中国農業部、PRRS全国免疫対策会議を招集


豚肉高騰の一因とも報道、政府は防疫の重要性と緊迫性を強調

 中国農業部は6月20日、北京で高病原性豚繁殖・呼吸器障害症候群(Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome:PRRS)全国免疫対策会議(全国高致病性豚藍耳病免疫工作会議/豚藍耳病=PRRS)を招集した。会議の席上、尹成杰農業部副部長は、各級政府の獣医部門は高病原性PRRSの防疫対策の重要性と緊迫性を十分認識の上、発生状況を的確に把握して免疫対策を確実に実施し、長期にわたって有効な防疫体制を構築するよう強調した。

 PRRSは1987年に米国で初めて確認され、その後、カナダやヨーロッパなどにも拡大した。当初はミステリー病、青耳病(耳や鼻、肢端などにチアノーゼが認められることがあるため)などと称され、91年にオランダで初めて原因ウイルスが特定された。中国では90年代中頃に初めて発見された。日本では90代前半頃から発生が認められ全国にまん延、発症した子豚の下腹部などが、呼吸のたびにヘコヘコと波打つような動きをするため、当初はヘコヘコ病と俗称された。母豚では妊娠後期の流死産や産子異常が、ほ育豚では死亡率が高くなり、呼吸困難や虚弱、開脚姿勢などが、育成・肥育豚では食欲不振や咳を伴わない呼吸困難、増体率の低下、死亡率の上昇などの症状が見られるが、不顕性感染も多い。人への感染はない。

最近の中国におけるPRRS の発症状況

 中国では、今年4月下旬から5月にかけて豚肉価格が急騰(本誌海外編2007年7月号中国トピックス参照)し、農村部では豚の盗難事件も相次いだ。一部報道などによると、価格急騰の一因として、昨年以降発生している豚連鎖球菌症やPRRSなどの影響も指摘されていた。

注 中国では、2006年夏から秋にかけ、南部の一部の省で「高熱病」と俗称される豚の疾病が多発、農業部の調査により、この高熱病がPRRSウイルスの変異による高病原性PRRSであることが判明した。


中央政府、PRRS対策に2億8千万元拠出

 全国免疫対策会議に先立つ6月7日、農業部は高病原性PRRSの防疫対策に関する緊急通知を発出、各級政府に高病原性PRRSなど重大な動物感染症への応急対策と応急業務プログラムのさらなる推進および改善が指示された。通知では、農業部が高病原性PRRSワクチンの生産・配分を重点的に実施する一方、各級政府には発生状況のモニタリングと報告、防疫管理の強化などが求められた。

 また、6月11日には賈幼陵農業部獣医局長(国家首席獣医師)が記者会見し、2006年は夏から秋にかけて高病原性PRRSが多発し、南部の生産地区を中心に養豚業が大きな経済損失を受けたと述べた。また、2007年1〜5月の高病原性PRRSの状況について、全国22省194県にわたる289カ所で発生が認められ、発症例は4万5,858頭、うち1万8,597頭が死亡したほか、5,778頭が処分されたことを明らかにし、昨年以降2千万頭もの豚が死亡したとする一部報道の内容を、死亡率などから計算して、あり得ないことと否定した。さらに、この会見で賈獣医局長は、関係部門と協力して新型ワクチンの開発を進め、3カ月を要し研究を完了、5月10日に新型ワクチンの生産規程および品質基準を正式に策定し、ワクチンメーカー12社に不活化ワクチンの製造を許可したほか、高病原性PRRSのスクリーニング診断薬RT-PCRの開発にも成功したと述べた。農業部新聞弁公室によると、この新型ワクチンは、6月13日から正式使用が認可され、15日前後から出荷が開始された。

 併せて、賈獣医局長は、高病原性PRRS流行の原因として、地域ごとの防疫条件の差や農家ごとの管理規範の不統一性などがあることを挙げ、高病原性PRRSワクチンの配布を農業部が一元管理し、ワクチン接種に要する経費を中央および地方政府が全額負担する方針であると述べ、中央政府が2億8千万元(約45億4千万円:1元=16.2円)を予算措置したことを明らかにした。

 なお、財務部は6月22日、2007年度中に繁殖雌豚に対する保険・補助の結合制度を構築すると発表、今年度中に必要な財政負担は65億元(約1千1百億円弱)、うち中央政府の財政負担は38億元(約6百億円強)と見積もっているとした。


農業部、発生報告の強化など5項目の措置を強調

 6月20日の全国免疫対策会議において、尹農業部副部長は、高病原性PRRS対策について、各地における免疫対策の強化を基礎とした上で、有効な措置を総合的に実施し、長期にわたって有効な防疫体制を構築するとともに、当面は発生報告や診断体制の強化など、以下に掲げる内容について的確な実施を図るよう強調した。

 1 発生状況および診断体制の強化
 発生状況について、ゼロ報告を含め毎日報告する制度を厳格に運用し、高病原性PRRSの発生が疑われる場合は、ただちに動物感染症報告ネットワークを通じて報告すること。

 2 感染症モニタリングの着実な強化
 監視範囲の拡大、監視頻度の上昇などモニタリングをさらに強化し、隠れた感染の除去を図ること。

 3 応急対策の即時実施
 高病原性PRRSなどの重大な動物感染症への応急対策と応急業務プログラムのさらなる推進と改善を図り、応急物資の備蓄を的確に行うこと。また、感染が発見された場合には、直ちに相応の応急対策を講ずること。

全国の生鮮豚肉卸売価格の推移

 4 病死豚などの市場流入の防止
 感染地区については厳格な封鎖措置を講じ、豚および関係産品の流出を厳禁するなど、断固とした感染防御措置を実施すること。

 5 飼養場の防疫管理の強化
 防疫管理の的確実施や感染症の予防・治療技術の指導強化など、飼養場に対する積極的な指導によって、予防・治療水準の向上を図ること。


商務部は豚肉価格の安定化を指摘

 一方、商務部の朱小良市場運行調節司副司長は6月12日、6月10日現在における全国の主要都市における豚肉の卸売価格が、5月末に比べ0.3%安の1キログラム当たり16.51元(約267円)、平均小売価格が、同2.3%安の20.93元(約339円)となり、豚肉が引き続き急騰する可能性は大きくないとして、基本的に価格が安定する方向にあるとした。また、市場における豚肉の供給状況は基本的に問題がなく、一部で取りざたされていた国家備蓄肉の放出についても、当面はその必要性がないとした。

 朱副司長は、豚肉価格が安定化に向かっている背景として、(1)中央および各級地方政府が豚肉価格の急騰という問題を重視し、これら一連の支援措置が豚肉需給の正常化に有効に作用したこと、(2)価格高騰によって豚肉需要が一部減少し、家きん産品や水産物、牛肉などに消費がシフトしたこと、(3)気温が高くなる6〜9月は、一般に食肉消費量が減少する時期(中国の食肉消費量は、気温が低い時期に増加し、高くなる時期に減少する傾向)であること、(4)このところ、豚/穀物比(豚の販売価格に対する飼料コストの比率を表したもの。豚の販売価格÷穀物の価格で算出)が損益分岐点である5.5を大きく上回っていることから、農家における豚の飼養意欲が向上し、供給能力が拡大していることなどを挙げている。

最近の中国における豚及びトウモロコシ平均価格の推移


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