欧州委、WTO農業交渉に関する米国の指摘への反論を公表


 欧州委員会は2月3日、米国通商代表部(USTR)が1月23日に公表した「農産物の市場アクセス分野におけるEUの主張が意味するもの」に対する反論を公表した。EUは、昨年10月末にWTO農業交渉における新たな貿易ルール作りのための議論に向け新提案を行った。USTRの報告書では、このうち市場アクセス分野の提案について、「実質的な改善がなく、低いレベルの野心が今次ラウンドの有意義な結果を脅かす」として問題とする点についての説明を行っている。これに対しEUは、USTRの指摘のうち9カ所を引用し、事実と異なるなどとして反論している。


今回、EU側が問題としたUSTRの指摘

(1)今回のEU提案ではEUの関税率は平均で39%しか削減されず、ウルグアイラウンド(UR)での平均関税削減率36%と比べても、非常に野心が低い。

(2)EUの関税分類の80%が関税率30%以下(EU提案では関税削減率の最も低いグループ)であり、その多くを関税削減率20%にとどめることができる。

(3)重要品目の従価税換算を行うに当たり関税率を水増ししている。

(4)鶏肉を例にすれば、EU提案では、EU市場に新たに一年間に一人一個分のチキンナゲットも輸入されることがない。

(5)EU提案では関税削減が十分ではなく、真の市場アクセスを提供するものではない。

(6)世界銀行の試算では、センシティブ品目を2%設定するだけで、新たに得られるはずの市場アクセスの75%が失われる。

(7)開発途上国は農業分野に最も関心を有しており、農産物輸出において相対的に優位性を有していると見られている。

(8)EUの農業分野の提案は、EUの非農産品市場アクセス(NAMA)に関する提案と対比させている。NAMAでの提案は、柔軟性はあるが、関税の上限を先進国は10%、途上国は15%としている。

(9)EUは、農産品の市場アクセスの提案に関し、目新しい改良点が何もない。


上記USTRの指摘に対するEU側の反論

(1)URの際より大きな関税削減を提案しており、また、関税率が高いグループほど大きな関税削減率が適用されることとなっている。その結果、EUの平均関税率は、農産物市場で最もオープンだと主張している米国の現行水準である12%にまで下がることとなる。

(2)最下位層である関税率30%以下のグループには、平均35%(最低20%、最高45%)の関税削減を提案しており、20%の削減率の品目があれば、グループ内でバランスを取るために平均以上の削減を行う品目も必要となる。米国は最低の削減率のみを引き合いに出し、平均としている点を説明していない。

(3)事実ではなく、輸入に際しては譲許した税率を適用している。

(4)USTRは、関税分類番号の一つ(もも肉の関税割当分)のみで試算している。鶏肉に係る関税分類番号は80以上ある。今回の提案によりEUの鶏肉輸出は25%減少すると見込まれ、その分、EUへの新たな市場アクセス機会を提供するものである。

(5)このような指摘は、USTRが、今回のEU提案では米国の輸出者が途上国の市場に十分アクセスできないことを大きな問題としている表れである。

(6)世界銀行は試算の前提に、センシティブ品目の関税削減率が15%にとどまり、また関税割当を設定しない場合としている。EUはこれらの品目にも最大40%の削減率を適用し、関税削減率が低ければ、その分、関税割当を拡大するとの提案を行っている。

(7)EUとしても同意する。EUはこれまで関税特恵の適用などにより、途上国に対し最もオープンな市場となっている。農産物貿易の重要性を強調しがちであるが、途上国には輸出余力がほとんど無い場合も多い。今後の強力な経済基盤の確立のためには、工業製品分野やサービス分野でのアクセス改善も重要である。

(8)USTRは、NAMAの議論が50年にもわたり行われた結果、現行のような低い関税水準にまで引き下がってきたことについて言及していない。一方、農産物の関税は、先のURで初めて大きく削減したものであり、工業製品の議論の達成水準と同列で議論することは無意味である。

(9)牛肉を例に挙げても非常に大きな市場アクセス機会の提供を提案している。今回の提案内容が不十分と主張しているのは、さらに多くを求める競争力のある輸出者か、開発途上国の関税削減率をより低いレベルとしたい者のいずれかである。


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