特別レポート

インドネシアの養牛産業

シンガポール駐在員事務所
木田 秀一郎、 斎藤 孝宏、 林 義隆

1 はじめに

 インドネシアはアセアン諸国中最大の2億1,800万人(2004年)の人口を擁し、牛飼養頭数も最大である。1891年のオランダからの乳用牛導入に始まる長い歴史を持つインドネシア酪農・乳業と、近年の需要の高まりを受けて牛肉需要が伸びつつある肉用牛産業は、それぞれに特徴的な発展を遂げているが、97年に発生したアジア金融危機と、その後の社会情勢の変化によりこれらの経営を取り巻く環境はともに大きく変革しつつある。ここでは巨大市場としての将来が期待される当国の養牛産業を肉牛産業と酪農、乳業の大きく2つのパートに分けて、それぞれの現状と政府の振興策について概観し、同国におけるこの分野の今後の動向を測る基礎資料としたい。

 

2 肉用牛

1 肉用牛飼養

1.1 肉牛関連振興政策
1.1.1 肉用牛振興政策

現状認識:インドネシア農業省畜産総局(DGLS)は同国の肉用牛振興について下記の現状認識をしている。
(1)牛肉供給は国内需要を満たしておらず、2005年の国内牛肉生産量27万2千トンに対し需要量は37万9千トンで、自給率はおよそ72%となっている。従来、不足分は生体牛や冷凍牛肉として海外からの輸入に頼ってきた。
(2)養牛産業における自然資源の活用は不十分であり、多くの農業副産物の利用が期待されるほか、在来種であるバリ牛、マドゥラ、オンゴ−ルなどはその気候適応能力から肉用牛としての振興が期待される。
(3)肉用牛生産振興の点では現在、大口資本投資に関し魅力的な市場とは言えない。
(4)小規模生産者の平均飼養頭数(1戸当たり3〜4頭)は経営規模が小さく効率的でない。

目標:これらの現状に鑑み、DGLSは国内肉牛飼養頭数の増加と肉用牛生産・食肉加工分野の生産性の向上を図るため、以下の目標を掲げている。
(1)品質・供給量の両面で国内自給を達成する
(2)小規模肉牛飼養者の収入増を図る
(3)畜産を基盤とする農業ビジネスにより雇用機会の創出を図る
(4)地場資源の持続的な活用を図る

計画:また政府は、これらの目標を達成するため以下の3計画とそれに付随する以下の対策を実施することとしている。
(1)肉用牛飼養の企業(大規模)化推進計画
(2)食品安全性確保と安定供給計画
(3)貧困削減計画
(1)技術研修などによる人的資源開拓
(2)生産性向上のため在来種(バリ牛、マドゥラ、オンゴール)を選抜改良する
(3)人工授精による子牛作出を推進する
(4)インドネシア東部地域(バリ島、スラウェシ島、ヌサテンガラ地域)を中心として在来肉用牛生産振興を図る
(5)肉牛飼養農家に対し農業省規則による生産農場段階での家畜衛生や飼養管理の向上のための達成基準などを定めた「Good Beef Cattle Farming Practices」の普及を図る
(6)飼料生産・給与技術の改良普及を行う
(7)肉用牛生産から流通・加工に携わる全行程の円滑な協力体制を構築する
(8)生産協同組合や各種生産者団体の機能強化を援助する
(9)インテグレーション経営「Integrated Farming System」の紹介と普及を推進する
(10)繁殖用途に供することが可能な雌牛のと畜制限を行う
(11)へい死などによる損耗を低減するためワクチン接種をはじめ獣医衛生機能の向上を図る
(12)小規模生産者を対象とした低利融資を提供する
(13)関連政策の整備を推進する

 DGLSは2010年までの牛肉需給見込として表1のように予測している。これによると、2006年および2007年に繁殖雌牛を500頭ずつ導入を予定するほか、生体牛の輸入を拡大することと併せて国内での繁殖による増頭を計画している。2010年の牛肉自給率97.8%、目標飼養頭数は1,671万頭。毎年の肉用牛増頭目標をおおよそ5%と設定している。ただし、2005年現在で既に肉用牛頭数はこの計画を下回っており、実際にはさまざまな困難が予想される。

表1:2010年までの牛肉需給予測(2005年当初現在作成)

 なお、近年の豪州などからの肉用牛導入頭数と冷凍牛肉などの輸入状況を以下に示す。

図1:肥育用肉用牛輸入頭数(1991-2005)

図2:繁殖用肉用牛輸入頭数(2001-2005)

図3:牛肉などの輸入量(2000-2004)

 このほか、2009年までの農業就労人口目標として4,450万人、うち畜産部門は13%を占める580万人としている。なお、2005年現在の畜産部門就労人口はおよそ430万人とされる。

1.1.2 AIサービス、遺伝改良

 能力の高い種畜を主に肉用牛が飼養される地域に供給するため、国立種畜場が各地に設けられ、種畜供給の任に当たっている。主な種畜センターは西スマトラ州Mangatas種畜場、南スマトラ州Sembawa種畜場、南カリマンタン州Pelaihari種畜場、西ヌサテンガラ州Serading種畜場のほか、バリ島にはバリ牛供給を目的とした種畜場がある。

 従来AIセンターは国立のレンバンAIセンター(西ジャワ州)およびシンゴサリAIセンター(東ジャワ州)の2カ所のみで生産した凍結精液を全国に供給していたが、2002年以降国家的に地方分権化が叫ばれるようになり、その影響から8つの州では独自の州立AIセンターを運営することとなっている。DGLSの整理としては、国立AIセンターは後代検定済みの種畜(乳牛)や登録牛など血統能力が明らかな輸入種雄牛や自場で後代検定を実施した選抜牛から凍結精液を生産し、州立AIセンターは新鮮精液で特にその地域で望まれる在来種を中心とした種畜の精液を供給することとされているものの、実際には各州で独自に凍結精液の生産が行われている。また国、州政府とも種畜の選抜基準や改良方針に明確性を欠くほか、未配布精液在庫が多く、各場所の連絡調整体制は必ずしも円滑ではない。

表2:凍結精液生産および配布本数(2001-2004)

表3:人工授精実施計画および実績(1999-2003)

(西ジャワ州:レンバンAIセンター)

 1976年、ニュージーランド(NZ)の援助で設立された国立AIセンター。敷地面積8ヘクタール、スタッフ総数68人、総飼養種雄牛頭数58頭、8品種(ブラーマン、アンガス、リムジン、シンメンタール、ホルスタイン(HF)、オンゴール、ブランガス、水牛“Belang”)。1頭当たり週2回採精、生産量は1万本/日。肉用種牛は豪州の品種登録牛を輸入。乳牛は豪州からホルスタイン(後代検定済)を導入。ただし、独自の種雄牛選抜・改良方針は持たない。2005年度(会計年度は暦年と同じ)総予算は精液販売実績58万本(@6,000ルピア(84円:100ルピア=1.4円))の34億8千万ルピア(4千9百万円)に加え政府補助金。


レンバンAIセンター

(東ジャワ州:シンゴサリAIセンター)

 1976年、スラバヤにベルギーの援助でAIラボが設立され、1982年に現在のシンゴサリに移転した。1986年からは現国際協力機構(JICA)の援助により乳用牛後代検定を開始、現在第5回検定実施中。1996年以降は専門技術者養成のための国内技術研修を開始(研修生受入実績5千人以上、年間10〜12講座開催。最小5人から)。標高800〜1200メートルの冷涼な傾斜地に立地し気温16〜22度、年間降水量2,233mm、総敷地面積67.72ヘクタール。うち草地はおよそ30ヘクタール。主な植栽はエレファントグラス、デントコーン、スターグラスなど。デントコーンのみサイレージ生産(350トン)を行う。スタッフ総数83名、種雄牛総数85頭。2005年の凍結精液生産本数1,634,000本、在庫632,178本。採精は週5日。種雄牛9品種のほか、近年はヤギ、観賞魚の採精も開始。

 場内の凍結精液生産施設で生産された精液は国内承認(KAN:国家承認委員会)を行う。1日1万2千本生産される精液は品種ごとにストローが色分けされる。ここで生産された精液は州政府へ無償供与されるほか、一般への販売を行い販売収益は運営予算として総予算の47%分が還元される。

 乳用牛後代検定は第2回まではJICA援助による。第1,2回で優秀な成績を収めた牛(Elite bullsと呼称)はNusantaraおよびSubaru。第3回以降はインドネシア独自の検定事業として継続されており、第3回のエリートブルはStarry SSとChelsy Utomo。平均泌乳量はそれぞれ14.4リットル、13.6リットル。一般乳用牛精液6千ルピア(84円)に対し後代検定済みは3米ドルと高額。

 なお第4回検定結果は未開示。改良目標としては305日搾乳で4,500リットルを最低ラインとし、少なくとも5,000リットルを達成したいとしている。

 肉用牛の改良としては産肉能力検査を行っており、東ジャワ州ではAI産子のブラーマンの検査、バリ島ではバリ牛の検査を当場が主体となって行った。

 現在当場で飼養される受精卵移植(ET)による産子はET産子を専門に生産する西ジャワ州Ciperangの牧場から生後5カ月の時に昨年11月に転送されてきたもので、品種はアンガス。

 今後の精液生産、配布方針として、ニーズにあった品種の供給とされ、地域によって好まれる品種が異なるため幅広に対応したいとしている。

表4:シンゴサリAIセンターで実施された後代検定結果(第3回)


シンゴサリAIセンター

 

1.1.3 と畜の現状と関連政策

 インドネシア全体では反すう家畜用公認と畜場が764か所有り、規模毎にタイプA〜Cに分類されている。
タイプA:処理能力100頭以上/日(5件)
タイプB:処理能力50〜100頭/日(35件)
タイプC:処理能力5〜10頭/日(724件)

 と畜場の運営に関する規則は1986年に制定され、その後92年に改正されている。この規則で規定される内容はと体の分割方法、食肉および副産物の取扱、施設・用具の基準、廃水処理方法、食肉などの輸送方法など。また政府はこの規則のほかに、ムスリムのための食肉処理方法を規定するハラルに関する基準(ASUH)を満たす必要がある。

 2002年頃からインドネシア政府は海外からの融資によると畜場の近代化を図り、この計画により全国に前述タイプA規模のと畜施設が10施設建設されたものの、現在の稼働率10〜30%がうち7件、残りの3件の内訳として北スラウェシ州のと畜場が5〜6%、アチェ州が1〜3%、南スラウェシ州は完全に機能を停止している。DGLSの説明によると、と畜業者は現在の仕事の仕方や、業者間の役割分担などの点で極めて保守的であり、既得権益を侵されることを嫌っていることなどが低稼働率の主な原因であるとしている。一方、公認と畜場以外の場所で非合法にと畜されるケースもあとを絶たず、そのシェアも無視できない規模であるため、州政府段階ではこれら非合法と畜場におけると畜実績予測を半ば公然と統計資料に取りまとめるものもある。


南スラウェシ州Gowaと畜場

 政府によると畜またはと畜場に関する法令は以下の4つで、ここではと畜に供される家畜の健康状態検査に関する規定、と畜場承認に関する規定、繁殖能力のある雌牛のと畜制限などに関する規定が盛られている。
・Staatblad no.6 Mark 2 Year 1936 (Dutch colonization)
・Government Legislation No.6 Year 1967 about livestock and animal health
・The regulation of Ministry of Agriculture and ministry of Domestic Affair No.18 Year 1979
・Government regulation No.22 Year 1983 about Veterinary Public Health

表5:肉用牛飼養頭数およびと畜頭数


 *2005年は速報値

1.1.4 インフラ整備関連政策

 肉用牛生産関連のインフラ整備としては前述の公設と畜場のほか、公営家畜市場の整備やAIセンターの運営が挙げられる。現在、食肉センター(Meat Business Center: MBC)構想があり、地域の公設と畜場を中心に関連インフラの拠点を設け、この管理を州政府に委任し、同時に輸入牛肉の検査機能などを担わせることにより食肉生産・流通段階における衛生環境の向上、と畜の制限されている繁殖雌牛がと畜されないよう監視するなど牛肉生産における多面的なサポート機能を有する機関の設立が期待されている。

1.1.5 環境保全対策

 現在、政府直営による有機肥料生産やバイオガスプラント施設は無く、実証展示などによる技術の紹介にとどまる。大規模経営では独自にたい肥化処理やほ場還元、たい肥製品の販売などを行う例が見られる。小規模飼養者のグループでは共同利用たい肥舎が散見され、これらによって生産されたたい肥は水田や野菜畑、そのほか作物の肥料として還元される。

1.1.6 農業副産物など粗飼料利用の現状

 粗飼料として飼料専用草種ではキンググラスやエレファントグラスの植栽が盛んなほか、中央および東ジャワ州では、乾期、トウモロコシの茎葉部分の飼料利用が盛んである一方、西ジャワ州では稲わらの利用が盛んであることが特徴的。主要稲作地域と肉牛飼養が盛んな地域は一致する。このほか、同国では落花生、サツマイモ、キャッサバなどの茎葉、もみ殻、フスマ、PKC(パームオイル製造の際生じる副産物)、ココナツなどが飼料として利用される。

表6:農業副産物推定量

表7:トウモロコシ茎葉概算生産量

表8:プランテーション作物生産状況

 同国最大の市場であるジャカルタを間近に抱え、広大な土地に恵まれるスマトラ島最南端のランプン州、その隣のベンクル州には大規模フィードロット農場が多数存在し、それらのうちの幾つかではプランテーション作物との複合経営による副産物利用も見られる。ランプン州の有名なフィードロットとしては同国最大規模のSantosa Agrindoグループ、次いでGreat Giant Livestockグループなど。(各社の詳細は2.2.1参照)

(ランプン州:複合フィードロット経営事例)「Great Giant Livestock Corporation(GGLC)」

 グレートジャイアントグループは,パイナップルプランテーションをメインにその他プランテーション作物(キャッサバ、バナナ)、畜産の複合大規模農場。総敷地面積3万ヘクタール、従業員150人で、管理職はおよそ40人。養牛部門担当は75人。出身は多くがマルク、タンジョンガラン。電力供給に問題があるため自社で石炭発電プラントを設置するとしている。生産された作物および加工品は海外48カ国へ輸出される。主要作物であるパイナップルの副産物(皮)の平均的な品質は原物中のTDN68%、CP(粗たんぱく質)4.5%、繊維30%、ME(代謝エネルギー)2.6Mcal/キログラム。ただし輸出用としてはパイナップル皮のみで、キャッサバ粕はすべて自家飼料として使用している。

 世界にはパイナップル生産大手としてベルモンテをはじめとする有名3社があるが、1カ所での面積としては当場が世界最大とのこと。併設加工場でキャッサバ粉、パイナップル缶詰などを製造している関係上これらの副産物が豊富に調達でき、飼料としての有効利用を目的に1984年の操業開始から2年後の1986年、畜産部門を立ち上げた。


ランプン州GGLC社

 飼料は農業副産物、発生するたい肥はほ場へ還元する完全リサイクル型複合経営を目指す。生果生産量は日産2千トン、副産物としてパイナップル皮だけで1日400トンを産出する。なおパイナップル皮はPH3.2〜4.2と強い酸性のため土壌還元が困難であるのも理由のひとつ。牛への給与の際はルーメンアシドーシス防止のため濃厚飼料にカルシウムを添加することでPHを6以上に調整する。パイナップル皮給与割合は50.7%。そのほかの配合飼料原料としては大豆粕(主に米国産)、パームカーネル、パームココナツ、破砕米など。大豆粕以外の原料は州内で調達。


パイナップルサイレージ

 パイナップルは半年に1回収穫される。またパイナップル用のサイロが場内に6基×2カ所、容積合計7千トン。およそ1週間で発酵完了。粗飼料としてタイワングラスを25ヘクタール植栽している。収量はヘクタール当たり45トン、40日に1回収穫可能。

 牛舎は7棟×2カ所で、総飼養頭数から換算すると1棟当たり500頭〜700頭。

 アジア金融危機以前の97年には総飼養頭数1万頭を超えたものの、2005年現在の飼養頭数は9千頭。大部分は豪州からの生体導入である(なお、導入牛が妊娠していた場合、隔離飼養し、出産後4カ月で子牛を売却する)。導入された肥育素牛は3カ月程度肥育された後、生体のままジャワ島へフェリー(所要時間およそ2時間)で出荷される。現在州内の牛肉流通状況としては、と畜実績が40頭/日程度で、流通の7割程度はウェットマーケットによる。


パイナップルプランテーション


(契約農家システム)

 GGLC社では近隣の小規模飼養者との間で契約農場システムが行われている。

 このシステムに参加する個人農家は素牛購入資金として銀行の融資を受けることができ、以前の利率は年15%(うち6%は中央政府の補助金で賄われ、農家負担は9%となっていた)、2005年8月現在の変更後利率は18%で、政府による補助率に変化がないので農家負担は12%に上昇している(1.1.8参照)。同社資料によると、2005年現在の融資利用契約農家数は2,168戸、5,921頭で、自己資金の契約農家は255戸、1,379頭となっている。融資プログラムは年ごとに変遷している。
1994〜1995年:KKPA融資計画(インドネシア協同組合銀行「BUKOPIN」)により総額40億ルピア(5千6百万円)の融資提供が行われた。
1996〜1997年:利益共有計画(SLV)により総額27億8千万ルピア(3千9百万円)の融資が行われた。
2001〜2005年:食料安全融資計画(KKP)(Niaga銀行)により総額588億8千万ルピア(8億2千4百万円)の融資が行われた。

 システムの概要としては、GGLC社により一括輸入された豪州産肥育素牛がいったん同社の牛舎に輸送され、2週間の検疫期間後、個別農家へ輸送される。農家は3カ月間肥育の後、GGLC社へ牛を再販売、GGLC社はジャカルタなどへ販売する、というもの。契約農家は同社で生産される配合飼料の提供(有償)を受けるほか、同社の技術普及員による飼養管理技術のアドバイスを受ける。


GGLC社契約農家

図4:GGLC社契約農家システムフローチャート

 この契約農家システムには州内6郡、60カ村が関与し、97年にはベストパートナー賞(The Best Prize for Partnership)、2003年にはSatyalancana Pembangunan賞を受賞している。

 同社は今後の展望として以下の計画を実施するとしている。

(1)肥育+繁殖プログラム計画

 同社は豪州への素牛依存の状態を改善するため、繁殖による増頭を計画しており、運用のための政策的補助を政府に要望中。計画の概要としては家畜運搬車の平均的許容量である9頭を1セットとし、うち7頭を肥育牛、2頭を繁殖牛として各契約農家に配分し、配分された2頭の繁殖牛により後継牛を育成するというもの。3年以内に各農家が自立経営に移行することを目指している。

(2)農家グループによる小規模飼料生産計画

 農業副産物を利用した小規模飼料生産施設を農家グループ単位で運営し、中核企業(GGLC)への依存からの脱却を目指す。


(ランプン州:肉牛生産者組合の事例)
「同GGLC社契約農家(Mr. Jano)」

 GGLC社契約農家はそれぞれ肉牛飼養組合(ブラーマン農家組合)に加入しており、全体で7組合、この農場主の所属する組合は組合員数150人で、飼料購入、家畜運搬、マーケティングなどの面で協力する。

 当地域におけるKUD(村落単位の協同組合)の活動と加入の有無については、ジャワ地域ではKUDが上手く機能していると言うが、当州では成功した例が少なく、農家の感覚的にはGLCC社がけん引する肉牛飼養組合に加入する方がよいと考えているとのこと。組合の具体的な活動内容は月1回のミーティングによる勉強会、メンバーへの融資のための基金の積立など。(農家1戸当たりの銀行融資の上限は1,500万ルピア(21万円)で、DGLSはこれを5千万ルピア(70万円)まで引き上げるよう現在要望中。5年前、1農家グループ当たり3億ルピア(420万円)の政府による補助金が支給された。)

 当牧場の飼養頭数は50頭、営農開始から2年半と経験が浅く、以前はトウモロコシと米作で営農していたという。現在は自己所有農地1ヘクタールにタイワングラスを作付け、1日1頭当たり給与飼料は濃厚飼料5キログラム、粗飼料6キログラム、パイナップルサイレージ20キログラム。飼養畜種はリムジン、オンゴール、シンメンタール、ブラーマンクロスホルスタインなどさまざま。


1.1.7 家畜疾病対策

 2005年の家畜疾病対策としては炭疽病やブルセラ病などの対策としてワクチン接種と獣医師や畜産技術者による治療サービスなどが重点的に行われた。インドネシアには次の獣医療関連施設がある。
(1)獣医薬品検査所 1カ所
(2)中央獣医学研究所 1カ所
(3)州立獣医学研究所 7カ所
(4)獣医試験所 90カ所
(5)家畜保健駐在所 458カ所

 (2)の中央獣医学研究所はDGLS所管で動物用ワクチンや獣医薬品の製造を行う。ワクチンなどを製造する国内の民間製薬企業としてはVaksindo社、Medion社、Sanbe Farma社など。

表9:家畜疾病発生状況(2003-2004)

1.1.8 政府系融資の現状

 中央政府などによる小規模生産者向け低利融資として代表例を下記に示す。

・食料安全融資計画(Kredit Ketahanan Pangan: KKP)

 政府による小規模農業者向けの低利融資制度は現在、食料安全金融計画(KKP)に基づく融資が提供されており、その融資額上限は1件当たり1,500万ルピア(21万円)で償還期限2年とされ、利率は社会情勢の変化の影響で頻繁に変動するが最近の利率は年利20%。これから中央政府による利率補助金6%が差し引かれ、末端の負担は年利14%となっている。この融資を利用するためには債務保証人を立てる必要があり、バリ州や西ジャワ州の多くの肉用牛農家は牛肉取扱業者や大規模フィードロットと契約しこれらを保証人とすることで前述ランプン州の事例のようにKKPの融資を利用している。

 KKPによる融資対象は肉牛経営のみではないが、その多くは肉牛経営で利用されている。酪農の場合、酪農協が保証人を必要としない低利融資を提供しているため、多くの酪農家は酪農協が提供する融資を実態として利用している。

(バリ州:KKP活用事例)「Dwi Upaya Sukses International Trading(DUS)」

 バリ州デンパサール市のDUS社はPelaga村の肉牛農家グループのメンバーが融資を受ける際の保証(法)人で、このグループはバリ島で振興されているバリ牛の繁殖・肥育のほか、果実(オレンジ)、牧草の栽培を行う。グループのメンバーはDUS社から素牛(60%繁殖、40%肥育用)を購入し、肥育終了後同社に売り戻す。DUS社は農家グループに対し飼養管理に関する技術指導と獣医サービス、濃厚飼料の取扱などのほか、政府の繁殖雌牛と畜制限を担保するため、同社は州政府の指導の下に繁殖用雌牛(子牛)の管理売買を行う。


バリ州肉牛農家グループ牛舎

・州政府による村落直接融資モデル

 農業省は州政府畜産局に割り当てられた地方分権化基金を財源とする農家グループへの直接融資支給モデル計画を立ち上げている。2年償還の無利子融資で、農家グループは運営計画を作成の上、州政府畜産局に申請を行い、州政府により承認された場合、州立銀行などを介して融資の提供を受けることが出来る。

1.2 肉牛飼養経営の現状
1.2.1 流通

 同国における牛肉流通の概略は以下に示すフローチャートのとおり。多くの末端小規模生産者は別の生産者に生体で販売する。一例として、域内の消費量がわずかである一方、域外(州外または島外)への流通が多いと言われるバリ島の場合、末端生産者の7割は別の生産者へ牛を生体で販売し、2割は家畜商などの流通業者へ販売している。その他は別の生産者集団や直接消費者へ販売される。バリと同様に多くをカリマンタン島やジャワ島方面へ出荷する南スラウェシ州では生産者同士の販売が86%、1割程度は消費者への直売、その他2%程度は流通業者などへ販売されるとされる。

図5:牛肉流通フローチャート

1.2.2 州別草地利用実態

 地域別の特徴としては、牛舎内で飼養する集約的な経営はジャワ島およびバリ島で多く見られ、土地利用の制約上その多くは主要な飼料資源を農業副産物としている。スマトラ島では前述のようにプランテーション作物との複合経営形態が散見される。放牧地を利用する経営の多くはジャワ島以外のいわゆる外領部で見られ、その多くは早朝に放牧を開始し、午後過ぎに牛舎へ回収する。放牧を主体とする粗放的な経営の多くはヌサテンガラ地域やスラウェシ島、カリマンタン島などで見られ、これらの地域では個人もしくは集落の、共同放牧地の利用のほか、州政府による粗飼料の供給がなされる地域もある。

表10:家畜飼料として利用可能な農業副産物作付け面積

表11:家畜飼料として利用可能な土地利用実態

(南スラウェシ州:放牧地を利用した大規模経営事例)「Berdikari United Livestock(BUL)社」

 ヌサテンガラ地域から、西パプワ州に至る西部インドネシア地域への玄関口として重要な地の利を有する南スラウェシ州では、州政府畜産局による肉牛振興策が多く試みられてきた。

 同州で主に栽培される作物は水稲のほか、近年はトウモロコシの栽培が盛んになっている。同州の北部(スラウェシ島中央部)は山岳地帯となっており冷涼な気候と豊富な草地資源に恵まれる。南部の主要港であり州都のウジュンパダン(旧名マカサル)から車で北へおよそ6時間、Sirdap郡に位置する当牧場は1971年に政府直営牧場として飼養頭数およそ1千頭から操業を開始した。主要業務内容としては豪州から輸入される肉用牛の肥育のほか自場での繁殖、近隣農業者への実証展示・研修機能も有する。2005年11月現在の飼養頭数は5,492頭、飼養品種は主にブラーマンなど輸入牛4,709頭およびバリ牛783頭。(同州内で多く飼われる品種はバリ牛)スタッフは112人、120頭の収容能力を持つ牛舎が8棟、採草用のトラクター(マッセイファーガソン)3台、併設される濃厚飼料配合施設の生産能力は1日あたり7,500トンで、肥育牛に1日5キログラムを給与。原材料として米ぬか、フスマ、ココナツ粉、油脂などを使用。西ジャワ州バンドンのSanbe Farma社からの購入も一部ある。

 牧場の総面積は6,623ヘクタール、うち放牧地が3,000ヘクタール、採草地が200ヘクタールで主な草種はイネ科のBrachiaria decumben、King grass、Benggala、Imperata Cylindrica(チガヤ族)などを植栽。粗飼料不足分は稲わらを年間1,600トン、近隣の稲作農家から無償で回収している。


南スラウェシ州BUL社牛舎

 最近の繁殖用肉用牛の輸入は95年で、豪州から妊娠牛を800頭導入した。たい肥は近隣で生産が盛んな稲、カカオの生産農家に1キロ350ルピア(5円)で販売される。パッケージは1袋40キログラムで牧場車両を使い宅配サービスを行う。


BUL社放牧場

1.2.3 生産コスト内訳

 末端生産者の平均的な肥育牛販売収入は明らかではないが、一例として南スラウェシ州の生産者からの聞き取り結果を示すと2005年の、牛1頭の販売時の平均的な総利益は687,000ルピア(1万円)、燃料費や飼料費、獣医薬品費などの所要経費は1頭当たりおよそ387,000ルピア(5千円)で、純利益はおよそ300,000ルピア(4千円)程度とされる。生産者が子牛を導入する場合、価格はシンメンタールやリムジンなど外来種の交雑種の場合6カ月齢で150万ルピア(21万円)前後、在来種の場合およそ100万ルピア(1万4千円)と言われている。

 一方、下記に示す食糧安全局調査による家畜商の素牛買取価格を見ると1頭当たり190万〜330万ルピア(2万7千〜4万6千円)とされている。

表12-1:牛肉生産費構成の分析(ジャワ島各州)

表12-2:牛肉生産費構成の分析(ジャワ島以外の外領部)

 なお生体牛価格および牛肉価格の近年の推移を下記に示す。

表13:平均価格の推移

1.3 協同組合

 1.1.6の事例に見られるように、肉牛生産者が独自の協同組合を設立する例も見られるものの、多くの肉牛生産者は農業全体をカバーする村落協同組合(KUD)に属するかさらに下位の、生産者集団を形成するにとどまっているのが酪農の場合と大きく異なる点である。
「Colony Barn」:西ヌサテンガラ州、特にロンボク島で多く見られる農家グループによる共同経営形態にColony BarnもしくはColony Systemと呼ばれる事例が見られ、近年ではジャワ島のほか、バリ州、西スマトラ州、南カリマンタン州、ランプン州などで盛んに行われつつある。ロンボク島の事例ではは1カ所あたり300〜500頭、参加農家30〜50戸程度の規模のものが多いが、そのほかの地域では飼養総数100頭以下の小規模な事例が多い。

2 牛肉産業
2.1 需給動向
2.1.1 牛肉需給の現状 

 DGLSが公表する2005年畜産統計によると年間1人当たりの食肉全体の消費量は7.11キロで、過去の経緯で見ると通貨危機前の96年に最大の8.41キロとなって以降、99年の4.09キロまで落ち込んだ後近年は回復傾向を示している。地域ごとの消費動向を比較すると西ジャワ州およびジャカルタ特別市の合計が全国のおよそ37%、東ジャワ州で20%、中央ジャワ州15%、ジャワ島だけで全国の7割以上が集中している。全食肉に占める牛肉の割合はおよそ23%、同国で最大シェアを誇る食肉は鶏肉で55%。

図6:食肉消費構成

表14:牛肉消費動向(1997-2005)

2.1.2 価格動向

 牛肉等の小売価格(2006.2月)を以下に示す。

表15:牛肉および加工品小売価格

2.2 企業動向
2.2.1 主要フィードロット企業詳細

 現在同国のフィードロット経営は17社で、最大規模のSantosa Agrindo社は肥育牛2万5千頭の収容能力を持つ。これらの各社の多くは素牛を豪州から導入し、2〜3カ月肥育した後、生体で出荷する。1.1.6で示すような契約生産者を抱える大規模農場もあり、多くはランプン州やジャカルタ近郊各州など大消費地に隣接して立地している。

表16:主要フィードロット生産規模

2.2.2 主要加工業者

 同国の大手牛肉加工業者は6社で多くは海外の資本である。牛肉加工で最大シェアを持つのはNiki Foods社で、およそ4割を占める。次いでPurefood Suba Indah社がソーセージやミートボール製品で市場のおよそ1割を占める。Kemang Food Industries社は主にソーセージ加工で市場の9%程度とされる。これら6社以外にも多数の中小加工業者があり、それらの多くは当地でDendengと呼ばれる乾燥牛肉製品や薫製品、Abonと呼ばれる揚げ物などを生産しているとされるが、同国で好まれる消費形態はミートボールや新鮮肉とされる。

表17:大手牛肉加工業者一覧

 

3 乳用牛


1 乳用牛飼養

概況:1891年にオランダからホルスタイン種を導入以来同国はデンマーク、米国、豪州、NZなどから多くの乳用牛を輸入し、主にジャワ島各州の標高が高く冷涼な気候の地域で酪農が発展してきた。標高500メートルを超える冷涼な地域ではホルスタイン純粋種の飼養が盛んである一方、それ以下の低標高地域では耐暑性を高めるため交雑種が多く飼養される。全国の乳用牛飼養頭数に占めるジャワ島での飼養割合はおよそ7割となっている。

表18地域別乳用牛飼養状況(2001-2005)

 同国の主な酪農乳業関連組織は以下のとおり

政府:DGLSが酪農振興を主導する。酪農振興計画立案のほか育種改良、飼養管理の向上、品質基準の制定などを所管するとされている。

酪農協:インドネシア酪農協同組合連合(GKSI)を中心に傘下に多数の酪農協が所属する。集乳所の管理運営などインフラ整備や乳価決定交渉などの役割を担う。

地域酪農協:酪農が盛んな地域では地域酪農協は専門技術者や獣医師を専任職員に擁し、農協加入生産者に対する助言を提供する。中には乳製品加工場を運営するなど活動が多岐にわたるものも見られる。

乳製品加工場(Milk Processing Plant:MPP):民間企業の運営する乳業工場、乳製品工場。酪農協などから原料乳を調達し、必要に応じて乳質改善のための技術指導を行う。

技術研修機関:酪農家のための技術研修を目的にに政府により設立された研修機関

1.1 酪農関連振興政策
1.1.1 酪農振興政策

 現状認識:DGLSの酪農に関する現状認識は以下のとおり。また、DGLS乳牛担当者によると、同国の人口増加を年率5.5%とした場合の2009年までの需給観測は下表のとおり。

表19:酪農需給観測(2005-2009)

(1)高能力泌乳牛の不足
(2)知識や経験の不足から酪農家の生産性は低く、規模拡大のための融資を受けにくい。個別生産者の規模は零細で土地基盤に乏しく、また流通の問題から適正価格で生乳を販売することが困難
(3)飼料給与管理が適切ではない。飼料基盤の不足とともに、サイレージ生産や農業副産物の有効活用も一般的ではない
(4)栄養食品としての牛乳への理解が浅いことなどから、牛乳・乳製品の国内需要が低い
(5)牛乳生産・流通両面のインフラ整備が未発達
(6)乳用牛飼養技術、管理が必ずしも適切でない

目標:これらの現状に鑑み、DGLSは2005年から2009年までの酪農振興目標として下記を掲げている
(1)国内自給率向上のために量・品質両面での生乳生産拡大を図る
(2)酪農家の収益向上を図る
(3)酪農ビジネスにより雇用機会の創出を図る
(4)地場資源の持続的な活用を図る

具体的な達成目標:2009年までの具体的な数値目標などは下記のとおり
(1)消費量全体に占める国内生産生乳利用割合を50%とする
(2)国産生乳の乳質向上により国家生乳基準(SNI)を満たす生乳を現在の、生産量全体の12%から50%へ引き上げる
(3)酪農家収入を平均最低労働者賃金以上に引き上げる
(4)酪農関連業種への雇用を現在より2%拡大する
(5)乳肉兼用在来牛などの活用により生乳生産拡大を図る

生産目標
(1)搾乳牛頭数を年2%増頭
(2)1日当たり平均泌乳量を現在の10リットルから15リットルへ
(3)SNI最低基準達成率50%
(4)酪農技術改善(Good Farming Practices)への参加により技術、知識を向上

計画:また政府はこれらの目標を達成するため以下の2計画とそれに付随する以下の対策を実施することとしている。
(1) 小規模酪農向上計画
(2) 食品安全性確保と安定供給計画

(1)以下の条件を満たす特定酪農振興対象地域で技術研修の開催などにより酪農および関連産業に従事する者の能力向上対策を行う

(条件)
・地域内の乳用牛頭数が100頭以上であること
・地域内に20戸以上の酪農家が存在し、かつ生産者グループを組織していること。
・標高500メートル以上の地域では純粋種ホルスタインを飼養すること
・標高250〜500メートルの地域ではホルスタイン交雑種およびそのほかの品種を飼養すること
・標高250メートル以下の地域ではゼブ系交雑種(サヒワール、ヒサール)、乳用ヤギ、乳用水牛を飼養すること
・地方政府(州または郡)による酪農振興補助があること
・販売先(市場)が確保されること
・地域内で十分な粗飼料が確保できること
(2)生乳生産量増大のため、遺伝的能力向上を図り同時に在来畜種(水牛、ヤギ)を有効活用する
(3)外領部の酪農振興を図る(スマトラ、カリマンタン、スラウェシ、バリ)
(4)小規模酪農家の技術向上のため酪農技術改善(Good Farming Practices)への参加を推進する
(5)飼料給与・管理技術、繁殖技術、品質(乳質)改善のための研究開発を行う
(6)MPPとの協力により小学校の児童へのパスチャライズ乳の配布により牛乳消費拡大を図る
(7)生産から流通に至る関連諸機関の協力を円滑にする
(8)農家団体の育成強化を図る(酪農家グループ、酪農協/村落農業協同組合「KUD」)
(9)作物部門との複合経営事例の紹介と育成を図る(例:西ジャワ州スカブミおよびレンバンで見られるトウモロコシ−酪農複合事例など)
(10)小規模酪農家向けの銀行など金融機関による融資提供の道を開く。将来的には政府による酪農家向け低利融資の提供
(11)酪農振興のための関連法体系(国家品質基準など)の整備
(12)酪農関連事業における投資環境の改善

1.1.2 AIサービス、遺伝改良

 政府による種畜の能力向上計画、AIサービスの概要については肉用牛の1.1.2で示したとおり。近年の乳用牛に関する人工授精実施回数、およびAI実施対象牛は減少傾向で推移する一方、受胎率は向上が見られる。

表20:乳用牛人工授精実績

 DGLS担当者の説明によると1999〜2000年に施行された地方分権規則により、従来中央政府により行われていたAIサービスが地方政府に移管された影響が大きいとしている。(「地方自治規則」:UU.22, 1999 およびUU.25, 2000)

 現在乳用牛を対象とした人工授精師は1人当たり繁殖牛300〜600頭を担当するといわれ、1日当たり平均AI回数は3回とされる。
近年の主要な対策としては繁殖雌牛の更新、未経産牛の増頭による乳用牛能力向上計画が挙げられる。また調査研究機関では発情同期化処理やMOET(多排卵を伴う胚移植)育種法、性判別などに関する基礎研究が開始されている。

 国内乳用牛の能力向上のための取り組みとしてはそのほか、2002〜2003年の間に協同組合および中小企業振興省による2,174頭の未経産乳用牛の輸入があり、これらは西ジャワ州の酪農家グループに供給されたほか、2004年にはGKSIによって、レンバンAIセンターに高能力牛の普及のため凍結精液生産用の乳用種雄牛が10頭輸入された。またDGLSは2005年に200頭の乳用雌牛を輸入した。

(西ジャワ州:技術研修所事例)「チコレ酪農訓練所」

 当場は1952年に[Livestock Garden]として設立、その後.[Dairy Breeding & Develop-ment Center] と改名、2002年以降は地方分権化の流れの中で西ジャワ州所属となっている。

 スタッフ総数69人、2005年の総予算は16億6千万ルピア(2千3百万円)。(内訳:飼料費1,013百万ルピア(1千4百万円)、獣医薬品費64百万ルピア(89万6千円)、備品等265百万ルピア(371万円)、労賃265百万ルピア(371万円)活動内容としては酪農技術普及のための実証展示、研修業務のほか、遺伝資源の保存、粗飼料生産、パスチャライズ乳生産販売など。パスチャライズ乳製品はストロベリー、モカ、プレーンなどで、多くはフレーバー添加。販売生乳はパパイヤ、コスモなどの地元大手スーパーへ卸すほか、販売も行う。(パスチャライズ乳:プラカップ200ミリリットル/1,250ルピア(18円)、プラボトル500ミリリットル/2,500ルピア(35円))(非加熱乳:2,500ルピア(35円)/リットル、500ミリリットル単位で直売のほか3業者へ販売)2005年の生乳生産量は390トンで、うちパスチャライズ乳生産量は24トン、非加熱乳は310トン、残りは自場で飼養する子牛用。

 総敷地面積9.8ヘクタール、うち草地面積5.2ヘクタール。採草用の支場が約50キロメートル離れた場所に2カ所有り、それぞれ20ヘクタール、32ヘクタール。使用品種はスターグラスなど。

 搾乳牛の平均乳量は14リットル/日、1日当たり生乳生産850リットル/60頭。年間子牛生産頭数20頭、3月10日作成のマスタープランで今後40頭に増産予定。

 研修生受入実績は昨年度約1,500人で、主な研修内容は、(1)飼養管理、(2)生産性向上のための家畜衛生管理、(3)搾乳衛生、(4)粗飼料生産、加工技術─の4点。


チコレ酪農訓練所

1.1.3 インフラ整備関連政策

 政府による酪農関連インフラ整備は人工授精サービスステーション(AISS)および家畜衛生サービスステーション(AHSS)の設置運営で、これらのステーションでは他の畜種に対するサービスも同時に行われる。そのほか、集乳所、生乳搬送、保管冷却施設、乳業へ出荷する前の殺菌処理施設、濃厚飼料生産用ミキサーなどは酪農協が管理運営を行う。

1.1.4 環境保全対策

 環境保全対策を所管するのは地方政府および酪農協であるが、良好な対策が施されている農場はわずかで、一部の大手生産農場では廃液処理施設やコンポスト化施設を設置し、生産されたたい肥の販売を行っている。

(西ジャワ州:環境対策を備えた大規模酪農経営事例)「FajarTaurusDairy Farm」

 FajarTaurus牧場の設立は1966年、ジャカルタ市内で9頭から開始。74年ジャカルタから西ジャワ州スカブミへ移転。96年からは豪州から導入された乳用ヤギ(ザーネン種)の飼養も開始。ヤギは当初20頭、現在180頭。総敷地面積40ヘクタール、従業員100人(うちマネージメント担当はおよそ10%)。乳用牛はすべて純粋種ホルスタインで、総頭数650頭、西ジャワ州では最大の酪農場。なおインドネシアでは2番目の規模となる。最大はスラバヤから90キロメートル離れた場所にあるGreen Field酪農場で、飼養頭数1,500頭。70キロメートル離れたジャカルタ市内に系列乳業があり、「YUMMY」ブランドで大手スーパー「HERO」などへ卸している。子牛は生体重300キログラムを超えた時点でAI開始、平均初妊月齢は20カ月齢。飼料畑の植栽は主にエレファントグラス(32ヘクタール)。CP含有率14〜15%で、以前はレジウムやセスタリアなども試してみたとのこと。未経産牛にはキンググラス給与。搾乳牛にはエレファントグラス。周辺農家から飼料用トウモロコシを購入し乾期にはこれらを用いて生産したサイレージを給与。このほか、稲わらなども購入するがPKC(パームオイル副産物)、キャッサバかす、ココナツかすなど熱帯特有の農業副産物は基本的に使わない。購入粗飼料の平均価格は1キログラム60ルピア(1円)。乾期の粗飼料購入は全体の10%程度で、給与粗飼料は40キログラム/頭/日。サプリメントとしてプロテイン、ビタミン、ミネラルなど給与。衛生管理としては乳房炎検査(半年に1度)、外寄生虫駆除、ブルセラ、炭疽などについてはワクチンにより予防。AIについては3回行って受胎しなければ牧牛を使用することとしている。


西ジャワ州Fajar Taurus酪農場搾乳風景 

 搾乳は1日2回で午前1時30分、午後1時30分。原乳運搬はローリー車で1日1回7時に出発。加工工場ではチーズ、パス乳、ヨーグルト、Bio Kevir(発酵製品の1種)などを生産。1日当たり生産量は牛乳3,000リットル、ヤギ乳75リットル。平均乳量は1乳期3,500リットル、優秀なものだと5,000リットル程度。AI用精液は米国などからの輸入のほかシンゴサリやレンバンなど国内のAIセンターからも調達。牧場の標高はおよそ150メートル、年間平均気温は25〜28度。温度より湿度の高さが純粋ホルスタインに及ぼす影響が懸念されるとのこと。職員はボゴール大学(IPB)や中央ジャワトレーニングセンター、米国(カリフォルニア州)などで研修。将来的には1万頭を目指す。ここ6年、標準乳価が1,750ルピア(25円)/リットルで変動がないことが懸念材料。乳質検査はバルクタンク単位で行う。(TPC、TS、Fat%、SNF、Ph、など。)抗生剤の休薬期間は10日間一律を課す。細菌数は百万以下、平均的には50万以下。1日当たり生産生乳2千リットル、チーズ200キログラム。生体牛の導入は1990年にNZからの導入が最後。以前は豪州、米国などから導入。また、サヒワールとの交雑種の導入も25頭行ったものの、搾乳期間が短く1乳期当たりの乳量成績の低迷などから現在は新規導入などを廃し、20頭が現存する。飼養管理面ではクーリングのため牛体洗浄を1日2回、搾乳前に行う。平均305日乳期。近年の乳量成績の向上は主に飼養管理の改善と乳房炎コントロールが功を奏していること、フリーストール牛舎におがくずを敷き始めたことなどによるとのこと。今後は来年以降、NZから生体輸入を再開し規模拡大を図りたいとのこと。需給状況としては供給不足。生産の1%はドイツへ輸出(チーズなど)。


Fajar Taurus酪農場フリーストール 

 子牛の飼養管理に関しては飼養マニュアルを作成しており、生後2週間は生乳を給与、2週間から3カ月齢までは粉乳を溶いて使用。粉乳はオランダからの輸入品のほか、食品用で賞味期限切れ製品を給与。2週齢以降は濃厚飼料および粗飼料を給与。年間子牛生産頭数は約280頭、分娩時平均生体重は35キログラム。搾乳パーラーは6頭×4列、クラシック音楽などを聴かせることで搾乳量3〜5%上昇したとのこと。牛舎は搾乳牛用6棟、乾乳牛および子牛用が1棟、AIその他用が1棟。最新牛舎は築5年で、フリーストールバーン。この牛舎はカリフォルニアの牛舎を参考に、3億5千万ルピア(490万円)で建設。初妊牛や成績の良い牛を優先的に入れている。

 環境対策として汚水は一元的に調整池へ集約、調整池からポンプで吸い上げて草地へ還元。たい肥はコンポスト化処理を行い、一部袋詰めで販売。3千ルピア(42円)/4キログラム/袋。


Fajar Taurus酪農場たい肥処理場

コンポスト化したたい肥の販売

1.1.5 家畜疾病対策

 政府による家畜疾病対策の概要については肉用牛の1.1.7で示したとおり。乳用牛で問題となっている主な疾病は乳房炎とブルセラ病で、未だ手搾りによる搾乳が多い同国では乳房炎対策として家畜衛生担当者により乳房、乳頭の衛生管理や乾乳牛の飼養管理、搾乳時の衛生管理などについて巡回指導が行われる。巡回指導は全国に458カ所ある家畜衛生サービスステーションの職員がこれに当たる。ブルセラ病についてはワクチン接種により2006年内にジャワ島内の清浄化を目指している。

1.2  酪農経営の現状
1.2.1 流通

 およそ9万2千戸の酪農場(酪農協所属、2004)から生産された生乳は全国96カ所に存在する酪農協が運営する集乳所(MCC)へ集積され、乳業各社へ出荷されUHTやパスチャライズ乳、練乳、ヨーグルト、粉乳などに加工される。一部の製品は他のアセアン諸国などへ輸出される。一方、地域酪農協が集乳所に併設してパスチャライズ乳を生産する施設を運営している事例や前述チコレ研修センター、酪農協などで生乳を未処理のまま直売する例も見られる。以下に大手乳業が酪農協から集乳した、1日当たり平均原乳買取量(2005)を示す。

表21:大手乳業原乳買取量(2005)

 MCCでは簡単な乳質検査が行われ受入可能か拒否されるかが決定される。MCCと酪農協が保有する冷却保存施設は1時間以内に搬送できる距離(1〜20キロメートル)に設置されているほか、酪農協から乳業までの距離は200キロメートル以内を目安とされる。酪農協による生乳の品質管理としては、(1)搾乳後2時間以内に冷却(2−4℃)、(2)冷却後タンクローリーで乳業へ搬送、(3)乳質検査項目は全固形分、ph、比重、アルコールテスト、細菌数。

1.2.2 粗飼料利用の現状

 同国の多くの酪農家は3〜4頭の飼養規模で、0.2〜0.6ヘクタールの草地面積を持つ。ジャワ島の酪農場で多く飼養される草種はキンググラス、エレファントグラス。そのほか飼料木や農業副産物の利用など。生産者グループの中には共同利用草地を持つものもある。乾期に粗飼料が不足すると路肩や河川敷などの雑草を刈り取り給与する場合もある。現在技術研修所などではサイレージや乾草による飼料給与の実証展示もあるものの生産者段階では一般的ではない。伝統的な青草粗飼料を水に浸して給与する「Fluid mash feeding」も未だ一般的であり飼料効率を下げている。

1.2.3 生産者価格(原乳、子牛、未経産牛)動向

生乳販売価格

 酪農協に加入する酪農家の場合、生乳輸送費や冷却施設の維持管理費など酪農協が負担する諸経費に対し一定額を分担する必要があり、この農家負担額は酪農協の活動内容によって異なるが平均的には生乳1リットル当たり100〜200ルピア(1〜3円)が差し引かれることになる。

 また、乳業の生乳受入価格は乳質によりプレミアが付けられ、乳業ごとに若干の違いは見られるものの1リットル当たりおよそ1,600〜2,500ルピア(22〜35円)で引き取られる。従って生産者販売価格はこの価格から前述の酪農協経費を差し引き、およそ1,500〜2,100(21〜29円)ルピアとなる。2002年以降、乳業買取り生乳価格は固定されている。

表22:平均乳価の動向(1999-2004)

表23:乳業買い取り生乳価格の比較
(全固形分12%以上の場合)

子牛取引価格

 2006年1月の平均価格で見た場合、1週齢のヌレ子の場合1頭当たり130〜140万ルピア(1万8千〜2万円)で取引されている。3カ月例の場合250〜300万ルピア(3万5千〜4万2千円)程度とされる。

未経産牛取引価格

 酪農家が未経産牛を導入する場合、農家同士の相対取引か生体牛市場での購入となるが平均相場は1頭当たり550万ルピア(7万7千円)、妊娠している場合600〜700万ルピア(8万4千〜9万8千円)で取引される。

1.3 学乳制度

 同国の学乳プログラムは98年に教育省の主導により開始されたが、当初参加していた9社の乳業(ネスレ社、インドミルク社ほか)のうち現在も学乳に供給しているのは3社。対象地域は主要酪農地域であるジャワ島各州のほか、スマトラ島の西スマトラ州およびベンクル州。供給はロングライフの製品が週1回配布される。同国の学乳計画が掲げる目的は、(1)保健省が定める身体・健康基準に適合する児童の育成、(2)飲乳習慣の開発、(3)酪農振興政策の補助のため国産生乳の使用を促進する─の3点。ただし、当計画は極めて限定的であるためDGLSはほかの手段による消費拡大キャンペーンを模索している。同国の公務員には金曜日の朝にスポーツレクリエーションが課せられており、その際に牛乳を配布するなど。

1.4 協同組合
1.4.1 協同組合組織の概要

 2004年の全国酪農家戸数は92,616戸、うち99.9%に相当する92,526戸が酪農協に所属する酪農家とされている。なお酪農協に加入しないそのほかの90戸は乳業直営の農場など。

 同国における協同組合は農業全般をカバーするものがKUD(Koperasi Unit Desa)と一般的に呼ばれ、酪農協同組合は地域により、KUDの事業の一部に組み込まれているものと、KUDとは別組織として酪農専門農協(KPS)が存在する場合がある。

表24:インドネシア酪農協の動向

 酪農協の主な役割は集乳所から集められた生乳を乳業(MPP)へ運搬、販売するほかMPIとの乳価交渉、酪農家への融資提供、濃厚飼料や凍結精液の販売、獣医療サービスやそのほかの飼養技術向上のためのアドバイスを提供する。酪農の盛んなジャワ島高地などでは、一部の大規模酪農協は乳製品加工場を持ち、パスチャライズ乳やアイスクリームの生産が行われる例も見られる。

 個々の酪農協を束ねるインドネシア酪農協同組合連合(GKSI)は酪農協の統括のほか、一部政府酪農関連政策の業務委託を受けるなどの機能をもつが、ジャカルタのGKSI本部が所管する裁量権は年々地方事務所に移管される傾向にある。

 GKSIは乳価決定に際しイニシアチブを持つ大手乳業に対抗し生乳買取価格を改善するため、西ジャワ州バンドンや東ジャワ州スラバヤなどに直営乳業を建設し、パスチャライズ乳やヨーグルトなどの乳製品製造を開始した。一方、配合飼料を低価格で酪農家に供給するために飼料生産工場を建設した。

(西ジャワ州:乳業を併設する地方酪農協の事例)「KPSBU」

 北バンドン酪農専門農協(KPSBU)の所属農家グループは700、酪農家は5千戸。酪農協全体では1日120トンを集乳する。現在管内の1番の問題は粗飼料不足と低繁殖率、2番目が高能力なAI用の凍結精液不足であり、担当者は日本産精液の輸入を希望している。引き取った生乳の価格帯は1,700〜2,065ルピア(24〜29円)で、乳質検査項目はSNF、細菌数、抗生剤残留(陽性の場合はタンク単位で受入拒否、1キログラム当たり200ルピア(3円)の罰金が課せられる)、氷点検査で加水が認められた場合は1キログラム100ルピア(1円)罰金。所有タンクローリーは12台、各8トン容量で、ジャカルタへ出荷のため運搬するが片道5時間、往復10時間を要する。この際、経費節約のため高速道路を使わず一般道を輸送している。プレミアムとして全固形分11.3%以上の場合ボーナス支給。現在の平均乳価は1,890ルピア(26円)/リットルだが2006年の目標は2,000ルピア(28円)/リットル。

 現在、専任農家指導員が8人、将来的には15人まで増やすとし、現地指導のタイミングとしては農家グループの乳価が1,800ルピア(25円)を下回った時点、と規定している。農家指導のための巡回時間は搾乳の間隙である10時〜17時。

 西ジャワ州全体の乳牛専門獣医師は現在20名、酪農協所属は3名で、繁殖率向上などのため技術者の養成が喫緊の課題とされている。現在、インドネシア酪農獣医協会(Indonesia Dairy Veterinarianユs Association Board)を通じ、カナダ(CCA)やオランダ(HPA)の協会や国内の大学と、専門技術者の養成について財源負担など協力を呼びかけている。

 当酪農協のマネージャーによると、農協ごとに小規模加工施設を建設しても競合で共倒れになるので、地方酪農協を統合して大規模な乳業施設を建設することが民間大手との競合で生き残る方法であるとしている。


西ジャワ州KPSBU 


(西ジャワ州:酪農協(KPSBU)所属酪農場事例)「Omon Farm」

 Omon酪農場は1987年に4頭から酪農を開始。主人は現在74才で酪農専業、搾乳牛6頭、乾乳牛3頭など計18頭を飼養。なお8人の息子は近隣で全員酪農を営む。1日当たり搾乳量は70リットル、最寄りの集乳所までは20メートルと至便のため徒歩で運搬。現在乳価は1リットル当たり1,950ルピア(27円)。最も良い値段で2,000ルピア(28円)であったこともあるという。乳質検査は10人の農家グループごとの集乳タンク単位で行われ、アルコールテストは毎日、TPCそのほかの検査は15日当たり4回(一月に8回)の頻度で抜き打ち検査される(全固形分12%以上、細菌数500万以下でボーナス190ルピア(3円)/リットル)。AIサービスはKUDから派遣される専門技術者に依頼。使用精液はレンバン、シンゴサリのもののほか、カナダ、日本産も使用。

 搾乳は1日2回5時と17時で、集乳5〜6時、17〜18時。粗飼料の調達は所有農地からの刈り取りのほか、一部借入地からの収穫もある。濃厚飼料は全量酪農協からの購入。


KPSBU所属酪農家 


(東ジャワ州:酪農を中心に多角経営を行う村落農業協同組合事例)「KUD DAU」

 東ジャワ州Malang郡の村落農業協同組合(KUD)が酪農を基軸として多角経営を行う事例。
KUD概要:業務範囲は集乳所(MCC)運営のほか、隣接乳製品工場で乳製品の生産・販売など。農協の常勤職員85人のうち、パスチャライズ乳製品生産など乳業担当が40人、残りの45人がそのほかの業務担当となっている。

 具体的にはMCCと隣接する飼料配合工場による乳牛用濃厚飼料の生産・販売、同じく隣接するスーパーでの雑貨販売、さらに処理能力1日3頭のと畜場を運営し、生産された食肉は主にウェットマーケットに卸される。

 そのほか組合員を対象とした小口融資を行う金融部門を持つ。
MCC概要:KUD所属酪農家戸数は550戸、乳牛頭数1,800頭。集乳日量7.2トン、うち1.3トンは隣接加工場でパスチャライズ乳製品に加工され学乳などへ供給している。販売拠点は3カ所(Malang郡、スラバヤ市、デンパサール市)で、これらを通じて小売販売へ供される。

 また、うち3トンはネスレへ供給され、2.5トンはGKSI(Sekar Tanjong)へ供給される。残りはMCCで生鮮乳として直売される。


東ジャワ州KUDDAU直営スーパー

 平均生産者販売乳価は従来1,500ルピア(21円)/リットルだったが今年1月28日以降、1,700ルピア(24円)/リットルに値上げされた。組合員酪農家は10日ごとにスーパーの掛け売りや濃厚飼料費などの支払分を差し引かれて生乳販売収入を得る。

 集乳タンクに集められた生乳は4℃のプレクーリングの後加工ラインへ。集乳時の検査は比重測定とアルコールテスト。そのほか乳質検査は10日に1度行う。(そのほか乳業ごとのチェック)生産されたパスチャライズ乳製品は主にフレーバ添加製品で、140ミリリットル容器で1,000ルピア(14円)で販売(組合員は800ルピア(11円))される。


KUDDAU新鮮乳直売風景

濃厚飼料:ペレット製品1,500ルピア(21円)/キログラム、マッシュ製品820ルピア(11円)/キログラム。
金融など:KUDへの入会金は1万ルピア(140円)で、以後毎月500ルピア(7円)を会費として支払う。KUDは預貯金サービスも行っており、組合員はこれを利用することも可能。一方、金融サービスとして酪農家向けの素牛調達資金として上限1千万ルピア(14万円)の融資を取り扱っている。利率は1%/月(組合員)、2.5%/月(非組合員)。そのほかに、無利子の小口融資ができるが、条件として20日以内に生乳販売収益で支払うこととされている。


生乳搬送


(東ジャワ州:KUD DAU所属小規模酪農家事例)

 Mr. Mulyono氏(家族4人)の経営する小規模酪農場はKUDDAUに程近い同じMalang郡内に位置し、酪農経験は未だわずか1年余り。以前は10年近く養豚を行っており、牛舎は元豚舎を流用した物。内部にはホルスタイン4頭、肉用牛1頭のほか、あひる125羽(採卵用で1個600ルピア(8円))、豚も6頭隣接豚舎に残すなど多様。肉牛は250キログラム生体重を400万ルピア(5万6千円)で導入。1年間肥育して、売却時は800万ルピア(11万2千円)を目標にしている。


小規模酪農家

 酪農開始のきっかけはKUDの技術普及員の奨めによるもので、素牛購入ローン(州政府による補助6%)を使って妊娠牛を3頭購入、これらは子牛を出産後、親牛を売り払い、現在は子牛3頭が残る。彼は現在、負債の返還のため生乳の現物返還の方法を選択しており、今後KUDに対し1日搾乳牛1頭当たり5リットル、これを4年間納入し続けなければならない。

 現在搾乳牛は1頭、乳量は10リットル/日で乳価1,560ルピア(22円)。

 粗飼料の調達は自作地からの収穫(キンググラス)のほか、10キログラム1,000ルピア(14円)で不足分を購入している。

1.4.2 コロニーシステム

 GKSIによる酪農場統合プログラムの中にColony Systemと呼ばれる酪農共同経営牧場が見られる。この試みは西ジャワ州(South Bandung, Garut, Kuningan, Bogor)で行われており、1カ所当たりの飼養頭数規模は100〜500頭、GKSIの基金により建設された牛舎のほかに給水施設、発電機、飼料配合所もしくは飼料庫、生乳冷却施設および輸送タンクを備え、酪農協の援助の下これらすべての管理を酪農家グループ自身で行っている。人工授精や獣医療サービスについては酪農協や州政府などの技術者が派遣される。

2 乳業

2.1  需給動向
2.1.1 牛乳・乳製品需給の現状 

 DGLSの公表する畜産統計によると品目の詳細は明らかではないものの、2004年の国内生乳生産量はおよそ55万トンであるのに対し消費はおよそ150万トンとされ、乳製品輸入が140万トン、近隣諸国などへの輸出がおよそ46万トンとされている。ここ数年の傾向は国内生産はわずかずつ増加傾向で推移、消費、輸入は横ばい傾向、輸出は2001年以降減少傾向にある

図7:乳製品需給の動向

2.1.2 流通面でのパワーバランス

 1998年に政府による国産生乳使用割当制度が廃止された後、乳価と買取りの基準は乳質に因ることとされたため、品質面で輸入品に劣る国産生乳は競争力が低く、現在は乳業に有利な買い手市場となっている。

2.1.3 粉乳工場

 現在粉乳生産工場は全国に5カ所で、Nestle Indonesia社、Friesche Flag Indonesia社、Sari Husada社、Nutricia社、Sugizindo社が保有している。

2.2 企業動向
2.2.1 主要乳業企業詳細

 主要乳業の資本構成を下表に示す。

表25:主要乳業資本構成

2.2.2 主要企業の市場占有率

 また、主要乳業の推定生産能力を下表に示す。

表26:主要乳業生産能力(2005)

 

4 おわりに

 インドネシアの肉牛、酪農経営の置かれた現状は、必ずしも順風とは言えないものの各地に今後の発展の可能性を強く感じさせる優良事例や優秀な指導者が散見される。養牛産業全般で規模拡大による生産効率の向上は同国における喫緊の課題であり、肉牛経営では広大な面積と粗飼料資源に恵まれたスマトラ島ランプン州の契約農家システムなどは今後の個別経営規模拡大と地域ぐるみでの発展を目指すモデルケースとして注目される。ただし肉牛産業の輸入依存体質からの脱却が前提条件となる。一方、ジャワ島を中心に発展してきた酪農では貿易自由化の波によりさらなる国際競争力の強化が求められており、同国が今後の安定的酪農振興を意図するなら、乳質改善や衛生管理、流通システムの改善による高付加価値化とともに、低迷する国内生乳消費を拡大するための各種取り組みが必要となる。

 本原稿執筆に際し御助言、資料提供、現地調査などでお世話になりましたすべての皆様に深く感謝致します。


参考資料
1. “Statistical on Livestock 2005” DGLS 
2. “Statistical on Livestock 2004” DGLS
3. “General Information and Development Policy of Dairy Farming in Indonesia” Tati Setiawati Presented at International Seminar & Workshop on Dairy Farming in Asean


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