(特別レポート)

豪州の羊肉産業について

                                                      シドニー駐在員事務所  井田 俊二、横田 徹

1.はじめに

 豪州は、世界でも有数の羊の飼養国として知られているが、これは、歴史的に見て羊毛産業の発展によるところが大きい。しかしながら、近年、羊肉(「ラムおよびマトン」以下同じ。)生産では、ラムを中心として生産量が増加している。こういった羊肉市場の動向を反映して、豪州の羊産業は、これまでの羊毛主体の経営から羊肉生産を重視した経営へと比重が移りつつある。

 一方、日本との関係についてみると、豪州産ラムの日本向け輸出量は2004〜06年にかけて急速に増加し、2006年までの3年間で約2倍に拡大した。日本国内では、牛肉、豚肉および鶏肉といった食肉と比べて羊肉流通量は非常に小さいものの、一時的なブームに終わらせることなく、豪州産ラムの日本マーケットへの消費促進の努力が図られている。

 本稿では、豪州における羊肉産業の概要について紹介することとする。


2.豪州羊肉産業のこれまでの経緯

(1)豪州羊産業の歴史

 羊飼養頭数、羊毛生産量は1990年代初頭から急速な減少局面に


 豪州における羊産業は、1788年に英国移民船が羊を運んできたことから始まったとされる。その後、羊毛は、高級羊毛として海外からの強い需要に支えられ、世界最大の羊毛生産国としての地位を築き、1930年代には羊毛輸出額が同国の一次産品輸出額の62%を占める基幹産業に発展した。その後、1950〜51年に繁栄のピークを迎えたとされるが、こうした発展を背景として羊の飼養頭数は増加し、1970年には、史上最高の1億7,983万頭を記録した。さらに、80年代には羊毛ブームといわれる時代を迎え、強い需要に支えられ価格は上昇するとともに生産量も増加した。

 しかし、こういった状況は、消費者の繊維に対する好みの変化や合成繊維、綿といったほかの繊維との競合など時代の変化に伴い転換期を迎えることとなる。91年2月には、それまでの羊毛価格支持制度の維持が困難となり、羊毛価格が急落した。その後は、1990年代を通じて大量に発生した羊毛在庫を抱え、価格が長期的に低迷する市場環境の中、羊毛生産は減少傾向で推移した。こうした状況に加え、1990年代は最も乾燥した10年間といわれ、2002/03年度にも大規模な干ばつが発生するなど、厳しい自然環境となった。この結果、2003年には、飼養頭数が9,926万頭まで減少し、1947年以来56年ぶりに1億頭を下回った。羊の飼養頭数は、90年(1億7,017万頭)から2003年までの13年間で約42%減少するとともに、羊毛生産量は約52%減少した。

グラフ1 羊飼養頭数及び羊毛生産量の推移


(2)羊肉産業の発展

 羊飼養頭数が減少する中、羊肉生産は安定的に推移

 豪州の羊肉生産は、長年にわたり、同国の一次産業を支えてきた羊毛産業の副産物として位置付けられてきた。しかし、羊毛産業が低迷期を迎えた90年代からは、農業経営上、羊肉生産の占める位置付けが徐々に高まってきた。

 90年以降の食肉用に仕向けられた羊の頭数(ラムおよびマトンのと畜頭数+生体輸出頭数)の推移をみると、羊毛需給の緩和に伴い90年を境に羊の飼養頭数が急速に減少したにもかかわらず、この間、食肉用に供された羊頭数はおおむね年間3,500〜4,000万頭の間で安定的に推移している。

 また、と畜頭数の内訳では、97年まではマトンがラムを上回っていたが、1998年以降は逆転し、その後はラムがマトンを上回って推移している。

 そこで、ラムのと畜頭数の推移をみると、90年の1,655万頭から2005年には1,823万頭と10%増加している。このような、ラム中心の羊肉生産は、国内外からの強い需要により価格が好調に推移してきたことによる。そのため最近においては農家経営におけるラム生産の意義が高まってきている。

グラフ2 羊のと畜頭数の推移


 羊産業の産出額が減少する中、羊経営における羊肉産出額は47%に拡大

 羊産業(羊毛および羊肉(生体羊輸出を含む))の産出額は、88/89年度の66億3,300万豪ドル(約6,500億円:1豪ドル=98円)から、2004/05年度には、37.5%減の41億4,600万豪ドル(約4,063億円)と大幅に減少した。

 農業全体の算出額に占める羊産業の比率は、88/89年には牛肉産業(生体牛輸出を含む)を上回る、農業全体の産出額(230億6,500万豪ドル(約2兆2,604億円))の28.8%を占めた。これに対して2004/05年度には、農業全体の産出額(353億6,100万豪ドル(約3兆4,654億円))の11.7%に減少した。

 羊産業の産出額の内訳をみると、88/89年度には、羊毛生産が59億600万豪ドル(約5,788億円)で89.0%を占め、羊肉生産は7億2,700万ドル(約712億円)で11.0%にすぎなかった。これに対して2004/05年度には、羊毛生産が21億9,600万豪ドル(約2,152億円)に低下する一方、羊肉産出額は約2.7倍の19億5千万豪ドル(約1,911億円)に増加した。


3 需給動向

(1)生産などについて

ア 経営形態

 羊専業の経営から複合経営への移行が進む

 2005年6月現在の豪州全体の農家戸数は約13万戸で、このうち羊飼養農家戸数は、46,029戸である。

 羊を飼育している大規模農家(ブロード・エーカー)の経営形態は、(1)穀物との複合(小麦などの穀物+羊または羊と肉用牛)、(2)羊専業、(3)牛・羊複合(羊+肉用牛)の3つに大別される。これらの農家では経営の安定を図るため、生産する農作物の需給状況(部門ごとの収益性など)や環境条件などに応じ、経営形態や生産する作物の割合を調整している。

グラフ3 農業産出額(羊)の推移


 羊経営では、これまで羊毛生産を主体とし、併せて食肉用として羊の販売を行っていたが、90年代当初から羊毛価格が低迷したことにより、収益性が悪化した。このため、小麦などとの複合経営への移行が進んだとされる。

 現在、羊専業農家で生産される羊毛の割合は、総生産量の3分の1程度まで低下しており、羊経営の主体は、他部門との複合、特に小麦などの穀物との複合経営に生産の重点が移行している。

 また、農家経営における羊肉生産については、羊毛価格が低迷する一方で羊肉は海外需要も強く価格も高水準であることから、収益を確保できる部門として位置付けられている。豪州農業資源経済局(ABARE)の資料によると、羊の飼養頭数が200頭以上の大規模経営における羊肉販売の所得比率は、90/91年度に6.3%であったが、2005/06年度には20%に上昇している。


写真1 羊の放牧

イ 品種など

 メリノ種が繁殖雌羊全体の85%、メリノ種由来の肉用交雑種が徐々に増加

 羊の品種については、羊毛用、肉用およびその兼用種に分けられるが、豪州の羊生産は、歴史的にみて羊毛用のメリノ種が大多数で、繁殖雌羊全体の約85%を占めている。こういった背景から、豪州の羊肉生産は、メリノ種純粋種の血統を利用した交雑種の生産へと進んでいる。羊肉生産農家は、市場が求める規格に応じて飼養する羊のタイプを決定する。この場合、地域の気象条件、牧草の状態、経済性やマーケット需要などが加味される。

 豪州の羊肉生産は、次の3つのグループに大別される。1つ目は、メリノ種同士の交配によるもので、羊毛生産を主目的とし、その副産物として羊肉を生産する。2つ目は、メリノ種雌に食肉用ロング・ウール系品種(食肉用)の雄を交配した一元交雑種である。ここで生産された一元交雑種雌は繁殖用として、雄は羊毛や羊肉生産を目的とする。食肉用ロング・ウール系の羊肉用の品種としては、ボーダー・レスター、ロムニー、チェビオット、クープワース、リンカーン、イングリッシュ・レスターなどがある。3つ目は、2つ目のグループで生産された一元交雑種雌に食肉用ショート・ウール系品種の雄を交配した二元交雑種である。ここで生産された二元交雑種は、プライムラムと呼ばれ食肉用専用として生産される。食肉用ショート・ウール系品種としては、ドーセット(ポル・ドーセット、ドーセット・ホーン、ドーセット・ダウン)を主体として、サフォーク、サウスダウン、ハンプシャー・ダウンなどがある。

図1 羊肉の生産パターン

 プライムラムは、従来の肉羊と比較して、体型が大きく、赤身の産肉性・品質、増体率や繁殖性(多胎性)に優れているといった特長がある。豪州の肉羊生産の中心として、近年、生産量が増加している。

 メリノ種純粋種から一元交雑種および二元交雑種生産へ

 繁殖雌羊頭数の構成をみると、メリノ種の比率は、96/97年度の91.7%から2004/05年度には85.1%とこの8年間に6.6ポイント減少した。飼養頭数全体からみるとメリノ種が多数であることに変わりはないが、繁殖基盤がメリノ種純粋種から、メリノ種由来の交雑種に移行していることがわかる。

 また、タイプ別の交配状況をみると、全繁殖雌羊に占めるメリノ種同士の交配比率は、96/97年度の74.1%から2004/05年度の62.6%と11.5ポイント低下し、ショート・ウール系肉用種との交配による一元交雑種や、メリノ種とロング・ウール系交雑種にショート・ウール系を交配した二元交雑種(プライムラム)の増加がみられ、これまでのメリノ種純粋種から一元交雑種および二元交雑種生産に徐々に移行している。

表1 羊のタイプ別交配状況


 また、2004/05年度における品種別交配状況は表2のとおりである。メリノ種とポル・ドーセット種やサフォーク種といったショート・ウール系との一元交雑種は、主にと畜され食肉用として利用される。また、ボーダー・レスター種といったロング・ウール系との一元交雑種雌は、繁殖用として主にポル・ドーセット種やサフォーク種雄と交配し、二元交雑種(プライムラム)を生産している。

 また、MLAの資料によると、2006/07年度ラムと畜頭数のタイプ別比率は、メリノ種が約26%、一元交雑種が約40%、二元交雑種が約34%と見込んでいる。

表2 羊の品種別交配状況(2004/05年度)


ウ 飼養頭数および飼養地域

 羊の飼養頭数はNSW州、WA州、VIC州で全体の約8割

 豪州の羊の飼養頭数は、変動を繰り返しつつも近年では、1990年に1億7,017万頭とピークを記録した。その後、羊毛価格の低迷や干ばつなどの影響により、減少傾向で推移し2006年6月末の飼養頭数は1億12万頭であったが、2006年の後半からの干ばつにより、最近では1億頭を下回ることが確実とみられている。

 2006年6月現在の地域別飼養頭数は、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州が35.4%と最も大きく、西オーストラリア(WA)州23.1%、ビクトリア(VIC)州20.0%の順となっており、この3州で全体の約8割を占めている。

 特にプライムラムについては、リベリナ地方、NSW州の小麦・羊生産地域、VIC州およびNSW州のマレー地域、VIC州南東部および南オーストラリア(SA)州東部の多雨地域で主に飼養されている。

グラフ4 地域別羊飼養頭数(2006年)


図2 羊の飼養地域

エ と畜頭数及び生産量

 ラム生産量は90年代後半から拡大基調に

 羊肉生産が高まってきたのは、90年代後半からである。羊のと畜頭数を見ると、前述のとおり90〜2003年の間に羊飼養頭数は一貫して減少したが、ラムとマトンの年間と畜頭数は、2,695〜3,489万頭の幅の中で増減している。マトンについては、90年から羊飼養頭数が減少に転じたことを反映して、1990〜94年の間は、と畜頭数が高水準となった。その後は大きな変動はなかったが、2003年には干ばつの影響を受けてと畜頭数は大幅に減少した。ラムについては、90〜96年にかけて減少したが、97年以降は増加に転じ、2005年にはほぼ2000年の水準に回復している。

 90年(3,380万頭)と2003年(2,695万頭)の年間と畜頭数を比較すると20.3%減少した。内訳をみると、マトンの39.0%減に対して、ラムは0.7%減でほとんど変わらなかった。この結果、と畜頭数に占めるラムの比率は、90年の49.0%に対して2003年には61.0%と増加した。

 羊肉生産量は、90〜2003年の間に54.4万トン〜71万4千トンの間で推移している。マトンについては、減少傾向で推移しているが、特に干ばつの影響を受けた2003年以降の生産量の減少が大きい。ラムについては、と畜頭数の増加を反映して、97年以降増加している。理由の一つとして、プライムラムといった大型肉用種の生産が増加したことなどにより1頭当たりの平均と畜重量が増加していることが挙げられる。この結果、99年以降ラムの生産量がマトンを上回り、その後、両者の生産量の差は拡大している。ラムの生産量の比率は、90年の44.7パーセントから、2003年は60.7%に増加している。2006年の羊肉生産量は、前年比8.8%増の67万トンで、内訳として、ラム肉40万2千トン(同7.3%)、マトン肉26万8千トン(同11.2%)となっている。

【穀物飼料を利用したラム生産の増加】

 MLAの資料によると、乾燥気候の発生やラム飼育業者の増加に伴い、干ばつ等の緊急対策用、補助飼料用またはフィードロット用として飼料用穀物を給与するラムの頭数が増加している。2006年秋〜2007年秋にと畜される2,310万頭のラムのうち、26.7%に当たる720万頭が緊急対策用として穀物用飼料を給与される。また、10.3%に当たる230万頭がフィードロット用として、36.8%に当たる850万頭が補助飼料用として穀物用飼料を給与されると見込んでいる。

 ラムへの穀物飼料の給与は、羊肉生産の効率化や高品質化(斉一性)を図るために導入されたが、プライムラムなど従来の品種より大型、早熟タイプの羊が増加とあいまって、ラムの平均と畜重量は年々着実に増加している。

 また、最近では、穀物飼料給与が、干ばつ時の飼料対策としても有効に機能していることが指摘されている。

グラフ5 羊肉の生産量


(2)流通、消費等について

ア 価格

(ア) ラム

 小売価格は2000年から5年間で1.64倍に上昇

 ラムの市場価格は、1991年からほぼ一貫して上昇傾向で推移している。この結果、市場価格は、90年の1キログラム当たり137豪セント(約134円)から2003年には同387豪セント(約379円)となり、この間に約2.88倍に上昇した。特に、2000年から2003年にかけては、国際的にラムの需給がひっ迫したことを反映して、価格がこの3年間だけで約2.2倍に急上昇した。その後、市場価格がやや下落したものの、2005年の市場価格は同341.2豪セント(約334円)と高水準の価格を維持している。

グラフ6 羊市場価格の推移


 小売価格は、80年代半ばからほぼ一貫して上昇している。ただし、99〜2000年にかけては、ラムの供給量が増加する一方、最大の輸出先である米国向け輸出が制限されたため、価格上昇がやや停滞した。小売価格は、90年の同582.6豪セント(約571円)から2005年には同1,189セント(約1,164円)となった。特に2000年(同724.3セント(約710円))以降は急速に価格が上昇した。

 また、ラム小売価格をほかの食肉と比較すると、豚肉や鶏肉より割高感が強くなっている。

グラフ7 食肉小売価格の推移


(イ) マトン

 マトンの市場価格も急激に上昇

 マトンの市場価格は、低水準にあった1991年からラムと同様にほぼ上昇傾向で推移している。特に2000〜03年にかけては、ラムと同様に市場価格が急上昇し、この間、約2.83倍となった。これは、中東諸国からの強い輸入需要のほか、飼い直し業者からの需要を背景としてと畜頭数が減少したためである。2003年以降やや市場価格が下落したものの、輸出相手国の好調な経済を反映して、依然として輸出需要がおう盛であり、高水準の価格を維持している。

イ 国内消費

 羊肉の年間1人当たりの消費量は、主要食肉では最低

 豪州の年間1人当たりの食肉消費量は、合計でほぼ100〜110キログラムの範囲で安定的に推移している。食肉の種類別の推移をみると、鶏肉および豚肉が増加する一方、牛肉および羊肉が減少傾向で推移している。2001年までは、牛肉の消費量が一番多かったが、2002年以降は鶏肉の消費量が一番多い。羊肉については、70年代初頭まで牛肉と並んで一番消費量が多かったが、88年に鶏肉、95年には豚肉に追い越され、2005年には、年間1人当たり消費量が12.7キログラムと主要食肉で最も少ない。

グラフ8 食肉消費量の推移(年間一人当たり)


(ア) ラム

 小売価格上昇の中、強い国内需要を維持

 2005年のラムの国内消費量は20万4,900トンで、ラム生産量の54.7%を占めている。85年の消費量が27万7,200トンに対し、96年には19万5,800トンとなり、この間、消費量が29.4%減少した。これは、消費者がラムに対して健康面でマイナスイメージを持っていたことのほか、鶏肉や豚肉との競合激化によるものである。その後、97〜2000年にかけては、ラム消費量が増加傾向に転じた。これは、プライムラムなどの増加や飼育技術改善によりラムの品質向上が図られたほか、効果的なマーケティングや健康に対するラムのイメージ改善などによるものである。2001年以降は、輸出需要が増加する一方、国内供給量がひっ迫したことや、それに伴う国内価格が急上昇などの影響で、消費量は再び減少傾向で推移している。

 今後ともラムに対する国内需要は、高所得層や若年層を中心として引き続き強い状況が続いていると業界ではみている。

グラフ9 ラム生産量及び消費量の推移

【豪州国内におけるラムの消費促進活動】

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、生産者からの課徴金などを原資として、ラムの国内消費促進活動を展開している。MLAでは、牛肉及びラムの消費促進を図る上で、(1)完全性、(2)おいしさ、(3)栄養、(4)利便性、(5)価値の5点を消費に影響を及ぼすポイントとして位置づけている。現在、ラムの消費拡大に関して主に2つの活動を展開している。

1 レッド ミート 健康(RED MEAT……Feel Good) 
 このキャンペーンは、2002年2月から始まり、牛肉およびラムといった赤肉が健康や栄養面において食生活上重要な役割を果たしているという研究結果に基づき、これまでの消費者の意識改革を狙っている。テレビやラジオおよび紙面でのコマーシャルのほか、店頭販売や主要な食品メディアを通じた促進活動を行っている。
最新のキャンペーンでは、赤肉を家庭での食生活の基礎的食品と位置付け、週3〜4回、家庭で赤肉を食べようと呼びかけている。

( 豪州では、2001年に栄養、公衆衛生の専門家による専門家委員会が、豪州で初めて、健康な食生活における赤肉の役割に関する研究結果を公表。赤肉の有するたんぱく質、鉄分、ビタミンB12、亜鉛といった成分のほか、低塩、低コレステロール、低飽和脂肪といった特質があり、肥満や心臓病予防にも効果があると結論。さらに国立健康医学研究所(National Health and Medical Research Council)が2003年、新たな食生活指針を示し、その中で週3〜4回赤肉をとるか、またはほかの食物から鉄分を摂取する必要があると指摘している。 )

2 ラムが好き(We love our Lamb)
 このキャンペーンは、ラムの消費促進を目的として99年から始まり、ユーモアのある内容のコマーシャルで、消費者に対して、ラムに対する興味を働きかけている。テレビやラジオおよび紙面でのコマーシャルのほか、店頭販売や主要な食品メディアを通じた促進活動を行っている。

(イ) マトン

 国内消費量は急速に減少

 2005年のマトンの国内消費量は5万800トンで、これは生産量の21.1%に相当する。国内消費量は、91年に16万400トンであったが、その後おおむね減少傾向で推移し、2004年には3万8,000トンとなった。特に2000〜03年にかけては、羊の飼養頭数の減少が顕著になり国内生産量がこの3年間で約38%減少したことと併せて、米ドルに対する豪ドル安を背景として、生体羊輸出が高水準となるとともに2000〜2002年にかけて輸出需要が増加した。この結果、国内供給量が大幅に減少した。

 豪州でのマトンは、その大半が加工用として、パイのほか、ソーセージやハンバーグなどの原料として使われる。しかしながら、供給量の減少や価格の上昇により牛肉への代替が進んだ。この結果、年間1人当たりのマトン消費量は90年の7.5キログラムから2005年には2.6キログラムに減少している。

グラフ10 マトン生産量及び消費量の推移


ウ 輸出

 世界の羊肉輸出は、豪州とニュージーランド(NZ)で全体流通量の7〜8割を占めている。
 1990年代後半からの豪州羊肉産業の拡大は、国内外からの強い需要を背景に価格が高値で推移したことによる。羊肉全体の生産量が、90〜2005年の間、54〜71万トンの間で推移する中、生産量に占める輸出量の比率は、90年の36.7%から2005年には58.5%に上昇し輸出志向を強めている。

(ア) ラム

 米国向けが主要輸出先

 ラムの輸出量は、90年から2005年の間、増加傾向を維持し、この間、4万600トン(船積重量ベース)から14万4,500トンと約3.6倍と大幅に増加した。豪州におけるラム生産の増加は、強い輸出需要によるところが大きい。

 2005年の輸入実績を国別にみると、米国が4万800トン(28.2%)と最も大きく、パプアニューギニア、EU、日本の順になっている。米国向けについては、90年に6,100トンであったが、2000年以降急速に輸出量が拡大している。また、日本向けについては、2004〜06年にかけて輸出量が急速に増加し、2003年の6千トンから2006年には1万1,880トンとほぼ2倍に拡大した。この間、特に冷蔵品の増加が著しく、2006年の実績では、全体の約7割が冷蔵品となっている。これは、外食産業でジンギスカン料理の需要が増えたことや米国産牛肉の輸入再開が遅延したためとしている。

(イ) マトン

 中東など多方面に輸出

 マトンの輸出量は、90年の15万300トン(船積重量ベース)に対し、2005年には、14万8,400トンと大きな差はない。この間、2003年の12万4,100トンから91年の19万1,600トンの間で推移している。90〜2005年の間は、マトンの生産量が減少する一方、輸出数量に大きな差がないことから、結果的に生産量に対する輸出仕向け比率が90年の53.9%から2005年には78.9%となり、輸出依存度が非常に高くなっている。

グラフ11 ラム輸出量の推移


 輸出相手先は80カ国以上と多岐にわたるが、2005年の輸出実績をみると、サウジアラビアが2万2,700トンで15.3%と最も大きく、次いで米国、南アフリカ共和国、台湾の順となっている。サウジアラビアをはじめとする中東向けは、低価格なバルク製品が主体として輸出されている。中東や南アフリカ向けマトンは、一般的に低価格のたんぱく源として消費されている。日本向けは、90年の2万2,500トンから2005年には8,300トンに減少している。用途としては、北海道でのジンギスカン料理用として安定的な需要があるほか、ソーセージなどの加工用として輸出されている。

グラフ12 マトン輸出量の推移


(ウ) 生体

 生体羊輸出は中東向けに特化

 豪州の生体羊輸出は主に中東諸国向けで、1950年代初頭から小規模・不定期に行われるようになった。その後、需要の増加や船舶輸送技術の向上により急速に取引が拡大し、80年代には、年間8百万頭が輸出され、特にサウジアラビアには年間3百万頭の生体羊が輸出された。

 2005年の生体羊の輸出頭数は418万5千頭で、豪州国内の羊と畜頭数の14%に相当する。そのほぼ全量(99%)が中東向けに特化しており、サウジアラビアが25.6%と最も大きく、次いでクウェート、ヨルダン、バーレーンの順となっている。生体輸出される羊のほぼ全量はと畜向けである。

 輸出頭数実績の変動は、干ばつなどの気象状況によるほか、最大の輸出先であるサウジアラビアなどとの国の間で、これまで数度にわたり輸送中の家畜の衛生問題が生じたため、輸出が禁止されたことがその要因となっている。

 特にUAE、クウェート、ヨルダンでは、小型の若い羊が好まれ、ラムやホゲットが増加している。また、中東諸国ではファット・テール系の品種が好まれており、WA州などではその品種が飼育されており、中東向けに生体輸出されている。

 生体輸出用の羊は、中東諸国のユーザーが好む赤身の多い雄羊を飼育しているWA州、SA州およびVIC州で生産されたものが出荷される。

グラフ13 生体羊輸出頭数の推移


エ 羊肉取引

(ア) 取引方法

 マーケット需要に即した枝肉取引が増加

 ABAREの資料によると、豪州における羊肉の取引は、家畜のタイプや市場の状況などに応じて、農場における相対取引、枝肉取引および家畜市場における生体取引の3通りのいずれかの方法で取引が行われる。

 家畜取引の推移をみると、90/91年度は販売されるラムおよびマトンの約50%は相対取引で、残りのほとんどは生体取引であった。これに対し、枝肉取引が31%に増加する一方で相対取引は18%減少した。


写真2 家畜市場での取引


(イ) 羊の取引課徴金
 現行の羊の取引課徴金は、98年に導入された。ラムまたはマトンを取引きする際の課徴金が課されるが、現行の金額は次のとおりとなっている。
・1頭当たりの取引価格が5豪ドル(約480円)以下の場合には適用外
・課徴金の額は、取引価格の2%。ただし、1頭当たりの上限を、マトンで20豪セント(約19円)、ラムで1.50豪ドル(約144円)とする。
・取引価格が明確でない場合には、マトンで20豪セント(約19円)、ラムで80豪セント(約77円)とする。

 この徴収された課徴金は、次の活動に利用されている。
・MLAにおけるマーケッティングおよび調査研究活動
・Animal Health Australia(AHA)における家畜衛生プログラム
・Australian National Residue Survey(NRS)における残留検査プログラム

オ 羊枝肉の分類
 豪州食肉畜産統一基準局(オズ・ミート)で定める羊枝肉の分類方法と定義は次の通り。

(ア) 永久門歯の生え方等による分類

羊肉の基本分類

羊肉の補助分類

(イ) 枝肉脂肪分類
 枝肉を覆う脂肪の厚さにより、1〜5の段階に分類される。脂肪の厚さ(GR)サイトは、枝肉の中央ラインから110ミリメートルの第12肋骨上


(ウ) 重量による分類
 枝肉ごとの温と体重量ベースで次の等級に分類


(3)今後の需給見通しについて
 ABAREが2007年3月に公表した中期見通しによると、今後の羊肉需給については、2006/07年度に発生している干ばつの終息状況や羊毛市場の動向により大きな影響を受けるとしている。

 2006/07年度は、干ばつの影響により、飼料不足などで家畜の保留が困難となり、そのため、去勢羊や高齢の繁殖雌を中心としてと畜頭数が前年度比約4.9%増加する。この結果、羊の飼養頭数は前年比600万頭減の9,400万頭に減少する。

 来年度以降の羊毛および羊肉は、強い需要を背景としてある程度の利益確保が見込めることから、生産者は羊群の再構築を進める一方、飼養頭数の減少により羊肉供給量が限定される状況になるとみている。

 中期的には、飼養頭数および羊肉生産量ともに2007/08年度から徐々に回復するとみている。特にラムについては、今後も米国を中心として輸出量が増加すると予測している。

表3 羊肉の需給見通し

【羊のトレーサビリティ:2009年1月1日には、すべての州で実施を義務付け】

 羊における家畜の個体識別制度(NLIS)は、市場アクセスの改善、疾病および化学物質の残留といった問題に適切に対応することを目的として、2004年の第1次産業大臣会議で統一制度の導入が決議された。羊のNLISは、2006年1月1日までにすべての州で導入が開始されている。これに続きQLD州では、ほかの州や地域に先駆けて、2007年1月1日から基本的に農場から出荷されるすべての羊について、NLISに基づく耳標装着および全国出荷者証明書(NDV)などによる家畜の移動管理が義務化された。ほかの州および地域では、2009年1月1日から同様に義務化されることとなっている。

 羊のNLISは、牛のような1頭ごとの管理でなく群単位の識別を行うこととなっている。このため、羊に装着する耳標には、NLISのロゴのほか、各農家が所有する個別の8桁の農場識別番号(PIC)が最低限、記入されることとなっている。

4.終わりに

 豪州の羊産業は、90年代に直面した羊毛需給の悪化により大きな転機を迎えた。1990年代以降は、それまで豪州経済を支えてきた巨大な羊毛産業の規模が縮小する中、生産農家は利益確保を図るべく穀物や牛肉、羊肉といった経営の複合化へと向かった。羊肉産業は、特にこの10年間、徐々にではあるが着実に大規模経営農家において経営上での意義を高めてきたといえる。

 羊肉産業発展の背景には、国内的には、羊毛産業の低迷のほか、長期安定的な経済成長が挙げられる。ただし、この原動力としては、世界の羊肉需給のひっ迫、中東諸国や米国などからの強い需要、各国におけるBSEや高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う豪州の優位性の維持、羊肉輸出競合国であるNZの生産状況などの外的要因によるところが大きい。

 一方、こういった追い風要因に依存することにとどまらず、羊肉生産段階においては、これまでのメリノ種一辺倒の生産から、市場の要望に応えるべく、肉用品種との交雑を進め高品質のプライムラム生産の拡大、穀物飼養による品質向上・合理化や干ばつ対策など生産構造の変化の意義も大きいといえる。

 また、この間、94/95年度、2002/03年度および2006/07年度の干ばつの影響により羊の飼養頭数が縮小局面を迎えるものの、干ばつに対する生産者の順応性によりその後の回復の足取りは力強いものがある。

 今後、羊肉産業に影響を及ぼす要因としては、干ばつなど自然環境の制約、羊毛価格の動向、肉牛や穀物生産との総体的な収益性、ほかの食肉との相対的な価格競争力、生産基盤の縮小に伴う輸出余力の制約、輸出価格の動向、NZなど競合国の生産状況などが挙げられる。

 豪州における羊肉生産が今後、どの程度まで拡大できるのか予想することは困難であるが、大規模経営農家において、経営上、高品質羊肉生産の意義が高まりつつある現在の流れは今後も進展するものと思われる。今後の羊肉生産構造の変化について引き続き注視していきたい。

(参考資料)
「Australian Commodities」(ABARE)
「Australian Commodity Statistics」(ABARE)
「Handbook of Australian Livestock(2006 Fifth edition)」(MLA)
「Lamb Survey」(MLA)
「Australian Cattle and Sheep Industry Projection」(MLA)
「Handbook of Australian Meat」(Aus-Meat)
DAFFウェブサイト
MLAウェブサイト
Sheepmeat Council of Australiaウェブサイト
Wool Industry in Australia ウェブサイトほか


元のページに戻る