特別レポート

ポーランドの豚肉産業をめぐる情勢について

食肉生産流通部 食肉課 道免 昭仁
 肉用子牛第一課 井上 裕之

1 はじめに

 2004年5月、EUに加盟したポーランドは、豚肉生産量がEU域内で第4位、国民一人当たりの年間消費量も約40キログラムとなっており、新規加盟国(10カ国)の中では最大の豚肉生産・消費国である。また、これら生産・消費のポテンシャルを背景に、米国やデンマークの食肉関連企業が同国に進出し、国内生産基盤の拡大や豚肉流通の近代化が加速しつつある。

 今回は、ポーランドにおける豚肉の生産から消費までの現状と日本向け輸出を行っている施設の状況について紹介するとともに、新規加盟国参入によるEU域内の豚肉流通の変化の可能性について推察する。


2 農業の概況

 ポーランドは、バルト海とカルパティ・ズデーテンの両山脈に挟まれた国土に、東にウクライナ・ベラルーシ・リトアニア、西にドイツ、南にチェコとスロバキア、北にロシアと国境を接している。国土面積は31.3万平方キロメートル(日本37.8万平方キロメートル)でEUにおいては6番目の広さとなっており、人口は3,820万人(日本1億2,777万人)となっている。他のヨーロッパ諸国に比べ若年層の割合が多く、労働力は豊富であるといわれている。気候は冷涼で冬期の平均気温がセ氏零度を下回り、土地がやせているため決して農業生産環境に恵まれているとはいえないが、農地は国土の半分以上を占めている。

図1

 (1)EU域内におけるポーランド農業の位置付け

 ポーランドの農業生産の状況を、EU域内における生産量に占める割合で見ると、パンやウォッカの原料となるライ麦がEU生産量全体の43.5%、また、バレイショも同様に21.2%を占め、いずれも域内最大の生産量となっている。畜産物については、豚が11.2%で第3位、生乳生産量が8.3%で第4位、肉類は7.6%で第5位となっている。農家戸数(2005年)は、185万戸で自給自足的家族経営農家が多く、機械化も遅れているものの、EU域内では農産物生産国と位置付けられている。

表1 ポーランド農産物が世界、EU25に占める割合

 (2)農業生産基盤

 農地面積(2005年)は、国土面積3,130万ヘクタールの58.7%を占める1,830万ヘクタールとなっており、そのうち耕地面積は1,591万ヘクタールとなっている。住宅建設やそれに伴うインフラ整備により宅地化などが進み、耕地面積は減少傾向にある。耕地面積規模は、小規模家族経営農家が多いため1戸当たり7.5ヘクタールと旧EU加盟国の18.7ヘクタールと比較すると約半分となっているが、全体の20%に過ぎない耕地面積10ヘクタール以上の農家が所有する耕地面積は、全体の60%を占めている。また、農地取得に対する優先的な融資により1戸当たりの耕地面積は増加傾向にある。

表2 耕地面積の推移



図2 1戸当たりの耕地面積規模別農家戸数割合

図2 1戸当たりの耕地面積規模別農家戸数割合

 (3)生産額

 農業生産額(2005年)は、645億ズロチ(2兆6,445億円、1ズロチ=約41円)となっているが、農産物の自家消費や家畜の飼料向けなど自給的利用が増加したため全体的には減少傾向にあるものの、生産額を1995年と比較すると、耕種部門の割合が減少しているのに対して畜産部門(家畜、鶏卵、牛乳)の割合は増加し、生産額全体に占める割合が50%を超えている。

図3 農業生産額の構造


資料:Agriculture 2005,CSO,Warsawa2006

 (4) 農畜産物の輸出入

 農畜産物貿易は、輸出額が70億7,200万ユーロ(1兆93億円、1ユーロ=154.5円)、輸入額54億4,400万ユーロ(8,411億円)となっている。相手国別にみるとEU加盟国が、輸出額の74%、輸入額の63%を占めている。EU諸国の中では隣接するドイツとの貿易量が多く、輸出の3分の1、輸入の4分の1を占めており、特に果樹の輸出が好調である。畜産物については輸出額が21億4,600万ユーロ(3,316億円)で品目別には鶏肉を筆頭に、粉ミルク、チーズ、豚肉、牛肉の順となっている。輸入額は6億8,500万ユーロ(1,058億円)となっており、豚肉の輸入が多い。EU加盟により農産物貿易額は全般に拡大傾向にあるが、今後の農畜産物輸出においては、収益性の高い日本・韓国などへの輸出拡大に期待を寄せている。豚肉については輸出だけではなく輸入も多く、自国内で生産する高品質な商品で収益性の高い商品は海外のマーケットに輸出し、国内の加工品向けなどの製品は輸入で賄う傾向も見られる。

表3 地域別貿易収支の状況



表4 主要農産物の輸出入状況



表4 主要農産物の輸出入状況


表5 主要農畜産物の輸出入割合(2005年)

 (5)食料消費

 主な食料消費の動向は、表6となっておりバレイショ、穀物を主として野菜、畜産物(豚肉、乳製品)の消費も大きい。ポーランドとEUを比較すると、消費量はEUと同水準にあるが、果樹、魚、牛乳については比較的値段が高いこともあり低い水準にある。一方、豚肉の消費は高い水準にある。

表6 主な食糧の消費量(国民年間1人当たり)


3 畜産の概況

 (1)生産概況

 飼養頭数は牛、羊、馬が減少傾向にあり、豚は飼料価格や収益性によって増減している。EU加盟後は家畜衛生基準をEU基準に合わせる必要があり、小規模生産者(特に飼養頭数1〜2頭の酪農家)は減少し、集約化が進んでいる。ただし、集約のスピードは遅く、50頭規模以上の肉牛農家は全体の11%、酪農は4%、養豚は200頭規模以上が全体の25%である。

表7 家畜の飼養頭数の推移


表8 主な畜産物の生産量

 (2)豚の生産 

 豚の生産動向は、2005年で飼養頭数1,811万2千頭(前年比6.6%増)、うち母豚181万3千頭、飼養戸数57万9千戸(2003年比8.8%減)、豚肉生産額97億1,200万ズロチ(3,982億円:前年比7.9%減)、キログラム当たりの肉豚生体価格は3.9ズロチ(160円:同2.5%減)、1頭当たりの子豚価格は130ズロチ(5,330円:同26.0%増)となっている。また階層別の飼養頭数については、1〜9頭の層が248千戸と全体の43%になっており、一方で1千頭以上を飼養している農家は約600戸にすぎない。飼養戸数は、小規模農家を中心に減少している。

表9 豚の生産動向
 

表10 飼養頭数規模別養豚農家戸数(2005年)
 

表11 

 (3)豚の需給

 小規模農家が多いことなどから飼養頭数が飼料価格などの影響で上下し、これに連動してと畜頭数も増減を繰り返しているが、2000年とEU加盟後の2005年を比較すると生産量は横ばいながら、輸入・輸出とも大きく増加、また、消費量も増加している。

表12 豚肉の需給動向


4 訪問先の概要

 次に、今回訪問した日本向けの肉豚生産を行っている養豚農家および外国資本の入った国内大手の食肉バッカーの状況について紹介する。

図5

 (1)ファーマポール(FERMAPOL)農場

 ア 施設等の概要

 ファーマポール農場は、シェチェンから北東に120キロメートル(車で約2時間)のところに位置し、耕作地を含む約2千ヘクタールの敷地に1972年、子取り用めす豚2千頭、年間肉豚出荷頭数3万6千頭規模で生産がスタートした。ポーランドの平均飼養頭数が31頭であることを考えれば同国内ではトップクラスの養豚農家であるといえる。

 施設は閉鎖型で、農場に入るためには2段階のゲート(それぞれのゲートには車両洗浄用の溝が切ってある)があり、1つ目のゲートを抜けたところに肉豚出荷用のピットと管理・事務棟がある。それに続いて2つ目のゲートがあるが、防疫上の観点から入場できるのは農場作業員と獣医師および飼料・ホエイ搬入業者に限定され、事前に管理棟内でシャワーを浴び作業着を取り替えなければ入退が認められないとのことである。当然、われわれも生産現場への立入りはできなかった。


高い棟が飼料棟


事務所棟


左側が肥育豚舎。右側が分娩・繁殖豚舎

 豚舎は、飼料棟を中心として放射状に肥育豚舎が並び、この他に分娩・繁殖豚舎がある。肥育豚舎内は、20頭ごとに仕切られたペンが80並び1豚舎当たり最大1,600頭の肉豚が飼養できるとのことである。これら生産部門で作業する従業員は28人であり、このほかに施設・機械などの保守管理部門、穀物生産部門、事務部門などに従事する職員がいるとのことである。なお、穀物生産部門があるのは、環境規制の関係から耕作義務が生じているためである。

図6 「ファーマポール農場概観図」

 イ 生産状況

 現在の子取り用雌豚は2千頭と設立当時と変わりないものの、年間肉豚出荷頭数は4万頭と30年で約10%増加した。ポーランドでは一定規模以上の養豚農家にあっては環境保護の観点から耕作地面積に応じて飼養頭数が制限されているため規模拡大が図りにくいとのことである。

 同農家では、ポーリッシュ・ランドレース種とポーリッシュ・ラージホワイト種(大ヨークシャー種)の二元交雑種を子取り用雌豚として、これに止め雄用のデュロック種またはピエトレン種(ベルギー原産で脂肪が薄く、赤身率が高い)を交配した三元交雑による肉豚生産を行っている。止め雄は凍結精液を用いた人工授精による交配であり、凍結精液は国内の精液販売会社(Animal Breeding and Insemination Office Co.)から購入しているとのことである。

 肥育豚は170日齢、約100キログラムで出荷され、その多くが今回訪問した大手食肉パッカーであるアニメックス社に搬入されるが、日本向けに週当たり200頭を出荷しているとのことである。また、ロシア向けにも生体で同170頭を輸出しているとのことであった(ロシアは豚肉の輸入は禁止しているが、生体の輸入は可能)。なお、子取用雌豚の一頭当たりの年間分娩頭数は21〜22頭で、6〜7産(3〜4年間)分娩させた後、規格外物(大貫物)として出荷しているとのことであった。


出荷係留所


トレーラーへの追い込み

 ウ 飼養状況

 繁殖から肥育まで一貫した飼養形態をとっている同農場では、成長過程に合わせ、離乳用(28日齢まで)、育成用(離乳後52日間)、肥育用(育成後約90日間)の3種類の配合飼料を給餌しており、これらすべてを飼料会社から購入している。肥育用の飼料は大麦を主体に大豆やミネラルなどを加えているとのことである。なお、離乳から肥育までの平均飼料要求量は増体重1キログラム当たり、3.02〜3.07キログラムとのことである。

 給餌方法はリキッドフィーディングを導入し、12年前からはリキッド用に水の代わりにホエイを利用しているとのことであった。ホエイは農場から約40キロメートル離れた乳業工場(アーラ社:デンマーク資本の乳業メーカー)から25トンのタンクローリーで1日当たり75〜100トンが搬入されるとのことで、1頭当たり1日3〜4リットルを使用するとのことである。このホエイは乳業工場においてチーズ製造過程で生じた廃棄用のものにギ酸を加えpH4〜4.5に調整されただけで濃縮などの処理は行っておらず、輸送コストを含め農家側の負担はないとのことである。パルビッチ氏によれば、ポーランド国内でリキッドフィーディングを行っている農家自体非常に少ないとのことであった。無償でホエイの提供を受けていることもあり生産経費について聞いたところ、肥育豚一頭当たりの生産費に占める飼料購入費は全体の60〜65%に達するとのことで、ポーランドでは穀物価格が高い(前述のとおり、国内需給が可能な穀物はライ麦のみである。)ことがその要因にあるとのことであった。


出荷用トレーラー(3階立て)


タンクローリーによるホエイの搬入

 (2)アニメックス(Animex)社(食肉パッカー)

 アニメックス社は、ポーランドが社会主義国家時代に外貨獲得を目的とした輸出商品(食品など)を一元的に取り扱う国策会社として1951年に設立され、当時は日本に羽毛やウォッカなどを輸出していたが、ポーランドの体制変化とともに民営化(株式会社化)された。1999年には、米国の大手食肉パッカーであるスミスフィールド社(本社:米国、ノースカロライナ州)が、アニメックス社の過半数の株式を取得(買収金額5,120万ドル(61億4,400万円、1ドル=120円)し、その後全株式を取得したことから完全子会社となった。スミスフィールド社によれば、(1)ポーランドのEU加盟が見込まれたこと、(2)既にアニメックス社は、国内需要に応じた多種多様な製品の生産(ハム・ソーセージなど)が可能で、消費者のブランド認知度が高かったためとしている。併せてスミスフィールド社は、この買収がEU市場参入の足がかりになり得ると判断したものと思われる。新経営陣は不採算部門の廃止(馬のと畜)や縮小に着手し、豚肉および鶏肉の処理加工を中心とした生産にシフトした結果、2002年には黒字経営に転じた。現在では、国内最大手の食肉パッカーの1つとして、国内だけでなく北米・アジア地域も含めた国外市場へも積極的に進出している。2005年には、8つの食肉処理加工施設と管理部門を含めた約8,600人の従業員規模で約7億ドル(840億円)を売上げ、豚肉で10%、鶏肉で15%(いずれも加工品含む)の国内シェアを有している。2007年には売上が10億ドル(1,200億円)に達する予定であるとしている。

 ア 肉豚生産および集荷の状況

 アニメックス社は、親会社のスミスフィールド社が米国で展開している垂直的統合(インテグレート化)による生産体制を目標としていることから、スミスフィールド社がポーランド国内に所有する子取り用雌豚5万5千頭、肉豚出荷頭数72万頭規模を有するプリマ(PRIMA)農場から生産量の40%に当たる肉豚の供給を受けている。同農場は同社の豚肉生産に寄与するだけでなく、同社と出荷契約を結んでいる肉豚農家に対し、肉豚の安定供給や斉一性を目的とした子取り用雌豚の供給なども行っている。アニメックス社によれば、今後子取り用雌豚頭数を12万頭まで増頭する予定とのことである。なお、日本でポジティブリスト制度が施行されたことを踏まえ、ワクチン接種などの履歴を明確に把握するため、日本向け製品の70%が同農場から供給された肉豚から生産されたものとのことである。

 肉豚は、前述のプリマ農場に加え、年間集荷頭数の50%以上を約1,600戸の契約農家から集荷している。残りの10%は、全国に41カ所ある購買ステーション(公設のものではなく、アニメックス社が独自で運営しているもの)に約1万4千戸の中小規模の肉豚農家が持ち込む肉豚を集荷している。アニメックス社では、特に小規模農家が近代的設備への更新や優良種豚(プリマ農場からの供給)の導入などを円滑に行うための資金援助や、農家の資金繰りが円滑に進むよう代金決裁期日の短縮(通常30〜60日後に支払われる購買代金を14日以内に農家へ支払う)も行っているとのことである。これらにより、農家の経営基盤が強化され、肉質の向上・斉一性やトレーサビリティー確立につながっていくことになるとしている。

図7 アニメックス社における豚肉部門の生産から流通までの流れ(垂直的統合)

 イ 食肉処理の状況

 同社の豚部門は、ポーランド国内に3カ所の処理施設を所有し、と畜能力は週当たり3万8千頭(2007年)、年間と畜頭数は、120万頭(2006年)となっているが、今後増加する見込みとのことである。

表13 と蓄頭数の推移

 国内向け生産量は、2007年見込みで13万トン(加工品含む)となっているが、これらをカルフール(フランス)、テスコ(英国)などの大手外資系量販店を中心に地元資本のスーパーなどのルートで直接取引きしており、処理施設近郊の量販店のハム・ソーセージコーナーでは多くのアニメックス製品が販売されていた(詳細は後述)。

 輸出数量は、2007年で6万トン(豚肉4万2千トン、加工品1万8千トン)の生産を見込んでいる。上位輸出国は表14の通りである。生産量全体での輸出仕向けが32%を占めているが、これは所有する豚肉処理施設のすべてがEU規則に基づく衛生条件を満たし、EU域内への豚肉製品などの出荷が可能となっているためである。

 また、EU域外では、米国、韓国などへ輸出しており、日本向けは2006年4月に両国間での衛生条件が整ったことから輸出が開始されたところである。一方、これまで最大の輸出相手先であったロシア向けは、2005年11月以降ロシアの輸入禁止措置が継続しており、ポーランド農相がEU農業理事会などで不当な輸入停止措置であると訴えてはいるものの、未だ解決に至っていない。

表14 輸出国上位5カ国(2005年)

 (3) アニメックス社−アグリフ(AGRYF)工場

 ア 施設概観

 旧東ドイツの首都ベルリンから東に3時間ほど車で行くと、ポーランド北西部の都市シェチェンがある。同市はバルト海からの製品などの積出港として栄えてきた貿易都市であったが、EU加盟後は旧西側との流通の拠点として、さらには隣国ドイツへの労働力供給拠点として拡大しつつある都市の一つとなっている。今回訪問したアニメックス社アグリフ工場は、同市から車で30分の所に位置している。社会主義時代から操業している同工場は、敷地内にと畜処理施設(豚専用)、食肉加工施設、管理棟などがあり、民営化されるまでは敷地内に従業員宿舎まで完備されていたとのことである。豚専用食肉処理施設として約300人(と畜処理、部分肉処理、ハムなど食肉加工)が従事し、年間75万5千頭を処理する同社豚部門では最大規模の工場である。

表15 と蓄頭数の推移(アグリフ工場)

 イ 処理施設の概要

 約25年前に建てられた現在の処理施設(と畜施設、食肉加工施設)は、機械器具の更新と併せて改修も行っており、米国やEUの豚肉処理先進国の施設と遜色ないオペレーション体制が構築されていた。施設は衛生管理を明確に行うためダーティーゾーン、クリーンゾーンを壁面で色分けし、作業員もゾーンカラーに対応した保護帽をかぶっていた。


と畜処理場内のゾーニング(壁側が赤くペイントされている)

 同社では、全施設がHACCPを導入していることから、これが適正に機能しているか、衛生管理が的確に行われているかをチェックする赤いつなぎを着たHACCPインスペクターが巡回している。施設マネージャーによれば、このインスペクターはHACCPの管理・指導を行うだけでなく作業員のQC(品質管理)順守状況も確認する目的も兼ねているとのことであった。

 また、食肉衛生検査は、政府から派遣された検査員が行い、検査員3人と補助検査員20人(補助検査員に適否の最終判断は出来ない)が8時間交代の3シフト体制で検査を実施している。これら23人全員が政府から派遣された職員である。


検査状況(HACCP検査員)

 (1) と畜処理施設

 施設では、1日当たり3,400頭を処理、24時間体制で週5日稼動し、年間約68万トンの豚肉(加工品含む)を製造している。生体の追込みから凍結庫までの所要時間は約45分とほぼ日本と同じであったが、と畜過程で使用する水は1頭当たり約450リットルと日本に比べ半分以下の使用量となっていた。同工場では、水の使用を極力抑えるドライ方式の方がより衛生的(水の使用により生菌が周りのと体にも拡散するとともに生菌が繁殖する温床になるとの考えがあるようである。)との考えに基づいた結果とのことである。なお、施設内で発生するすべての排水は固液分離の後、公設のし尿処理場で処理されるとのことである。

 と畜処理工程の概要は以下の通りである。

 A 生体搬入

 プリマ農場や契約農家から搬入された肉豚は、最大2,500頭収容可能な係留場に2〜12時間係留される。ここでは家畜検査員(Livestock Inspector)により搬入豚の状態や疾病感染の有無などについてチェックされる。日本向けは、と畜処理および部分肉加工ラインを他と分けて処理する必要があるため、「Japan」と記載されたペンに分離して係留しているとのことであった。

 肥育豚のと場搬入体重は、110〜120キログラムに揃えるように調整しているとのことである。


係留場(日本向け)

 B 追い込みから放血まで

 当該施設では二酸化炭素ガスを用いたと畜処理を行っていた。群で追い込まれた豚は、2頭ずつゴンドラに入れられ、地中に掘られた二酸化炭素で充満したガス室(二酸化炭素濃度90%)を豚の入ったゴンドラが観覧車のように2分間かけて一周すると豚がノッキング(失神)状態になるという仕組みである。ガス室から排出された豚は、速やかにのど刺しが行われ、放血、シャックリングされる。放血時の血液は廃棄され、副産物としては利用しないとのことである。

 ガスと畜では放血が甘くなり肝臓などの血抜けが悪いとされ、これが日本で普及しない一つの理由のであるが、内臓をハム・ソーセージの原料として利用するポーランドでは血抜けの良し悪しは問題ないらしく、むしろ電気式のノッキングに比べ骨折などの発生が減少するため、二酸化炭素を用いたと畜方式が好まれるとのことであった。

 C と体洗浄から脱毛・毛焼き処理まで

 EUの豚肉処理施設の多くが湯はぎ方式による解体処理を導入しているが、当該施設においても同様の方式を取り入れていた。放血が終了した後、湯漬けする前に表皮についた汚れを落とすため、と体を洗浄する。洗浄後、シャックリングされたままセ氏59.2度の湯槽に7分30秒浸けられ、毛穴が開いた後、ビーター(と体表面を叩くなどして脱毛する装置)で脱毛が行われる。残毛は毛焼き機で焼かれ、再度のと体洗浄が行われる。


毛焼き機


ビーター(と体洗浄および残毛処理)

 D 直腸結束処理から内臓摘出処理まで

 肛門切開処理後、直腸結束されたと体は、恥骨・胸割を行った後、腹割りと内臓出しを行う。この際、政府の検査員による衛生検査を受ける。当該施設では内臓出しまで15〜20分を要するとのことであり、日本のような皮剥ぎ方式に比べ前処理工程の多い湯剥ぎ方式は時間がかかるとの印象を受けた。なお、肝臓、腎臓、小腸、タンなどの内臓は施設内にある副生物処理室に運ばれ一次処理されているとのことであった。

 E 背割りから凍結・保管まで

 背割りは正中線に沿って行われ、背脂肪の厚さなどを測定後、格付けが行われる。格付けはEUスタンダードに基づき、脂肪が少なく赤身率が高いものから逆に脂肪が厚く赤身率が低いものまで6段階(S、E、U、R、O、P)に区分される。なお、日本向けの枝肉には格付けの印字に加え、海外向けを示す「A」と日本の「J」が半丸枝肉毎に印字されていた。格付けまで終了した枝肉は、急速凍結庫に24時間保管され、肉芯温度セ氏6度まで冷却される。


枝肉の格付け


脂肪厚検査


格付印および工場番号

(2) 部分肉加工施設

 と畜後24時間経過した枝肉は同一施設内にある部分肉加工ラインに持ち込まれる。ここでは、195人の作業員が2シフト体制で部分肉処理を行っている。半丸枝肉からフォアとハインドに大分割されたものが懸垂ラインから作業ラインのコンベアに降ろされ、1ライン平均32人が作業するコンベア上でロイン、ベリー、ハム、ショルダーなどに分割・整形されていた。整形後の製品はICチップが組み込まれたバケットに入れられ、計量後に真空パックのラインに流れていくが、ICチップには群ごとの生産履歴などの情報が組み込まれ「トレーサビリティシステム」を確立しているとのことであった。

 また、各ラインには、黄色い帽子をかぶった品質管理のチーフとオレンジの帽子を被ったマスターコントローラーと呼ばれるラインに関するすべてについて管理するチーフがおり、さらに全ラインを管理する総括コントローラーがいるとのことであった。コントローラーは、ラインの進ちょく状況を把握し、的確で効率的な作業が行われているか常に監視していた。

 日本向けは、国内向け作業がすべて終了した後に製造しているとのことであり、ロイン、ベリー、ショルダーを中心としたセットでの輸出となっているそうである。これらのスペックは基本的にデンマーク産とほぼ同じ規格となっている。


部分肉加工ライン(バケット左に丸形のICチップ)


マスターコントローラー(オレンジラインの帽子)


生産履歴の読み取り(トレーサビリティー)

 (3) ハム・ソーセージ加工施設

 ポーランドではハム・ソーセージなどの加工品消費量が多いこともあり、豚肉専用の加工施設を有している。同施設は稼動を始めて25年以上経つとのことであるが、2年前にも機械器具の更新を行っており、例えば、完全自動化したハムプレスライン(作業員はシステム管理者1人で、原材料を充てんするだけで製品製造後の機械洗浄まで自動で行っている)では1日当たり72トンの国内向け商品を製造していた。同工場では70人の作業員(3シフト)により、国内向け(Krakus、Morliny、Yanoブランドなど)を年間1万3千トン(2007年見込み)製造しており、大手量販店などに直接販売しているとのことである。

 海外向けは、米国で輸入ハム・ソーセージとして最も多く販売されているKrakusブランドなどの商品を中心に年間1万2千トン製造しているとのことであり、英国向けにはベーコン、ドイツ・デンマーク向けにはソーセージが中心となっているとのことである。なお、加工品の輸出先上位5カ国は、デンマーク、米国、フランス、ギリシャ、ドイツとなっている。


自動化されたハムプレスライン


薫煙室


アニメックス社製加工品

 ウ 今後の生産状況

 同工場は国外向けの衛生基準を満たしていることから、現状の1対1の国内・国外向け生産割合を維持しつつ、契約農家の増加、アグリフ工場のと畜能力の増加(約20%の能力増大)を1年以内に行い、生産量を拡大させたいとのことである。


5 畜産物の消費

 (1)概況

 ポーランド料理は、肉類を中心に長時間煮込む料理が多く、脂肪分、塩分が多いのが特徴とされている。使用する肉は、豚肉、鶏肉、牛肉の順に多く、羊やウサギの肉も売られている。また、ハム・ソーセージの消費量が多い。魚介類の消費は少ないが、サケやニシンが良く食べられており、川魚も比較的入手しやすくコイなどが消費されている。 

 豚肉の国民1人当たりの年間消費量は39キログラム(日本12.1キログラム)となっている。代表的な豚肉料理はコトレットというポーランド風カツレツやゴロンカという豚の骨付きすね肉の煮込料理などがある。

 飲食店で提供される豚肉料理は非常にボリュームがあり食べきれないほどで、旺盛な豚肉消費を目の当たりにしたが、一方で近年ファストフードチェーンが盛んに進出するなど食習慣の変化が見られ、今後の豚肉消費性向に影響が出ることも予測される。


豚すね肉の煮込み料理(ゴロンカ)


豚かた肉を使った煮物料理

 (2)量販店などでの販売状況

 (大手量販店)

 精肉売場の構成は消費スタイルに合わせて豚肉、鶏肉、牛肉の順に大きい。精肉の販売形態は1キログラム前後のパック売りで、金額は1キログラム当たりで表示がされている。価格は販売店によってさまざまであるか、表16の通りとなっており、日本の小売価格と比較すると安価である。

 加工品は、ハム、ソーセージ、ベーコンなどバラエティー豊かな品揃えとなっており、総菜も豚肉を利用したものが多く見られる。販売形態は、ショーケースに陳列された商品を注文に応じてカットスライスをして提供される商品と、日本と同じ5本入ソーセージやスライスハムなど真空パック包装されている商品も多い。同社によると加工品の国内シェアは10%程度とのことであるが、大手量販店では安定的供給が可能で品質も安定している大手ブランドを中心に取扱っているため同社の製品の割合が高くなっているとのことである。

表16 大手量販店での豚肉販売価格




大手量販店(カルフール)

 (食肉専門店)

 食肉専門店は冷蔵ケースに陳列された精肉、ハム、ソーセージを量り売りする対面販売が一般的である。商品構成は豚肉(ハム・ソーセージ含め)の売り場が太宗を占め内臓も販売されていた。価格は大手量販店に比べ若干高いが、消費者が列を作るほど盛況であり、豚肉消費の高さがうかがわれた。


食肉小売店


食肉小売店豚精肉ブース

種類豊富な豚肉等加工品


6 ポーランドなどのEU新規加盟による豚肉などの流通変化

 これまで述べたようにポーランドの豚肉産業は、国全体では発展の緒についたという感じがするが、外貨の流入などで生産や食肉流通面で豚肉先進国と変わらない取り組みが始まっていることや今後も豚肉消費量の増加が見込まれることを考えれば、EU域内に新たな豚肉生産拠点と消費市場が生まれたといえる。また、欧州委員会によれば、ポーランドをはじめとする10カ国が新規加盟したことにより全体の豚肉需給は表17の通りになるとしており、輸出余力のある従来の加盟国(デンマークなど)から供給量が需要に満たない新規加盟国へ豚肉や加工品が流入する構図となっていくと予測している。しかしながら、ファーマポール農場やアニメックス社の事例を見ても単純に豚肉などの製品が新規加盟国で輸入超過になるわけでなく、むしろEU各国の消費性向や生産性・製品製造技術などの優位性に合せ図8のような流通が起き、結果としてEU域内の需要が充足されるのではないかと思われる。この変化の表れとして、デンマーク産の育成豚(28キログラム程度)がポーランドなどに生体輸出され、肉豚として肥育される事例やデンマークやドイツからハム・ソーセージがポーランドに輸出され、ポーランドからはフランス、スペインなどに豚肉を輸出する事例も見られる。

表17 豚肉需給予測



図8 予測:EU新規加盟国を中心としたEU域内の豚肉等流通の変化


7 終わりに

 EU加盟からもうすぐ3年が経過するポーランドは、ユーロ通貨には移行していないものの、ドイツへの出稼ぎ労働者が増え国内の労働賃金が上昇していることやスーパーにはEU域内と同じものが所狭しと並べられている状況を考えると、人・物の両面で完全にEU圏に組み込まれているとの印象を受けた。また、訪問先の方と食事をした際、「ポーランドでは家庭での食事が中心で外で食事することは少なかったが、近年はレストランも増え、外食する人が増えている」と言われ、食生活も変化してきていることがうかがわれた。

 このようにポーランドの豚肉需給は、EU経済圏の恩恵(賃金増など)を受けながら今後消費は増加するものと思われる。さらに、この豚肉産業の拡大に期待した海外投資にも支えられ先進的な経営を中心に豚肉生産は拡大するものと考えられ、旧EU加盟国が環境保護や動物福祉の観点から簡単には豚肉生産を増加できない中、生産・食肉処理施設、物流の環境が整いつつあるポーランドが、衛生面などの問題をクリアすることが前提となるが、日本などに対し積極的に輸出攻勢をかけて行くものと思われる。

 最後になりましたが、今回の調査にご協力を頂いたアニメックス社、ファーマポール農場の方々にこの場をお借りして感謝の意を表します。


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