土地がはぐくむ風味−ブレス鶏(フランス)



ひとくちMemo

 ブレス鶏は、フランス中東部の 3 県にまたがるブレス地方で飼育されている。第三紀に湖であったこの地域の地質は、粘土質で、水はけが悪い。さらに、霧が多く、湿度が高いため、鶏が容易に、ミミズや虫などを掘り起こして食すことができる。

 この地域で飼育されてきたブレス鶏は、明らかにほかの地域とは異なった味や特徴を持つため、1957年にフランスの公的な食品品質保証制度の一つである統制原産地呼称(AOC)に登録された。現在でも、フランスに数多く飼育されている食用鶏の中でも唯一AOCに登録されている鶏である。

 ブレス地方で生産された鶏すべてがブレス鶏ではない。ブレス鶏と名乗るためには、ブレス鶏の生産に関する規則(*)に定められた特徴を持ち、また、伝統と経験により確立された飼育管理方法に基づいて生産された鶏でなければならない。 

 こうして育てられたブレス鶏が持つ、土地が作り上げた独特の風味と肉質に、多くのシェフや美食家がとりこになっている。

(*)AOCブレス鶏の生産および認可条件を規定する政令
  (1995年1月4日)

 品種は、ゴロワーズ・ドゥ・ブレス・ブランシュ種。赤いとさか、白い羽、青い脚が特徴のブレス鶏は、フランス国旗をほうふつさせる。

 

ブレス地方に入る街の入口にあった、ブレス鶏の看板
 アン(Ain)県、ソーヌ・エ・ロワール(Sao ne et Loire)県、ジュラ(Jura)県にまたがる南北約100キロメートル、東西約40キロメートルの3,536平方キロメートルの地域で飼育された鶏でなければならない。

 
 選抜センターから飼育者のもとへ運ばれた初生ひなは、まずは小屋の中で飼育される。室温は、母親の体温に近い30℃に設定。外気温に適応できるよう徐々に室温を下げていく。小屋の広さは最大50平方メートルとなっている。
 飼料は、この地域で生産されたトウモロコシと小麦(遺伝子組み換え作物は不可)、それにたんぱく源として、乳製品(ホエイや粉乳など)が与えられる。
 アン県のサン・テチエンヌ・ドゥ・ボワにブレス鶏のひなを生産する選抜センターがある。ブレス鶏のひなはこのセンターのみで生産され、骨格、活力、白い羽、青い脚などのバランスがとれた初生ひなが、飼育者のもとへ運ばれる。(写真は5週齢のひな)
 

 小屋の中で少なくとも5 週間飼育されたひなは、その後、小屋の扉が開けられると、自由に出入りし、広い草地を駆け回る。
 1群は、最大500羽、1 羽当たり10平方メートル、全体で最小5千平方メートルの草地が必要であると決められている。
 

 群全体の約10%が、外敵であるカラス、ノスリ(猛きん類)、キツネなどの被害に遭っている。このため、外敵から身を隠すことができるよう、草地の周りに低木を植えている。
 このほかの外敵対策として、ホロホロ鳥を一緒に飼育している。ホロホロ鳥は、外敵が近づくと鳴くため、ブレス鶏は外敵が近づいたことを察知し、木の根元に身を隠す。
 

 
 放牧期における小屋での飼料は、トウモロコシ(砕いたもの)、小麦、乳製品である。この飼料では、鶏の摂取たんぱく量が12%となり、約4%不足することになる。
   日の出とともに、小屋の扉が開けられると、鶏たちは不足するたんぱく源としてのミミズ、カタツムリ、虫、種子などを探しに一斉に草地へと出て行き、日没とともに自分の小屋に帰ってくる。


 

 仕上げのケージに入れられる際、ツメを切って、左脚に飼育者の名前、住所が入った脚環を装着する。この脚環は、販売の際も外してはならない。
一生懸命えさを探す鶏たち
 

 
 今回の取材に応じてくれたサン・シュール・セイユのティエリー(Thierry JALLET)氏。年間約1万1千羽のブレス鶏を出荷している。
   ブレス鶏の仕上げは、ケージで約8〜15日間の“熟成”を行う。この熟成は、ワインやチーズの仕上げに行う“熟成”と同じであるとティエリー氏は説明していた。
 この熟成を経て出荷され、総飼育期間は、4カ月を下回らない。
写真協力:Marie-Paule MEUNIER(CIVB : Comite Interprofessionnel de la Volaille de Bresse)


 ブレス鶏の食鳥処理場、流通業者は特定の者と決まっている。食鳥処理されたブレス鶏は、カットして販売することは、禁止されている。左脚の脚環のほかに、首に3色の保証金具を付け、背中にはブレス鶏委員会(CIVB)が発行するAOCラベルを貼り販売しなければならない。
 年間約150万羽のブレス鶏が生産されている。全体の約95%はフランス国内で消費されている。日本には、毎週250羽が出荷されているとのことであった。
 

   ブレス鶏の肉質は、脂肪が筋線維の奥深くまで浸透しており、“霜降り”と表現されるほどである。
 薄い皮膚と繊細な肉質ゆえに、筋線維内の脂肪と水分をそのままの状態に保ちながら加熱しなければならず、ブレス鶏のおいしさを最大限に引き出すためには、ほかのものとは多少異なる調理方法が必要である。このため、肉屋であらかじめローストされたものや、高級レストランで調理されたものを食すことが望ましい。

 ブレス鶏の生産地域のほぼ中央に位置するソーヌ・エ・ロワール県のルーオンには「ブレス鶏館」があり、ブレス鶏飼育の様子を展示してある。ブレス鶏のグッズなども販売している。
 また、ここはCIVBの事務所ともなっている。CIVBは、ブレス鶏の生産調整、ラベルや脚環などの作成、プロモーションなどを行っている。ラベルや脚環などは、CIVBが発行しており、生産者、流通業者はすべてCIVBに加盟している。ブレス鶏の生産農家は約300戸(2003年)である。
 

ブリュッセル駐在員事務所 山崎良人、関 将弘 



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