特別レポート

ベトナムの養豚の概要

シンガポール駐在員事務所 斎藤孝宏 木田秀一郎


1 はじめに

 ベトナムは、1986年に始まったドイモイ(刷新)政策をはじめとする開放経済政策が功を奏するとともに、周辺諸国の政治的安定により、経済発展が続いている。しかしながら、国民の多くが農業に従事し、都市を離れた地方の農村部で生活しているのが実情である。

 農業の中でも畜産は、伝統的に農家経営の重要な構成要素であり、家畜は大切な財産としてその地位を保ってきた。現在でもその重要性は変わらないが、特に豚肉はベトナム人が好む食肉であるため、近年は、養豚部門が独立した経営として運営されるようになってきている。

 同国は口蹄疫の常在国であり、日本に豚肉そのものの輸出はできないが、同じ口蹄疫常在国でも加熱処理した豚肉調製品を日本に輸出しているタイなどの例もある。今回は、数量は少ないものの豚肉の純輸出国であるベトナムの養豚の概要をレポートしたい。

2 ベトナムの一般概況

(1)国土等

 ベトナムは南北に長い国で、北は中国に接し、南は南シナ海に突き出している。東はトンキン湾から南シナ海に面して長い海岸線を有し、西はラオスとカンボジアに接している。行政上、国土は8地区に区分されている。

(2)国家計画

 同国は、社会経済開発戦略として長期計画を10年単位で定め、さらにその実施のための5カ年計画を策定している。現在定められているのは、2001-2010年社会経済開発戦略「Strategy for Socio-Economic Development 2001-2010」であり、開発5カ年計画「Five Year Plan for Socio-Economic Development from 2001 to 2005」が実施されている。それぞれの主要目標は次のようになっている。

図1.

(1) 2001-2010年社会経済開発戦略

 ア 経済成長を達成し、2010年のGDPを2000年の2倍にする。

 イ 人材開発の推進
 
 ウ バイオなど新技術の発展

 エ 通信、電力などのインフラの整備

 オ 国営企業の効率化と社会主義を基本理念とする市場経済の定着化

(2) 開発5カ年計画

 ア 前5カ年計画以上の経済成長の達成

 イ 社会主義を基本理念とする自由経済化(国営企業の効率化)

 ウ 社会経済開発への投資の増加と競争力の強化

 エ 輸出市場の拡大と海外からの資本と技術の導入を推進

 オ 金融システム改革

 カ 人材育成と科学技術の発展
 
 キ 失業、貧困などの克服

 ク 公的部門の管理体制改革と民主化

 ケ 国家の安全の保持

 2001-2010年社会経済開発戦略の中で農業のウエイトは、相対的に低めの方向への誘導となっており、2010年時点での国内総生産(GDP)の構成割合は農業17%、工業40〜41%、サービス42〜43%とし、労働人口における農業の割合を50%以下としている。

 また、開発5カ年計画の中で農業は社会経済の安定に重要とし、畜産の発展に関しては、前年比6.5〜7.5%の生産拡大により、2005年には250万トンの食肉を生産するとし、生乳生産については20%増加させるとしている。加えて、畜産においては、大規模化を進め、品種の改良と衛生環境と飼料の改善により生産を増加させ、国内供給はもとより輸出を拡大することが必要とされている。

表1.国土面積等の比較
資料:世界銀行、アジア開発銀行

表2.ベトナム及びタイのGDP伸び率等
資料:アジア開発銀行

(3)農業と畜産の位置付け

 ベトナムの人口約8千万のうち労働人口が約4千1百万人であるが、そのうち6割弱を農業人口が占めている。また、2002年のGDPに占める農業は2割強となっている。経済成長率は近年7%前後を維持しているが、その成長の原動力は工業にあり、農業は3%強と低い伸びを示している。

 比較のため、東南アジアで工業化が先行しているタイの数値をみると、経済成長率は7%近くで同様であるが、労働人口に占める農業人口は10ポイントほど低く、またGDPに占める農業の割合はベトナムが21.8%に対し、タイは9.8%となっている。

 両国とも工業化の進展とともに農業人口は減少傾向にある。

 このような中、農業生産額の推移は表3のとおりであり、そのうち畜産は約20%を占めている。

表3.農業生産額の推移
資料:Statiscal Year Book 2003
 注:2003年は推定値

3 畜産の概況など

 ベトナムの家畜飼養頭羽数の推移は表4のとおりである。水牛と馬を除いて増加傾向で推移しており、過去5年間の伸びでみると豚は約3割も増加している。牛や水牛そして馬は農耕や荷車のけん引に使用されることが多かったが、自動車などの増加によって役畜としての必要性が低下してきている。その一方、食肉目的である豚や鶏は経済の発達に伴う需要の増加により生産が増加し、飼養頭数も大きく伸びている。またこれに伴い、食肉生産も増加している。

 また、行政上、同国において家きんを含む畜産を担当するのが、農業農村開発省(Ministry of Agriculture and Rural Development:MARD)である。1995年に農業食料産業省から改変された。その傘下に種畜、飼料、食肉貿易などを扱う畜産公社(Vietnam National Livestock Corporation:VINALIVESCO)と、豚の精液採取、検定、人工授精師の訓練などを行う国立豚育種人工授精センター(National Center for Pig Breeding & AI:NACEPIG)などがある。

表4.家畜飼養頭羽数の推移
資料:FAOSTAT

表5.食肉生産量の推移
資料:FAOSTAT

4 養豚の概況

(1)豚肉需給

 豚肉需給については、表6のようになっている。需要の増加とともに生産も年々増加傾向で推移している。同国の豚肉消費の多くは、冷蔵施設を持たない対面販売(いわゆるウェットマーケット)からの購入によっている。

 生産の伸びとともに一人当たり消費量も増加しており、2003年には、生体重ベースで22キログラム程度の計算となっている。なお、日本での1人当たり消費量は18キログラム(2002年:枝肉換算)である。

 一方、輸出量は年によって増減し、1995年から2000年まででは約5千トンから1万トンの間を前後し、2001年には2万3千トンと増加したが、2003年には9千トン台に低下している。

表6.豚肉の需給等
資料:FAOSTAT、ベトナム貿易省、アジア開発銀行
 注:生体重、輸出は製品重量

(2)生産

(1) 飼養頭数の推移

 豚の飼養頭数は、1990年代以降一貫して増加している。特に2003年までの直近5年間の増加率は平均で6%を超える伸びとなっている。地域別に飼養頭数割合を見ると、北部(北東、北西、紅河デルタ、北中)で全国の6割、南部(南中沿海、中部高原、東南、メコンデルタ)で4割となっている。

(2) 豚の品種

 ベトナムにおける2003年の豚の品種は、育種の基盤となる国営種豚場のグランドペアレントストック(GP)およびグレートグランドペアレントストック(GGP)の構成をみると表7のとおりであり、在来種のモンカイ(Mong Cai)種とランドレースとヨークシャーの交雑種が基本となっている。すなわち、産肉性には劣るものの丈夫なMong Cai種と発育性と歩留まりに優れた外来種の組み合わせによる改良が行われている。

 在来種(ベトナムでは、従来その土地で使用されてきた豚を在来種と称しているが、品種として固定されているか否かは不明である。)としては、Mong Cai種のほかにI種やBa Xuyen種などがあるが、これらはすでに飼養基盤からは外れつつある。在来種は、ベトナム戦争が終結して外国種が導入され始めた1975年以前は、地方において飼養される品種の中心となっていた。

(注)グランドペアレントストックおよび(GP)グレートグランドペアレントストック(GGP)とは、食肉として供される豚(コマーシャルストック:CS)に対して、祖父母 に当たるのがグランドペアレントストック(GP)で、曽祖父母に当たるグレートグランドペアレントストック(GGP)という、なお、親はペアレントストック(PS)という。

 1995年時点での母豚の品種構成は表8のとおりであり、外国種の導入が南部で進んでいたことが分かる。

図2.豚の地域別飼養頭数の推移
資料:MARD

 
国営企業Northern Pig Breeding Company(NOPICO)の紅河デルタにある豚舎である。同社は、5百頭のGGPと7千頭のGP繁殖雌豚を所有する。   NOPICOで飼養している繁殖雌豚でランドレースとヨークシャーの雑種である。

 
Mong Cai種の母豚と子豚。成長が遅く、飼料効率は外国種に劣るが、丈夫なので外国種との交雑に使用されることが多い。   I種の母豚と子豚。赤身の歩留まりが悪く、今ではほとんど飼養されなくなった。

表8.1995年の母豚の品種構造
 
表9.在来種の主要飼養地域
 
資料:MARD
資料:MARD    

(3) 種豚場と養豚場

表7.国営種豚場リスト
  資料:MRAD
   

ア 国営種豚場

 ベトナムでは、社会主義体制の下で国営種豚場が運営されてきたが、ドイモイ政策を契機として市場経済の下での運営が推進されることとなった。市場経済の導入以前は、国が直接運営する種豚場が12カ所、県が運営する種豚場が53カ所あった。2003年現在、統合により、国の直接運営するものが8カ所となり、県に配置したものについては一部民間資本の導入がなされている。

イ 民間の種豚場と養豚場

 経済の自由化とともに、民間でも母豚100頭を超える種豚場を経営する者が現れているが、資本と事業内容によって個々の規模は大きく異なっている。

 母豚が10〜100頭規模の小規模経営ものから、経営によっては子豚のみの生産、または肥育だけのもの、そして繁殖と肥育の一貫経営がある。

 2002年に国立経済大学(ハノイ市)が行った調査では、全国で1,050種豚企業があり、20万頭の繁殖用の豚が飼養されているとしている。

ウ 小規模養豚

 小規模農家や家族経営よってなされ、全国の養豚生産の80%を占める。在来種または在来種と外国種の交雑種が飼養される。平均で1〜2頭の繁殖雌豚と10頭程度の肥育豚を飼養している。

エ 外資企業による養豚

 一貫生産システムが開発されつつあり、繁殖から肥育部門のみならず飼料供給からと畜解体部門も所有するものもある。外国企業がこの方式に投資しており、2万〜20万頭の肥育規模を持つ。この方式の普及は早く、ホーチミン、フングエン、ハタイなどの都市部での豚肉消費の増加に伴い増えている。これらの外国企業としては、
フランス:ハイブリットカンパニー(450頭のGP繁殖雌豚所有)
タイ:CPグループ(200頭のGP繁殖雌豚所有)
台湾:アグロフォレストリー(2千頭のGP繁殖雌豚と1万8千頭の繁殖雌豚を所 有し、肥育用の子豚を生産)
英国:ピッグインターナショナルカンパニー(2000年にMARDに経営を移管した、1千頭のGP繁殖雌豚を所有)

 これらの会社は多くの契約生産者と提携し、契約生産者は繁殖雌豚または肥育用子豚の供給と肥育や衛生管理技術の指導を親会社から受ける。親会社は肥育された豚を受け取り、預託代金を支払う、農場所有家族は農場の規模拡大のために投資し、親会社の資本を活用する。(これは、代表的な経営形態となっており、いくつかの県ではこの方法で生産が大きく拡大している。)

(参考 生産費)

 ハタイ県の個人農場における肥育経営での生産費の例である。日本の場合(平成15年度生産費調査、一貫経営)の飼料費(構成比61.5%)、労働費(同16.3%)に比べて、労働費の割合が極めて低くなっている。

参考 肥育豚の生産費
資料:ハタイ県における個人農場の肥育結果(2003年)

(4) 飼料

ア 小規模農家の飼料

 小規模農家が配合飼料を購入するのはまれであり、米ぬかやカンショの先端部分など種々の副産物を与えるのが一般的である。特に豚への飼料としては、傾斜地で作られるトウモロコシやキャッサバが多く、その他の飼料としては、バナナの茎などが挙げられる。小規模農家は、肥育などに関する情報も不足し政府の普及活動も及ばない場合が多いので、自らまたは周囲の人々の経験に頼って豚に飼料を与えている。このことが小規模経営の制約条件になっている。通常、集約的経営の飼料費は養豚コストの60〜70%を占めると言われるが、小規模経営ではこの割合が低く、一方では飼料経費を節減できることが小規模経営の強味になっている。

イ 配合飼料

 ベトナムにおける近年の飼料製造量の推移は表10のとおりである。2002年には、890万トンとなっている。そのうち4割弱が販売目的で製造され、そのまた1割強が濃厚飼料となっている。この中には漁業用のものも含まれるが、年々増加傾向にある。主要な原料としては、米ぬか、砕米、トウモロコシ、キャッサバ、サツマイモ、大豆かす、ピーナッツ粕そして魚粉が挙げられる。これらは家畜の種類やステージに応じて配合されるとともに、原料の調達状況に応じて配合される。

ウ 飼料用原料

 主要な飼料原料であるトウモロコシの需給を見ると、生産が増えているものの、飼料原料としての消費が増加しているため、近年、輸入量も増加している。特に、飼料にとって重要なたん白成分のための大豆かすの輸入量は近年大幅に伸びている。

エ 飼料工場

 2003年の時点で、182カ所の飼料工場があり、そのうち原料を粉砕する機械(mill)を備えているのは、138カ所である。全体の年間生産能力は5百万トンと見込まれている。外資による国および民間企業との提携工場が15カ所ほどあり、これらの製造能力を合計すると全国の5割を超している。提携先の企業と国は、CP(タイ)、Proconco(仏)、Cargill(米国)、UPV(台湾)、New Hope(中国)などとなっている。またこれらの企業のいくつかは、養豚や養鶏も営んでいる。一方、これらを除く民間の飼料工場の半分以上は、小規模の設備のために合計しても国全体の製造能力の2割程度しかなく、主に配合飼料を製造している。

表10.飼料製造量
 
表11.地域別トウモロコシ生産量
 
資料:MARD

  資料:MARD
 注:2003年は見込み数量

表12.トウモロコシの需給
 
 
資料:米国農務省(USDA)
 注:2003年は見込み数量
国営企業Central Feed Company(VNFEED)の飼料工場である。同社はハノイ市の郊外に立地している。製造量の70%は豚用である。

表13.大豆かすの輸出入
資料:FAOSTAT

表14.ベトナムの主要飼料製造会社(2004年)
資料:アグリソース社

(3)流通

農村などで生産された豚は、一般にミドルマンと言われる仲介業者の手を経てと畜場に送られ、と畜解体後、国内マーケットまたは輸出に仕向けられるが、国内向けと輸出向けは、と畜段階から明確に区分されている。

(1) ミドルマン

 ミドルマンは、と畜場の経営者と搬入する豚について売買契約し、豚を収集する者(生産者から生体の豚を購入しと畜場に送る)いわゆる仲介業者のことであり、自らの利権を守るために地理的に小グループに分かれ、縄張りを形成している。彼らはと畜場の所有者と必ずしも緊密ではないが、近親者に小さなと畜場を経営しているものがいることが多いと言われている。

 各ミドルマンは1日当たり3〜10頭の豚を売買するとされており、ミドルマンによっては車を雇い豚を農村部から都市に運ぶ者もいる。赤身率の高い豚は都市において評価されるが、一般に農村部では赤身にこだわらないことが多く、都市部での品質評価による価格の差は10%にもなるが、農村部では2%程度とされている。農村部では評価されない品質格差が市場では重要なこととなっているが、ミドルマンはこのことを生産者にフィードバックしないため、豚の改良が進まない要因の一つになっていると言われている。

(2) 国内向けと畜場

ア 公営と畜場

 国や県などが運営すると畜場は一般的でない上、数も少ない。市場経済に移行する1980年代以前は公営の食品企業に属してきたため、農業部門との連携がとれておらず、経済の自由化以降は家畜の収集など、運営に多くの困難が生じている。

イ 民間のと畜場

ホーチミン市から東北に40キロほど離れたビエンホワ市にある民間と場の入り口である。と畜は早朝に行われる。


 

 民間のと畜場での豚のと畜は増加しつつあり、養豚の商業化において重要な役割を担っている。各都市には建設に数億ドン(1円=154.1ドン)を要したと畜場の所有者が複数おり、1日に100頭から700頭の豚を処理している。需要に合った供給を行うため、と畜場の所有者は、地方の豚を都市に運送するミドルマンと連携し、供給量を調節している。

ウ 未公認と畜場

 2003年5月時点の畜産当局の把握している国内の未公認と畜場は130となっているが実際には、未公認のと畜場が数千存在しているとされている。これらは、行政の管理下になく、一日当たり1〜2頭の豚と1頭の牛を処理する程度の小規模なものである。比較的大きなものとしては、一日当たり豚を20頭処理する規模のものが大都市にある。

(3)小売

 豚肉の小売は、多くの場合、野菜など他の食品を販売するマーケットの一角で対面販売されることが多いが、これらの場所に冷蔵施設はなく、当日にと畜したものを当日に販売する方式で、通常、ウェットマーケットと呼ばれている。このほか、路上で販売されることもある。仕入れの多くは、枝肉の形でと畜場から行う。しかし、近年は都市にスーパーマーケットも増加しており、冷凍のパック肉や加工品も販売されているが、生鮮品に比べて人気が低い。

(4) 輸出向けと畜場

 輸出向けと畜場は34カ所あり、家畜(主に豚)はと畜され、冷凍される。全製品は輸出され、国内に仕向けられることはない。これらの製品は、(1)サッカリングピッグ:乳離れしない子豚(以下「ほ乳豚」という)(2)ミディアムピッグ:中型の豚(以下「中型豚」という)(3)枝肉である。また、輸出向けと畜場の配置は計画的に配置されたものではなく、地理的に偏りがある。

 主要なと畜場は次の22カ所であるあるが、これらの県はタンホア(Thanh hoa)県を除いて紅河デルタに位置している。

 ハイホン(Hai Phong)市 8カ所

 タイビン(Thai Binh)県 6

 ハイドング(Hai Duong)県 3

 ナムディン(Nam Dinh)県 2

 タンホア(Thanh hoa)県 2

 ハタイ(Ha Tay)県 1

 これらのプラントは1地域に集中しており、原料の供給が不十分なことから雇用者の労働力を十分に活用できていない。

 34と畜場施設のうち、香港、マレーシア、ロシアの政府から輸出許可を得ているのは次のとおりである。

 これらのうちの5カ所のプラントはハイホン(Hai Phong)市にある。これらのいくつは食肉が主たる製品ではなく、果実や野菜のような農産品の加工を行っている。これらの施設の年間の製造能力は7〜8万トンであるが、輸出が低調なため、過剰設備となっている。

 
路上での食肉販売風景である。建物の入り口で販売している。
ウェットマーケットの食肉販売風景。    

 
スーパーマーケットの陳列棚である。冷凍品が他の食品とともに置かれている。 ハイフォン市にあるVIENALIVESCO傘下のHaihoing Food Processing Plant For Export社の処理場の外観。

表15.香港、マレーシア、ロシア向け輸出認証工場

 
原料豚の貯留場である。中型豚製品の原料となる。 輸出用枝肉の検査風景。

輸出用ほ乳豚の検査及び梱包風景である。この製品は主に香港に輸出され、丸焼き料理として供される。

(4)豚肉価格

(1) 生体価格

 2003年における月別生体価格は、北部において10,500〜15,000ドン(76円〜108円:1円=138.8ドン(2003年の平均))で、南部は11,000〜17,000ドン(79円〜122円)となっており、南部のほうが高い。同年の南北の所得の比較でも南部が高くなっており、消費者の豚肉に対する購入意欲に反映しているものと考えられる。

 また、月別の価格の推移を見ると旧正月がある年初の価格が高くなっており、南部でその傾向がより強い。

表16.月別豚生体価格の推移(2003年)
資料:MARD

(2) 小売価格

 ホーチミン市内ベンタン市場の場合

 当市場は、ベトナム南部の経済の中心であるホーチミン市の主要市場の一つである。2005年1月13日現在、この市場のウェットマーケットに提示されていた豚肉価格は、1キログラム当たり、(1)赤肉4万3千ドン(279円)、(2)もも(ハム)3万8千ドン(247円)、(3)ばら(ベリー)3万5千ドン(227円)、(4)脂肪1万3千ドン(84円)であった。また、(5)牛肉(ヒレ)11万ドン(713円)、(6)鶏(中抜き)5万ドン(324円)、(7)アヒル(中抜き)3万ドン(195円)であった。

(5)輸出

 国家計画では、畜産物の輸出拡大をうたっているが、豚肉の近年における輸出量は、2001年の2万3千トンをピークに2003年には9千トン台に落ち込んでいる。理由の一つに国内消費の増加があるが、輸出用豚の集荷の問題、加工施設の老朽化など、課題が多いほか、他の豚肉輸出国と比較して豚肉価格が高いことが大きな原因となっている。輸出相手国もロシア、香港そしてマレーシアと固定しており、輸出形態も枝肉が中心である。また、ラオスや中国にも輸出されているとされているが、統計上計上されていない。また、口蹄疫という家畜疾病の問題も現存しており、有望な消費国である日本などに輸出が出来ない状態にある。

表17.ベトナムの国別豚肉輸出量の推移
資料:ベトナム貿易省

表18.ベトナムの国別豚肉輸出価格の推移
資料:ベトナム貿易省

表19.(参考)枝肉価格の比較

5 おわりに

 ベトナムの養豚はドイモイ政策によって以前の計画経済から市場経済産に移行したことを背景に近年大きく伸びてきた。ベトナムにおける豚肉の需給をみると、近年における輸出数量は生産量の2%以下と低く、国内生産はほぼ国内で消費されている。生産は在来種と外国種の交配により歩留を向上させるとともに、外資の導入を中心に飼料生産も増加している。1999年から2003年の生産量の伸びは年平均7%以上を示しているが、国内消費でそれを吸収していることとなる。好調な消費の背景には年平均7%前後の経済成長による所得の向上があり、枝肉価格も他の輸出国に比べて高い水準にある。

 一方、流通においては、ミドルマンと呼ばれる仲介業者が存在し、生産者と市場との間で情報と輸送手段を保有することで利益を得ている。生産された豚は彼らの手を経てと畜され、多くはウェットマーケットで販売され消費される。

 全国的なコールドチェーンの成立や食肉店や家庭への冷蔵庫の普及など、食肉の形態で遠距離を流通させるためにはその前提となる条件が満たされなければならないが、これには時間を要するため、今後、当分の間はウェットマーケットなどを中心とした生鮮肉の形態でのこれまで同様の流通が継続するものと考えられる。このため、今後、WTOの加盟などにより市場開放が進んでも冷凍などの輸入品が急速に普及する基盤を欠いているといえる。

 政府の方針としては、生産と輸出の拡大としているが、養豚経営上の経費の多くは飼料費であり、主たる飼料原料のトウモロコシと大豆かすに関しては輸入が増加している状況となっている。このため、外資の代表的な飼料企業が養豚や養鶏部門を所有し有利な経営を追求している。これら企業の国内におけると畜場の運営は一般的でないが、今後は食肉製品までの一貫した生産を行う企業が出現し、中間マージンを廃して、大幅なコスト削減が実現される可能性がある。

 好調な消費の下で、豚肉価格が高くならざるを得ず、輸出の伸びない理由の一つとなっているが、これまでの輸出品目は、ほ乳豚、中型豚そして枝肉の3種類であり、永年それを継続してきた。いわば、製品に合わせた市場に向けて輸出してきたものと言える。他の輸出国が相手に合わせて市場開拓を行って来たのとは異なる。

 いずれにせよ、今後、生産が順調に拡大すれば、国内需要が満たされた上で、価格が国際競争に耐え得る水準に低下し、本格的に輸出市場に参加してくるものと考えられるが、それにはもうしばらく時間を要するものと思われる。

 最後に、今回のレポートを作成するに当たり、資料を含み貴重な情報を提供して頂いたJICA人工授精向上プロジェクトの下平乙夫チーフアドバイサー、また、VIENALIVESCOを始めその関連企業、種豚会社、飼料会社、と畜場、農家など、協力頂いた訪問先の方々にこの場を借りて御礼申し上げます。

参考文献等

1 Strategies-Plans-Programs of Vietnam Socio-Economic Development to The Year 2010 (Statistical Publishing House)

2 Statistical Yearbook 2003(Statistical Publishing House)

3 Livestock and Products Production Update 2004-Vietnam(FAS online)  

4 Vietnam Grain and Feed Wheat and Corn Update 2003(FAS USDA)

5 小林 誠(1998)ヴィエトナムの畜産事情モ、畜産技術 3月号、(社)畜産技術協会

6 ヴェトナム畜産現地調査報告書(畜産技術協力推進事業・平成8年度)(社)畜産技術協会

7 平成10年度畜産現地調査報告書(ベトナム)(社)畜産技術協会

8 平成5年度海外畜産事情調査研究報告書−ヴェトナム−(社)国際農林業協力協会

9 ヴエトナムの農業−原状と開発の課題−(社)国際農林業協力協会


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