欧州委、動物福祉に関する5年間の行動計画を公表


動物福祉に関する5年間の行動計画

 欧州委員会は1月23日、2006年から2010年までの5年間の動物の保護および福祉政策の改良のための具体的な行動計画を採択し、公表した。この行動計画は、動物福祉に対する取り組みが、EUのすべての分野や関係する第三国において、今後何年にもわたって最も効果的に実施されることを目的とし、以下の5分野の行動計画から構成されている。

(1)動物福祉の最低基準の引き上げ

(2)動物福祉分野における研究および動物 試験における「3つのR」の原則(replacement(代用)、reduction(減少)、 refinement(改良))の促進

(3)動物福祉に関する表示の規格化の導入

(4)家畜飼養者や一般国民を対象とした動物福祉に関する情報の共有および提供の促進

(5)EUの動物福祉分野における国際的な 主導的立場の保持

 今回の公表に当たり、キプリアヌ委員(保健・消費者保護担当)は、「動物に対する保護および福祉は極めて重要なことであり、倫理や道徳的な理由のみならず、動物の健康や食品の品質向上に資するものである。欧州委員会は、今回の行動計画の作成に当たり、消費者、利害関係者、科学者、国際機関の意見も反映させており、今後5年間の取り組みにより、引き続き、EUの基準は世界で最も厳しいものとなる」と述べている。


これまでの動物福祉に対する取り組み

 EUレベルでの動物福祉に関する法規制は74年の動物のと畜時の取扱いに関する規則から始まった。その後、関連規則の整備が進められ、98年には農場段階での家畜の保護に関する一般規則が制定されている。それには「飢え・渇き、不快、痛み・けが・病気、通常行動の制限、不安・ストレス」といった動物福祉に反する「5つの項目からの解放」の原則が規定されている。この一般規則とは別に、畜種(牛、豚、採卵鶏)ごとにその飼養に係る最低条件などを規定した理事会指令も存在する。

 また、99年5月に発効したEUの憲法ともいうべき「アムステルダム条約」においては、動物を「感受性のある生命体」として定義し、EUや各加盟国は法規制も含め、動物福祉に最大限の配慮を払う必要があるとしており、このことがEUにおける動物福祉政策の根底となっている。

 なお、EUは、この動物福祉への対応のさらなる徹底を図るため、2007年1月より、共通農業政策(CAP)における直接支払いの受給のための共通順守事項(クロス・コンプライアンス)に、動物福祉に関する3つの規則の条件も追加することとしている。


動物福祉の表示による差別化

 今回の行動計画の一つである「動物福祉に関する表示の規格化」は、消費者に対し、動物福祉に関する諸規則を順守して生産された家畜由来の製品であることを表示により情報提供しようというものである。動物福祉への取り組みの結果、国際競争において不利な状況となるEUの生産者にとって、この表示の導入がある程度の補償となることを期待している。

 欧州委員会が昨年6月に公表した消費者の意識に関する調査結果においては、74%が「商品の選択を通じて動物福祉の改善に貢献できると信じている」と回答し、また57%が「動物福祉規則を順守して生産された家畜由来の製品を、より高い値段でも喜んで買う」と回答している。

 なお、具体的な行動計画としては、2008年までに、鶏肉および鶏肉製品における動物福祉に係る表示制度導入の可能性について欧州理事会および議会に報告書を提出することとしている。


WTO交渉における主張

 動物福祉の重要性に対する国際的な統一見解は無く、国によりその対応には温度差がある。EUは、この結果、経済性追求の観点においては負の要素となる動物福祉に対する取り組みの差により、国際貿易の競争においてゆがみが生じているとしている。このため、適切な対応が必要として、2002年以降、WTO農業交渉において、動物福祉を国際的な取り組みとするべく提案を行っている。

 なお、このことが新たな貿易障壁の創設となるのではないかとの批判に対し、提案の趣旨を、貿易が動物福祉への取り組みを阻害しないようにするため、EUのより厳密な動物福祉の基準の設定が貿易上の不利とならないようにするためであると説明しており、これを否定している。


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