特別レポート

EUにおけるバイオ燃料生産・利用の現状について

ブリュッセル駐在員事務所  和田 剛、  小林 奈穂美

1 はじめに

 ここ数年、地球温暖化対策やエネルギー確保の面でメリットがあるとされるバイオ燃料の生産やその利用に関し世界的に関心が高まっている。EUにおいても、近年、バイオ燃料の生産・利用は急速な拡大を見せているが、米国やブラジルなどと比較するとその規模は依然小さい。また、EUにおけるバイオ燃料の利用状況を見ると、輸送用車両はもとより、乗用車についてもその約半数がディーゼル車であることなどを背景に、米国やブラジルなどで盛んなバイオエタノールではなく、菜種油などの植物油を原料とするバイオディーゼルが主流となるなど、ほかの地域とは異なる状況にある。

  本レポートでは、近年急速に拡大を見せるEUの全般的なバイオ燃料生産の現状や今後の見通しについて報告するとともに、環境・エネルギー政策の一環であるバイオ燃料の増産が農業生産活動、特に競合関係にあると考えられる飼料利用に与える影響について考えてみる。
 


2 バイオ燃料が有する潜在的な利点

 バイオ燃料の生産・利用は、EUのエネルギーおよび環境政策において大きな期待が寄せられている。

  エネルギー政策の面では、バイオ燃料が、現在使用している輸送用化石燃料と大規模に直接置き換えることである。EUの輸送部門の現状は、そのエネルギーの98%を石油に依存しており、その大部分は輸入によるものである。将来的な石油の安定供給の確保はEUにとっても厳しい課題となっている。このような中、エネルギーの安定的な確保の観点よりその生産・利用のさらなる推進が進められようとしている。

  また、環境面では、地球温暖化対策として、バイオ燃料の生産・利用による化石燃料利用の減少により、温室効果ガスの排出量削減を図ることである。ただし、この方法はさまざまな方法の1つであり、運送車両の効率改善も併せて行われる必要がある。2020年までに、輸送部門から排出される温室効果ガスは現状のままであれば年間7,700万トン増加すると試算され、これは他の部門の3倍以上の増加となっている。

  ただし、バイオ燃料の生産によって深刻な環境破壊を引き起こす恐れがないよう留意する必要があることが指摘されている。
 


3 バイオ燃料に関するEUの戦略

(1)2003年のバイオ燃料指令
 
  欧州では、1990年代に入り、いくつかの国でバイオ燃料を利用する動きが出てきた。そのような中、EUでは2001年に関連法令に関する提案が行われ、2003年に、輸送部門におけるバイオ燃料などの利用促進のための「バイオ燃料指令」および「エネルギー税制指令」の適用へとつながっていった。「バイオ燃料指令」においては、2005年に輸送燃料の2%、2010年に5.75%をバイオ燃料とするとの目標が立てられた。なお、この達成のために各加盟国はそれぞれの目標値を定めたが2005年の目標値の達成については義務とはなっていない。

  これらの議論の過程においては、まだバイオ燃料はそれほど重要な燃料ではなく、2001年の時点でバイオ燃料の市場シェアは0.3%にすぎず、その利用も5カ国のみであるなど当時の関連法令の提案についての議論は、現在とは異なる状況下で行われていた。

(2)現在のバイオ燃料の利用状況

 2006年の原油価格は2003年の約2倍に上昇しており、この間、2005年8月から9月にかけて起きたハリケーン「カトリーナ」による石油供給の混乱や2006年1月のロシアからウクライナ経由でEU諸国に供給される天然ガスの一時的な停止問題など、EUにおけるエネルギー供給の面での混乱が生じた。一方、多くの加盟国では、植物油を利用したバイオディーゼルが利用されるなど、バイオ燃料は、石油の代替燃料として着実に定着している。

  しかしながら、2005年の輸送部門におけるバイオ燃料の使用割合は1.0%に上昇し、2003年の0.5%に比べ大きな進展はあったものの、目標の半分しか達成できていない。なお、2005年の目標の2%を上回るのはドイツ(3.75%)とスウェーデン(2.23%)の2カ国のみである。また、バイオディーゼルはディーゼル市場の1.6%のシェアを占めるのに対し、バイオエタノールはガソリン市場の0.4%を占めるにすぎない。

表1 輸送用燃料に占めるバイオ燃料の利用割合の推移

(3)バイオ燃料に関するEU戦略

 バイオ燃料の利用は、近年、急速な拡大を見せるが、バイオ燃料指令に基づく2010年の目標値(5.75%)の達成についても困難な状況となっている。このような中、欧州委員会は2006年2月、農産物を原料とする燃料生産の増進を図るため、市場改善、法整備、研究推進など広範な行動計画を盛り込んだ「バイオ燃料に関するEU戦略」を適用した。これは、先の2005年12月に公表した、運輸部門でのバイオ燃料の利用促進を盛り込んだ「バイオマス行動計画」を補完するものである。

  この戦略では以下の3つを主な目標としている。
・ EUおよび開発途上国双方でのバイオ燃料の利用促進
・ コスト面での競争力強化および「次世代燃料」に関する研究強化によるバイオ燃料の大量利用に向けた準備
・ バイオ燃料生産が持続的経済成長を促すこととなる発展途上国への援助

(4)新たな目標数値の設定

 加盟国首脳が参加する欧州理事会は2007年3月9日、エネルギー分野全体での新たな政策パッケージについて合意した。この合意で、EUは2020年の温室効果ガスの排出量について90年比で最低20%削減することとしている。そして、この温室効果ガス削減のための具体的な対策として、バイオエネルギーを含む「再生可能エネルギー」について、2020年までにEU全体で消費するエネルギーの20%までこのシェアを引き上げること、および、同年までに、「全加盟国で輸送に利用される燃料の最低10%をバイオ燃料由来のものとする」ことを義務とすることとしている。

  EUにおけるバイオ燃料の利用については、これ以前の2003年の指令において目標値を設定し推進してきたが、改めて、地球温暖化防止およびEUのエネルギー確保や競争力強化を目的としてこの普及を後押しすることとしている。

表2 加盟国別のバイオ燃料生産量

図1 EU におけるバイオ燃料の生産割合



図2 EU におけるバイオ燃料の生産量の推移



4 EUにおけるバイオ燃料の生産現状

 バイオ燃料産業はバイオディーゼル生産とバイオエタノール生産の2部門に大きく分けられる。このうち、バイオディーゼルはバイオ燃料生産の81.5%を占める。EUにおける2005年のバイオ燃料の生産量は約390万トンで、このうちバイオディーゼルの生産量は318万4千トンとなっており、前年の193万3千トンに比べ64.7%の大幅な増加となっている。一方、バイオエタノールの生産量は約73万トンでこちらも前年比43.5%増となっている。しかしながら、バイオ燃料の生産量は、EUにおけるガソリンおよび軽油(ディーゼル)の使用量のうち1%にも満たない量となっている。

  EUにおいてバイオ燃料生産の最も多い国はドイツである。そのほとんどはバイオディーゼルであり、EU全体のバイオディーゼル生産の半分以上を占める。また、生産量の増加率は非常に大きく、2006年には前年比で約61.3%の大幅な増加を見せている。この背景には、バイオディーゼルをそのまま直接利用する又は混合利用する際に、1リットル当たり0.47ユーロの鉱油税の免税が挙げられる。しかしながら、2006年8月より、バイオディーゼルをそのまま直接利用する場合は1リットル当たり0.10ユーロ(約16.2円:1ユーロ=162円)、混合して利用する場合には同0.15ユーロ(約24.3円)の課税を再開しており、段階的に引き上げられることとなっている。

  フランスでは、バイオディーゼルの生産量は2001年以降減少していたが2005年には回復し、前年比41.1%増の49万トンとなっている。フランスのバイオ燃料に関する税制については、バイオ燃料の鉱物油との混合利用に対する減税が行われている。ただし、この額は2006年に縮小され、バイオディーゼルの場合100リットル当たり33ユーロから同25ユーロへ、バイオエタノールの場合同38ユーロから同33ユーロとなっている。

(1)バイオエタノール

 EUの2004年のバイオエタノールの生産量は約49万トンであるが、この生産に120万トンの穀物(トウモロコシ、小麦、大麦など)と100万トンのてん菜が使用されたと推計されている。これらは、それぞれEU25カ国の穀物生産量の0.4%、てん菜生産量の0.8%に相当する。主な生産国はスペイン、ドイツ、スウェーデン、フランスである。なお、フランスではバイオエタノール生産の約4分の3がてん菜を利用したものであり、そのほかの国では穀物を主に利用している。最も消費量が多い国がスウェーデンで、その約80%がブラジル産を中心とした輸入品に頼っている。2006年のEUにおけるバイオエタノールの生産能力はさらに170万トン増加、2008年には2005年の3倍になると見込まれる。この場合、2008年には370万トンの穀物と500万トン以上のてん菜が必要となる。

(2)バイオディーゼル

 EUの2004年のバイオディーゼルの生産量は約193万トンであるが、この約8割が菜種由来で、この生産に410万トンの菜種が使用されたと推計されている。これは、EU25カ国の菜種生産量の40%に相当する。EUはバイオディーゼルの先進地であり生産・消費の両面で主要地域となっている。主な生産国はドイツ、フランス、イタリア、チェコである。

  業界試算によれば、EUにおけるバイオエタノールの生産能力は、2006年に600万トン、2007年に800万トンに到達すると見込まれる。なお、2006年には菜種の生産の58%がバイオディーゼルの生産に使用されたと見込まれる。


菜種からのバイオディーゼルの抽出



5 農業生産への影響

(1)バイオ燃料生産にかかる農業分野での支援策

 (1) 共通農業政策(CAP)によるさまざまな支援
   ア 休耕地の利用推進
   EUでは、2003年のCAP改革を経て、生産者への直接支払いの大部分を、それまでの品目ごとの生産量に応じた直接支払いから、生産とは切り離された生産者を単位とした直接支払い(デカップリング)へと移行している。休耕(セットアサイド)は、92年以降、「直接支払い」の受給の要件として設定され、現在もデカップリングの要件として引き継がれている。通常、休耕地において食用や飼料用の作物の栽培は認められていないが、エネルギー穀物(バイオ燃料を含む固体、液体、気体のエネルギー生産のために栽培される作物。主に油糧作物(菜種、大豆、ヒマワリ)、穀物(小麦、大麦、トウモロコシ、ライ麦)、てん菜など。)を含む非食料用作物の栽培は認められている。2005年にはこのような義務的な休耕地が400万ヘクタール(このほかに自主的な休耕地が300万ヘクタール)あり、このうち85万ヘクタールでバイオディーゼル生産用の菜種が栽培されている。

   イ エネルギー作物助成
   2003年のCAP改革において、バイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料および電力や熱エネルギーとして利用できるバイオマスの原料となる穀物の生産に対する助成を新設している。これは、規則の条件に従った農地にエネルギー作物をは種した場合、面積に応じ、年間1ヘクタール当たり、45ユーロ(約7千3百円:1ユーロ=162円)を支払うものである。なお、休耕地におけるは種も助成の対象となり得る。

   助成の受給対象となる生産農家は、エネルギー生産業者との契約によりエネルギー作物を生産する場合に限られる。2005年の本助成の対象面積は57万ヘクタール(助成上限の150万ヘクタールの約38%)で、主にドイツ、フランス、イギリスが対象となっている。なお、EUではエネルギー穀物の生産を促進するため、2007年1月より、本助成の対象をこれまでの17カ国から、2007年1月に新規加盟したブルガリア、ルーマニアを含むすべての加盟国へと拡大し、また、EU全体で対象となる面積を150万ヘクタールから200万ヘクタールに拡大することとした。

 (2) 農村開発政策
   2007年から2013年の間の農村開発にかかるEUの戦略では、バイオマスを含む再生可能エネルギーの振興に関するさまざまな支援策が盛り込まれている。その中には、再生可能エネルギーの生産者である農家やバイオマスの処理・加工など関連する分野に対する投資支援が含まれる。

(2)2005年のバイオ燃料生産のための耕地の利用状況

 2005年のバイオ燃料の生産のためのエネルギー作物の作付面積は約280万ヘクタールで、その内訳は、休耕地90万ヘクタール、エネルギー穀物助成の対象60万ヘクタール、通常耕地130万ヘクタールとなっており、これらはEU25カ国の耕地面積の約3%を占める。

表3 耕種作物の作付面積および休耕地面積の見通し(2004 − 2013)

(3)中期見通しにおけるバイオ燃料生産のための農作物の利用見込み

  次に、2007年2月に公表された欧州委員会による農作物に関する2013年までの中期見通しを紹介する。本見通しの作成時点では、3月に合意されたエネルギー分野における政策パッケージの内容(2020年の輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェア10%)は反映されていないが、2003年の「バイオ燃料指令」の目標である「2010年の輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェア5.75%」の達成を念頭に置いたものとなっている。なお、本見通しに基づき生産されるバイオ燃料は、2010年に輸送燃料の3.6%、2013年に同4.7%を占めると見込まれている。

 (1) 耕地の利用状況
   穀物(小麦、大麦、トウモロコシ、ライ麦など)の作付けについては、今後ほぼ5,900万ヘクタール前後で安定的に推移すると見込まれる。

   油糧作物(菜種、ヒマワリ、大豆など)については、バイオ燃料利用の拡大に併せ増加する。
   一方、てん菜については、砂糖改革による減産の影響により、中期見通しでは220万ヘクタールから170万ヘクタールに減少する。この減少分50万ヘクタールのうち30万ヘクタールが油糧作物、20万ヘクタールが穀物生産に振り替えられる。

 (2) 需給の推移
   ア 穀物
    穀物については域内で基本的に自給が出来ており、この構図は今後も変わらない。なお、2013年までにバイオエネルギー生産用としての利用は2005年の約14.3倍の1,860万トンと大幅に増加すると見込まれる。特に2007年以降急速に拡大していき、2013年にはバイオディーゼル生産のための油糧作物の利用量とほぼ同水準となる。

   イ 油糧作物
    2013年までにバイオエネルギー生産用としての利用が、2005年の約2.5倍の1,880万トンに増加すると見込まれる。消費量の伸びを生産量の伸びでカバーできず、この結果、輸入も増加する。なお、油糧作物の輸入とともに、バイオディーゼルそのものの輸入も拡大すると見込まれている。

  今後、EUにおけるバイオ燃料生産の拡大は、バイオエタノールの急速な生産拡大に負う部分が大きく、この結果、バイオ燃料におけるバイオディーゼルのシェアは徐々に下がっていくものと考えられる。

表4 穀物の需給見通し(2004 − 2013)

表5 油糧作物の需給見通し(2004 − 2013)

(4)飼料利用への影響

 (1) 畜産物生産の中期見通し
   中期見通しにおいて、主要な畜産物の2007年から2013年の間の生産については、

・ 牛肉: 820.5万トン 
           →  775.9万トン(−5.4%)
・ 豚肉:2,203.1万トン 
           → 2,255.4万トン(+2.4%)
・ 鳥肉:1,123.3万トン 
           → 1,186.3万トン(+5.6%)
・ 鶏卵: 690 万トン 
           →  710 万トン(+2.9%)
・ 生乳:147.7百万トン 
           → 149百万トン(+0.9%)

   と、牛肉以外は増加すると見込んでいる。

  (2) EUの配合飼料原料の利用状況
   欧州配合飼料工業連盟(FEFAC)の統計資料によれば、EUにおける2005年の配合飼料の生産量は約1億4千2百万トンで、この原料として、飼料用穀物が47%、油かす類が27%利用されている。なお、この油かす類のうち約3分の2は大豆かすである。

   一方、配合飼料原料の輸入状況を見ると、最も輸入量が多いのが油かす類で、利用量からすれば約75%を輸入に頼っている計算となる。

 (3) 穀物などの需給が飼料利用に及ぼす影響
   バイオ燃料の生産拡大は、食料および家畜飼料の利用との競合を引き起こす可能性がある。前述のように、配合飼料には多くの「穀物」を利用するが、中期見通しにおいて、穀物の需給が飼料の利用に及ぼす影響をどのように見込んでいるのだろうか。以下に概要を整理したが、結論から言えば、供給面、価格面からも飼料の利用に大きな影響が出るとは見込んでいない。

表6 EU の配合飼料原料の利用量の推移

表7 EU の配合飼料原料の輸入量の推移

ア 穀物

    中期見通しではバイオエネルギー利用が増大すると見込まれる「穀物」における飼料利用は2007年の1億6,700万トンから2013年には1億6,500万トンとわずかに減少すると見込まれている。特に配合飼料を利用する豚肉や家きん肉生産が増加すると見込む中で、穀物の飼料利用がわずかに減少する理由として次の3点を挙げている。

・ 今後も飼料効率の向上が続くため。特に、2004年以降EUに加盟した12カ国(EU12)でこの傾向が高いと見込まれる。すなわち、同じ畜産物の量を生産する場合にも、必要とする飼料の量が減少するとしている。

・ 家きん肉や卵の生産量の伸びがこれまでに比べ鈍化するため。これらは人口の伸びに比例していたが、今後の伸び率は以前より低いと見込まれる。

・ バイオ燃料生産に伴い、飼料利用が可能な高タンパク残さの利用が進むため、今後、穀物に比べ、相対的に安価に利用できる高タンパク残さが養豚、養鶏部門を中心に利用されると見込まれる。

  中期的な穀物価格は、飼料利用割合の変動に大きな影響を受けると見られている。

  大麦は欧州西部を中心に地域的に競争力を維持し利用が続くと見込まれるが、これは見通し期間の前半にEU12(2004年5月以降のEU加盟12カ国)からの安価なトウモロコシの流入が遅れることおよび普通小麦がバイオ燃料生産利用により価格が上昇するためである。

  トウモロコシについては、見通し期間の後半には飼料利用が拡大していくと見込まれる。これは、市場統合やインフラ整備が進み安価なEU12のトウモロコシの利用が可能となるためである。このことは小麦や大麦の利用の減少につながっていく。

  なお、2005年のEUにおけるDDGS(エタノール蒸留残さ:Dried Distillers Grains with Solubles)の生産量は110万トン、輸入量は約70万トンで計180万トンが飼料として利用されたと推計されている。180万トンのうち、小麦由来が20万トン、トウモロコシと大麦由来がそれぞれ80万トンである。EUの配合飼料の年間利用量約1億4千万トンからすればわずかであるが、バイオエタノール生産の拡大に伴い今後、利用量は拡大していくと見込まれる。
 

イ 油糧作物
    一方、前述のとおり、現状では、配合飼料原料の約4分の1を占める油かす類、特に大豆かすについてはその多くを輸入に頼っている。世界的な大豆価格の上昇がEUの配合飼料価格に影響を及ぼす可能性がある。ただし、この場合は配合飼料中の油かす類の配合割合を多少変えることや菜種かすなどの代替も考えられ、大豆価格の上昇が配合飼料価格に直接的な影響は限定的と考えられる。

   なお、2005年の配合飼料における菜種かすの利用量は約820万トンで、前年の740万トンに比べ80万トンの大幅な伸びを見せており、この背景にはバイオディーゼル生産の拡大も影響していると考えられる。この間のEUにおけるバイオディーゼルの生産量は125万トン増加しており、その8割が菜種由来とすれば、菜種由来のバイオディーゼルの生産が100万トン増加したこととなる。この生産に約250万トンの菜種が利用されたと推計され、この菜種の約6割の150万トンの菜種かすが生産されたとすれば、その半分以上が飼料に利用されたと推計される。つまり、現状でも、すでにバイオディーゼル生産の副産物となる菜種かすの多くが畜産利用されていると考えられる。
 

(5)バイオ燃料推進に対する関係者の声

 欧州委員会は現在、2003年のバイオ燃料指令の見直し作業を進めているが、関係者からの意見を取りまとめて2006年10月に公表している。農業、機械製造業、エネルギー関係団体、輸送関係者、研究機関、非政府組織など144の団体などを対象に幅広い意見を聞き取っている。ここでは、主な農業関係者やエネルギー関係団体の「バイオ燃料利用を推進するという目的は政策として妥当か」との問いに対する回答を紹介する。

  エネルギー関係団体は肯定するとしても、農業団体もおおむねバイオ燃料の利用推進にはエネルギー確保、地球温暖化対策、農村開発に資するとの観点から肯定的である。ただし、欧州穀物・油糧作物輸出入組合(COCERAL)のみの紹介であるが、食品や飼料を取り扱う団体や企業などは、穀物などの原料の供給面や価格面で懸念を有していると考えられる。

  <肯定的な意見>
・ EBB(欧州バイオディーゼル委員会)、COPA/COGECA(欧州農業組織委員会/欧州農業共同組合委員会)、NFU(イギリス全国農業者連盟)
   エネルギーの安全保障、輸送部門からの温室効果ガス放出の削減、農村開発に資するとの主に3つの理由により、これを推進すべき。

・ UEPA(欧州エタノール生産者協会)
   バイオ燃料利用の推進は、目標が達成できていない理由など、重要であるのみならず緊急に検討すべき課題である。しかしながら、バイオ燃料利用の推進のためには、消費と生産の両面について取り組む必要がある。


  <否定的な意見>
・ COCERAL(欧州穀物・油糧作物輸出入組合)
   バイオ燃料のさらなる推進がさまざまな深刻な影響を与えることを懸念。
  ─ バイオ燃料の推進は農作物市場に大きな影響を与えることになる。
  ─ バイオ燃料供給と、食料・飼料供給とのバランスをとる必要がある。
  ─ 充分な供給量確保のための方策(輸入政策、研究、休耕地の解放)などを実施すべき。


(6)バイオ燃料利用の目標達成のために必要なこと、想定されること

 当初、2003年の「バイオ燃料指令」では、2010年に輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェアを5.75%とする目標が立てられたが、現時点で、現実的にはその達成は困難とされている。ただし、仮にこの目標を達成するためには農地利用などの面でどのようなことが起こるのか、どのようなことが必要なのか。欧州委員会のバイオマスアクションプラン第2回専門家会合(2007年3月13日)への同委員会農業総局提出資料より抜粋してみる。

・ 輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェアを5.75%に到達させるには
 ─ 化石燃料1,860万トンに置き換わる2,400万トンのバイオ燃料の生産が必要
 ─ 1,600〜1,800万ヘクタールの農用地が必要

・ EU25の農用地面積は1億360万ヘクタールであり、EUですべてバイオ燃料用作物を自給しようとすれば、この約18%に作付けする必要

・ 自給率を高めるための手段としては
─ 穀物在庫の利用および輸出用作物の転用
─ 約400万ヘクタールの義務的な休耕地の利用
─ 約320万ヘクタールの耕作放棄地の利用
─ 生産性の向上

・ 「EUでの生産」と「輸入」のバランスの取れたアプローチが必要

  そして、今回、2020年に輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェアを10%とする目標を立てた。この場合、現状では量的に多くない輸入に多く頼らざるを得ないと想定されている。この目標達成のために起こると想定されることは次のとおりである。

・ 2020年に輸送用燃料に占めるバイオ燃料シェアを10%に到達させるには
─ EUにおける消費量の多くを輸入に頼る可能性(輸入割合が30%にも)
─ EUではバイオディーゼル以上にバイオエタノールの生産が拡大する可能性
─ 消費拡大に併せ、バイオディーゼルやその原料の輸入が増大
─ 輸入が拡大するかどうかは、貿易政策、第2世代バイオ燃料の普及状況、業界の価格競争力による


6 おわりに

 バイオ燃料の生産・利用拡大は、化石燃料の代替として地球温暖化ガスの排出量の軽減につながるという環境保護の面や、各国・地域におけるエネルギー安全保障の面でメリットがあり、EUにおいても今後もさらに拡大することは疑いようがない。また、EUでは、農村開発や新たな雇用の創出が見込まれるとして、直接、競合関係のある食品・飼料関係者を除けば、多くの農業関係者はおおむねこの拡大を好意的に捉えている。

  一方で、急速な拡大は、世界的な食料や飼料価格の上昇の一因や植生の変化による自然環境への影響など問題点も指摘されている。EUにおいてはトウモロコシを含め飼料原料のうち「穀物」については、今後も自給は可能と見通しており、世界的な価格動向の影響により価格は上昇する可能性はあるが供給面ではそれほど心配はしていないようである。やはり、飼料原料の自給率を高めることが安定的な畜産経営の継続のためには必要なことであり、バイオ燃料との競合を一因とする昨今の飼料価格の上昇は、畜産飼料の多くを輸入に頼るわが国畜産にとって、飼料自給率を向上させることの重要性を改めて考えさせる1つの契機となっている。

  ただし、本レポートで紹介したように、今後、EUでもバイオ燃料に関する目標値を達成するためには、やや非現実的な耕地の利用もしくはある程度の輸入が想定されている。EUの求めるバイオ燃料やその原料を輸出できる国や地域が、その時点で実際にどれだけあるのかも不明であるが、EUも含め、バイオ燃料拡大という目標の達成のために、地球規模での環境や食料供給への悪影響は避けなければならい。また、このバイオ燃料の生産・利用の拡大に併せて、省エネルギーやエネルギー効率の向上などの技術開発、未利用資源の利用等新たなエネルギーの開発なども重要である。いずれにしても、この早急なバイオ燃料の生産・利用の拡大が及ぼす影響についての詳細な評価や検証が今後必要となってくるだろう。


参考資料:
European Commission Directorate-General for Agriculture and Rural Development“FACT SHEET(BIOFUELS IN THE EUROPEAN UNION : AN AGRICULTURAL PERSPECTIVE)
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND EUROPEAN PARLIAMENT”Biofuels Progress Report(Report on the progress made in the use of biofuels and other renewable fuels in the Member States of the European Union)”COM(2006)845 final, 10.1.2007
EuroObserv'ER2006
European Commission Directorate-General for Agriculture and Rural Development “PROSPECS FOR AGRICULTURAL MARKETS AND INCOME IN THE EUROPEAN UNION 2006-2013”
FEFAC“Feed & Food(Statistical Yearbook 2005)”
European Commission Directorate-General for Energy and Transport“Biofuels Directive Review and Progress Report - Public Consultation”http://ec.europa.eu/energy/ res/legislation/biofuels_consultation_en.htm
Second expert meeting on national biomass action plans(March 2007)DG-Agri, Hilkka Summa氏提出資料


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