第10期全人代、三農問題の解決が最重点課題に ● 中 国


三農問題の最重点化が最大の柱

 中国の国会に相当する第10期全国人民代表大会(全人代)が、3月5〜14日に北京で開催された。第11次5カ年計画期間(2006〜2010年)の初年度に当たる今年の全人代では、温家宝首相が従来の経済発展偏重の国家運営から三農問題(農業、農村、農民)の解決に軸足を移し、「社会のひずみ」の是正を重点的に図っていくとの演説を行った。この中で同首相は、今後5年間の年平均経済成長目標を過去5年平均より2ポイント低い7.5%に抑える一方、同計画期間の最大の柱となる「新農村の建設」予算として初年度は前年比14.2%増の3,397億元(4兆9,257億円:1元=14.5円)を投入し、農民の収入増を図っていくとしている。

 中国では近年、改革開放路線で先行発展した東沿岸部の目覚しい経済成長が続いた反面、多くの農村を抱えた内陸部の発展が遅れ、両者の相対的な経済格差が大きく拡がった。都市と農村の1人当たりの平均収入格差は3倍以上に拡大したと言われている。そのため地域間・職業間の格差に端を発した農民暴動などが各地で多発し、国家の将来を左右する問題に発展しかねないとの危惧が広がってきた。今回掲げられたスローガンは、深刻化した社会構造の矛盾を是正すると同時に、資源浪費や環境破壊、生産過剰など急成長がもたらした諸問題を包括的に解決していくものとなっている。


農村問題を柱とする2006年の政府活動報告要旨

 政府は、第11次5カ年計画の初年度である2006年を、計画達成に向けて良いスタートを切るための重要年と位置付けている。同首相が初日の冒頭に示した2006年に係る政府活動報告要旨では、同年のマクロ経済の目標値として経済成長率8%前後、消費者物価の伸びを3%以内に抑制することが提唱されたほか、最重点課題の農村問題では、国家の社会基盤建設の重点を農村に置くとともに、農村の余剰労働力の都市部移転を積極的に推進することが示された。また、農民に重くのしかかってきた農業税は2005年までに完全撤廃されたが、これに加えて、農村の将来世代の知識水準を向上させるため、農民の義務教育費の廃止や職業教育の充実などにより農民の生活水準の改善を目指すとしている。永年続いてきた都市と農村の二元構造の解消に、政府が来年から本腰を入れて取組み始めるものと思われる。

 これと同時に、ハイテク産業および中国独自のブランド開発を重視した産業政策、科学技術の発展を戦略的に行う教育政策、周辺諸国との友好強化を図る外交政策なども発表された。


発展する農畜産業の強力な支援に

 今回示された第11次5カ年計画が順調に達成されれば、最終年(2010年)における中国のGDPは26兆1千億元(378兆4,500億円)に達すると予測され、米日に次ぐ世界第3位の経済大国に躍り出ることとなる。しかし、現在の中国にとって低めのハードルである「年率7.5%成長」を掲げたことは、政府が、このところ加熱傾向が強かった経済成長を意識的に抑制することで「節約型」社会への転換を行い、将来にわたる成長持続を戦略的に目論んでいる表れと言える。

 全人代開催に先立つ2月28日、国家統計局が公表した2005年の国民経済・社会発展統計広報(速報値)によると、同年の食糧生産量は前年比3.1%増の4億8,401万トンと引き続き豊作となるとされている。また、農業部は、2005年の全国の肉類生産量は前年比5.6%増の7,650万トン、卵生産量は同5.0%増の2,860万トン、生乳生産量は同20.0%増の2,845万トンとそれぞれ増加すると見込んでおり、中国の農畜産業が引き続き順調に成長している状況が示された。今回発表された三農問題の最重点化政策は、発展を続ける同国の農畜産業を強力に支援していくものと思われる。


畜種別の重点的生産地域化が進む

 こうした中、農業部によると、中国の畜種別生産地域の形成状況が明らかになってきた。具体的には、揚子江中下流域を中心とした養豚区域、重要な農業地帯である中原地方および東北地方の肉牛生産区域、東北地方および華北地方中心とした酪農地域、東沿岸部の各省を中心としたブロイラー生産区域などが挙げられるとしている。


東北部では畜産プロジェクトも進展

 しかし、著しい経済の伸展が長期化していることから、北京近郊や東北沿岸部における畜産物需要や畜産物輸出の急増により、こうした地理的な農畜産業の分布図にも次第に変容の様相が見え始めている。

 吉林省や黒龍江省をはじめとした東北地方は、従来から飼料穀物を含む全国随一の食糧生産地帯として知られてきたが、近年はトウモロコシなどの豊作が続いていることから、地の利を生かした畜産業の発展が著しい。吉林省では「食糧を肉に」プロジェクトが奏功し、中国農業大学によると、2005年における同省の1人当たりの肉類生産量は114キログラムに達しており、昨年に引き続き全国一となった。同年には中国最大規模の肉類加工場が竣工している。同年の畜産加工品の輸出も前年比47.8%増の6,387万ドルに大幅に増加している。

 一方、黒龍江省畜牧局は、今後数年をかけて飼料産業と畜産業の「主軸変換」を促進して行くとしており、2010年までに畜産業の総生産高を860億元(1兆2,470億円)とし、この比率を全農産物の5割以上に向上させたいとしている。

 なお、国家発展改革委員会は、近年続く豊作のため同年のトウモロコシや小麦価格は下落傾向にあり、これに加えて化学肥料や石油など生産資材のコスト高のため、2006年も食糧生産農家の所得の引下げ圧力は強まると予測している。こうした状況も食糧生産農家が収益性の高い畜産業への移行を志望する要因の一つとなっているものと思われる。


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