パッカーによる肉畜出荷への影響をめぐる米国内の議論の動向


  米国の両院において食肉分野の市場構造と肉畜取引に関する公聴会が4月17、18日開催され、契約に基づくパッカーへの肉畜出荷やパッカーによる肉畜所有が生産者の販売価格に与える影響について議論が交わされた。米国農務省(USDA)や主要畜産団体は、契約取引などを通じた垂直統合は産業の競争力維持に貢献しているとしたが、総合農業団体や小規模生産者は寡占を背景にしたパッカーの肉畜価格引下げ圧力に強い懸念を表明した。有力議員の間でも、肉畜取引における競争問題の取扱いについては見解に差異があり、今後の議論の動向が注目される。


米国における肉畜取引の現状と政府の評価

 米国農務省穀物検査・肉畜取引管理局(USDA/GIPSA)は、本年2月、米国における肉畜および食肉の契約取引がパッカーおよび肉畜生産者に与える影響についての報告書を公表している。

 これによると、肥育牛については現物取引が全体の61.7%を占めており、事前予約出荷が4.5%、長期出荷契約によるものが28.8%、パッカーの自己所有などが5.0%となっている。これに対し、肉豚については現物取引は11.0%しかなく、事前予約出荷(事前値決め出荷を含む)が41.1%、長期出荷契約によるものが16.7%、パッカーの自己所有が19.6%、委託生産などが11.6%であり、肥育牛よりも契約取引やパッカー自己所有の割合が高くなっている。

 また、特に肉豚においては契約出荷の増加に伴って出荷価格が低下する傾向はあるものの、経費削減、経営リスクの軽減、肉質の向上などの面で生産者にとっての利点も大きく、契約出荷は総じて畜産物取引の効率化に貢献していると結論付けている。


主要畜産団体は契約取引に対する規制強化の動きに慎重

 4月17日に下院農業委員会が開催した公聴会において、全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)のジョン・クイン会長は、GIPSAの報告書によれば肥育牛価格に与える契約取引の影響は軽微なものであるとした上で、いかなるものであれ肉畜の販売方法に政府が規制を設けることは市場における競争を制限するものであり、受け入れられないとした。

 また、全国豚肉生産者協議会(NPPC)のジョイ・フィリッピ前会長は、証拠もなくパッカー叩きを行えば結局は肉豚生産者の利益を損なう結果になるとし、契約取引を規制したり肉豚の25%以上を現物取引で購入するよう義務付けたりする法案には慎重に対応するよう求めた。

 さらに、食肉加工業者の全国団体である米国食肉協会(AMI)のパトリック・ボイル会長は、経済的リスクを最小化しつつ消費者の需要にこたえた肉畜を生産するという目的に照らせば、生産者が契約生産という方法を選択する機会を閉ざすべきではないと主張した。


総合農業団体や小規模生産者は大企業による支配を警戒

 これに対し、ファーム・ビューロー(AFBF)のボブ・ストールマン会長は、現在の肉畜取引には正当な競争原理が働いておらず、特に地域によっては生産者に契約出荷しか選択肢がない場合もあるとして、肉畜の公正取引を定めたパッカー・ストックヤード法に基づくUSDAの査察の強化に加え、契約取引の際にパッカーが守秘義務規定や強制的調停規定を設けることを禁ずるよう求めた。

 また、ファーマーズ・ユニオンのトム・ブイス会長は、不公正かつ非競争的な取引慣行の下では、何らかの保護なしに自立した農家が成功をつかむことは不可能であるとして、2007年農業法でパッカーの肉畜保有を禁ずるとともに、契約出荷から情報の透明性の高い一般市場における取引に転換するよう義務付けるべきと主張した。

 さらに、ノースカロライナ州の養鶏農家であるケイ・ドビー氏は、鶏肉企業から10年償還の条件で融資を受けて鶏舎を建築したものの、当初結んだ出荷契約は短期間で更新を余儀なくされ、ついには当該企業への訴訟を禁ずる規定を受け入れざるを得なくなった経験を語るとともに、パッカー・ストックヤード法の強化や出荷契約における強制的調停規定の禁止などが行われなければ、早晩、養豚農家も養鶏農家と同じ憂き目に遭うと訴えた。


有力議員の間でも立場に相違

 上院農業委員会のトム・ハーキン委員長は、2002年農業法の制定時にも企業における家畜保有を規制する法案を提出するなど、かねてよりパッカーの寡占と肉豚保有による家族養豚への悪影響に対して強い懸念を表明している。同委員長は、年初から、2007年農業法においてパッカーの家畜保有禁止規定を盛り込むべく全力を挙げる考えを繰り返し述べている。

 これに対し、下院農業委員会のコリン・ピーターソン委員長は、家畜の販売に際して何らかの規制を設けるべきとの動きがあることは承知しているが、それは特定地域の政治的な問題であり、現時点では次期農業法案において自ら競争問題を取り上げる考えはないとしており、両者の立場の違いが明確になっている。

 昨年9月、米国最大の豚肉パッカーであると同時に米国最大の養豚企業でもあるスミスフィールド・フーズ社は、米国第2位の養豚企業であるプレミアム・スタンダード・ファーム社の買収を公表した。現在、米国司法省による反トラスト法上の審査が行われているところだが、畜産分野における垂直統合とパッカーの寡占については地域間の利害も絡んだ複雑な問題となっており、今後もこれらの動向が注目される。


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