特別レポート

米国の畜産物需給見通し

畜産振興部 畜産振興第2課 新田 京子
ワシントン駐在員事務所   唐澤 哲也

1 はじめに

 2月16、17日に米国ワシントンD.C.で開催された米国農業観測会議(Agricultural Outlook Forum 2006)に出席する機会を得たので、その概要を紹介する。


 この会議は、毎年、この時期に米国農務省(USDA)の主催で行われている。今年も、米国における主要農産物の生産、消費、輸出入などの需給状況や今後10年間(2006年〜2015年)の長期見通しを示すとともに、食料・農業にかかわるさまざまな議論が行われた。スピーカーは、ジョハンズ米農務長官やポートマン米通商代表をはじめ130人以上に及んだ。

 今年のテーマは、「農村部における繁栄(Prospering in Rural America)」で、農業観測のほか「農業政策(Farm Policy)」、「環境保全(Conservation)」、「産品に関する経済予測(Economic Outlook for Commodities)」、「グローバル化と米国貿易(Globalization & U.S. Trade)」、「動物衛生(Animal Health)」「バイオ技術の開発(Bio-tech Development)」といったカテゴリーで議題が設けられてセッションが行われた。


2 牛肉 ―飼養頭数の拡大続く―

(1)肉用牛飼養頭数の推移

 2005年の肉用牛飼養頭数は、8年間にわたる減少後、上昇局面に入って2年目となった。2年間の飼養頭数拡大のペースは、前回の拡大開始時(91、92年)における状況と同様である。

 2006年1月1日現在の牛総飼養頭数は、前年比1.7%増の9,710万頭となった。うち、肉用未経産牛の頭数は同4%増となり、2006年に子牛を生産すると見込まれる未経産牛頭数も同2%増となった。2005年の子牛生産頭数は3,778万頭と比較的低い水準であった前年よりも1%近く増加した。

図1:肉用牛の飼養頭数

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(2)生産量

 2006年における牛肉生産量は、2005年の247億ポンド(1,120万トン)から約260億ポンド(1,179万3千トン)へと5.3%増加するとみられる。

 2006年1月1日時点のフィードロット飼養頭数は、前年より3%高く過去3番目の記録となる1,410万頭となった。また、肥育素牛供給頭数は、前年を2%上回るものと見込まれる。昨年7月にカナダからの30カ月齢未満の生体牛の輸入が再開され、2005年は55万8千頭が輸入された。2006年のカナダからの生体牛輸入は、引き続き30カ月未満の牛に限定されるが、輸入頭数としては100万頭程度になると見込まれる。

 2006年の肥育牛出荷頭数は前年よりも3%増加し、また、と畜総頭数は前年を5%上回るものとみられる。去勢牛および未経産牛のと畜頭数は過去2年間変化がなかったが、カナダからの生体牛の輸入が増えることから、2006年のこれらのと畜頭数は増加すると見込まれる。2005年の経産牛と畜頭数は、前年を約6%下回ったが、2006年には前年を2%上回ると見込まれる。2006年の平均枝肉重量は、1頭当たり13ポンド(5.9キログラム)増えて763ポンド(346キログラム)に増加した2005年をわずかに上回るものと見込まれる。

(3)価格

 2005年のチョイス級肥育牛価格は、生体100ポンド当たり87.28ドル(キログラム当たり227円、1ドル=118円)と過去最高を記録した。2006年の肥育牛価格は同83〜87ドル(同216〜226円)とわずかに低下するものと見込まれる。また、2005年の小売価格はポンド当たり4.09ドル(同1,064円)であったが、競合する食肉の供給量が増加し、また、牛肉の生産量も増えることから、小売価格はポンド当たり3.9ドル台(同1,015円程度)になると見込まれる。

図2:肥育牛の価格

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(4)輸出

 2006年の牛肉輸出量は、多くの国で米国産牛肉の輸入を再開することから、前年より3割増の9億ポンド(41万トン)と見込まれる。2005年の牛肉総輸出量は6億8,900万ポンド(31万3千トン)であるが、主要なアジア市場である日本と韓国の輸入停止が継続していたため、BSE発生前の2003年の輸出量のわずか27%にすぎない。このため、米国産牛肉の輸出国として、メキシコ、カナダが大きな地位を占めている。

(5)輸入

 2006年の牛肉輸入量は、2005年よりも3%減少の35億ポンド(158万8千トン)と見込まれる。2005年は豪州とニュージーランドからの牛肉輸入量が前年比2%減少したが、豪州およびニュージーランドは牛群の再構築途上であるため、2006年も引き続き、これらの国からの牛肉輸入量は減少すると見られる。また、2005年のカナダからの牛肉輸入量は前年より3%増加したが、2006年の輸入量はほぼ前年並みと見込まれる。

図3:牛肉の輸出入

資料:USDA
注*:2006年は予測値


3 豚肉 ―緩やかな増加―

(1)豚の飼養頭数

 2006年の豚飼養頭数は、2005年同様に緩やかに拡大を続けると見込まれる。2005年12月1日現在の豚飼養頭数は前年を0.4%上回る6,120万頭となった。繁殖豚の飼養頭数も前年をわずかに上回っており、一腹当たりの産子数は、2005年の9.01頭から2006年9.06頭に増加することが見込まれるため、子豚生産頭数はわずかに増加すると見込まれる。

(2)生産量

 2006年のと畜頭数は、国内の供給増に加え、カナダからの生体豚の輸入増により、前年を2%上回る1億560万頭になると見込まれる。カナダ政府による米国産トウモロコシのアンチダンピング問題による相殺関税などが継続されれば、カナダからの2006年の生体豚輸入頭数はさらに増加すると見込まれる。2006年の生体豚輸入頭数は、前年を50万頭上回る870万頭に達し、うち3分の2が肥育用素豚であるとみられる。2006年の豚肉生産量は、212億ポンド(961万6千トン)に達し、207億ポンド(938万9千トン)という記録的生産であった2005年を2.5%上回るものと見込まれる。

図4:豚肉の生産量

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(3)肥育豚価格

 
2005年の全国平均の肥育豚価格は100ポンド当たり平均50.05ドル(赤身率51〜52%、以下同じ、キログラム当たり130円)で、前年を5%下回った。2006年の肥育豚価格は100ポンド当たり42〜45ドル(同109円〜117円)と予想されており、昨年に比べ13%安となる見通しである。これは、豚肉の生産量が引き続き増加することに加え、競合する他の肉類の生産も増加するためである。また、豚肉輸出の伸び率も前年比20%以上の伸びとなった2004、2005年に比べて鈍化するとみられる。

 肥育豚価格は、季節的要因で第2四半期に100ポンド当たり45〜47ドル(キログラム当たり117円〜122円)とピークを迎えた後、年末にかけて減少する見込みである。

図5:肥育豚の価格

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(4)輸出入

 2006年の豚肉輸出量は、記録的であった前年をさらに4%上回る27億6千万ポンド(125万2千トン)に達する見込みである。米国産豚肉は、アジア市場におけるBSEと鳥インフルエンザによる牛肉および鶏肉の輸入停止による需給ギャップを埋めるための代替となっている。2番目の輸出先国であるメキシコへの2004年の豚肉輸出量は、牛肉の輸入量が増加したため、1%未満の伸びであった。ただし、メキシコの豚肉需要は引き続き堅調であり、2006年にはさらに増加する可能性がある。

 2006年の豚肉の輸入量は、2005年より2%減少して10億ポンド(45万4千トン)と見込まれる。カナダは米国の豚肉輸入量の83%を占めているが、生体豚輸出頭数が過去3年にわたり拡大していることや、米ドル安によるカナダ産豚肉の価格優位性が薄れているため、カナダからの豚肉輸入量は減少している。

図6:豚肉の輸出入

資料:USDA
注*:2006年は予測値


4 鶏肉 ―生産の拡大続く―

(1)生産量

 2006年の生産量は353億ポンド(1,601万2千トン)に達した前年よりもさらに2%増加し361億ポンド(1,637万5千トン)に達すると見込まれる。過去2年でそれぞれ4%上昇し、価格も高水準で推移した。生産量の増加への寄与は、生体重が3%上昇し、出荷羽数が1%増加したことによる。2006年は、鳥インフルエンザの影響による貿易の不確定要因が高まるとともに、2005年末の鶏肉在庫の積み増しや、昨年秋以降の鶏肉卸売価格の下落により、今年の生産量はわずかな増加にとどまるとみられる。

図7:鶏肉の生産量

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(2)価格

 2006年の鶏肉価格(12都市平均の丸どり卸売価格)は、2005年平均のポンド当たり73.4セント(キログラム当たり191円)という記録的な価格から低落し、同65〜69セント(同169円〜180円)で推移すると見込まれる。最近の高収益を背景とした生産増と、牛肉価格と豚肉価格の低下により、競合する鶏肉価格も下落すると予想される。

図8:鶏肉の価格

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(3)輸出

 2006年の鶏肉輸出量は前年より約5%増加し、54億ポンド(244万9千トン)と見込まれる。しかし、輸出状況は、鳥インフルエンザのため流動的であり、アジアと東ヨーロッパの一部においては、鶏肉需要が落ち込んでいる状況にある。2005年の輸出量は2004年から約8%上昇し、51億5千万ポンド(233万6千トン)であった。しかしながら、2005年の第4四半期の鶏肉輸出量は前年同期を約14%下回った。ロシアや他の独立国家共同体、バルト三国および東ヨーロッパへの12月の輸出量は、鳥インフルエンザと鶏肉への需要減に対する懸念から急激に減少した。2006年上半期の鶏肉輸出量は昨年同期より減少するが、鳥インフルエンザの懸念が収まると下半期には回復すると見込まれる。鶏肉価格の下落も輸出の増加を後押しするとみられる。

図9:鶏肉の輸出

資料:USDA
注*:2006年は予測値


5 酪農 ―好調に推移する経営収支―

 2005年は、前年に引き続き、生乳生産量、牛乳乳製品の需要量ともに記録的な高水準となった。2006年は、生乳生産量は引き続き拡大を維持するものの、需要量の伸び率を上回ることから、生乳価格はかなり低下するものと見込まれる。

(1)2005年の動向

 生乳価格は記録的な高値となった前年を下回ったが、引き続き高水準で推移した。経産牛頭数は引き続き増加し、生乳生産量は1頭当たりの泌乳量が回復したことにより増加した。生乳-飼料価格比率(Milk-feed price ratios, 1ポンドの生乳の価格を16%のタンパク質を含有するトウモロコシ、大豆ミール、アルファルファの複合飼料1ポンドの価格で除したもの)は2004年より高く、生産の増加に寄与した。これはrBST(牛成長ホルモン)の流通量の増加、好天候およびアルファルファの適正な供給によるものである。

 90年代初期以降、最高の生乳生産量の増加にもかかわらず、価格の低下は比較的小幅なものであった。これは国内および海外の需要の増加によるものであり、生乳価格は昨年より90セント下落した100ポンド当たり15.15ドル(キログラム当たり39.4円)にとどまった。

図10:経産牛の飼養頭数、一頭当たりの乳量、
   生乳の生産量(1995年=100)

資料:USDA
注*:2006年は予測値

(2)2006年の予測

 生乳生産量は、前年比3%弱の増加が見込まれる。これは過去2年間の収益性の向上を反映したものである。生産量の増加は経産牛頭数の増加および1頭当たりの泌乳量が増加することが要因となっている。また、比較的安定した飼料価格も生産量の増加に寄与すると思われる。

 収益は、前年に比べ減少すると予想されており、生乳所得損失契約プログラム(MILC)により価格の下落影響を若干緩和するものの、酪農家の離農のペースは上がるものとみられる。しかし、短期的にみると、大部分の酪農家は収益性の低下に対処できるものとみられる。また、酪農協共同事業(CWTプログラム(Cooperatives Working Together))の搾乳牛とうたプログラムの実施により、離農が高齢者層を中心に進んでいるとみられるため、廃業のペースの増加についてはわずかなものになると見込まれる。

 酪農家の規模拡大は引き続き図られるが、更新用未経産牛価格が高騰していることから、その増加は限定的になるとみられる。

 一頭当たりの乳量も過去の趨勢と同じく前年比2%程度の増加が見込まれている。


6 2007年農業法やWTO農業交渉などに対する米国の取組への決意

 今回の会議冒頭の講演において、ジョハンズ米農務長官は、今次WTO農業交渉の終了を待つことなく、次期農業法に向けた農業政策の提案を行う必要性を強調した。また、ポートマン米通商代表部はWTOの合意に向けて、市場アクセスの改善などに積極的に取り組んでいくことを表明した。その発言概要は以下のとおりである。

(1) ジョハンズ米農務長官

(1) 地方の経済構造変化の認識が重要

 かつて農村経済へ多大な貢献をしていた農業の役割は、近年劇的に変化している。

 このことは数字に如実に表れており、例えば農用地の2/3を所有する92%の生産者はその収入源を農外収入に多く頼っており、農業は唯一の収入源でもなければ、多くの場合1番大きな収入源ですらなくなってきている。最近、ファーム・ビューロー(全米最大の農業者団体、AFBF)が公表したレポートでも、「農村共同体が農業者に依存している以上に、農業者は農村共同体に依存している」と述べられている(筆者注:農業に対する補助により地域社会に貢献するのではなく、就業機会の多様化など農村経済の発展が促進されることによって農家が利益を受ける形に変化していることの比ゆ)。これらのことから、今後は、地域経済の発展に対して特別の注意を払う必要がある。

 2002年農業法は正当な政策であったと繰り返し述べてきたが、今後の政策は、このような米国の農村経済が直面している変化を十分認識した上で、人々が地方の社会的地位および価値あるライフスタイルを選択可能となるよう、多くの経済機会を提供しなければならないものと考える。

(2)新農業法に向けた農業政策の提案が先決

 現在行われているWTO農業交渉における合意内容を盛り込むため、現行の2002年農業法を同交渉が終了するまで延長すべきであるとの提案もある。

 しかし、私は、このような延長は、米国の農村社会のためには間違った選択であると断言する。農業政策の策定に当たり、WTO農業交渉の結果を待つことや、新農業法を延期することは、今後10年間の農村における農業経済の成長の基盤を築く機会を見過ごすことになるであろう。

 昨年10月、ブッシュ米大統領は、相互的な輸出補助金の撤廃と市場アクセスの拡大を引き換えに、関税および貿易わい曲的な国内補助金の大幅な削減と将来的な撤廃を提案した。競争力のある米国農産物にとって、貿易の自由化は決定的な重要性を持っていることを考慮すると重要なことである。また、貿易の自由化は貧困の撲滅に役立つことも忘れてはならない。

 当該提案は、今次交渉の推進の原動力となっており、現在交渉相手国に対し米国の野心的な要求に応じるよう求めているところである。

(3)公平かつ正当なプログラムの提供が重要

 現在の農場支持プログラムでは、全体の3%の農場がプログラム全体の30%の支持を受け取っている。また、米国内の第一次産業における支持プログラムの92%が、5品目(トウモロコシ、大豆、小麦、米、綿花)の農作物に偏っており、全農業者の3分の2は、最小限の支援のみしか受けていない現状である。このような不公平感に対する懸念は明確であり、今後、貿易交渉への支持を得るためにも、当該問題については是正しなければならない。

(2) ポートマン米通商代表

(1)貿易は米国農業の成功のために不可欠

 農業収入の27%は諸外国との貿易によるものであり、米国農産物の潜在的な消費者の95%が外国に居住している。

(2)WTOについて

 WTOにおいて農業は主要な交渉分野である。それは、貧しい国々にとって農業が重要な産業であること、高い関税に守られ最も多くの補助金を受けていること、輸出補助金をつけて輸出されていることからも明らかである。世界銀行の報告を例に取ると、ドーハラウンドによる利益のうち、おそらく63%が各国の農業の発展に資するものとなり、そのうち93%が市場アクセスの改善によってもたらされる。これらのことから、市場アクセスの改善は特に重要な課題である。

(3)FTAについて

 FTA交渉においても関税の削減だけでなく、その他の貿易障壁の解決に米国はさまざまな手段を講じており、成果を上げている(米・中米自由貿易協定(CAFTA-DR)、韓国、ペルーおよび現在交渉中のFTA交渉にも言及)。


7 おわりに

 USDAは先頃、同省が2005年に約6カ月間にわたり開催した2007年農業法に関するフォーラムで、農業関係者などから出された意見および同年末までにウェブサイトなどを通じて提出されたパブリックコメントの要約作業を完了し、4,000件以上に及ぶ意見を41の課題ごとに集約した意見概要を公表した。

 当該公表された資料は、各課題ごとに、背景、一般的な意見の概要、具体的な提案の3つの項目から構成されており、今後、USDAによる新たな農業政策の検討の基礎として、また、2007年農業法の立案に向けた分析資料として活用されることとなる。

 同農務長官は、今回公表した資料が、今後の農業政策に関する米国民の議論の焦点を縮小するための一助となることを期待するとともに、2007年農業法の立案に向けUSDAの次なるステップは、今般公表した資料から、さらなる分析が必要なテーマを収集することであるとの意欲をみせた。

 本年末までの最終合意の期限が迫るWTO交渉、また、世界各国においてFTAの締結など、さらに統合が加速する世界経済の中で、米国の新たな農業政策の提案に向けた動きが加速している。


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