特別レポート

チリの肉用牛生産の概要

ブエノスアイレス駐在員事務所 横打 友恵、犬塚 明伸

1 はじめに

 チリはこれまで牛肉輸入国であったが、2002年後半から本格的に開始した牛肉輸出は量的にはそれほど多くはないものの、毎年倍増ペースで拡大している。

 主要な食肉生産国における家畜疾病により、輸入国では新たな供給元の開拓、多角化が求められている中、チリは周囲を自然で囲まれて地理的衛生条件に恵まれ、かつ南米の中で唯一の口蹄疫ワクチン不接種清浄国であることから、輸出拡大に向ける期待は大きい。こうした中、チリでは2005年1月からトレーサビリティシステムが本格的に始動、さらに2006年2月からは輸出向け家畜施設については公的管理下家畜施設(PABCO)への登録が義務付けられ、衛生ステータスの向上・維持に向けた取り組みも強化されている。

 今回はチリの肉牛生産と始動したトレーサビリティシステムの概要について報告する。

 

2. 肉牛産業の一般概況

(1)飼養および生産動向

 チリではサンチャゴ以南の比較的冷涼な地域が主要畜産地域で、食肉は全国の5割、乳製品は6割の生産量を占める。主要な肉牛飼養地域は南部の第8、9、10州でこれら3州で全飼養頭数の7割を占め、放牧飼養を中心に、冬は乾草、サイレージなどを補助給与する。

 品種については、乳肉兼用種のオベロネグロ(ブリティッシュフリーシアン系のチリ黒白斑牛)、同タイプのオベロコロラド(ジャーマンフリーシアン系赤白斑牛)、ホルスタイン種が主体となっている。



 

州別飼養戸数および頭数

州別と畜頭数

 と畜施設は以前は首都圏州に集中しており、97年には同州のと畜頭数は全体の5割に上っていた。チリ財団(Fundación Chile)の調査によると、当時は生体での輸送コストが食肉に比べ3割低いとされ、平均で700キロメートル、遠くは第11州の州都コイアイケ市からは1,700キロメートルの距離を総人口の約4割を占める首都圏州まで生体輸送し、と畜を行っていた。この長距離輸送は家畜のストレスや打撲、傷などを生じ、食肉の品質にマイナス効果を与えてきたが、近年、地方でのインフラ整備が進み、流通が容易となったことから、2004年には首都圏州の占める割合は33.2%に低下、逆に主要飼養地域である第8〜10州でのと畜が47.0%に増加している。

(2)需給動向

・生産動向

 牛肉生産量はブラジル、アルゼンチンなど周辺国と比較して生産性が低いことから減少が続いていたが、2004年には97年以降継続していた減少傾向から一転増加に転じた。これは、乳価が高値を維持していることから、酪農家が搾乳牛妊娠頭数を増やしたこと、輸出向け去勢肥育牛の取引価格が、米国・カナダでのBSE発生などにより上昇が見込まれたことが要因とされる。

 また、チリでは90年代における牛肉の需要増加に伴い輸入が増加し、国内消費のうち、輸入品の占める割合は年々増加しており、2003、2004年は5割に達している。

牛肉需給表

生産量の推移

種類別と畜割合の推移

 チリ農業省農業政策局(ODEPA)によると、2004年のと畜頭数のうち、去勢肥育牛が全体の57%、経産牛が21%、未経産牛が16%となっている。

 1頭当たりの平均枝肉重量は263.8キログラム(去勢牛、2004年)とアルゼンチン(276.7キログラム、同)などと比較して軽量なのは、広大なパンパと違い、狭い土地で飼育するには個体が小さい方が管理しやすいためといわれる。アルゼンチン、ブラジルのような大生産国と比べると、チリの年間と畜頭数80万頭は現在の需給関係では少ないといわれ、このため、5年間は雌牛の保留に努める一方、若齢肥育牛の出荷を増やす傾向にある。関係者によるとこれは国の政策として確立、実行されている段階ではないが、肉牛関係団体などが推奨しており、また、輸出の認証、格付けを受けるには、若齢肥育牛を出していくのが良いとされ、個体を大きくしていく考えは今のところないとしている。

 なお、フィードロットはチリではあまり一般的ではない。チリ国内では、脂肪の多い肉よりも赤身肉を好む傾向にあり、また、コスト高にもなるため、トウモロコシやその他の穀物を肥育用に給与することは少ない。ただし、数は少ないがフィードロットは首都圏州、第7、8州に存在し、コーンサイレージ、牧草、アルファルファの乾草などの組み合わせで肥育されている。また、後述する第10州のパッカーでも試験的ではあるが、2005年に2戸の生産農家と日本向けに150日間穀物肥育する契約を行うなどの取り組みも見られる。

(食肉パッカーの事例)

 Frigorifico de Osorno(Frigosor)は、第10州の州都プエルトモン市から北へ250キロメートルのオソルノ市に所在するサンチャゴ以南における最大の輸出パッカーで、牛のみを取り扱う。1938年に設立、従業員数約400名、2002年に最新ラインを改装した。施設はと畜処理、冷蔵・冷凍保管庫、ハンバーガー製造、部分肉加工の4つに分かれる。

(1)と畜処理

 と畜作業は6:30〜16:30であるが、部分肉加工ラインは6:30〜16:30、17:00〜3:00の2交代制で1シフト当たり150頭を処理する。と畜処理は自社分のみでなく外部からの委託も受け実施しており、1日当たりの平均と畜頭数は550頭、1月当たり1万2千頭となるが、処理能力は1月当たり1万4千頭とのことである。

作業風景

(2)輸出

 主要な輸出先はメキシコ(後肢部分)、EU(後肢部分)、日本(内臓)、さらに 数量的には少ないが、コスタリカ、エクアドルも含まれる。また、米国向けにも近いうちに輸出を開始する。なお、輸出用の牛肉はすべてSAGの認証を受ける必要があり、認証を受けられなかったカットについては国内消費に向けている。

 チリ産牛肉の特徴として担当者いわく、
(1)肉質がアルゼンチン産と似ていること、
(2)口蹄疫がないため、メキシコ、米国に出せることが強み−を挙げている。

 また、同社はと畜処理能力では、Lo Valledorに次ぐ全国2位にあるが、チリ農牧庁(SAG)によるHACCPの認証について、他社は部門のみの認証を取得しているのに対し、全生産部門で認証を取得していることが特筆される。

格付けシステム

 チリにおける牛肉の格付けは国家規格院(INN)が定めた基準に基づき実施され、牛の種類、歯の磨耗度、歩留まり(皮下脂肪)によりV、C、U、N、Oの5段階に分けられる(もともとはスペイン語の「牛」を意味するVACUNOの6段階であったがAが廃止された)。格付けはSAGに登録した認定機関に所属する者が各パッカーに派遣され行う。なお、輸入品についても、同様にSAGに承認された輸出国の認定機関が格付けおよび認証を実施する。

格付け

(3)アジア、日本への輸出および今後の生産見通し

 FTA締結により、これからの輸出先として重要な地位を占めることが見込まれるアジア市場については、(1)中国は今の段階では、低価格で輸出できる状況にないこと、(2)韓国とは衛生条件の取り決めがこれから開始されるが、関税割当枠が年400トン(冷蔵200トン、冷凍200トン)と量が少ないこと−などからこれらの国への関心が低い一方、日本については、同社の現在の対日輸出量は1月当たり40〜60トンだが、これまでの経験もあり、増加について大きな期待を持っているという。また、チリは小さい国なので大量の輸出はできないことから、日本のマーケットへ与える影響は少ないとしている。

 生産増への対応については、現在の敷地内での工場拡張は不可能なので、作業のスピードアップ、シフトの増加、就業時間の延長など、マンパワーに負うことになるだろうとみている。

 なお、日本へは主に第8州にあるサンビセンテ港または第5州のサンアントニオ港から船積みされるとのことであった。

パッカーと畜能力ランキング(2001年)

・消費動向

 国内での需要部位は、ハインドクォーター、バーベキュー用の骨付きバラ、トップサイド(うちもも)などが主である。

 2004年の1人当たりの牛肉消費量は23.7キログラム、そのほかに鶏肉が28.8キログラム、豚肉は17.9キログラムとなった。牛肉については、90年代に入り大きく伸びて以降は、安定的な需要を維持している。

 Frigosorでは、オソルノ市内に1店舗、州都であるプエルトモン市に1店舗の食肉直営店を有しており、また、工場に隣接する店舗もあるが、そこでは低価格で販売される製品を目当てに開店前から数人が常に並んでいる。冷凍骨付き肉が特に人気という。

 

3. 貿易関係


(1) 輸出入動向

1輸出

 チリが本格的に牛肉輸出を開始したのは2002年後半のイスラエル、キューバ向けからである。それ以前は、タン、内臓、皮革主体であった。2003年7月からはEUへの輸出も始まり、以来毎年ほぼ倍増ペースで拡大している。EUとは2003年2月に発効したFTAにより、年間1千トンまでは無税となる関税割当枠を持ち、同関税枠は毎年100トンずつ拡大される。

 2005年の牛肉(加工肉を含む)輸出量は前年比107.8%増の18,749トンで、輸出金額は同137.1%増の5億4,403万ドル(約647億円:1ドル=119円)に達した。日本向け輸出は数量ベースで前年比323.5%、金額ベースで同282.8%と急増するとともに、輸出全体に占める割合は数量ベースで17.0%、金額ベースで22.8%に上り、日本はメキシコに次いで、第2位の輸出先となっている。なお、第1位のメキシコは、輸出量で58.7%、輸出額で51.2%を占めている。

 また、副産物輸出量については全体の9割を日本向けが占めている。

 輸出量の増加の要因となるのは、高い衛生水準により、他の輸出国との競合において優位な立場にあることが大きい。南米で唯一の口蹄疫ワクチン不接種清浄国であることから、EU、メキシコ、日本など衛生条件について要求度が高い国への輸出が可能である。

 チリ食肉処理加工施設協会(FAENACAR)によると、業界全体で現在の年間輸出量約2万トンを2010年には15万トンに増加させることを目指している。同協会は農業省、SAGなどの政府機関と企業の仲介役を担っており、

国別牛肉輸出量割合(2005年)

目標達成のため、今後パッカーに対してはインフラ整備や製品の品質向上、検査工程の改善、市場の開拓などを、また、生産者に対しては、マーケットに応じた品種別・年齢別の特化、給与飼料や家畜改良などをアドバイスしていきたいとしている。また、目標としている2万トンから15万トンへの増加は、3年前から本格的な輸出を開始したばかりなので、それほど大きい目標とはいえないかもしれないが、生産量の3〜4割を輸出に回せるようになれば、達成できるだろうと期待している。

15年後に関税を撤廃する品目の関税削減率 (%)

2輸入

 ほぼ全量がメルコスルからの輸入で、中でもブラジル、アルゼンチンの2カ国で全輸入量の8割を占めている。ただし、ブラジルで2005年10月に口蹄疫発生が確認されたことにより、ブラジル全土から牛肉の輸入を停止し、今後半年から1年は解禁されない見通しである。そのため、10月以降はこれまで全輸入量の4割を占めていたアルゼンチン産が7割に増加し、ブラジルの停止分をほぼカバーしている。輸入品の仕向けについては国産品とすみ分けはなく、むしろアルゼンチン産については高級品というイメージが浸透しているようだ。

 また、2006年1月より、メルコスル4カ国からの牛肉輸入に掛かる関税率(6%→4.98%)が引き下げられている。これは、96年にチリがメルコスルに準加盟した際の協定に基づく措置で、牛肉は下表のとおりセンシティブ品目として扱われ、10年間は関税率削減の対象とはならず、11年目の2006年から段階的に関税率を引き下げ、2011年に無税となる。ちなみにチリはこれ以前、メルコスル各国に関税割当枠を与えていたが、アルゼンチンとブラジルは2006年まで、ウルグアイが2007年まで、パラグアイが2009年までの措置となっている。

 南米で唯一の口蹄疫ワクチン不接種清浄国の国際ステータスを生かす一方、この関税引き下げを活用し、周辺国からの安価な牛肉を輸入することで、衛生条件の厳しい高い品質を要求する市場へ自国産牛肉を高値で輸出する方向性にさらに拍車がかかるものと見られる。

※:チリはアルゼンチンに対して、特定品目の関税削減率が30%となる枠を3,000トン与えている。同様にその他の国にも関税割当枠を与えており、ブラジルには30%削減で2,000トン、ウルグアイには50%削減で3,000トン、パラグアイには75%減で7,000トン−となっている。なおこの枠の執行期間は当年7月1日〜翌年6月31日までとなっているため2006年においては、例えばアルゼンチンの場合、2006年7月1日〜12月31日までに、(1)生鮮または冷蔵の枝肉または半丸枝肉(関税番号0201.10.00)が750トンまで、(2)冷凍の枝肉または半丸枝肉(関税番号0202.10.00)が750トンまで−などが輸出(3,000トンに対して1,500トン)できることになっている。

国別牛肉輸入量割合(2005年)

(2) FTA

 チリでは、FTAの積極的な推進(メキシコ、カナダ、EU、米国、韓国、ヨーロッパ自由貿易連合(EFTA(加盟国:ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタイン))、中国など)からも明らかなように輸出市場の安定確保・拡大に重点を置いた多角的な経済政策を行っている。前述のFAENACARによると、畜産物の輸出は84カ国に上り、FTAにより市場が拡大しても、それぞれの市場の要求に合わせた対応ができる生産体制にあるとのことである。

 今後、チリの輸出拡大に欠かすことのできない市場となると思われる国との牛肉に係る批准内容は以下のとおりである。

1米国

 チリと米国は2003年6月にFTAに調印し、2004年1月から発効した。チリが輸出する場合、牛肉には関税割当(2004年1,000トン、2005年1,100トン、2006年1,210トン、2007年以降関税撤廃)を採用、豚肉は無税となっていたが、衛生条件が整わず、FTAが有効活用されない状況となっていた。2005年11月に米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)からチリ産牛肉、豚肉、羊肉の輸入許可が通報され、チリ側は米国市場の要求を満たすと畜施設の認定手続きを開始、12月23日にFrigosorを含む3施設が認定された。

 米国は世界最大の牛肉生産国でありながら、主要な輸入国でもあり、USDAの見通しによると2006年の輸入量は168万7千トン(枝肉ベース)となっている。

2韓国

 韓国とのFTAは2003年2月に調印、2004年4月から発効した。関税割当を適用し、牛肉については年400トン(冷凍200トン、冷蔵200トン)の枠が設けられており、一定数量を超える関税の取り扱いはドーハ開発計画(DDA)終了後に再協議するとされた。

3中国

 2005年11月18日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の席上、FTAが調印され、中国にとっては中南米諸国での初のFTA締結となった。今後、議会の承認手続きなどを経て発効することになるが、チリ輸出品の92%、中国輸出品の50%が協定発効時に直ちに無税となり、その他のものは10年以内に無税となる。例外品目としてチリは1%、中国は3%の品目を設けている。

 牛肉については、発効後1年以内に関税は撤廃される。

 

4. 輸出拡大に向けた取り組み

(1)トレーサビリティシステム

ア.制度の導入

 SAGによると、「家畜衛生状況を確立することは、農業省の畜産発展計画を推進する上で重要な一歩である。チリの最適な衛生条件を有意義に利用し、畜産製品を輸出産業に組み入れることを可能にすることになる」としている。

 また、2001年にはわずか30万ドル(約3,570万円)であった牛肉の輸出額は、2003年には1,500万ドル(約17億8,500万円)、2004年に2,300万ドル(約27億3,700万円)、2005年に5,400万ドル(約64億2,600万円、速報値)に達し、中期的には年間1億ドル(約119億円)の輸出が見込まれ、EU、中東、アジア市場などが新たに獲得できる開拓先である。

 しかし、これら輸入国が原産国、家畜衛生、安全性などの各証明を輸入条件として求めてくる可能性もあったことから、2004年11月1日から、牛のトレーサビリティシステムが始動した。これは「牛の衛生トレーサビリティ公式プログラムの策定」に係るSAG決議第3321号(2004年9月13日付け)に基づき実施されている。まず、第11州の牛関連畜産施設から登録が開始され、その他の州は2005年1月1日から実施されている。システムは以下の項目により構成される。

1.牛関連畜産施設の登録
2.個体識別公式装置(DIIO)の登録
3.家畜の移動登録
4.家畜輸送手段のリスト
5.畜産情報公式システム(SIPEC)

イ.牛関連畜産施設の登録

 対象施設の区分は以下となっており、これらの施設はSAGへの登録義務を負う。SAGは登録施設に対し、すべての手続きに必要となる畜産施設登録簿(RUP)に掲載される施設の所在地を示す9けたからなる登録番号を与える。なお、(1)〜(7)以外の施設は2008年12月31日までに登録しなければならない。

 また、各施設の所有者は、毎年7月に6月30日現在の施設内の飼養頭数を申告する。

(1)公的管理下家畜施設(PABCO)マニュアルの規定を満たすPABCOのA、B、Cの各施設(輸出仕向け国の要件のうち一つを選択)(詳細は4(2)を参照)
(2)山岳放牧を行う牛飼養施設
(3)国境地域に位置する飼養施設
(4)子牛を輸入する飼養施設
(5)疾病管理撲滅プログラムに参加する施設のうち本登録制度で指定する飼養施設
(6)展示会場
(7)自家消費用のと畜または家畜処理施設

施設別の適用範囲

登録の流れ

ウ.個体識別公式装置(DIIO)の登録

 畜産施設登録簿(RUP)に登録した施設に飼養される牛が耳標装着の対象となる。

 DIIOは、SAGに認可された製造業者が、SAGから与えられた個体識別用の9けたの番号などを表示して製造する。黄色地に黒文字と定められ、左耳に耳標タイプを、右耳にボタン状タイプを装着する(右耳分には微小な無線IC装置も利用可能だが、体内埋め込み方式は不可)。また、再使用はできない。

DIIOのイメージ

 DIIOは、生後、平日20日以内に装着することとなっている。ただし、粗放的な大牧場である場合は、出荷前までに装着することを前提に、離乳まで、または6カ月齢以内に装着することも認められている。また、輸入牛の場合は、SAGに個体登録するとともに、検疫期間終了後直ちにDIIOを装着し、これらの手続きが終了しない前に農場などへ導入することは許されない。また、該当する牛を輸入した施設はRUPに登録し、毎年の飼養頭数の申告とエ.の家畜移動衛生書の使用義務を負う。

 1個当たりのDIIOの価格は2ドル(238円)前後で、購入費は生産者の負担である。

 なお、DIIOの装着義務は前出の表のとおり、RUPに登録したすべての施設の牛ではないことに注意されたい。

エ.家畜の移動登録

 牛関連飼養施設間で家畜を移動する際には、家畜移動衛生書の携行が必要となり、衛生書なしでの移動は認められない。衛生書は複写式の3部となっており、うち写しの1部を搬出元施設、もう1部を搬入先施設、原本は家畜の搬入先施設への移動後、平日10日以内に搬入先所管のSAG事務所に提出され、保管する。搬出元および搬入先の2部は2年間保管する義務を負う。また、SAG事務所に原本が届いたら速やかにSIPECへその情報が入力される。

オ.家畜輸送手段のリスト

 家畜は「家畜および食肉輸送に係る一般規定(省令240号/1993年)」を順守した方法で輸送されなければならず、輸送の際にはSAGに登録された認定機関により発給された証明書を有するものとする。

 また、月初の平日10日の間に、認定機関がSAGに前月の同期間に証明した輸送手段を報告する。報告される情報は、輸送手段所有者の氏名と納税者番号(RUT)、トラックの登録番号、証明書番号、認定機関のSAG登録指名と番号、証明者氏名、発行年月日である。当該証明書は、検査官の求めに応じて提示できるよう、家畜移動中車両内に携行していることとする。

カ.畜産情報公式システム(SIPEC)

 SIPECは、トレーサビリティシステムにおいて、必要とされるあらゆる情報の照会に対応できるシステムを備えるものとされ、その情報を把握するために、3通りの情報収集方法が認められている。

(1)文書によるもの。SAGは、所定の様式を使用してSIPECに当該情報(牛関連施設登録書、家畜在庫申告書、牛個体識別書、家畜移動衛生書、DIIOの配布・管理書および家畜移送手段リスト)を入力する。

(2)電子書式によるもの。ホームーページ上から入力を行う。

(3)データベースでの交信。SIPECのために開発されたアプリケーションを通じて入力を行う。

 2005年7月に第1回目の飼養頭数の申告が行われ、6月30日現在、11,735施設が登録、12万0,082頭にDIIOが取り付けられ、137万9,585頭の飼養が申告された。

各レベルの順守内容

(2)公的管理下家畜施設(PABCO) プログラム

 SAGの輸出証明システムは、農場および農畜産物の認定で構成される。農場認定の場合の一つの手段がPABCOプログラムであり、このプログラムは輸出仕向け国の政府機関が要求する家畜の衛生条件と特定の要件を満たす家畜施設を保証するものである。


 農場は、家畜またはその加工品および副産物の輸出仕向け国の要件に従い、PABCOのA、B、Cの水準のいずれか一つを採用することができる。PABCOのすべての水準はSAGの現行規定の履行を保証する公的管理下にあり、SAGは輸出仕向け地で規定される要件に従って国のリストおよび農場が属さなければならない該当PABCO水準を設ける。

 順守内容は、農場の施設設備、家畜の取り扱い、記録の保持についてそれぞれ細かく規定されており、概要は以下のとおりである。

 なお、これまでは任意だったPABCOへの登録は2006年2月1日より義務付けられている。


農場入口:PABCO登録要件の一つ、農場入口にはSAG指定の看板(たて90cm×横70cm)を掲げる

(PABCO登録農場の事例)

 Agríla Monocopulli SA農場は、オソルノ市から25キロメートルほどに所在するEU向けの輸出が可能なPABCO・A認定農場で、乳肉兼用種を中心に約3,300頭(うち子牛は約500頭)を飼養し、繁殖・肥育一貫生産を行っている。

 農場の総面積2,300ヘクタール、牧区は4つに区分され、肥育用1つ、繁殖用が3つとなっている。従業員は管理部門に3名、家畜部門8名、トラクター担当6名、メンテナンス(修理)担当2名が常勤で、その他牧草の刈り入れ時期には臨時の労働者を雇用する。

 農場管理者の話では、現在は農場面積と頭数のバランスが取れている状態だが、今後は年1回春の出産に絞り、頭数を調整していく予定とのことであった。子牛生産の約4割が購入精液による人工授精で、2005年は10月15日から12月30日の間に実施した。

 母牛は平均6産するが、チリの一般的な農家では、4〜5産とのことである。
2005年は18〜24カ月齢の470頭を出荷。出荷体重は約490キログラム/頭。

PABCO登録農場内の肥育用牧区

 

5. 終わりに


 現地を訪問中に日本の米国産牛肉輸入再開が報じられ、訪問先ではチリ産牛肉の価格の下落を懸念する声が聞かれた(その後、2006年1月20日に米国産牛肉の輸入は再度停止された)。これまでの輸出の好調さは米国産牛肉の禁輸に負うところが大きいというのが、チリ国内の関係者の大方の見方であり、この好調さを維持するために、今後はチリ産牛肉の信頼を勝ち得ていくことを課題としている。

 一方、2006年1月には、OIEよりBSE清浄国としての暫定的承認プロセスが順調に進んでいることが明らかにされた。この承認により、EUが昨年8月に実施したリスク評価が誤りであったとチリは主張している。現在、暫定清浄国と認められているのはアルゼンチンを含め4カ国のみであることから、今回のOIEによる評価が正式に承認されれば、チリの衛生条件が世界的に保証され牛肉輸出の追い風となるものと思われる。

 地理的条件に恵まれ、また衛生状況の強化を背景に豚肉の輸出を伸ばしてきた実績もあることが強みでもある。本文中で何度も触れたが、南米で唯一の「口蹄疫ワクチン不接種清浄国」という国際ステータスとFTAを味方に今後の輸出拡大は確実となろう。

 他方、最大の輸入先であるアルゼンチンでは、政府のインフレ対策の一つとして牛肉の国内価格の抑制があり、このため国内需要を確保する手段として、輸出を抑制する措置なども採られており、また、ブラジルでの口蹄疫発生による全面的な輸入禁止措置、さらに2月のアルゼンチンでの口蹄疫発生による南緯42度以北の地域からの輸入禁止も加わり、近隣国からの輸入を増やし自国産牛肉を輸出に回そうというチリの思惑通りに進むのか、今後の動向が注目される。


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