家族経営によるアメリカン・バイソンの一貫経営(ミシガン州)


ひとくちMemo

 北米を代表する牛の品種の一つであるアメリカン・バイソン(通俗的にはバッファローとも言う)は、19世紀初頭まで、北米大陸に約6千万頭が生息していたとされているが、開拓者による乱獲により、19世紀後半には、その数はわずか500頭程度まで激減した。

 しかし、絶滅の危機に瀕していたバイソンも、連邦政府の保護活動などにより近年、その飼養頭数は増加傾向にある。2002年米国農務省(USDA)農業センサスによると、同年における米国のバイソンを飼養する民間農場は4,132農場で、総飼養頭数は23万1,950頭とされている。また、現在、北米大陸全体では、約50万頭が生息しているものとみられている。

 米国におけるバイソンなど野生動物の保護活動と言えば、1872年に世界初の国立公園として指定された「イエローストーン国立公園」などを思い浮かべる人も少なくないだろう。豊かな自然に恵まれた広大な公園内では、バイソンをはじめ数多くの野生動物たちが長年にわたり、野性そのままの姿で保護されている。しかし、北米のこれら公共的な保護地域におけるバイソンの生息頭数は約2万頭と、全体の5%にも満たない。

 バイソンの飼養頭数がここまで回復したのは、特に、商業目的による食肉の活用を図るバイソンの生産農場の存在が大きいと言える。この背景には、バイソン肉が、牛肉、豚肉、鶏肉など他の食肉に比べ、低脂肪、低カロリーで、近年の消費者の健康志向に合った食肉であるとの期待が高まっていることが挙げられる。USDAによると、2005年のUSDA検査済と畜頭数は、2000年に比べ2倍以上の約3万6千頭としている。

 今回は、ミシガン州南西部に位置し、ミシガン湖に流入するグランド川に臨む田舎町グランドラピッズで、家族経営によりバイソンの一貫経営を専業で営む「Sprik Farm」におけるバイソンの飼養動向を紹介する。



 Sprik Farmでは、91年にバイソンの飼養を開始した。写真は、同農場のご主人デイルさんとジンジャーさんご夫妻(写真左側)ら。基本的には、デイルさんご夫妻が、農場を管理・運営しているが、日頃から近所に住む4人の子供たちやその家族が支援してくれるそうだ。

 Sprik Farmにおける、現在のバイソン総飼養頭数は約110頭で、うち種雄牛6頭、繁殖雌牛65頭を所有する。子牛生産頭数は、年間35〜45頭とのことである。バイソンは、性格が荒く管理が難しいと言われており、周囲の牧柵も頑丈に敷設されていた。

 Sprik Farmでの生産サイクルは、8月頃に種付け(すべて自然交配)し、4〜6月に子牛を生産する。生産した子牛の一部は、約6カ月齢(約300〜350ポンド(136〜159キログラム))で繁殖用種畜として、米国内およびカナダの繁殖農家へ販売される(約575ドル/頭)。その他と畜用のバイソンは、24〜36カ月齢で州内にある2つの食肉処理場へ出荷される。平均出荷体重は、雄が1,000〜1,200ポンド(454〜544キログラム)、雌が900〜1,000ポンド(408〜454キログラム)。なお、同牧場では、去勢は行っていないとのことである。



 Sprik Farmでは、165エーカーの放牧地と、70エーカーの飼料畑を所有し、冬場(11月中旬〜4月中旬)の飼料用に年間60万ポンド(272トン)の乾草を生産する。すべてデイルさんの手造りという乾草舎の2階からは、梱包された乾草が給餌機へ簡単に投げ込める仕組みとなっている。同農場のバイソンは、ほとんど乾牧草と水のみで肥育されるが、一部カルシウムなどのミネラルが含まれた粉末状の補助飼料も給与されている。


 農場内に設置された自動給水槽。バイソンが必要とするだけの水が、地下水道を通じ、冬場でも凍結することなく給水出来る。

 Sprik Farmでは、農場内に「Buffalo Store」を併設し、バイソン肉、毛皮製品、その他アクセサリーなどバイソンにちなんだ多種多様な製品を販売している。これらの製品は、同農場のHPにより詳細に紹介されている。また、同農場では、全米を対象にバイソン肉のインターネット販売も行っている。



 「Buffalo Store」で販売される冷凍のバイソン肉。最も高価な部位であるテンダーロイン(ヒレ肉)は、ポンド当たり22.95ドル(キログラム当たり6,072円:1ドル=120円)。バイソン肉の特徴は、食肉中に脂肪交雑(さし)がないこと。バイソン肉の市場はまだ限定的なものであるが、主要な販路は、バッファロー・バーガーなどを提供するレストランなど外食産業向けが中心とのことである。



 「Buffalo Store」では、バイソンの剥製(MOUNTED HEAD)や毛皮も販売している。壁に掛かったバイソンは迫力がある。MOUNTED HEADの重さは30ポンド(14キログラム)、また、デイルさんが羽織った1頭分のフルハイドは7フィート×6フィート(213センチメートル×183センチメートル)の大きさで、値段はそれぞれ1,295ドルと995ドル。毛皮などの製造は、州内にあるはく製・毛皮専門の製造工場へ委託している。皮をなめすには、19の異なる工程が必要なため、最終製品となるまでには約9カ月を要し、製造コストは1頭分当たり600〜700ドルとのことである。



[離乳作業]

 11月25日、同農場には早朝からデイルさんの長男家族をはじめ、親戚、友人10数人が集結し、春に生産した子牛の「離乳」作業が行われた。同農場では、子牛が約6カ月齢になるまで母乳を利用するため、毎年この時期に離乳が行われるという。危険を伴う作業のため、デイルさんを中心に綿密な打合せ後、作業は開始された。



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 (1)まず、母牛と子牛が同居する約50頭の牛群をトラクターで集合柵付近に追い込み、子牛を1頭ずつ牛群から引き離すというもの。(2)バイソンの走る速度は時速60キロメートルとも言われており、土煙を上げ突進するその姿は、まさに迫力満点。(3)(4)追い込まれたバイソンは、家畜分類機(Cattle Sorters)を通され、春に生産した子牛約40頭の離乳が完了した。離乳時には、離された親子がなき交わし、2〜3日は落ち着かない状態になるという。肉用子牛の場合、他の家畜種に比べ、母乳を利用する期間が長いことが実感出来る。


無事離乳を終えた子牛には、体重測定、駆虫剤を投与後、耳標が装着される。


 耳標番号、性別、体重など個体データの管理は、ジンジャーさんら女性陣の役目。


 Sprik家の集合写真。デイルさんは、「米国精神の象徴であり、また、自然界の貴重な遺産でもあるアメリカン・バイソンの維持および回復を誇りに思う」と話してくれた。

 今回、筆者がSprik Farmを訪問したのは11月23〜25日と、サンクス・ギビングデーを挟むホリデー・シーズンの真っ只中であった。このサンクスギビングデー、わが国のお正月のように、日頃離れて暮らす家族が一堂に会し、家族の一年の無事を感謝し、七面鳥の丸焼きなどを囲み食事を共にする習慣があるという。Sprik家のホリデーシーズンは毎年、離乳という大仕事が付きもののようであるが、何だかSprik家の家族の絆を垣間見ることが出来た今回の訪問であった。


ワシントン駐在員事務所 唐澤 哲也、郷 達也


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