ベルギーのチーズ商とこだわりチーズ



ひとくちMemo

 ベルギー中東部のエルブ高原は、良質な牛乳が生産されることで有名であり、この牛乳から地域に根付いたチーズが生産されている。

 この地で生まれ、この地のチーズを好み、この地のマルシェ(朝市)をメインにチーズを販売するチーズ商であるフレディ・ヘンドリックス(Freddy HENDRICKX)氏がいる。彼は、情熱のあるチーズ生産者を求め欧州各地を回り、その生産者からチーズを仕入れ、食べごろまで自宅のカーブ(熟成室)で熟成し、食事やワインにあったチーズを販売している。また、彼は、ベルギーのチーズをより多くの人に知ってもらうため、2005年にフランスで開催されたチーズ商の世界大会であるインターナショナル・カゼウス・アワードにベルギー代表として出場した。そんな彼のチーズショップ、仕事ぶりを紹介する。

 また、この地方でのチーズ生産は、近年、大規模化が進んでいる。一方で、規模拡大せず自宅で生産している農家もある。このような中、ヘンドリックス氏に、この地方でこだわりを持ち自宅でチーズ生産を続ける農家を紹介してもらった。

 EUの地理的表示(GI)保護制度の原産地呼称保護(PDO)に登録されたエルブ・チーズ(登録名:Fromage de Herve)を祖母から受け継いだ昔ながらの製法にこだわり、作り続けるバティスのミュニックス(Munnix)氏、オーガニック(フランス語でビオ(BIO))にこだわり、オーガニック基準を満たした放牧地の草を食べて育った牛からとれた乳だけを使用して、チーズを作り続けるマルメディーのグロドン(Grodent)氏のチーズを紹介する。


 チーズ商のフレディ・ヘンドリックス氏。「チーズは生きていて、食べごろがある。それを見極め、最高の食べ時に消費者に食べて欲しい」と語ってくれた。


 ウタン・サン・シメオンに住むヘンドリックス氏のチーズショップは、移動式のトレーラー(写真左)。午前中は、リエージュ近郊の朝市に出向き、チーズを販売し、午後は、自宅内の車庫(写真右)にトレーラーを納め、そこでチーズを販売している。

 


 車庫内のチーズカーブ。常時数十種類のチーズが熟成され、食べごろの時を待つ。

 トレーラーの中の陳列室。欧州各地から仕入れたチーズがきれいに並べられる。。

マルシェでのヘンドリックス氏のショップ。多くの客が後を絶たない。

  エルブ・チーズ(Fromage de Herve)
−バティスのジョセフ・ミュニックス(Joseph MUNNIX)氏



 ベルギー、オランダ、ドイツの国境近くにある町バティスにミュニックス氏の農場兼チーズ工房がある。この周辺のほとんどの農家が酪農家だったが、今は彼のみとなった。

 ホルスタイン種を47頭飼育し、年間生乳生産枠(クオータ)は20万リットル(チーズ向け約3万リットル、飲用乳向け約17万リットル)。。

 ミュニックス氏のチーズ工房。まず、手前のタンクに牛乳が入る。牛乳は殺菌しない。

 チーズの売れ行きに合わせ、生産量を調節。1番売れるのは3月ごろで、週に1回程度チーズ生産を行う。


 タンクの牛乳の温度を32度にし、凝乳酵素剤(レンネット)を加える。レンネットは、天然のものを使用。約2時間後、カードナイフで固まったカードをカット(写真上)。成型のため、10センチメートル四方、高さ25センチメートルの箱に分離したカードをすくい入れる。水分を抜き、pHを4.7に調整する。取り出す際に、右上の道具で1箱を4等分にカットする。以前は、成型に木枠を使用していたが、衛生上の理由で、約12年前にステンレスに変更した。  
4等分された出来たてのチーズに、天然の岩塩をまぶし、室温で1日置く。

湿度の高い、熟成室へ。

 



 熟成室に来たばかりのチーズは真っ白である(写真左上)。熟成中にこの地にいる特有の菌が付着する。この菌がチーズを発酵させ、特有の香り、味を生み出す。
チーズを温かい真水で週3回全面を洗う。10日以上経過する頃から表面が黄色からオレンジ色になる(写真左下)。
4〜6週間程度の熟成の後に出荷する。

 今回の取材に応じてくれたジョセフ・ミュニックス氏。

 

 ビオチーズ−マルメディーのグロドン(GRODENT)家。


 11月には珍しく雪に覆われたので、搾乳牛は畜舎に入れられ、ビオの干草をはんでいた。本農場は草にこだわり、農薬を一切使用しない。本農場ではノルマンド種を約40頭飼養。未経産牛は雪の中草をはんでいた。



 本農場では、カマンベールチーズタイプ、ゴーダチーズタイプ、ウォッシュタイプのチーズを日を変えて生産している。チーズ工房内は衛生的。


  カーブ内部。この部屋では、ゴーダタイプのチーズを熟成中。
 


 できたチーズを自宅で販売。人気のチーズは、この地のマルメディー(Le Malmedy)というウォッシュタイプのチーズ(前列中央緑の文字)。店内には、チーズのほかにクッキー、パスタ、洗剤などのビオ製品が数多く販売されていた。


 取材に応じてくれたグロドン一家。農場の中心として働くギー(Guy)氏(左)、ギー氏の息子(中央)、ギー氏の妻(右)。ギー氏の息子がチーズ作りを一緒に行っている。ギー氏の意向では現在の規模を保ち、拡大はしないとのことである。
(ブリュッセル駐在員事務所 山﨑 良人、 和田 剛)

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