特別レポート

東南アジアにおけるAIの発生とフィリピン鶏肉産業の動向

シンガポール駐在員事務所 林 義隆、斎藤 孝宏

1.はじめに

 従来、フィリピンから日本への鶏肉輸出量は年間20トン程度であり、日本におけるシェアはごくわずかなものであった。しかし、2004年に東南アジア諸国で発生した鳥インフルエンザ(AI)の影響により、日本では、タイなどの主要生産国からの家きん肉などの一時輸入停止措置が採られたため、AI清浄国であるフィリピンからの輸入が急増した。その後、同国でも2005年7月にAIの発生が確認されたことから、日本は同国からの家きん肉などについても輸入停止措置を採ってきた。

 AIは、東南アジア諸国において、2004年から2005年にかけて猛威を振るったが、その後一時終息宣言を行った国があるなど、いったんは沈静化したものの、2006年に入り再発するケースが相次いでいる。そのような中で、同国ではAIの再発が確認されていないことから、2006年5月24日、日本政府はフィリピンから日本向けに輸出される家きん肉などの輸入停止措置を解除した。

 これにより、同国は、再び日本およびフィリピン周辺国へ向けた鶏肉輸出に意欲を示しているとされている。本稿では、このような状況下にあるフィリピンの鶏肉産業の現状について報告する。

2.フィリピンの概況

 同国は大小7千以上の島々から成り、国土面積は日本の8割に相当する約30万平方キロメートルである。領土は首都マニラが位置する北部のルソン島を中心としたルソン地域、セブ島などが含まれる中部のヴィサヤ地域およびミンダナオ島を中心としたミンダナオ地域の3地域に区分される。この3地域は、合計で17の地方管区に分割されており、さらにその下に全国で79の州に細分されている。面積比率は、ルソン地域が約47%、ヴィサヤ地域が約19%、ミンダナオ地域が約34%となっている。

 年間の平均気温は約27℃前後であり、多雨多湿の熱帯気候である。季節風の影響により3月から5月までの暑期、6月から11までの雨期、12月から5月までの乾期と分けられるが、緯度や地理的要因などにより地域ごとの気候差も大きい。また、ルソン地域は台風の通過地点であることから農業への被害が生じるものの、南部のミンダナオ地域は通過地点から外れるため、台風による被害は少ないとされている。

フィリピン 


3.農業と畜産の概況

(1) 農業の概況

 同国の2004年の国内総生産(GDP)は約864億米ドル(約 10兆1千億円、1ドル=117円)、1人当たりGDPは1,041米ドル(約12万円)となっている。アセアン全体のGDPは7,987億米ドル(約93兆4千億円)、1人当たりGDPは1,467米ドル(約17万円)となっており、1人当たりGDPはアセアン10カ国中6位となっている(表1)。

表1 主要経済指標(2004年) 

 97年に起きたアジア通貨危機により、同国でも経済成長率が大きく低下したが、近年は回復傾向を示しており、2004年のGDP伸び率は6.1%となっている。このうち、農業が同国のGDPに占める比率は約15%となっており、GDPの約53%を占めるサービス業とともに重要な産業と位置付けられている。

 また、同国の人口は約8千3百万人で、アセアン域内ではインドネシアに次ぐ人口規模となっている。就業人口約3千2百万人のうち農業人口は約1千2百万人を占め、農業従事者が約4割を占めている。

 主要農産物は、主に国内向けの米、トウモロコシと輸出向けのココナッツ、サトウキビ、バナナおよびパイナップルなどが挙げられ、輸出向け作物はプランテーションにおける生産が主流となっている。

 2005年の農業生産額(時価)は、総額で約8,155億ペソ(約1兆6,310億円:1ペソ=2円)、うち米が約1,547億9千万ペソ(約3,096億円)、トウモロコシが約401億4千万ペソ(約802億8千万円)、ココナッツが約534億2千万ペソ(約1,068億3千円)、サトウキビが約207億9千万ペソ(約415億9千万円)、バナナが434億1千万ペソ(約868億2千万円)となっている。

(2) 畜産の概況

 2005年の農業生産額のうち、畜産関係については、鶏や鶏卵などの家きん部門は1,078億ペソ(約2,156億円)、牛や水牛、豚などの畜産部門は1,542億ペソ(約3,083億円)となっており、家きん部門および畜産部門の合計額が農業生産額に占める割合は約32%となっている。

 品目別でみると、豚が約1,263億4千万ペソ(約2,526億8千万円)と最も多く、次に鶏の約812億5千万ペソ(約1,625億円)の順となっており、この2品目は農業生産額全体でみても米に次ぐ規模となっている(表2)。

表2 農業生産額の推移(時価) 


 畜産物の生産量は、豚が最も多く約176万トン、次いで鶏の約124万トンの順となっている(表3)。牛肉の生産量は約25万トンで、豚の約1/7程度の規模であり、水牛を含めても生産量は合計で約38万トン程度となっている。

表3 畜産物生産量 


 同国における食肉の消費量については、豚肉が1人1年当たり16.7キログラム、鶏肉が同8.2キログラムとなっており、鶏肉の消費量はわずかながら増加傾向を示している。ほかのアセアン諸国と比較すると、イスラム教の制約などによりインドネシアやマレーシアなどでは豚肉の消費が少ない反面、鶏肉の消費量が多いが、同国では宗教上の制約が少ないため、豚肉の消費量が目立っている。牛肉(水牛肉含む)については、鶏肉消費量の約1/2、豚肉消費量の約1/3程度の消費水準となっており、消費量はほぼ横ばいの状態が続いている(表4〜7)。

表4 1人1年当たり消費量推移  

表5 国別1人1年当たり消費量推移(鶏肉)  

表6 国別1人1年当たり消費量推移(豚肉)  

表7 国別1人1年当たり消費量推移(牛肉)  


4 鶏肉産業の概況

(1)家きんの生産状況

 同国における2005年の家きんの飼養羽数は、合計で約1億3千6百万羽となっている。このうち、ブロイラーは全飼養羽数の約30%を占める約4千万羽が飼養されている。地鶏については、庭先などでの飼育が主流とされているが、飼養羽数は約7千4百万羽とブロイラー飼養羽数の約1.8倍となっており、同国の家きん飼養羽数の半数を占めている。(表8)

表8 家きん飼養羽数  


 2005年における地域別の家きん生産量についてみると、鶏肉生産量(生体重)は約124万トンとなっており、うちルソン地域における生産量は約80万トンで総生産量の約65%を占めている。そのほかはヴィサヤ地域が約19万トン、ミンダナオ地域が約24万トンとなっている。また、ルソン地域の中でも、首都マニラの近郊に位置する中部ルソン地区およびカラバルゾン地区の生産量が突出しており、両地区を合わせた生産量は約65万トンで、国内生産量の52%を占める主産地となっている。

 鶏卵の生産量は約32万トンで、うちルソン地域の生産量は約19万トンと鶏肉と同様に生産量の2/3程度を占める主産地となっている。また、ヴィサヤ地域の鶏卵生産量は約6万3千トン、ミンダナオ地域は同約6万6千トンで、同国内における生産量に占める割合はそれぞれ約20%となっている。

 アヒルの生産量(生体重)は約5万トンで、地域別の生産量はルソン地域が約2万7千トン、ヴィサヤ地域が約7千トン、ミンダナオ地域が約1万5千トンとなっている。ミンダナオ地区が総生産量に占める割合が約30%程度と鶏肉や鶏卵と比較すると高くなっており、アヒル卵も同様の傾向を示している。(表9)

表9 地域別家きん等生産量(2005年)  


 また、ブロイラーおよび採卵鶏の種鶏などについては、主に米国などからの輸入で対応している。輸入数量は年次により大きく変動しており、2004年のブロイラーGPS鶏およびPS鶏の輸入量は、前年比56%減となった。(表10)

表10 種鶏輸入量

(2)ブロイラー養鶏業者の概要

 同国における主要ブロイラー養鶏業者としては、サンミゲル・フーズ社(San Miguel Food Corp)、スウィフト・フーズ社(Swift Corp)、タイソン・アグロ・ベンチャーズ社(Tyson Agro Ventures Inc)、ユニバーサル・ロビナ社(Universal Robina Corp)およびバイタリッチ社(Vitarich Corp)などが挙げられ、これらの大手ブロイラー養鶏業者で同国内のシェアの約80%を占めるとされている。

 また、同国におけるブロイラー養鶏業界の団体としては、大手ブロイラー養鶏業者を中心に設立されたPABI(Philippine Association of Broiler Integrators)や中小ブロイラー養鶏業者が主要構成員であるUBRA(United Broilers Raisers Association)が、政府に対する要望などを行っている。これらの主要ブロイラー養鶏業者は、PABIに加盟しているとともに同国の飼料業者の業界団体にも加盟している。ほかの養鶏業者も同様に両団体に加盟している。

 サンミケル・フーズ社は、ビール醸造所として1890年に設立され、ビールの製造販売を中心に洋酒や清涼飲料を加えた飲料事業、製缶を中心としたパッケージ事業、食肉の加工販売や乳製品の販売を行う食品事業などへ事業を拡大し、現在では、同国最大の総合食品会社となっている。

 2004年の売り上げは、約1,747億ペソ(約3,494億円)であり、飲料事業の売り上げ比率は約6割、食品事業の売り上げ比率が約3割、パッケージ事業の売り上げ比率が約1割となっている。各部門で同国内における圧倒的なマーケットシェアを持っており、ビールが国内シェアの約9割、加工肉は約6割、鶏肉については約3〜4割を占めるとされる。

 ほかの大手ブロイラー養鶏業者を見ると、ユニバーサル・ロビナ社は1954年に設立されたコーンスターチの製造工場から、養鶏・養豚、飼料および食料品などのアグリビジネスへ事業を拡大してきている。また、バイタリッチ社は1950年に設立された飼料会社からスタートしており、大手ブロイラー養鶏業者のほとんどは、生産から加工、販売まで行うインテグレーターである。


ミンダナオ地域(Bukidnon州)にあるS社契約農場、
飼養場は4棟で、1棟当たり約900平方メートル




同農場での飼養羽数は合計8万羽で、1棟当たり2名の要員を充当

(3)鶏肉の需給動向

 同国における鶏肉の消費動向についてみると、国産品が消費量の98%前後を占めている。また、同国政府は、鶏肉の輸入についてミニマムアクセスを中心とした輸入枠を発給することにより管理を行っていることから、輸入数量は増加傾向にはあるものの、消費量に占める割合は2〜3%程度と小さい。

 また、2004年に同国内において、短期的に鶏肉の需給バランスが崩れ鶏肉価格が高騰した時には、ミニマムアクセスのほかに別途輸入枠を設定するなどの対応も実施した。このように、同国においては、鶏肉需要のほとんどが国産鶏肉で賄われているが、一時的な需給の変化への対応策として、輸入も活用している(表11〜12)。

表11 ブロイラー需給の推移



表12 鶏肉月別輸入量(2005年)



 一方、輸出に関しては、同国産鶏肉は価格が高く輸出競争力がないと言われており、輸出実績も少ない。統計上は、2000年に約6トンの鶏肉が輸出されて以降、2001年から2003年までの実績は20トン台であった。しかし、2004年にインドネシア、タイ、マレーシアなどアセアン6カ国でAIの発生が確認されたことから、日本をはじめアジア各国により、この時点においてAI清浄国であるフィリピンを鶏肉輸入先として検討する動きが広がり、2005年の輸出量は、前年比192%増の3,647トンと大幅に増加した(表13〜14)。

表13 国別輸出数量の推移



表14 国別輸出数量の推移(2006年・月別実績)



 同国では、ブロイラーよりも地鶏の消費し好が高いとされている。家きんの価格動向についてみると、地鶏の飼養羽数がブロイラーより多いものの、地鶏の生産者販売価格は鶏肉よりキログラム当たりおおむね10ペソ(約20円)程度高値で推移している。また、小売価格の推移では、2004年の平均価格の上昇率が前後の年次に比べると高く、先に述べた同年における鶏肉価格高騰の影響が現れている(表15〜17)。


表15 年平均生産者販売価格推移



表16 年平均小売販売価格推移




表17 鶏肉月別平均販売価格(2005年)


(4)AI発生の影響

 同国内では2004年、東南アジア各国におけるAI発生により、消費者の鶏肉離れが進んだことから、ブロイラー養鶏業者は国内需要の減退へ対応するために、ブロイラー飼養羽数の縮小を実施した。その後、国内需要が回復したものの、鶏肉の供給不足が続き鶏肉価格が高騰したことから、同国政府は輸入により需給の緩和を目指すこととして、特別輸入制限の一部緩和を実施し5千トンの枠を設定して対応した。

 このように、同年における鶏肉の国内需給バランスは、AIの影響が強かったものの、同国政府および大手ブロイラー養鶏業者各社は、主要輸出国のAI発生による鶏肉輸出の停止を同国産鶏肉の輸出拡大の好機と捉えたため、輸出拡大に向け強い意欲を示した。その結果、2004年における鶏肉輸出量は前年の約22トンから約1千2百トンまで大幅に増加した。





ミンダナオ地域(Bukidnon州)にあるS社の鶏肉加工工場。


製品は、日本向け焼き鳥用の串打ちが主体

 日本も主要生産国であるタイからの鶏肉輸入について、一時停止措置を採ったため、フィリピン産鶏肉の代替輸入を模索する動きが広まった。主要な出荷先は、サンミゲル・フーズ社、スウィフト・フーズ社およびタイソン・アグロ・ベンチャーズ社の3社で、日本市場向けの商品開発のために、日本から商社の担当者などを呼び、鶏肉のカット方法や工場のレイアウトなどのアドバイスを求めたとされている。

 当初、タイおよび中国に代わる鶏肉輸出先の一部として期待されたフィリピンであったが、2005年7月に同国でAIが発生したことにより、日本政府は同国から家きん肉などの輸入停止措置を採ったため、同国からの輸入は停止された。

 その後、同国で発生したAIが東南アジアのほかの国々で猛威を振るったH5型ではなくH9N2型と確認されたこと、サーベイランスが適切に実施されていたことおよび防疫措置終了後に新たなAIの発生がないことが確認されたことから、2006年5月に、日本政府は同国からの輸入停止措置を解除した。


5 フィリピンにおける飼料産業

 本章では、家きんなど畜産業と密接なつながりを持つ飼料産業について紹介する。

 (1)飼料産業の概要

 同国における配合飼料産業の主要団体としては、1951年に設立されたPAFMI(フィリピン飼料製造業者協会、Philippine Association of Feed Millers,Inc)が挙げられ、政府協議会メンバーを務めるなどその影響力を行使してきたとされる。同協会は、サンミゲル・フーズ社、スウィフト・フーズ社など20社で構成されており、前述のとおり大手ブロイラー養鶏業者やその関連会社が多数含まれている。

 同国の2005年における配合飼料生産量は約9百万トンで、市場規模は約1,032億5千万ペソ(約2,065億円)となっている。飼料生産量は、過去5年間で437万トンから860万トン台へと増加しており、その期間の成長率は年平均で6〜7%を示している。また、2000年時における工場の稼働率は、おおむね5割程度であり、生産余力はあるとされている。(表18〜19)


表18 飼料生産量推移



表19 飼料工場稼働率(2000年)


 (2)穀物の生産状況

 同国内におけるトウモロコシの生産状況は、おおむね年間450万トン前後で推移しており、このうち、配合飼料用として7割程度が利用されるとしている。2003年のトウモロコシ生産量は約462万トンで、その生産比率はルソン地域が約30%、ヴィサヤ地域は約8%、ミンダナオ地域は約62%となっており、ミンダナオ地域が同国におけるトウモロコシの主産地となっている。ちなみに、同年の米の生産量は約1,300万トンで、ルソン地域が生産量の約57%を占めており稲作の主産地となっている(表20〜21)。

 穀物の輸入量は、小麦、大豆およびトウモロコシについては、年次ごとにより輸入数量が大きく変化しているが、大豆かすについてはおおむね120万トンから150万トン前後の輸入量で推移している。(表22 )

表20 穀物生産量の推移



表21 地域別トウモロコシ生産量(2003年)



表22 穀物輸入量の推移



 (3)飼料工場の分布状況

 飼料業者をタイプ別にみると、流通飼料工場とインテグレーター農場系飼料工場および自家配合の3タイプに分類され、工場数は2002年の数値で約1千カ所となっている。自家配合が最も多く工場数では約6割を占めるものの、飼料製造量は全体の4割となっている。(表23)

表23 企業タイプ別飼料生産量(2002年)


 飼料工場数(自家配合除く)の推移については、97年の268カ所から2004年には389カ所に増加しており、工場の生産規模が20トン未満、20トンから50トン、50トン以上のいずれの階層においても増加している。特に50トン以上の階層が工場数および製造能力ともに大きく増加しており、大規模化が進んでいると考えられる。また、20トン未満クラスでは、工場数は増加しているが製造能力は若干減少していることから、製造能力が統計上に反映されていない零細工場も増加しているとみられる。

 2004年における飼料工場(自家配合を除く)の分布状況をみると、全体の約7割がルソン地域に立地している。残りの3割がヴィサヤ地域とミンダナオ地域に立地しており、鶏肉生産量の地域別分布とほぼリンクしている。また、飼料工場の生産能力をみると、ルソン地域の生産能力が全体の約8割を占めることから、大規模工場もルソン地域に集中しているものとみられる(表24)。

表24 1日当たり製造規模・地域別推移


 (4)各社のシェアについて

 飼料業界上位10社の1日当たり飼料製造能力は、合計で約1万3千トンとなっている。これは、全飼料生産量のうち約56%を占めており、大手業者による寡占化が進んでいる。その中でも最大規模のサンミゲル・フーズ社の製造能力は約3千トンとなっており、同社の製造能力は全体の約25%を占めている。本データは飼料業者の製造能力の比較であり、また、畜種別の飼料製造数量は明らかにされていないが、PABI傘下の大手ブロイラー業者別の飼養羽数規模を考察する際の参考になるものと考えられる(表25)。

表25 上位10社1日当たり生産能力(2005年)


 (5)穀物の収穫見通しについて

 同国農務省は8月、2006年上半期の農業生産状況を公表した。上半期のトウモロコシ生産状況は、前年比32%増の約260万トンとなっており、ミンダナオ地域のカラガ地区を除いて増収が報告されている。特に、同国のトウモロコシ生産の上位を占めるミンダナオ地域のソクサージェン地区とルソン地域のカガヤンバレー地区の増収が目立つとしている。増収の要因としては、天候に恵まれたこととトウモロコシの品種改良による単収の増加などが挙げられている。

 鶏肉産業における飼料費は、生産費全体の約8割を占めるとされているが、食品業界最大手のサンミゲル・フーズ社は、飼料の原料について、今後、国産原料の比率を高める旨を表明している。

 また、同国では、石油に変わる代替燃料としてトウモロコシなどを利用したエタノールの開発を進める意向を表明している。しかし、同国では、年により生産量に差があるものの、毎年、飼料用のトウモロコシを輸入していることから、PAFMIはこの計画に対して批判的とされる。

 さらに、同国ではトウモロコシなどの収穫量が、台風などの気象条件により大きく左右されるほか、貯蔵施設の不備による損耗も多いとされており、このような状況下で、トウモロコシなどの工業利用が穀物需給に与える影響についても注目される。


6 今後のわが国とフィリピンの貿易をめぐる動向について

 (1)日・比経済連携協定の締結

 2006年9月9日、小泉総理(当時)とフィリピンのアロヨ大統領は自由貿易協定を核とした経済連携協定(EPA)に署名した。日本がEPAを締結するのは、シンガポール、メキシコ、マレーシアに次いで4カ国目であるが、今回、初めて看護師や介護士などの人の移動を盛り込んだことで注目された。

 日本とフィリピンにおけるEPAについては、2003年12月に両国首脳会談における合意を受け、2004年2月から協定交渉が開始された。同年11月に両国首脳により本協定の主要点について大筋合意に達した後、協定案文の最終確認作業が行われていた。

 日本とフィリピン間の貿易状況(2002年)は、日本からフィリピンに対する輸出総額が約1兆1千億円、フィリピンからの輸入総額が約8千億円となっており、そのうち農林水産品の額は約1千億円となっている。農林水産物で上位を占めているのがバナナで約500億円、次いで木製建具・建築用木材、えび、パイナップル、かつお・まぐろ類の順となっている。

 今回のEPAにおいて、フィリピン側は農林水産分野で砂糖、鶏肉、パイナップル、バナナおよびかつお・まぐろに関心を示していた。結果、鶏肉とパイナップルなどには低関税輸入枠が設けられたが、国家貿易品目である米麦と乳製品のほか牛肉および豚肉などは協定から除外され、粗糖は4年後に再協議を行うこととされた。

 また、鶏肉(骨付きもも肉を除く)の関税割当については、日本における枠内税率を現行の11.9%から8.5%まで引き下げ、輸入枠については1年目の3千トンから5年間で7千トンまで拡大することが決定した。

 (2)AFTAの影響

 現在、東南アジア地域では92年に合意されたアセアン自由貿易地域(AFTA)の実現に向けた取り組みが行われている。アセアン各国は、CEPT(共通有効特恵関税)協定に沿う形で、特定農産品目の輸入関税を段階的に引き下げることで合意しており、フィリピンにおいても今後、鶏肉に係る関税率が段階的に引き下げられることとなっている。

 アセアン域内における関税率の引き下げは、同国にとって鶏肉輸出拡大の糸口になるものと考えられるが、同時に、同域内に鶏肉の輸出余力のある国は限られるものの、同国における鶏肉輸入の拡大にもつながる可能性が大きい。短期的な鶏肉の供給不足に対応するため輸入を活用した事例はあるが、鶏肉自給率が98%前後の同国において、恒常的な輸入量の増加は鶏肉の供給過剰を招く恐れが強く、PABIやUBRAなどの業界団体も懸念の声明を出している。

 同国における鶏肉消費量は、先に述べたとおり、毎年増加傾向を示しているが、1人1年当たりの消費量は、豚肉の半分程度にすぎない。同国の人口増加率はおおむね2%前後を維持しており、また経済成長率も回復傾向を示していることから、同国内における鶏肉消費量については、今後もある程度の拡大は見込めると考えられる。ただし、過去の傾向から1人当たりの鶏肉消費量が飛躍的に伸びる可能性は少ないと考えられ、ここ数年、生産量が増加基調のなかでも鶏肉の需給バランスがおおむね保たれてきた国内市場において、今後輸入鶏肉との競合も視野に入れる必要に迫られている。


7 おわりに

 現在、東南アジア諸国では、いったん沈静化したAIが、2006年に入り再発するケースが相次いでいる。再発順に示すと、ラオスおよびタイが7月中旬、カンボジアおよびベトナムが8月に確認されている。特に、タイにおけるAIの再発は、同国政府が再発防止に向けた取り組みを実施しており、冷凍鶏肉の輸出再開に向けた努力を行っていた最中に起こったことから、AI根絶の難しさが露呈したものと言える。同国の大手ブロイラー養鶏業者は、今後、相手国の輸入禁止リスクが少ない加熱調理された鶏肉調製品の輸出に注力する旨、表明している。

 このような状況で、フィリピンではAIの再発が確認されていないことから、大手ブロイラー養鶏業者は再び日本を含むフィリピン周辺国などへの鶏肉輸出に意欲を示しているとされている。同国からの鶏肉輸出量は、2006年1〜7月までの合計で約600トンとなっており、主な輸出先としては、日本と香港のほかに新たな市場として開拓された中国向けの数量が多く、同国向けの輸出数量は2006年1〜7月までの合計で約450トンとなっており、全輸出量の約7割を占めている(表14)。中国向けの鶏肉輸出は、日本向けの鶏肉製品と比べると、輸出部位や鶏肉の加工度などに違いがあるため、1トン当たりのFOB価格を比較すると日本向け鶏肉製品のおおむね1/8となっている。中国向けの鶏肉輸出は、日本がフィリピン産鶏肉の輸出停止措置を実施している間も毎月実施されており、輸出数量も順調に伸びていることから、今後フィリピンの主要な鶏肉輸出相手国として、中国が定着する可能性も大きい。また、現在、韓国やシンガポールへの輸出も計画されており、シンガポールに対しては、輸出の認定申請を行っているとされる。日本への輸出は、6月以降に再開されており、7月までの対日輸出数量は約57トンとなっているほか、大手ブロイラー養鶏業者の一部は、今後の輸出拡大に向け、生産拠点の拡張を検討しているとされる。

 現在、日本では鶏肉在庫の増加に加え、タイ産加熱調製品の輸入も増加傾向を示している。このような状況で、フィリピン産鶏肉が2004年や2005年と同様に輸出量を増やせるかが注目されるところである。日本が輸入しているフィリピン産鶏肉は、焼き鳥用の串打ちされた製品が主体とされるが、輸入が再開されたばかりであり、輸入量全体に占める割合は少ない。

 大手ブロイラー養鶏業者による生産拠点の拡張計画は、日・比EPA発効後を見越した積極策と受け止められるが、今後、日本市場において、輸入の9割を占める安価なブラジル産鶏肉などに対抗するためには、高度な加工により付加価値を高め、商品差別化の強化を図ることが一つの選択肢であると考えられる。


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