特別レポート

米国における畜産環境直接支払いについて

ワシントン駐在員事務所 犬飼史郎、道免昭仁


1 はじめに

 2002年農業法は、米国における畜産環境政策の一つの転機となった。同法成立以前は、土壌浸食を起こしやすい農地の休耕が政策の主眼であり、約142万ヘクタールが本政策の対象となったが、同法では生産活動を維持しつつ環境問題の改善を図るとの観点から、環境に着目した直接支払いに重点が置かれ、環境改善奨励計画(EQUIP)の予算額の大幅な増額などが図られた。既に同法における畜産環境対策の概要は、海外駐在員レポート(2002年9月号)で概説したところであるが、今回はEQUIPによる畜産環境直接支払いについて施策の具体的な実施状況に焦点を当てより詳細に解説する。

2 EQUIPの拡充は畜産農家に有益

 2002年農業法は畜産農家が活用可能ないくつかの任意参加の環境対策を有しているが、中でもEQUIPは、(1)2002〜2007年までに総予算額が約5倍の58億ドル(約6,090億円、1ドル=105円(以下同じ))まで増額されるとともに、総予算額のうち畜産分野の占める割合が96年農業法の50%から60%に引き上げられたこと、(2)個々の契約に基づく奨励金または費用負担補助の支払総額の上限が96年農業法の5万ドル(約525万円)から45万ドル(約4,725万円)まで引き上げられたこと、(3)家畜排せつ物処理施設を設置できる畜産経営体の規模要件の上限が撤廃されたこと、(4)生産物の販売などについて新たな規制がないこと−など、畜産農家に手厚いものとなっている。

 
  アイオワ州の農場における土壌流出の例(写真提供;USDA/NRCS)
   

 96年農業法により旧来の4事業が統合され、97年にEQUIPが開始されて以来2003年までの間、米国農務省(USDA)は11万7,625件に及ぶ契約を結び、5,150万エーカー(約2,084万ヘクタール)に約10億8千万ドル(約1,134億円)の補助を行い、農家による先進的な土地利用の促進を図ってきた。2003会計年度における総契約件数は31,544件と前年の19,817件と比して59%増と大幅に拡大しているが、17万4,000件以上の申請が同年度には承認されないなど、依然として需要を満たせない状況が継続している。過去には申請者の5分の1しか承認されないと言われていたが、直近では申請者の約6分の1のみが承認されており、予算額が増大されたものの、参加資格要件の拡大などもあり引き続き狭き門となっている。一方、EQUIPの予算枠は州ごとに配分されるが、補助対象が家畜排せつ物、かんがい、草地、土壌浸食、地盤沈下、その他家畜環境問題の改善のための施設の導入および管理など各種取り組みに関する農家の費用負担などに限定されていることもあり、予算額は全額は使用されていない状況にある。

(1)EQUIPの予算額の推移

 EQUIPの予算額は、プログラムの開始年度である1997会計年度には2億ドル(約210億円)であったが、2002年農業法により、2007会計年度までに2002年度の4億ドル(約420億円)から13億ドル(約1,365億円)まで大幅に増額されることとなっている。

図1 EQUIP予算額の推移
資料:USDA/NRCS

(2)畜産向け予算額の畜種別内訳

 2003会計年度におけるEQUIPによる費用分担補助の総額は4億8,271万ドル(約506億8千万円)であった。このうち、65%に相当する3億1,376万ドル(約329億4千万円)が畜産関連に支払われ、残り35%の1億6,895万ドル(約177億4千万円)が畜産部門以外の農家に支払われているに過ぎない。畜産の畜種別内訳(金額ベース)は図2に示すとおり、肉用牛は2億109万ドル(約221億1千万円、64%)、酪農は6億8,795万ドル(約722億3千万円、22%)、養鶏は1,511万ドル(約15億9千万円、5%)、養豚は1,909万ドル(約20億円、3%)、その他1,785万ドル(約18億7千万円、6i%)となっている。

 また、2003会計年度の契約件数をみると、畜産関連の総契約件数は18,293件と同年度のEQUIPの全契約数である31,544件の58%に相当する。畜種別内訳は、肉用牛は13,416件(73%)、酪農は1,987件(11%)、養鶏は895件(5%)、養豚632件(3%)、その他1,363件(8%)となっている。

図2 EQUIP畜産向け予算の内訳(2003会計年度)
資料:USDA/NRCS

(3)各州への配分

 2003会計年度における畜産関連予算のうち、39%に相当する1億2,309万ドル(約129億2千万円)をテキサス州、カリフォルニア州、モンタナ州、ノースダコタ州、ミズーリ州、ミネソタ州、サウスダコタ州、カンザス州、オレゴン州、オクラホマ州の上位10州で占めている。特に、テキサス州には、畜産関連予算の8%に相当する2,374万ドル(約24億9千万円)が配分された。USDAの自然資源保全局(NRCS)は、各地域のNRCSに対し、畜産や畑作も含む30項目に関する調査を行わせており、この調査結果に基づき各州への予算の配分を決めている。テキサス州とカリフォルニア州は地理的にもその面積が広いが、一方で家畜が都市近郊で大規模に飼養されていることも多く、混住化の進展に伴う環境問題の発生も課題となっている。また、州ごとに配分されたEQUIP予算総額に畜産の占める割合については、ノースダコタ州、サウスダコタ州、オクラホマ州では90%以上となっている。

アイオワ州ダラス郡における混住化の進展の例(写真提供;USDA/NRCS)

図3 EQUIP予算の各州への配分(2003会計年度)
資料:USDA/NRCS

図4 各州のEQUIP予算額に畜産の占める割合(2003会計年度)
資料:USDA/NRCS
 注:円の大きさは予算額の違いを示す

3 EQUIPへの参加資格要件など

(1)参加資格

 EQUIPへの参加資格は、農業生産に従事している者であり、1985年農業法における高度浸食土壌および湿地の環境規定に適合することとされている。ただし、契約を締結しようとする年の直近の前3年間の平均総農業収入額が250万ドル(約2億6千万円)を上回る場合には参加することができない(平均所得の75%が農業または林業に伴う所得である場合には例外が適用される)。また、連邦政府、州政府ならびに郡などはEQUIPの対象外である。すべての農業者がEQUIPの参加申し込みをすることが可能であるが、EQUIPの目的は環境問題の改善であり、重度の環境汚染者が最優先者であるため、耕地を既に適正に管理している農業者はEQUIPに基づく支払いを受けることが困難となっている。

(2)対象となる農地

 EQUIPにおける補助の対象となる農地については、作物栽培用地、放牧地、牧草地、非産業目的の個人用の林地およびその他土壌・大気・水質に重大な問題を起こすと承認された農場所有地とされている。また、家畜の飼養者はふん尿貯留施設への補助を受けることが可能である。農家のEQUIP計画にふん尿貯留施設やふん尿処理施設が含まれる場合には、当該農家は飼料管理、ふん尿の取り扱いと貯蔵、ふん尿の農地などへの還元および、土壌管理などに関する包括的栄養分管理計画(Comprehensive Nutrient Management Program, CNMP)を立て、経営に伴う環境への負荷の改善に取り組まなければならない。

(3)補助の上限

 2002〜2007年までの間に開始されるすべての契約に基づき個人若しくは経営体に対して支払われる費用分担補助および奨励金の2002年農業法が有効である期間(6年間)における支払い合計は45万ドル(約4,725万円)を超えてはならない。ただし、単年度当たりの上限は特に設けられていない。

(4)補助率

 EQUIPでは、USDAは農家が所有する土地の環境改善を図るための費用の一部補助や奨励金を交付することができるとされている。費用の一部補助については、環境対策に伴う機械・施設の購入、改善および維持に係る費用の一部が対象となっている。これらの費用について連邦政府は、植物化水路、帯状植物地帯、ふん尿処理施設、古井戸の封鎖など、地域における自然資源の健全性の維持や改善のために重要な環境対策については最大で75%の補助率を適用することが可能としている。ただし、最大の75%の補助率の適用が可能とされる地域に位置する多くの農家がこの最大補助率の適用を申請しているが、実際の費用負担の補助率は大半の場合において50%となっている。

 また、小規模および社会的に不利な立場にある生産者の懸念に対応し、新規参入農業者や低資産農業者については、補助率を最大90%とすることが可能とされている。低資産農業者とは、契約を結ぼうとする年の直近の2年間の平均総農業販売額がともに10万ドル(約1,050万円)を下回り、かつ、総家計収入が4人世帯の連邦貧困家庭基準以下(成人2名と18歳未満の子供2名により構成される標準的な世帯であり、直近の基準は1万8,850ドル(約198万円)。)または直近の2年間の郡における中央家計収入の50%を下回る者である。

 管理費用の補助率は、農家が位置する州および地域並びに実施される環境対策の種類により異なる。補助の対象とされる環境対策の種類やこれに適用する補助率の決定は、州または地域のNRCSの判断権者に委ねられている。特に、環境対策の選定に際しては、改善が求められる環境上の問題について、最も費用対効果が高いものは何かとの観点から検討が行われる。また、申請の採択に際しては、期待される環境の改善の程度や申請者の希望する支払額などが考慮される。NRCSはEQUIPの参加者とともに環境計画を立て、この計画に基づき費用負担に関する合意がNRCSと農家の間で締結される。契約期間は単年から10年までの期間を選択することが可能である。

 
植物化水路の例(写真提供;USDA/NRCS)
帯状植物地帯の例(帯状植物地帯)

州における運用実態の例

(1)インディアナ州(養豚の主要産地)の例


(1)費用負担補助

 インディアナ州における連邦政府による補助率は環境対策により45〜75%となっている。低資産農業者については90%の費用負担割合が適用されるが、新規参入農業者については、通常の費用負担割合の15%増とされている。

(ア)75%の補助率が適用される例

 帯状植物地帯、水辺緩衝林帯、高・低木林の造林、ふん尿貯留施設(新規参入、既存経営の拡充の場合には50%。また、ふん尿貯留槽の費用負担額が10万ドル(約1,050万円)を超える場合にあっては補助率は50%とする。CNMPの作成が必須。貯留槽を畜舎などを所有しない農場に設置する場合には、畜産農家からのふん尿の受け入れ契約を最低で5年またはEQUIPの契約期間締結する必要がある。)

ジョージア州における900頭規模の肉豚農場の汚水処理用ラグーン
(写真提供;USDA/NRCS)

(イ)60%の補助率が適用される例

 林道、傾斜地の安定対策、植物化水路、濃密使用地域の保全、牧草地・採草地への植栽、 調整池

(ウ)50%の補助率が適用される例

 ふん尿処理用ラグーン、汚水処理用ラグーン、かんがい用給水施設、パイプラインの設置、水路・排水路の漏水防止、護岸工事、沈殿池、泉の管理、井戸の封鎖、柵、林地の管理、防風林の造成・修復、湿地の増進・復元、湿地の野性動植物生息地管理

(エ)40%の補助率が適用される例

 たい肥化施設、曝気槽、かんがい池・調整貯水池、かんがいシステム(給水栓、スプリンクラーなど)、貯留池およびその漏水防止(アスファルト舗装など)、堤防、開放水路、側溝の改修、明きょ・暗きょ、地下排水口、排水システムにおける水量制御、制御型焼却炉、敷わら、生け垣、防火帯、稀少動植物の管理、野性生物のための浅瀬の造成、高低木の植樹、井戸(家畜の給水用のみ)、侵入道路、湿地造成

 
モンタナ州における魚の生息環境の改善のための牧柵と魚道の設置例
(写真提供;USDA/NRCS)
アイオワ州における液肥のかんがいの例(写真提供;USDA/NRCS)

(2)奨励金

(ア)非耕作、部分耕起

 1エーカー当たり20ドル(1ヘクタール当たり約5,189円)の奨励金が最大で3年間支払われる。申請者は申請の対象となっている農地を5年間耕作してはならない。輪作の契約の場合については最低1年間の不耕起による穀物の作付けを行わなければならない。非耕作との資格を得るには、プログラム参加の1年前から栄養管理と害虫管理が実施されていることが必要である。申請時にすでに農地が非耕作地である場合には申請できない。申請者はNRCSが主催する非耕作の研修に参加することが推奨されている。

(イ)管理放牧の実施

 1エーカー当たり10ドル(1ヘクタール当たり約2,595円)の奨励金が最大で3年間支払われる。河川および湿地に対し、5エーカー(約2ヘクタール)を上限として1エーカー当たり500ドル(1ヘクタール当たり約12万9,725円)の奨励金が1回のみ支払われる。林地については、10エーカー(約4ヘクタール)を上限として1エーカ当たり250ドル(1ヘクタールあたり約6万4,863円)の奨励金が1回のみ支払われる。河川においては保護地域は水流から最低30フィート(約915センチ)の区域を含み、かつ、水辺の保護措置の実施が求められる。湿地の場合には農地からの作物の除去が求められる。奨励金が家畜の排除のために用いられる場合には、家畜が保護地域内で飼養されていることが要件となる。

バージニア州における非耕作の例。被服植物である大麦にコーンの作付けが行われている(写真提供;USDA/NRCS)

(ウ)緑肥・被覆植物

 EQUIPの実施期間が終了するまでの間の契約を結ぶ場合、3年間を上限として1エーカー当たり12ドル(1ヘクタール当たり約3,113円)の奨励金が支払われる。あらかじめ定められた基準による管理の実施が求められる。

(エ)害虫管理

 3年間を上限として1エーカー当たり4ドル(1ヘクタール当たり約1,038円)の奨励金が支払われる。

(オ)栄養素管理(土壌検査による窒素含有量が50ppmを超える非畜産経営体(AFO)およびAFOの農地)

 農地への家畜ふん尿の施肥の中止に対し、3年間を上限として1エーカー当たり5ドル(1ヘクタール当たり約1,297円)の奨励金が支払われる。

(カ)栄養素管理(AFOの家畜ふん尿)

 最大3年間の奨励金を支払うことができる。奨励金の目的は、望ましい環境上の成果を達成するための農家における管理の変更の促進であり、この趣旨に添うことが必須となる。

(キ)包括的栄養分管理計画(CNMP)

 CNMPの開始または実施に対し、当該CNMPに対する1度限りの奨励金として1,000ドル(10万5,000円)が支払われる。

(ク)湿地における自然動植物の生息環境の管理

 管理湿地に対し、25エーカー(約10ヘクタール)を上限として、1エーカー当たり20ドル(1ヘクタール当たり約5,189円)の奨励金が支払われる。

(ケ)早生植物の活用による自然生息環境の創造

 耕起、消毒、刈り取りおよび野焼きの奨励金として、1エーカー当たり5ドル(1ヘクタール当たり約1,297円)の奨励金が支払われる。林地については、1回限りの奨励金として1エーカー当たり50ドル(1ヘクタール当たり約1万2,973円)の奨励金が支払われる。

(コ)環境作物の輪作

 有機農業が行われる作物年度について単年度1エーカー当たり10ドル(1ヘクタール当たり約2,595円)の奨励金が支払われる。有機農業はUSDAが別途定める定義に適合する必要がある。

(サ)かんがい用水管理

 かんがいが行われる農地1エーカー当たり3ドル(1ヘクタール当たり約778円)の奨励金が支払われる。地表および地下水源に対する非点源汚染源を削減する管理が必須である。奨励金は既存のかんがいシステムのみに支払われる。

(2)テキサス州(主要な肉用牛生産地帯)の例

 テキサス州における連邦政府による一般農家に対する費用負担の補助率は50%以下とされている。郡ごとに設定された優先順位に基づき基準費用負担割合が定められているが、一部の郡ではより多くの生産者を支援するとの観点から、50%よりも低い補助率が設定されているところもある。低資産農業者に対しては、一般に60%の費用負担割合が適用されているが、一部の郡ではさらに高い負担割合が適用されている。新規参入農業者に対しては50%を上回る費用負担割合が適用されている。

 奨励金の対象は、畜産経営体・大規模畜産経営体(AFO・CAFO)、水質保全、排水量の削減、野生動植物の保護、外来種・帰化動植物種の排除、林地の下草刈などの管理などとなっている。

4 申請の採択の優先順位

 各州への予算の配分や実際の申請に際しては、環境上の優先事項を考慮して決定を行うことが求められている。

(1)各州への配分の際の検討事項

 EQUIP による支援を受ける者の優先順位を決めるに際しては、(1)非点源による汚染の削減(栄養素、沈殿物、殺虫剤、過剰な塩分河川の流域、地下水汚染の削減、土壌および地表水の環境保全)、(2)排出の削減(粒子状物質、窒素酸化物、揮発性有機化合物、オゾン前駆気体など)、(3)土壌浸食および農地の許容できない地盤沈下の防止、(4)稀少生物の生息環境の保全−について基準が設けられ、NRCSの長はこれらの優先事項を使用可能なEQUIP予算を各州に配分する際に考慮する。

(2)州および地域での検討事項

 各州の環境保護担当者は、各州の技術委員会の助言に基づき、当該州における自然資源に関する課題の優先順位を明示する。また、地域の環境担当者は技術委員会の助言も仰ぎつつ、予算の配分、対象とする手法、費用負担割合、契約に優先権を与える際に用いる検討過程、地域代表などを決める。地域の指名された環境保全担当者は、地域の作業グループの助言を得て、当該地域における州のプログラムを採択する。このため、EQUIPは州毎のみならず、同じ州内でも郡により異なる。

 申請は計画上の環境上の利益や費用対効果などの多くの要素を勘案し、優先順位が定められる。州の環境担当者は、地域の環境担当者の同意の下に、個々の申請ごとではなく当該州において用いるEQUIPにおける50%を上回る費用負担補助の対象リストを作成することが認められる。ただし、10万ドル(約1,050万円)を上回る契約については地域のNRCSの承認が必要となる。

(3)申請の評価の際に用いられる基準

 各州または地域では、EQUIPが自然資源の課題の優先順位に対応したものとなるよう申請の優先順決定のためのシステムを構築している。このような順位付けは、州または地域の判断権者がどの申請がEQUIPに登録されるのに値するのかを判断する際に考慮される。ただし、このような順位付けに際しては、経営規模の大小は特に考慮されない。

州における順位決定の運用実態

(1)インディアナ州の例


 インディアナ州におけるEQUIPの順位付けのプロセスは、すべての連邦の優先順位と対策を反映させるように設計されている。検討過程は、地域レベルでの考慮すべき事項も考慮し得るよう組み立てられている。このような順位付けシステムは当該地域における予算の使用の効果を最大化するとともに、環境上の潜在的な最大の効果をもたらす。

 水質管理、家畜飼養管理、土壌浸食管理、森林管理はすべての州で抱える連邦レベルの問題となっている。このような順位付けのための基準は地図のデータとして入力され、コンピューター上のソフトが自動的に各申請の州内でのスコアを計算し、このスコアが地区の環境保全担当者が申請が定められた基準を満たすものか判断する際に用いられる。

 各郡は州内の環境上の課題をさらに詳細にした地域固有の基準を作成している。評価結果は州および地域により、それぞれ高、中、低の3段階に順位され、全ての申請に高高、中高などの評価結果が付けられる。地域における評価結果は順位付けにおいてより重要な意味を持つ。申請者は地域の事務所から自分の評価結果を伝えられる。全ての階層の順位付けされた申請は承認と予算支出のために州の事務所に送付される。

(1)インディアナ州の申請者への質問票

 申請者には質問票が送られ、全ての質問にイエスまたはノーで回答することが求められる。

 契約を申し出ている土地において営まれている家畜生産活動は水質に悪い影響を与えていますか?回答がイエスの場合には、以下の全ての質問にイエスまたはノーでお答えください。

(ア)契約を締結しようとしている土地は家畜頭数がインディアナ州で上位の郡内に位置しますか?   (イ)契約を締結しようとしている土地はインディアナ州で牧草地が多い上位の郡内に位置しますか?
 
 
(ウ)契約を締結しようとしている土地は大腸菌汚染に関する州のリスト303dに掲載されている河川の排水域にありますか?   (エ)契約を締結しようとしている土地は耕地面積に対する家畜排せつ物の割合が上位にある郡の少なくとも1つの中に位置しますか?
 

(2)テキサス州の例

 肉用牛の主要生産地であるテキサス州では大気汚染が州内の重要課題となっている。フィードロットなどから発生する塵芥や砂塵を低減するために、業界と州は大学の専門家に郡ごとの優先順位の決定を依頼した。EQUIPに参加しようとする商業目的の牛の肥育経営は以下により評価される。

高優先度地域内に存在
3,500点
中度優先地域内に存在
2,000点
小度優先地域内に存在
500点
既存のフィードロットの継続または拡大
500点
完全な新規のフィードロットの開設
0点

 AFOおよびCAFOにおける環境問題の改善はテキサス州内の養豚における主要な課題である。このため、既存の養豚のAFOおよびCAFOはEQUIPの予算上の最優先となっている。すべての申請は以下により評価がなされる。

ふん尿貯留施設
50点
ふん尿処理用のラグーン
50点
放牧地または採草地への植栽
50点
ふん尿の輸送
25点
ポンプ
5点
かんがい施設
5点
栄養素管理
15点
ふん尿の利用
25点

 テキサス州における養鶏については、EQUIPでは技術・資金的支援を供与することにより養鶏農家が環境基準に適合し、新たな環境規制の設定の必要性が生ずることを防止することに主眼が置かれている。養鶏における主たる環境問題は水質と大気汚染である。養鶏における順位付けは以下により行われる。

四季を通じて枯渇しない河川より1,000フィート以上離れている
100点
四季を通じて枯渇しない河川より500から1,000フィートの距離
55点
ふん尿貯留施設への屋根などの設置
50点
草地への植栽(ただし、過去にEQUIPの対象となっていないもの。
箇所数や面積に限らずすべてのケースにおいて50点を限度とする)
50点
雑木林の造成(リンの残留レベルが600ppmを超える場合のみ)
55点
減羽
50点

 

5 EQUIPの申請およびプランの立案

 EQUIPでは、参加者に自らの経営における環境問題の正確な把握と対応策に関する技術的な指導に重点が置かれており、申請者は採択の有無にかかわらず、NRCSの担当者の助言を受けながら、自らの経営内における環境改善計画を立案することとなる。

(1)申請からEQUIPプランの開始に至る流れ

(1) 土地の所有者は地域のUSDAサービスセンター、NRCSの事務所、環境特別地域事務所または指定された共同体の事務所に申請者を提出する。

(2) NRCSの州の環境担当者またはデザイナーは申請者とともに農場におけるEQUIPプラン作成のための共同作業を行う。

(3) 環境担当者または指定された環境担当者は、個々の申請についてあらかじめ地域で定められた順位決定プロセスに従い順位付けを行う。

(4) 予算が配分されると、州の環境担当者または指定された環境担当者は当該分配された予算を高順位に位置付けられた土地所有者の申請に割り振り、選定した参加者との契約を開始する。

(5) NRCSとの選定された経営体との間での契約の締結後、予算はプロジェクトに供され、参加者は農場におけるEQUIPプランを開始することができる。

(2)契約に基づく実際の計画の立案

 参加者が選定されると、参加者は適当なNRCSの事務所と、EQUIPの下でのすべての条件を具体化し、EQUIP上の契約を最終的なものとして契約を締結するための作業を行う。EQUIPの契約は参加者とNRCSの関係を明確にする法的な契約である。EQUIPの契約では、生産者が実施する業務、実施時期ならびにUSDAが参加者に提供する支援の水準などについて詳細に言及する。EQUIPの契約は最短で1年、最長で10年とされている。ただし、生産者が締結可能な契約数に制限はない。また、契約に1ないし複数の組織的な活動を含めることが可能である。

6 EQUIPの下での連邦政府などの役割

 EQUIPの予算の配分や実際の農家におけるEQUIPプランの実施の過程では非常に多くの者がそれぞれの役割を担うが、主要な関係者の役割を総括すると以下となる。

(1)NRCSの責務

 連邦政府の機関であるNRCSは、(1)連邦レベルでの法・規則の制定、(2)環境問題の優先順位の決定、(3)プログラムの説明や指導、(4)州ごとの配分額の決定、(5)プログラムの効果の検証、(6)州レベルでのプログラムの再検討・管理などの役割を担う。

(2)州の技術委員会

 州の技術委員会は州または地域の行政府の職務権限者などから組織される。委員会は、(1)州における自然資源に関する優先事項、(2)費用負担および奨励金に関する事項、(3)費用負担割合および奨励金の単価に関する事項、(4)申請の優先順位の決定に関する事項について州のNRCSに助言を行う。

(3)地域のワーキンググループ

 地域のワーキンググループは指名された環境保全担当者に対し、(1)当該地域における環境問題、(2)奨励金および費用負担の適切な実施、(3)費用負担割合について助言を行う。

(4)技術専門家
 EQUIPの参加者は承認された環境対策についてNRCSまたはNRCSより契約された専門技術者からの技術支援を受けることができる。専門技術者は、個人や企業としてNRCSから公認された者であり、州ごとの専門技術者名簿に掲載される。NRCSは組織の削減を行っているためにこのような外部委託が行われている。技術専門家の役割はNRCSの職員の補助であり、専門技術者の活用に伴う費用はEQUIP契約に含まれている。


7 EQUIPの抱える課題

(1)大規模農家の参加の拡大と小規模農家のEQUIPに伴う収入への依存

 2002年農業法の成立に伴うEQUIPによる活用農地に対する環境対策費の増額は米国内の農地と農業者に大幅な柔軟性を与えた。これにより、EQUIP以外の農業環境プログラムや資源管理への参加者、農場の規模や管理手法の変更を行った者の多くが環境対策への連邦政府からの支援を受けるとの選択肢を考慮することができるようになった。

 米国の農業粗生産額の3分の2は、大規模農業者の所有する4分の1の農地から生産されている。この階層の農家はより商業的に経営されており、農業外家計収入への依存度が非常に低い。活用農地への支払いの拡大、大規模畜産農家への配慮、支払い上限額の引き上げにより、大規模農家からのプログラムへの参加の増加が期待されものの、例えば10万頭規模の養豚経営にとっては45万ドル(約4,725万円)との上限は、申請などに伴う労力と比較すると魅力のないものとなっている。環境上の課題を抱えていると考えられるCAFOの多くが、家畜排せつ物の管理や利用について、新たな水質保全法(CWA)の遵守を求められており、EQUIPの予算の大半が栄養素管理に伴う費用負担に使われるものと考えられている。

 また、年間の農業販売額が25万ドル以下である小規模農業者により米国の農業粗生産額の3分の1が担われているが、土地所有面積でみると約4分の3を所有している。この階層の農家の多くは、農作物や畜産に伴う収入より耕作放棄支払いと農業外家計収入に高度に依存している状況にある。

(2)養豚経営における費用負担の課題

 養豚農家は不十分なEQUIPの経済的支援が畜産全体のうち養豚以外のAFOに対して重点的に行われているとして不満を示している。養豚生産者は、2003会計年度のEQUIPにより彼らが享受し得る費用負担の軽減は総予算額のわずか3.5%に過ぎず、この予算が豚の総飼養頭数の7.2%という限定されたものとなっていることを問題としている。また、NRCSによる養豚経営が全米内での規制対象畜産経営の約22%を占めるとの推計を行っていることと比較しても低い水準となっているとしている。全国豚肉生産者協議会(NPPC)は他の家畜種の環境問題に対する予算と養豚のそれとの間に不公平が生じているとしている。養豚生産者は環境上の要求と比較して不釣り合いな支援しか受けておらず、養豚に対して増額された予算額は他の畜産の予算増と比較して不公平であるとしている。NPPCは、(1)ふん尿貯留施設や処理施設の更新、(2)ふん尿の土壌への還元によるより厳格な栄養素規制の遵守、(3)臭気の抑制による大気の浄化のための養豚生産者によるCNMPの実施、(4)CNMPの実施に対する支援の必要性−を主張している。

 NPPCでは、2004年4月6日に養豚関係者の懸念とEQUIPに対する勧告を総括した。この決定は、以下の7つの主要な勧告により構成されている。

(1)養豚農家がCNMPを行うことを支援するよう養豚生産者に対する直接支払いを行うことを最優先課題とすること

(2)畜産業者からの申請の支援のための州レベルでのEQUIP基金を創設すること

(3)畜産農家が、既に自らの農場において環境問題を改善するための効果的な対策を行っている場合であっても、新たな環境規制の強化に対応するための相応の配慮をEQUIPにおける優先順位付けにおいて行うこと

(4)現行のEQUIPでは費用補助の対象とされていない輸送用機材を補助対象とすること

(5)臭気問題に対応するため、脱臭などの空気の浄化に高い優先順位を与えること

(6)州の技術委員会に参加する努力を行っている生産者との間での良好な関係を維持すること

(7)畜種ごとのEQUIPの申請および契約のデータについて、これを収集し報告すること

8 おわりに

 わが国では、畜産経営内の還元耕地への適正施用量を上回るふん尿のたい肥化・浄化、混住化の進展に伴う悪臭対策に主眼が当てられているものの、米国での畜産環境問題では、このほかに放牧地や採草地からの土壌の流出や野生生物の生息環境の保護など、より広義な環境問題に対策が講じられている。日米の畜産環境問題の事情は異なるが、環境問題への配慮が常に生産者に課されている状況には差異はない。

 USDAの農業環境政策では、現状の改善による新たな環境規制の強化を排除することに力点が置かれているが、EQUIPは深刻な環境問題を起こす可能性のある大規模畜産経営に対しては助成額が魅力を欠くものとなっていたり、申請者の約6分の1しか事業採択されないなどの課題も抱えている。

 一昨年USDAのNRCSを訪問した際に、EQUIPの担当者は、(1)いったん訴訟が起こされると連邦政府が手を差し伸べることが出来なくなるので、その前に農家にUSDAに相談するよう呼びかけていること、(2)USDAとしては、EQUIPは農家に自己の経営内での環境上の課題とその解決策を自覚させるために実施していること、(3)環境問題は永続的に農家が取り組まなくてはならない問題であり、補助や奨励金は自発的な対策実施のための呼び水に過ぎないこと−を強調していた。

 ただし、米国では技術面での支援体制の強化も行われているところであり、わが国でも官民の協力の下に、今後技術的な支援体制の更なる強化が図られることを期待したい。

 
集合柵からの汚水の流出。汚水は近隣を流れる小川に流入し水質悪化を招いている(写真提供USDA/NRCS)
ふん尿の処理について議論をする酪農家とNRCSの専門家
(写真提供USDA/NRCS)

参考

NRCSのEQUIPに関するサイト;  
 http://www.nrcs.usda.gov/programs

NPPCのサイト;
 http://www.nppc.org/


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