特別レポート

豪州の牛乳消費−消費量回復の背景には−

シドニー駐在員事務所 横田 徹、井田俊二

はじめに

 日本をはじめ主要先進国の多くでは、消費者の生活スタイルの変化や多種多様な飲料のはんらん、また、し好の変化に伴う脂肪分を懸念する動きなど、さまざまな問題・状況を背景に一人当たりの牛乳消費量は、年々、停滞傾向にある。一方、このような中で、主要先進国の中にあって、豪州では、2002/03年度(7〜6月)を境に落ち込んでいた牛乳の消費量が上向きに転じ、2004/05年度には国民一人当たりの牛乳消費量が年間100リットルにまで回復してきた。

 豪州は日本などと比べて、食文化の違いなどから日常の食生活を通じての牛乳・乳製品の消費機会が多いこと、また、人口の増加に伴い牛乳消費量全体の増加は想定されるが、しかし、これらは、一人当たりの牛乳消費量の増加に、直接、結び付くものではない。

 では、豪州でその消費回復に向けてどのような取り組みがなされてきたのか、また、消費者は牛乳に対してどのようなイメージを持ち、実際、どのような形で牛乳を消費しているのか。それらの状況について、具体的事例を取り上げながら探ってみたい。

 ※ここでは、飲用乳(普通牛乳、部分脱脂乳、低脂肪乳、乳飲料などの製品)について、特に注記がない限りすべて「牛乳」と表記しています。


− 牛乳消費を牽引するカフェ文化 −(詳細は文中)

1.牛乳消費拡大活動の状況 −キーワードは母親、女性、そして児童−

 豪州での牛乳消費拡大に対する取り組みは、デイリー・オーストラリア(DA:Dairy Australia)がその中心的な役割を担う機関として位置付けられている。このDAは、2003年に当時の乳製品の一元輸出機能を有していた豪州酪農庁(ADC:Australia Dairy Corporation)と酪農分野での研究開発機関であった酪農開発研究公社(RDC:Research and Development Corporation )とが統合し、業界所有のサービス組織として新たに設立されたもので、牛乳・乳製品の消費拡大に対する取り組み資金は、酪農家が支払う課徴金から拠出されている。また、研究開発計画については、連邦政府の民間対応資金から資金援助を受けている。

 ここでは、DAが現在行っている6つの消費者向け牛乳(乳製品)消費拡大活動を取り上げる。これらの活動の特徴は、主に母親や女性、児童を通してその消費拡大を図るという狙いがあり、いずれの活動も相互に連携していることに注目したい。


 ○ 「Dairy The Food of Life」
   
−牛乳・乳製品は生涯の糧−

 「Dairy The Food of Life」と名付けられたこのキャンペーンは、従来行ってきた個別乳製品ごとの消費拡大活動を見直し、市場調査などの結果を踏まえて2001年2月から「牛乳・乳製品」を総合的にPRする取り組みに改めた。その後、開始から3段階を経て、現在の「3 serves a day(1日3回、または3品の乳製品を)」の活動に至っている。

 このキャンペーンでは、牛乳・乳製品について以下の3つのテーマを掲げ、女性誌を中心とした出版物、また、インターネットやほかの広報活動などを通じ、消費者にアピールしている。


− 新しいキャンペーンのロゴ −


 「Nutrients in Dairy」(栄養価が高い牛乳・乳製品)

 牛乳などの乳製品には、幼児期の子供の骨と歯の形成に必要な特定の栄養素を多く含んでいるが、残念なことに多くの子供たちは、その必要基準に達していないとされている。このため、母親などを対象に「3serves a day」の活動を通して、子供が1日当たりに必要とするカルシウムの摂取目安量を周知することで、栄養価の高い牛乳・乳製品の消費拡大を図るというもの。

 「Contemporary Trends」(牛乳・乳製品は最新の流行)

 牛乳・乳製品はそのままでも美味しいことはもちろん、さまざまな料理に利用できる最新の食材として位置付けている。特に母親は、家族の栄養管理や友人を招いての食事に大きな労力を有しており、牛乳・乳製品を用いたさまざまな料理方法を伝えることで、母親の労力を軽減し、あわせて牛乳・乳製品の消費拡大を図るというもの。具体的には、料理レシピや牛乳・乳製品を用いたソース、ドレッシングなどの作り方などの提供、また、消費者を対象に牛乳・乳製品を用いた新たな料理方法の募集(懸賞つき)などを行っている。

 「Weight Management」(牛乳・乳製品はダイエットに有効)

 科学的な見地に基づき、牛乳・乳製品がカロリーコントロールダイエットに非常に有効な手段であることを、女性誌などを通じて広め、牛乳・乳製品の消費拡大を図るというもの。

 特に、ここでは、低カロリー食によるダイエットを行っているケースを想定し、毎日3回の食事の中で、低脂肪の牛乳・乳製品を一緒に取ると、体重や脂肪を少なくする効果があるとしている。


−「Waists Love Dairy」
−(スリムな)ウエストは乳製品が好き−


− 3 serves a day −

 豪州における「3 serves a day」活動では、一日当たりの牛乳・乳製品摂取量の目安として、(1)牛乳1杯(250ミリリットル)、ヨーグルト1個(200グラム)、(2)チーズ2枚(40グラム:スライスチーズ2枚相当)を理想としている。これを取れば9〜11歳の子供や成人男女に必要な1日当たりのカルシウム摂取目安を、ほぼ、達成できるとしている。

 具体的な摂取手段として示されているのが、「朝食時にコーンフレークなどのシリアルと牛乳、フルーツにヨーグルトを添えて。昼食時にはチーズを挟んだサンドイッチなど」である。脂肪分が気になる人には、低脂肪乳や低脂肪ヨーグルトの利用を勧めており、毎日の生活の中で、特に意識せずに十分なカルシウム摂取ができる方法としている。


 ○ 「Love Dairy」
   
−牛乳・乳製品は生涯の糧−

 新たな取り組みとして、2004年11月から「Love Dairy」(牛乳・乳製品が好き!)と名付けられた母親、子供などを対象としたキャンペーンを実施している。

 この「Love Dairy」は、女性雑誌や子供向け雑誌などを通じて「Dairy The Food of Life −牛乳・乳製品は生涯の糧−」キャンペーンの内容をわかりやすく伝え、消費者に牛乳・乳製品への関心を持ってもらい、それによる消費促進を目的としたもの。

 一例を挙げれば「お腹をすかせた子供たちに栄養バランスの良い食事を提供するため、忙しい母親は牛乳・乳製品を利用する(忙しい母親は牛乳・乳製品が好き)」、「スナックなどお菓子類の好きな子供は栄養が偏りがちのため、冷蔵庫には常に牛乳・乳製品を絶やさず、それを子供たちへのスナック代わりとして(子供達は牛乳・乳製品が好き)」などがある。


−成長期の子供はミルクが好き−
(「Love Dairy」の広告から)


 ○ 「New Dairy Culture」
   −新しい牛乳・乳製品文化を−


 「New Dairy Culture」(新しい乳牛・乳製品文化)と名付け、いわば“カフェのマニュアル”的なものとして位置付けている。具体的には、160ページからなる牛乳など6種類の乳製品(牛乳、生クリーム、ヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリーム)を用いた飲み物や料理のレシピを作成し、季節の果物や食材を活用した新しいメニュー展開のアイデアを提示することで、カフェなどで牛乳・乳製品メニューを拡大させ、これを通じて消費者への新しい牛乳・乳製品文化の浸透を図ることを目的としている。

 ○ 「World School Milk Day」
   −小学生対象のコンテスト−


 国連食糧農業機関(FAO)により2000年から始まったこの「World School Milk Day」(世界中の学校で牛乳を楽しむことを目的に、毎年9月末に世界30カ国以上で行われている催し)の一環として小学生を対象に行っているキャンペーン。各学校の生徒から牛乳・乳製品消費に関連したイラストを募集し、優秀な作品には学校、生徒に対して商品などを提供するなど、学校教育の現場で牛乳・乳製品に対して広い関心を持たせることに狙いをおいたもの。


− 2006年の学校向けポスター

−2006年は、カウパレードに参加−

  2006年の「World School Milk Day」は、「Milk It!」のタイトルの下、主要酪農生産地を抱えるビクトリア州の小学校による「カウパレード:スイス発祥の世界的なアートイベントで実物大の乳牛像にカラフルなペイントを行うもの」への参加が初めて行われた。従来は、著名なアーティストが手がける作品が中心となっていたが、今年は、酪農への関心を広げることを目的に、小学校ごとでの参加形態となった。優秀な作品は、豪州の2大農業祭の一つであるロイヤル・メルボルン・ショーで表彰し、学校活動に役立てるため商品券などが授与された。


丈夫な骨と栄養などをテーマとした優勝作品


 ○ 「Australian Grand Dairy Awards」
   −消費者向け乳製品コンテスト−


 牛乳・乳製品に対する消費者の関心を刺激するため、国内で製造される牛乳・乳製品を対象に、毎年、優秀と認められた製品を表彰するもの。各地域の農業祭などで最高の成績を収めた製品のみを対象に争われ、18のカテゴリー別に分けて審査が行われる。なお、2006年は、牛乳が数年ぶりに優秀賞の一つに輝いている。消費者にとっては、ここで審査され、優秀と認められた製品が「最高の中の最高」と認識でき、品質、味わいが確かなものとして牛乳・乳製品購入時の手助けになっている。

 ○ 「National Healthy Bones Week」
   −骨粗しょう症対策キャンペーン−


 骨粗しょう症対策と連動した牛乳など乳製品消費の促進を目的としたキャンペーン。医師や科学者などで構成される骨粗しょう症対策団体(Osteoporosis Australia)との共催により毎年8月に実施し、2006年で12回目となる。キャンペーンのタイトルは「Your Bones Your Life(あなたの骨はあなたの人生です)」と「骨密度=人生の密度」を連想させるなど、骨粗しょう症の防止の必要性を訴えながら、それを解決する手段としてカルシウムを手軽に摂取できる牛乳など乳製品の消費が重要と呼びかけている。

 キャンペーンンの主な内容は、牛乳など乳製品の摂取が骨祖しょう症の防止につながるという科学的見地に立ったPR活動を中心としており、「3 serves a day(1日3回、または3品の乳製品を)」のキャンペーンと連動して、幼児期、青年期、成人期のそれぞれ男女別に、骨粗しょう症防止に必要なカルシウム摂取量を定め、それに見合った牛乳など乳製品の必要摂取量を定めている。これらは、雑誌などを通したPR活動とともに、豪州各地で骨粗しょう症対策セミナーを開催している。

 人口2,000万人の豪州では、特に老年期のカルシウム不足から、骨粗しょう症は60歳以上の女性の2人に1人、男性の3人に1人が該当するとみられており、これら対象者は全世代で200万人に上ると推測されている。また、豪州国内では骨粗しょう症を原因とする骨折が8分に1人発生し、これを治療するための直接経費は年間19億ドルに達するとされる。さらに、患者の8割は、自分が骨粗しょう症であったことを把握していない。

 特にこのキャンペーンについては、豪州連邦政府の機関である全国保険医療研究協議会(National Health and Medical Research Council:NHMRC)が2005年5月、一日の食事の中で国民一人当たり摂取すべきカルシウムの摂取目標について、9歳以上の国民の摂取量を大幅に増加させたことから、その活動はより積極的となっている。


− 2006年のキャンペーン −(ホームページから)


NHMRが定める一日当たりのカルシウム摂取目標(新たな基準)



−DA、牛乳の個人消費は2%程度の成長を期待−

  DAで国内の牛乳・乳製品消費促進活動などを統括するリチャード・ラング氏は、今後の牛乳の個人消費について、大きな伸びは難しいとしながらも、2%程度の成長を期待しているとその抱負を述べた。成長を期待する要因として同氏は、いわゆる普通牛乳の消費量は、一定の段階まで減少したことで下げ止まり感があり、一方で、部分脱脂乳および脱脂乳の増加やフレーバー牛乳の高い需要を挙げており、これが全体的な消費を押し上げることから、一人当たりの牛乳消費量の拡大につながるとみている。

 また、同氏は、ここ2年の牛乳消費回復の背景には、DAが乳業界と連携してさまざまな活動を手がけてきたことが、今日の結果に現れたとしている。牛乳に対する消費者のイメージも、乳業メーカー各社が多様な製品を市場に投入したことで、従来の「古いスタイル」から「必需品」へと変化したことも大きいとみている。DAの牛乳・乳製品の消費拡大に対する予算規模は、2001年の酪農乳業制度改革を頂点に、年々、規模縮小傾向にあるが、その中で、消費拡大のカギとなる層に対象を絞ってきたことも消費回復の大きな手助けになったとしている。

 今後の消費拡大に対する狙いとして、新たな販売チャンネルの拡大、また、スーパーマーケットなどで大きな販売面積を占める清涼飲料コーナーへの進出、さらに、牛乳は消費者にとって(栄養面などから)非常にメリットのある商品であることを強く伝えることで、牛乳の消費拡大につなげたいとしている。


リチャード・ラング氏
(DA国内市場統括マネージャー)

2.牛乳消費の状況 −販売、消費はどのように行われているのか−

 豪州で販売される年間約21億リットルの牛乳の半分は、スーパーマーケットなどの小売店を通じて直接、消費者の元へ、残りの半分は外食産業を通じて消費されている。このような流通経路を通して年間一人当たり100キログラムの牛乳を消費する豪州の消費者は、果たして牛乳に対しどのようなイメージを抱いているのか。また、牛乳は一般的にどのような消費形態であるのか。ここでは、具体的な事例を踏まえながらそれらの状況について触れてみたい。

 牛乳はポジティブなイメージ、丈夫な骨作りなどに重要と認識

 豪州の消費者が牛乳に対して抱く一般的なイメージとして、牛乳はポジティブな飲み物であるということが挙げられる。DAの調査によれば、消費者が普通牛乳に対して抱くイメージとして、強い骨や歯を作る(92%)、カルシウムが豊富(88%)、子供に良い(84%)、新鮮(84%)、ビタミンやミネラルを含む(81%)など、いずれも身体や健康に良いという強いイメージが打ち出されている。

 また、国民の平均寿命が世界第3位(2002年:WHO調べ)となる豪州は、人々の健康に対する関心が非常に高く、その影響からか、一般薬剤店やスーパーなどでは、カルシウム、ビタミン、鉄分などの栄養補助剤が所狭しと、陳列されている。このように健康に高い関心を持つ国民性の中で、牛乳はカルシウムなどを摂取するのに重要な手段として位置付けられている。特に、幼児期の骨格の形成に欠かせない重要な栄養素を摂取できる最適の製品という位置付けである。

 かつては、牛乳は「伝統的な飲み物」として古くさいイメージを持っていたが、最近では、牛乳消費拡大活動の成果や、また、さまざまな種類の牛乳が市場に投入されたこともあり、栄養面などから「非常に前向きな飲み物」として消費者に捉えられている。

 牛乳は物価の優等生、制度改革も影響

 ここ数年の豪州経済は、石炭や鉄鋼石など第一次産品の輸出需要や、おう盛な個人消費などを背景に成長を維持している。このため、個人所得の上昇による消費者物価上昇率は右肩上がりで推移し、食料品では過去5年間、平均で年率3.7%もの上昇率を記録した。一方、飲用乳価格を見ると、平均販売価格について99/2000年度と04/05年度とを比較した場合、この5カ年の上昇率は2.9%である。同じ畜産物である牛肉が同期間で約50%、また、比較的価格変動幅が少ないといわれる鶏卵でさえも6%を超える上昇率であったのに比べると、牛乳は価格面での優等生ぶりがうかがえる。

 牛乳価格が比較的安定した形で推移した背景には、2000年7月の酪農乳業制度改革(詳細は「畜産の情報海外編2006年1月号」参照)の影響が大きく、スーパーマーケット各社がプライベートブランド(PB)を推進したことが要因として挙げられる。スーパーマーケット各社は、牛乳をいわゆる“目玉商品”の一つとして位置付けており、小売間の競争が激化する中で、乳業メーカーのブランド製品が値上がりする中、PB製品の価格を据え置いている。数多くの食料品価格が上昇する中で、比較的価格変動幅が少ない牛乳は、消費者にとって購入を促す要因の一つと言えるかもしれない。

表 飲用乳小売価格の推移 

 

 さまざまな種類の商品を提供、容器もプラスチック製が主流

 スーパーマーケットなどの乳製品コーナーでは、実にさまざまな種類の牛乳が販売されている。いわゆる普通牛乳である「Full Cream Milk」から、部分脱脂乳の「Reduced Fat Milk」、また、低脂肪乳である「Low Fat Milk」をはじめ、チョコレートやイチゴ味の「Flavoured Milk」、さらに、長期保存が可能な「UHT Milk」まで、消費者のし好、用途に合わせて乳業メーカー、スーパーマーケット各社が入り乱れ、さまざまなブランドでの商品展開を行っている。牛乳の容量についても300ミリリットルから3リットルサイズまでと家族構成や生活スタイルを考慮した構成である。また、最近では、容器も従来の紙パックタイプのものではなく、持ち運びなどに便利なプラスチックタイプのものが主流となっている。

 最近の牛乳販売の特徴として、消費者の健康志向を反映して部分脱脂乳や低脂肪乳の販売割合が増えている。スーパーマーケット各社のPB展開が少ないこの分野では、普通牛乳に比べて価格が高く、また、利幅も大きいことから、乳業メーカー各社は特に力を入れている分野でもある。

 牛乳全体として見ると、オーガニック牛乳など特定の商品を除き、味や品質に対して大きな特長が見出せないことから、商品構成を細分化し、カルシウム増強など機能性を強化することで、消費者に対していかに製品をアピールできるかが乳業メーカー各社の課題となっている。また、一方で、それが今日の牛乳消費の回復を側面からけん引してきたとも言える。


左から1,2,3リットルのプラスチック容器

 普通牛乳「Full Cream Milk」:乳脂肪分4%未満を含む

  部分脱脂乳「Reduced Fat Milk」:乳脂肪分2%未満のもの

  低脂肪乳「Low Fat Milk」:乳脂肪分1%未満のもの

  無脂肪乳「Skim Milk」:乳脂肪分0.15%未満のもの

 フレーバー牛乳「Flavoured Milk」

乳脂肪分は牛乳や部分脱脂乳などと同様。
チョコレートやイチゴ果汁などで味を付けたもの。
加糖率は4〜8%程度と清涼飲料水の11〜12%に比べて低い


  ロングライフミルク「UHT Milk」:超高温殺菌牛乳で長期間の常温保存可能。上記製品のすべてが対象

  なお、部分脂肪乳や低脂肪乳、無脂肪乳には、プロテインやカルシウムなどを強化した製品も多い。


左から「普通牛乳」、「部分脱脂乳」、「低脂肪乳」、「無脂肪乳」

 家庭での利用は大きな要素、高い朝食時の牛乳利用率

 消費者は牛乳をどこで消費するのか。牛乳の消費に関して、家庭、外出先でそれぞれスタイルは異なってくるが、次のグラフは、成人、子供それぞれの一日の食生活における牛乳消費の割合を示したものである。これによると、成人、子供ともに、家庭での牛乳消費(朝食後から夕食前までを除いた場合)が7割以上と非常に高くなっている。さらに、朝食時の利用はそれぞれ4割以上と家庭での消費の過半を占める。一般的な家庭での消費形態としては、朝食時でのシリアル製品とともに、また、コーヒーや紅茶とともに、牛乳単独での飲用という形が上げられる。

 ここ数年、シリアル製造各社は、コマーシャルなどを通じて消費者に朝食の重要性を強く説いており、また、栄養面を強化した製品を数多く市場に投入している。また、DAも牛乳消費拡大の観点からこれらの活動を側面から支援している。このような動きも、朝食時の高い利用率と、実際の牛乳消費の拡大に寄与しているとみられる。

 牛乳は、個々の家庭で消費のスタイルは異なるものの、家庭での食生活には欠かせない食品である。なお、食事を通しての間接消費、すなわち、パスタソースやシチューなどへの牛乳の利用も忘れてはならない。また、料理の後につきもののデザートでの利用。スーパーなどでは、忙しい主婦向けのデザートとして、牛乳を混ぜさえすれば、後はオーブンに入れて焼くだけでケーキなどが作れる製品など数多く販売しており、これにアイスクリームや生クリームを添えたものが、家庭でのデザートとして利用されている。

一日の食生活における牛乳消費の割合 

 牛乳販売はスーパーが中心、ガソリンスタンドなど新たな販売チャンネルも拡大

 それでは実際、消費者が牛乳を購入するのはスーパーマーケットなのか。DAの資料によると普通牛乳の約57%、脱脂乳の約65%、乳飲料の約26%がそれぞれスーパーマーケットなど大手量販店を通して販売されている。しかし、最近の特徴として、これ以外のコンビニエンスストアでの販売量増加とともに、ガソリンスタンドでの伸びも目立っている。

 ここ数年、ガソリンスタンド各社は、大手スーパーマーケットとの提携により、ガソリンスタンドにコンビニ形態の店舗出店を加速させている。これには、ガソリンの価格競争に伴う収益の減少幅を少しでも補うという各社の思惑があり、自動車用品以外に通常の食料品、雑貨類を併せて販売する形態が増えている。

 ドライバー自らが給油を行うというセルフ形態スタンドが大部分を占める豪州では、利用者が必ず代金を払いに店内に入る。これは、見方を変えると、黙っていても店内にお客が入ってくることを意味する。そのような機会を逃さず、そこで商品を並べることで新たな販売の機会が発生することになる。


ガソリンスタンドの“milk”コーナー



−豪州のカフェ文化−

  かつてイギリスの植民地であった豪州では、紅茶文化が主流と思われる方も多いが、実際、ここではカフェ文化が広く根付いている。シドニーやメルボルンの街中を歩けば、どのブロックにも必ず数件のカフェがあり、いずれも多くの人々でにぎわいをみせている。これは大都市に限ったことではなく、地方の小さな町でも同様の光景だ。

 シドニーなどでは、すでに飽和状態とさえいわれるが、カフェは多くの人々にとって欠かせない存在である。朝の通勤時には一日の始まりにコーヒーを求める人々であふれ、また、昼食の場や仕事の打ち合わせの場として、さらには、休日に家族や友人とともにくつろぐ場所として、日常生活に欠かせない。一杯のコーヒーの価格も2〜4豪ドル程度とお手ごろなのも良い。

 豪州のカフェで提供されるコーヒーの特徴としては、その大部分がイタリア式のエスプレッソ・マシーンを用いたものである。これは、簡単に言えば深くばいせんした豆を高圧の蒸気で一気に抽出する方法で、濃厚なコーヒーが作り出される。諸説にもよるが、古くは1930年代に豪州に移住し始めたイタリア系の移民が持ち込んだことが引き金となり、比較的手軽に、また、一杯ずつコーヒーが作れることから、その後、国内各地へ急速に広がったとされている。

 カフェで“コーヒー”を注文すると、必ず“どの様な?”と問い返される。カフェで提供される一般的なコーヒーの種類は次の通りであるが、主として牛乳を用いたものが好まれており、最近では、乳業メーカーも泡立ちが良い、カフェ用の牛乳を供給している。

 ・エスプレッソ:濃いイタリアタイプのコーヒー

 ・ロングブラック:若干濃い目のブラックコーヒー(比較的日本のコーヒーに近いもの)

 ・フラットホワイト:エスプレッソ(50ミリリットル)に温めたミルク(210ミリリットル)を加えたもので、別名ホワイトコーヒーとも言われ、豪州、ニュージーランドだけで提供されるスタイル

 ・カフェラテ:エスプレッソ(50ミリリットル)に蒸気で泡立てたミルク(200ミリリットル)を加えたもので、10ミリメートルの牛乳の泡で覆われたものがベスト。通常、耐熱グラスで提供される

 ・カプチーノ:エスプレッソ(50ミリリットル)に蒸気で泡立てたミルク(180ミリリットル)を加えたもので、エスプレッソ、牛乳、牛乳の泡、それぞれの分量が3分の1ずつになるのがベスト

 ※分量ついては、DAの資料による。


カフェ文化の歴史に名を刻む店(メルボルン)



フラットホワイト(左)、カフェラテ(中)、カプチーノ(右)



 一方、消費者にとっても、ガソリンスタンドで牛乳など日常生活に必要な商品を購入できれば、わざわざ少数のものを買うためにスーパーマーケットまで足を伸ばさなくとも良い。乳業メーカー各社もこの販売網の拡大に力を入れている。これらは販売店、消費者の双方にとって互いに有益性が見い出せ、牛乳販売量の増加を側面から支えている。

 外食産業は牛乳消費の大きな構成要素

 牛乳生産量の半分は、カフェなどの外食産業を通じて消費者に提供されている。また、これらは、一般的にコーヒーを通しての消費形態が多い。DAによれば、カフェなど外食産業を通じて消費者に提供されるコーヒーの数は、年間16億杯近くに上るとしており、これは人口2千万人で換算すると、老若男女を含めて国民一人当たり年間約80杯の消費量になる。乾燥気候の豪州では、お茶の代わりとして一日に何杯もコーヒーを飲むケースが多いため、エスプレッソやロングブラックなどの濃厚なものはそれほど好まれず、大部分は、カプチーノやカフェラテなど、いわゆる牛乳を多く用いた“飲みやすい”ものが多い。中でも、フラットホワイトは、より軽いものを求める世代が増えてきたことなどから80年代に登場し、90年代に入り、急速に広がったとされている。カフェなどの外食産業のコーヒーの提供は、牛乳消費にとっての非常に大きな原動力と言える。

 ある調査機関のデータによれば、家庭消費を含めると豪州国内で年間700億杯近いコーヒーが消費されているとされ、一般にコーヒーに牛乳は欠かせないものであることを考えると、これが牛乳消費全体の大きな構成要素を占めていると言えよう。

種類別コーヒー消費量の推移(大手コーヒーチェーンでの販売数) 



−ある豪州人の一日−

  実際に消費者は一日の中で、コーヒーを通じてどの程度牛乳を消費しているのか。シドニーのオフィスで働くビジネスマンを例として取り上げてみよう。まず、朝食時にトーストとミルクたっぷりのコーヒーを(1杯目)。通勤途中になじみのカフェでカフェオレを購入しオフィスの机で一息(2杯目)。10時過ぎには打ち合わせを兼ねてビル内のカフェでフラットホワイトを(3杯目)。昼食はサンドイッチで、食後にカプチーノ(4杯目)。午後3時、カフェに向う同僚にカフェオレの持ち帰りを注文(5杯目)と、彼は1日当たり5杯程度のコーヒーを消費し、これにより約1リットルの牛乳も消費している。

 当然、すべての人々がこのようなケースには当てはまらないが、牛乳の間接的な消費の姿としての一例である。



 フレーバー牛乳の消費は急速に上昇

 牛乳消費全体の中で、ここ数年、急速にその消費を伸ばしてきているのがフレーバー牛乳である。これは、普通牛乳などに加糖し、チョコレート、イチゴ、コーヒーやバナナなど味付けしたもので、幼児から中、高校生の世代を中心に幅広く愛用されている。街のオフィス街では、清涼飲料水を飲む感覚で、500ミリリットルのフレーバー牛乳を飲みながら歩くビジネスマンの姿もみられる。また、公園などでフレーバー牛乳を片手にくつろぐ姿も多く見られる。


フレーバー牛乳各種

 最近では、持ち運びに便利なペットボトル製品をはじめ、低脂肪製品やカルシウム強化製品、また、容量も300ミリリットルから家庭用サイズの3リットル製品まで多様な製品が市場に投下されている。乳業メーカーも、ほかの牛乳乳製品に比べ利幅が大きいこともあり、製品開発に力を注いでいる分野である。

 豪州では、ここ数年、児童、生徒の肥満問題が注目され、その原因として清涼飲料水がやり玉に挙げられている。このため、学校などで清涼飲料水の販売を禁止する動きが各州で広がっており、これに代わる商品としてフレーバー牛乳などへの移行が進んでいる。家庭でも、一般的に清涼飲料水に比べて加糖率が低く、また、牛乳という“健康なイメージ”を持つフレーバー牛乳の購入を増加するケースも増えている。

 植物油脂系の“コーヒーフレッシュ”は存在しない?

 日本のコーヒーショップなどで通常、コーヒーを注文すると牛乳でなく“コーヒーフレッシュ”と呼ばれる植物性油脂などを原料とした製品が提供されることが多い。しかし、豪州では、パウダー式のものも含めこれら商品を見かける機会はほとんどない。通常、街のカフェでは、カフェラテなど種類を選んで注文するため、このような商品の必要性はなく、また、家庭でも常に牛乳が冷蔵庫に常備されている状態では必要がない。

 また、広大な国土面積を持つ豪州では、都市間の移動に航空機は欠かせない交通手段であるが、例えば、この機内サービスで提供されるコーヒー、紅茶でも、やはり“牛乳”である。確かに植物性油脂を原料に用いた“コーヒーフレッシュ”は、価格や保存性などを考慮すると提供する側にとって非常にメリットのある製品であるが、豪州の航空機内では、これに変わるものとして同じような容器ながらもUHT製品が提供されている。これは、消費者にとって牛乳が当たり前のものとして認知されているということもあるが、乳業メーカーの製品開発と市場への販売促進の成果によるものが大きいと考えられる。

 このUHT製品について、一例として航空機での需要を算出してみると、例えばシドニー空港を一日に発着する国内線約500便について、一機当たり平均150名の乗客が搭乗し、その半数がコーヒー、紅茶を注文した場合、およそ3万7千個以上のUHT製品が利用されている。これはかなり少なく見積もった結果であるが、牛乳換算だと約600リットルとなり、これに他の空港や国際線などでの利用分を含めると、一日当たりの豪州の航空機で利用される牛乳は、相当な数量に達していると見込まれる。


航空機などで利用される15ミリリットルのUHT牛乳


 
ライバルはジュースなどの果汁飲料

 では、牛乳消費に影響を及ぼすライバル製品は何か。日本のように茶系飲料を消費する習慣が少ない豪州では、最大のライバルとされるのが、栄養面で牛乳に対抗できるジュースなどの果汁飲料と言われている。コーラなどに代表される清涼飲料水も大きなライバルとして、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店内ではこれら商品が山のように詰まれている。しかし、最近では、児童、生徒の肥満が社会問題として取り上げられている中で、学校での販売中止の動きが広がっていることもあり、今後の大きな伸びは期待しにくい状況である。

 ビタミンなどを多く含む果汁飲料は、牛乳と同様に“健康”なイメージを持ち、保護者の視点からも児童、生徒にとって有意義な飲み物であり、また、一般の消費者にとっても同じである。最近、街には「ジュース・バー」と呼ばれる絞りたてのジュースを提供する店が数多く増えており、これも消費を促す要因と言えよう。

 このような状況についてDAは、果汁飲料は栄養面でみても牛乳にとって最大のライバルであり、その消費動向には注意が必要としている。しかし一方で、ジュース・バーで提供されるメニューには、牛乳と果汁、ヨーグルトなどをミックスした「スムージー」と呼ばれる製品も多く、牛乳消費全体の底上げにつながるかもしれないとの前向きな見方もある。これは、消費者にとっては、選択肢が広がる中で、多種多様な製品を通して牛乳消費の機会が増えると言うことであろう。


おわりに

 豪州における牛乳消費拡大への取り組みの印象として、消費者に対して直接、牛乳消費を訴えるという形よりはむしろ、間接的にその消費を促すといった形に近いかもしれない。具体的には、(1)多忙時の食卓へのアドバイス、(2)子供の健康に必要なもの、(3)科学的見地に基づいたダイエットの手段、(4)骨粗しょう症の問題の認識−など、実際の生活の場で消費者が直面する問題への回答の一つとして、「そこに牛乳がある」という位置付けである。また、牛乳消費と結びつくシリアル製造各社や乳業メーカーの販売活動の促進、カフェなど外食産業に対するメニューの提案などこれら側面の支援も、その一連の動きとして取り上げられる。これらを背景に牛乳に対する消費者のイメージは、「伝統的な飲み物」から「前向きな飲み物」へと変化してきたこと、また、カフェ文化の浸透や多種多様な牛乳が市場に投入されたことが、個人消費の回復に大きく寄与している。

 今後、豪州の牛乳消費はさらに回復との見方もあるが、消費者の食生活のスタイルが変化する中でどのように対応するのか、また、新たな販売チャンネルの開拓など、牛乳消費を取り巻く動きへの関心は尽きない。


資料:
DAホームページ(www.dairyaustralia.com.au)
DA「Australian Dairy Industry In Focus」
IDF「World Dairy Summit 2004」ほか


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