アルゼンチン政府、牛肉の国内価格上昇を断固抑制


国内向け食肉供給の増大を図る3つの柱

 ラバーニャ経済生産大臣は11月18日、カンポス農牧水産食糧庁(SAGPyA)長官とともに記者会見に臨み、国内向けの食肉供給を増大させ、国内価格上昇の抑制を図る3本柱の対策を発表した。

 今回の措置もアルゼンチン政府が強固に推し進める生活基本食料品に係るインフレ抑制策の一つである。(なお政府が2005年に講じた牛肉、鶏肉、乳製品に係る対策は、「海外駐在員情報」通巻第699号などを参照)。

 なお、3本柱の対策は以下のとおり。

 「牛肉価格が上昇したのは、国内消費と国際需要が増加したことによるが、特に直近の輸出情勢においてはブラジルで口蹄疫が発生したため、チリ市場の6割を占めていたブラジル産牛肉の全量を、アルゼンチン産で代替する動きがある。

 また、鳥インフルエンザの影響により国際市場での鶏肉価格の上昇も見られるところである。

 よって大統領と会談し、“消費者の懐を守る”という極めて明白な目標を掲げ、以下の3つからなる一連の対策を本日決定した。」


(1) 短期的に食肉供給を増大させる対策

(1)牛肉の供給量を増加させるため政府は、SAGPyA決議第645/2005号および同決議第729/2005号により、11月1日からと畜生体重量の下限を260キログラムにした(「畜産の情報 海外編」2005年11月号p21〜22を参照)。

  この措置により、11月に入って全カテゴリーの平均枝肉重量は215キログラムから230キログラムに増加し、当該決議が有効に機能していることがうかがえる。しかし牛肉生産量全体を、さらに増加させるためには平均枝肉重量を230キログラム以上にする必要があり、それを確実にするために同決議第906/2005号※1(11月18日制定、同月21日公布。なお以下の決議は、すべて同じ制定日と公布日)をもって、と畜生体重量制限の期日を以下のように緩やかに変更し、生産者が1カ月強の猶予の中で家畜をさらに増体させることを可能にした。
   280キログラム以下のもの:12/15〜 → 2/1〜
   300キログラム以下のもの: 1/31〜 → 3/1〜

   ※1:同決議第68/2005号(2005年12月26日付け、同日27日交付)に
              より、数度の会より、数度の会議の結果と して再度期日が以下
         のように変更されている。

              280キログラム以下のもの:2/1〜 → 3/1〜
         300キログラム以下のもの:3/1〜 → 5/1〜

(2)食肉パッカーに対する財政的または金融的な支援として、牛の生皮や塩蔵皮(以下「牛皮」とする)の輸出税(「畜産の情報 海外編」2005年8月号p24〜25を参照)を15%から8%へ減じる決議第655/2005号を制定した。これによりパッカー側は、牛皮の輸出税抜きの買取価格を少しでも高くするように交渉し、そしてその利益を消費者価格を下げるように還元することが求められる。


(2) 中期的に食肉供給を増大させる対策

(1)すでに数日前に国会に提出した“中小企業の収益に対する「免税措置法案」”において、中小企業者である畜産業者が行う、中長期にわたり確実に生産を増加させるための設備投資、繁殖に供する純粋種や交雑種の購入、牧草地の更新−を対象にした。

(2)鶏肉を増加させかつ国内市場に約束された価格で供給できる体制を整えるため、輸出業者に対する税の還付措置を停止した経済生産省決議第616/2005号※2 から鶏肉部門を対象外とする同決議第654/2005号を公布し、この部門に与えられていた2.7〜3.4%の還付を復活させた。

 税還付が復活した理由としては、この部門において極めて重要な投資計画が存在しており、これは今までこの部門に属さなかった投資家、つまり大豆部門から鶏肉部門に転向するなど、新規に4,000万ドル(47億6千万円:1ドル=119円)投資する計画があることが確認され、そしてこの部門はインテグレーション化が進み、最終製品まで統合されているため、国内価格を下げても輸出価格を考慮すれば、一企業体の中で採算性を確保できるからである。

※2:経済生産省は11月10日付け決議第616/2005号により、輸出振興を図るため実施していた輸出業者に対する付加価値税(IVA)が主になっていた税の還付を、牛肉・鶏肉・牛乳乳製品など関税番号上200項目の食料品について停止していた。


(3) 国外市場に対する食肉供給の再構築

 最近の牛肉輸出価格の上昇、さらにはブラジルでの口蹄疫発生のため牛肉の国際市場における需要が増加する傾向にある。このため経済生産省決議第653/2005号により生鮮牛肉に対する輸出税を10%賦課し、従来の5%と併せて15%にして国内供給の増加を図る。

 なお、以上のようにインフレ抑制に対してさまざまな対策を講じてきたラバーニャ大臣は、11月28日突如辞任した。12月1日に就任したミチェリ新大臣は、同日スーパーマーケット業界と228品目について15%値引きする協定を結んだが、牛肉は含まれていなかったため畜産関係団体との協議が続いた。

 しかし1月に入り、「生体取引価格は15%下がったが、牛肉小売価格は4%しか下がっていない」との報道があり、畜産業界側をコントロールしても効果が薄いと判断したためか、1月中旬において政府の目は小売業界に向いており、小売価格について関係業者と個別に交渉に臨んでいるとの報道がある。


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