2005年の中国の乳業情勢


中国の乳製品輸出は引き続き好調

 中国農業部(農業省に相当)は先ごろ、2005年における乳業情勢について公表した。これによると、前年に比べ、中国における乳牛の飼養頭数および牛乳・乳製品の生産量は増加したものの、都市部における牛乳・乳製品全体の消費量はわずかに減少した。

 また、乳製品の貿易については、輸入数量は前年に比べ8%近く減少したものの、輸入金額は3%強とやや増加した。一方、輸出は量・金額ともに大幅に増加した。輸出入とも、量の伸び率に比べ、金額の伸び率がそれを大きく上回ることから、人民元レート上昇の影響も一部にはあると思われるが、中国のアナリストは、全般に中国の貿易が、低価格帯中心から高価格帯へと移行していると分析している。

表1 中国の乳製品輸出入状況(2005年)

 中国の酪農は、かつては遊牧民による自給自足型のものが中心であったが、改革開放政策以降、急速な発展を遂げてきた。加えて、著しい経済発展に伴う生活水準の向上などにより、都市部を中心に食生活の洋風化が進み、牛乳をはじめ酪農製品の消費も拡大傾向を示してきた。

 中国では89年、酪農乳業が、国家経済の発展を推進するための重要産業として初めて位置づけられた。97年には、「全国栄養改善計画」によって、酪農乳業が重点的な発展産業とされ、2000年からは、「学童牛乳飲用計画」の実施により、学童の飲用牛乳の摂取が促進されることとなった。

 こうした消費の拡大や政策的な誘導に加え、光明乳業股分有限公司(注:股分有限公司=株式会社)や内蒙古伊利実業集団股分有限公司、内蒙古蒙牛乳業集団股分有限公司など主要企業の成長もあり、ここ数年来、中国の酪農乳業は著しい発展を見せてきた。


生産量は増加するも、都市部の消費は減少

 農業部の公表資料には、「乳牛の飼養頭数および酪農製品の生産量は引き続き増加した」との記述しかないが、米国農務省(USDA)によると、中国の2005年の乳牛飼養頭数は、前年比22.6%増の約670万頭(概数)で、前年の増加率(22.4%)をわずかに上回っている。生乳生産量は同23.9%増の約2千8百万トンで、前年の増加率(29.5%)に比べ、その伸びが鈍化している。また、中国で生産される主要乳製品である粉乳の生産量については、脱脂粉乳が前年比11.8%減の6万トン、全粉乳が同10.3%増の91万8千トンであるが、両者の合計では、前年の増加率(8.0%)を上回る前年比8.7%増の97万8千トンとなった。

 一方、全国の都市部における牛乳・乳製品の年間一人当たりの消費量は、粉乳が前年比2.1%増、ヨーグルトが13.5%増と引き続き伸びているが、小売価格の上昇や、これまでの急激な需要増加の速度が落ち着いてきたことなどもあり、牛乳については、同4.6%減の17.93キログラムとなり、牛乳・乳製品全体では、同1.6%のマイナスとなった。

 また、2005年の全国の都市部における牛乳の平均価格は、一人当たりの消費量はやや減少したものの、堅調な需要などを背景に、前年比2.9%高の500グラム当たり2.19元(32.2円:1元=14.7円)となった。

表2 全国の都市部住民1人当たりの牛乳・乳製品消費量


酪農乳業の発展が環境問題に

 中国の酪農乳業の急激な発展の裏では、乳牛の排せつ物や敷料、飼料残さなどの廃棄物による環境汚染が大きな問題となっている。

 前掲のとおり、USDAによる中国の乳牛飼養頭数は、2000年(228万頭)から2005年までの5年間で、年平均24.1%の伸び率で急増している。しかし、国内では、飼養頭数の増加速度に家畜排せつ物などの処理施設の整備が追いつかず、大量の酪農廃棄物が未処理のまま排出され、環境汚染を引き起こす例が増加しており、特に都市郊外では、問題が深刻化しているとの指摘もある。

 また、中国の酪農地帯の一つである黒龍江省の一部の地域などでは、90年代まで香港へ子牛肉(Veal)向けとして出荷していたホルスタイン種の雄子牛が、他品種の子牛肉などに押されてほとんど需要がなくなり、生産コストや技術面の問題などから、役に立たないものとして、生まれて間もなく庭先などでと畜される例も急増しているという。

 このように、酪農乳業の発展により乳牛頭数が急増する中、中国の酪農乳業が今後とも持続可能な発展を遂げるためには、環境問題に加え、飼養頭数の急増に伴って増加する雄子牛の利用技術の確立に関する問題などについても克服していく必要があるといえる。


元のページに戻る