肉牛百万頭計画を中止 ●タ イ


肉牛百万頭計画を中止

 タイ政府は11月下旬、これまで進めてきた「肉牛百万頭計画」を中止すると発表した。この計画は、農家が肥育素牛などを借り入れて飼養し、肥育牛や子牛を政府が設立した機関が購入することにより、農家の所得を確保する計画であったが、素牛の配分や買い入れ機関の運営など、多くの問題が生じていた。タクシン前政権の下で開始されたが、クーデターによる政権の交代後に計画の中止が決定された。なお、同国では667万頭(2004年)の肉用牛が飼養されている。


百万頭計画は人気取り政策と批判

 百万頭計画は、2005年の下院総選挙において、当時のタクシン首相が全国行脚をした際に、東北地方で、農家から牛の供給を求められたことに端を発している。貧困対策の一つとして、政府の設立した機関が農家に牛を提供し、肥育した牛や増頭した子牛の買い入れを行い、増加額が農家の収益になるという仕組みである。同様の計画はこれまでも存在したが、政府が特別目的会社SPV(Special Purpose Vehicle)を設立して具体化した。計画名は、時には「百万世帯計画」としたり、呼名自体も時によって変更された。一部の畜産の専門家からは牛の所有者を変更するだけで、生産上のメリットはなく、選挙対策との批判もあった。本計画を中止することに関して、農業協同組合省は、計画が農家の実態と懸け離れたものだったとし、農家に対して牛の飼養方法の指導とSPVへの買戻しを確実にできなかったためとしている。本年も10億バーツ(32億円:1バーツ=3.2円)を超える予算で25万頭の貸付計画に対して、農家を厳選したため、2万頭の実績しか達成できなかったとし、行政の現状では農家1万戸への指導が上限であったとしている。


肉用牛頭数は回復基調で推移

 以上のように、政府による肉用牛政策は、時の政権の思惑の影響を受けて変化したが、同国の肉用牛飼養頭数の推移を見ると、経済危機以前の96年ごろから減少に向かい、98年を底になだらかな回復基調で推移している。一方、肉用牛価格は、98年まで1頭当たり8千バーツ(24,000円)以下であったものが、99年以降は上昇を続け、2004年には約1万5千バーツ(48,000円)となっている。この間、同国経済は、東南アジアの中でも目覚しい発展を続けており、農業の機械化により労働力としての牛の重要性は低下する一方で、食肉としての価値が高まったものと考えられる。

 また、同国の食肉消費の中で牛肉のシェアはそれほど高くはないものの、最近では都市部の富裕層を中心に焼肉などの牛肉消費量が増加しているとされ、全国の焼肉店600店舗のうち500店舗が集中する首都バンコクでは、日本式や韓国式などと銘打って宣伝競争が盛んとなっている。

 また、政府も、2004年には米国や豪州を見本に牛肉規格を作成し試行に入るなど、今後の国際交渉や食品安全を念頭に入れた対応を進めている。

タイ肉用牛頭数と農家販売価格


元のページに戻る