削減や巨大な資本力を生かした海外市場への積極的な進出を可能にし、酪農家に大きな利益をもたらしたといえよう。しかし一方で、国内市場が小さく、輸出依存体質が深まったため、世界の需給状況に左右される体質がさらに強まっている。フォンテラの今後の活動については、同社の会長が言う「世界で最大の企業に、国内では小さな企業に」に表される。すなわち、その巨大な生産力と世界中に広がる販売網を生かして、さらなる海外進出を図り、それによって株主としての酪農家に最大の利益を与え、一方、生乳供給業者としての酪農家に対しては、よりその関係を密接なものとし酪農家の経営発展に寄与することとされる。それは、酪農家が所有する、酪農家のための企業たるゆえんである。フォンテラの発展には、環境問題などの国内問題の克服と、豪州も含めた海外地域での生乳供給拠点の獲得が欠かせないものと思われる。

(参考資料)
 1 .フォンテラ年報
 2 .NZ MAF SONZAF2001〜2004
 3 .デイリーインサイト、デクセルホームページ
 4 .NZ家畜改良公社「Dairy Statistics 2003-2004」ほか

 

元のページに戻る