急成長する内蒙古の酪農・乳業(中国)




ひとくちMemo

 内蒙古自治区は、中国北部に位置し、モンゴルおよびロシアと国境を接している。総面積は118.3万平方キロメートル、モンゴル高原の南部に当たり、平均海抜は1千メートル以上で、広大な草原と原生林が分布する。現在は人口の約8割を漢民族が占め、その他民族の大部分は蒙古族が占めている。

 もともと遊牧民が多かったため、古くから畜産業が盛んで長い歴史を持ち、生乳生産量は、2003年に黒龍江省を抜いて以降、全国第1位の座を揺るぎないものとしている。同自治区呼和浩特(フフホト)市には、伊利実業、蒙牛乳業という世界的にも注目されている中国の二大乳業が本拠を置く。

 呼和浩特市轄区(古都部分)の繁華街。百貨店や映画館、ブランドショップ、ファストフード店などが軒を並べる。呼和浩特は、16世紀にモンゴルの皇族アルタン・ハーン(順義王)が築いた南モンゴルの古都で、「青い城」を意味する。呼和浩特市には現在、約258万人が在住する。

 呼和浩特市轄区の「2006牛乳節」(2006 MILK DAYS=2006年牛乳記念日)の大看板。 呼和浩特市は2005年8月下旬、中国乳業協会(DAC)および中国乳製品工業協会(CDIA)から「中国乳都」の称号を授与されている。

 現在の内蒙古自治区と隣国のモンゴル国とを合わせた地域にほぼ相当する蒙古地域は、「歌の海、酒の故郷、乳の都」といわれている。



 呼和浩特市轄区から西方10キロメートルほどにある昭君牧場。牧場名は、楊貴妃・西施・貂蝉と並ぶ中国四大美人の1人である王昭君にちなむ。

 オーナーの崔志剛氏(上写真左端)は、北海道夕張近郊で研修した経験を持ち、酪農業歴17年。牧場内は清潔で花々が咲きこぼれ、崔氏を含め10人が酪農に従事する。

 乳牛飼養頭数は約150頭(うち搾乳牛約60頭)、すべて中国ホルスタイン(中国在来の黄牛♀にホルスタイン種♂を三代以上交配したもの)であり、人工授精には米国・カナダ産の精液を使用。

 搾乳量は牧場全体で1日約1.5トン、年間1頭当たりの平均搾乳量は8〜9千キログラムに及ぶ。1キログラム当たりの乳代は、近隣農家の平均に比べ2割ほど高い。






 呼和浩特市轄区から南方50キロメートルほどの和林格爾(ホリンゴル)県北部・盛楽経済園区にある蒙牛乳業の飲用乳工場。2002年から操業を開始し、1日当たり約1千2百トンの生乳を処理している。写真左の制御室では、蒙牛乳業所有の全国の工場の様子をリアルタイムで見ることができる。右の自動倉庫は、約1千4百トンのブリックパックを収容する能力を持つ。


 呼和浩特市轄区から西方25キロメートルほどの同市金川開発区・伊利集団金川工業園内にある伊利実業液体乳第三工場。同工業園では、1日当たり1千5百〜1千8百トンの生乳が処理され、うち液体乳第三工場では牛乳、加工乳、乳飲料が専門的に製造されている。

 呼和浩特市内の高速道路出口近くに立つ伊利実業の広告塔。伊利実業は99年、中国の食品業界では初めてとなるISO9002を取得、2005年には、蒙牛乳業と激しい争奪合戦の末、中国乳業界では唯一の北京オリンピック(2008年開催予定)のスポンサーとなっている。


 呼和浩特市内のスーパーマーケット(=超市)。店名を示す看板の傍らに、「蒙牛」の文字が見える。蒙牛は、宇宙飛行士専用ドリンクの指定を受けているほか、香港ディズニーランドと協力パートナー契約を締結するなど、ユニークな戦略を展開している。

 伊利実業、蒙牛乳業とも、従業員の平均年齢は35〜36歳で、総裁(社長に相当)の年齢も伊利実業36歳、蒙牛乳業38歳と、若さにあふれたアグレッシブな企業である。


 呼和浩特市轄区から西方10キロメートルほどの郊外にある伊利集団原乳基地第七牧場のトウモロコシ畑。内蒙古自治区や黒龍江省などで最も一般的な粗飼料は、ルーサン(アルファルファ)やトウモロコシのホールクロップサイレージなどである。

 訪問したのは2006年9月であるが、呼和浩特周辺では、例年より1カ月早く霜が降りたため、茎葉の一部が枯れてしまっていた。


 呼和浩特市の東に隣接する烏蘭察布(ウランチャブ)市察哈爾(チャハル)右翼前旗近郊の高速道路から見た農村部の風景。

 呼和浩特市轄区の繁華街のような近代的な光景と比較すると一目瞭然であるが、中国の都市部と農村部との格差はいまだ大きい。


 烏蘭察布市涼城県永興鎮の風景。烏蘭察布市はかつて烏蘭察布盟と称し、2003年12月の国務院批准によって市として成立した。人口約273万人で、以前は中国で最も貧しい農村地帯の1つといわれていたが、酪農とジャガイモ生産の振興によって、飛躍的に生活水準が向上した。


 烏蘭察布市涼城県にある蒙牛乳業原乳生産基地第111牧場(烏蘭察布市第四牧場)。蒙牛乳業の契約農家で、オーナーの段氏は、かつて豚を飼養していた。2003年から酪農経営に切り替え、現在は260頭ほどの乳牛(8割は豪州産ホルスタイン種)を飼養、約120頭の搾乳牛が1日約2トンの生乳を生産している。

 なお、豪州など海外から乳牛を導入しているのは、主として比較的富裕な優良酪農家であり、これが中国の一般的な酪農家の姿ということではない。


国際情報審査役 長谷川 敦、谷口 清


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