全人代、農民の土地所有権を実質容認へ ● 中 国


私有財産保護を認めた物権法が最大の目玉

 第10期全国人民代表大会(全人代)第5回会議が、2007年3月5〜16日に北京で開催された。全人代は中国の最高国家権力機関とされ、各省・自治区・特別行政区および人民解放軍(中国共産党の軍事部門だが、対外的には国軍とみなされている)などが選出する代表により構成される。任期は5年で、大会は毎年1回開催され、単なる立法機関としての機能にとどまらず、その決定を通じ行政、司法にも影響を及ぼしている。

 3月5日の全人代冒頭、温家宝国務院総理は政府活動報告の中で、今年の経済成長目標を8%前後とし、昨年は10.7%を記録した経済成長の抑制により、経済格差などの社会矛盾の是正を図る方針を表明した。また、同報告では、環境・省エネルギーに関する目標が未達となったことを認め、一部の地方や企業が法令・基準などを順守していないと批判した。そして、都市部と農村部の間には、発展の不均衡が依然として存在するとし、いわゆる三農問題(農業振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)解決のため、農村部におけるインフラ整備などの資金として、前年よりも520億元(約8千億円弱:1元=15.3元)多い3,917億元(約6兆円弱)の予算を投入するとした。

 今年の全人代では、私有財産の保護などを認めた物権法の審議が最大の焦点となった。中国では、2004年3月の憲法改正により、合法的な私有財産の不可侵、土地や合法的私有財産の徴収・収用への補償などが明記された。物権法は、この内容を具体的に推進するためのもので、国民の財産に対する権利意識の向上などを背景に、既に2002年の全人代において審議が開始されていたが、憲法との矛盾などを理由に、保守派の根強い反発が続いていた。

 中国では、地方政府などが、わずかな補償金で農民の土地を強制収用したり、住民の立ち退きを強要するなど、全国各地で土地をめぐるトラブルがあり、一部では暴動も発生しているといわれる。今年3月初めには、地方幹部の腐敗や土地の強制収用などに抗議し、地方農民1,010人が署名した直訴状が全人代あてに提出された。中国でこれだけ大規模な署名直訴書が提出されたのは異例なこととされ、地方における不満の度合いをうかがうことができる。

 物権法制定の背景には、こうした諸問題の解決に向けた意図があるとされ、同法の制定により、農民の権利が保護されるとの期待も大きい。しかし、識者の中からは、現在、農民が耕している土地が、その農民のものとして保護されるかは疑問であり、むしろ、土地の強制収用や横領まがいの手口などで利権を肥やしている一部の権力階級の財産を固定化し、経済格差が拡大する可能性を懸念する声も上がっている。

 なお、今回の全人代では、これまで外資系企業に付与されていた企業所得税(法人税に相当)の優遇措置を段階的に廃止し、国内企業・外資系企業とも税率を25%とする企業所得税法の改正案なども採択された(背景などについては、本誌海外編2007年3月号特別レポート「急速に発展する中国の酪農・乳業」・の7(当機構ホームページでは・の9)参照)。


十一・五の初年度、農村部は目標を超える増収

 中国国家統計局によると、2006年における中国の国内総生産は史上最高の20兆9千億元(約320兆円)となったほか、対外貿易額は前年比23.8%増の1兆7,607億ドル(約210兆円:1ドル=119円)に達し、史上最高を更新した。

 昨年3月の第10期全人代第4回会議で承認された国民経済・社会発展第11次5カ年計画(2006〜2010年:いわゆる「十一・五」)では、農村部住民の1人当たりの純収入を年率5%増加させることとされているが、2006年は農業・農村の発展促進と農民の積極的な生産意欲の向上を図り、社会主義新農村建設が進展したことなどにより、1人当たりの純収入は3,587元(約5万5千円)に達した。物価上昇などの要素を除いた実質増加率は7.4%で、目標の5%を超えただけでなく、2005年まで3年間続いた6%台のそれをも上回る結果となった。

 (注)純収入とは、農村世帯における総収入から諸費用・税金を差し引いたもので、都市部における可処分所得に相当する。

 純収入=総収入−(家計経営費用+税金+生産に係る固定資産減価償却費+家計調査補助金+農村外部への贈呈支出)


2006年畜産生産額は1兆4千億元、畜産物の安全性確保を強調

 全人代に先立つ2月28日、中国農業部は、2006年における中国の畜産生産額が1兆4千億元(約21兆円)を超え、農業総生産額の34%に達したと発表した。その中で、王智才畜牧業司長は、農民1人当たりの畜産業による平均収入は、600元(約9千円)を超えて農民の現金収入の約3割を占めており、一部の畜産発展地域では5割前後にまで達し、畜産業が農業・農村経済を支える基幹産業に成長し、農民の重要な収入源となっていることを強調した。

 また、王畜牧業司長は、今年1月29日に発せられた「近代農業の発展推進と社会主義新農村建設に関する中国共産党中央および国務院の意見」(いわゆる「2007年中央一号文件」)において、「健全な養殖業の発展」を図るとされていることを挙げ、数量よりも品質を重視した畜産物生産の重要性を改めて強調し、畜産物のトレーサビリティシステムの構築や飼養管理の強化・改善とその指導・監督などを通じ、安全性の確保に一層の力を注いでいくとした。


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